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俺、振られてしまう

俺こと佐藤拓也(さとう たくや)は今、人生一番の局面に立っていた。


「じ、実は俺……ずっと霧島さんのことがす……す」


もうお分かり頂けただろう。

今俺の前に立っている彼女の名前は霧島美奈(きりしま みな)という。

俺はそんな彼女に告白している真っ最中なのである。

そして今からまさに好意の言葉を伝えようと口を開いた時━━。


「気持ち悪い……それ以上臭い口を開かないでくれる? この家畜以下のゴミクズ」


「好きで……えっと……おやぁ……?」


何か酷い台詞が聞こえたような気がした。

周りを見渡してもこの屋上には俺以外に霧島さんしかいない。

昼休みとはいえウチの学校では屋上で弁当を食べるような生徒は少ないのだ。

だとすると……いやいや彼女がそんな酷い言葉を使うわけがないじゃないか。


━━しかし、そんな俺の甘い幻想はすぐに打ち砕かれることになる。


「何をキョロキョロしているの? 私はあなたに言ってるのよゴミクズ君」


真顔。

目の前にいる圧倒的な真顔の霧島さんがそう言った。

心臓が止まったような気がした。


……嘘、だろ?


「もう用事は終わり? それなら私教室に戻るから……あ、それと今後一切私には話しかけないでね? 気持ち悪いから」


そのまま屋上から立ち去ろうとする彼女に、俺は頭が真っ白になりつつもなんとか言葉を絞り出そうとする。


「ふ……振られた……理由だけで、も……教えてくれないかな……?」


そして扉に手をかけようとした直前、ようやくそんな拙い言葉を声帯から発することが出来た。

その言葉で彼女は静止し、こちらを振り向く。

その瞳はもういつもの彼女の優しい瞳ではなかった。

思わず身震いしてしまう。


「さっき話しかけないでと言ったはずなんだけど……まぁいいわ、頭がとてつもなく悪いゴミクズ君には言わなければ分からないようだから特別に教えてあげる……私、人を見かけで判断するような人が大嫌いなの。それもヘドが出るほどね」

「そ、そんな! 俺は別に……」

「じゃあ告白する時に私の胸を盗み見ていたのはどう説明するの?」

「そ、それは……」


確かに見た。

だけどそれは別にやましい気持ちがあったわけじゃなくて。

……あぁ認めるよ。

多少はやましい気持ちがあった事を。

でも、それは男子なら仕方ないことであって……。

そこに胸があったなら見ちゃうじゃない!

インターネット見ててエッチな広告出てきたら一瞬見てしまうのと同じじゃない!

だって俺、男だもん!

おち○ち○ついてるんだもん!


「ほら! やっぱりそうなんじゃない! あなたも人を上っ面だけで判断してるのよこのゴミクズ!」

「……」


……何で。

何でこんなに罵倒されなきゃいけないんだ。

ただ俺は好きな人に気持ちを伝えようとしただけなのに。

それっていけないことなのか?

駄目なことなのか?


俺は知らず知らずのうちに手を握り締めていた。


「大体あなたみたいな童貞臭い男に私が釣り合うとでも思ってるの? この年中発情ばかりしているブタ男! もしかして妄想の私で色々としてたり? あぁ考えるだけで気持ち悪い! 本当これだから童貞は!」


ポキッ。


その瞬間、俺の何かが折れる音がした。


「もういいよ」


さっきまであんなに激しく鳴っていたはずの心臓が恐ろしいくらい静かになっている。


人に好意を向ける事がそんなに重い罪だというのなら俺はもう。


「……はぁ? 何がもういいのよ?」

「いいんだ。俺が悪かったから。霧島さんを、君を好きになって本当にごめん」


そして彼女に深々と頭を下げる。


「そう、ようやく分かったのね。あなたみたいなゴミクズじゃ私には釣り合わないってことが」

「うん、でも……最後にこれだけ言わせてくれないかな?」

「……いいわ、でも私に話しかけるのはもうこれで最後にしてね?」


それに俺は頷き、彼女へ最後の言葉を伝える。


「俺は優しそうな君が好きだった。君の笑顔が好きだった」


言葉を発する度に自分自身に亀裂が入っていくような錯覚を覚えた。


「俺ね、口に出すのが恥ずかしいけど一度も女の子を好きになったことないんだ。笑っちゃうよね?」

「……」


霧島さんは黙って俺の話を聞いてくれている。


「そんな時、君を見かけたんだ。学校の帰り道に捨てられている子猫にご飯をあげて微笑んでいる君を。凄く優しい笑顔だと思った。こんな事言うと失礼かもしれないけど、君の顔は全然俺のタイプじゃない……だけど君を好きになった。あの心からの笑顔に惹かれたんだと思う」


もう言いたい事も残り少なくなってきた。

早く教室に帰りたい。


「さっき俺に言ったね? 人を見かけだけで判断する人が嫌いなんだって……確かに俺は君を上っ面で判断したのかもしれない。でもそれは君も同じじゃないのか? 他人が全員見かけだけで物事を見ているとどうして確信を持って言えるんだ?」

「……何を……」

「所詮、君も上っ面で他人を判断していたってことだよ。君に何があったかは知らないし今後知ることもないだろうけど、自分の容姿に全ての男が付いてくるとは思わないほうがいい」


……終わった。

俺の高校生活。


全てを出しきった俺は、もはや自分が立っているのか座っているのかわからないような感覚に陥っていた。


もう帰ろう……。


そう思った。

そして屋上の扉まで歩き、その前に立っている彼女を避けるようにして俺は屋上を後にした。

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