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死亡

 左右の足を交互に出し、ひたすらに歩く。

 普段ならなんとも思わない行為だし、ましてやさほど長い距離を歩いているわけでもない。

 だが、目的がある。

 その目的を達するために、俺はやらねばならない。

 今日は、俺のお気に入りのラノベの発売日だ。そして、金もある。ゆえに、俺は本屋へ向かう。以上、証明終了。

 普段は冷静沈着と定評のある俺だが、今日はテンションが高いせいか、そんなどうでもいいことを考えていた。そして、逸る気持ちを抑えつつも、小走りに書店へ向かった。

 マイナーなラノベだから、発売日に売り切れることはないはずだ。それでも、小走りになってしまうのは、一秒でも早くに読みたいからだ。

 ――そして、おそらくそれが人生最大の間違いだったのだろうか。いや、もしかしたら、俺の産まれた時からの運が尽きてしまっただけなのかもしれないな。

 まず、キキイイィィィ!! という、車が急停車させようとする耳をつんざくようなブレーキ音が聞こえた。次に、体の右側に強い衝撃が……。

 とにかく、交差点で信号無視をした車にはねられてしまった。

 俺の、高校二年生にしては小柄な、身長160ちょい、体重49キロの体は、軽く車にはねられてしまった。

 ……あぁ、今思い返してみると、悪くない人生だった……かもしれない……な。

 勉強は、好きじゃなかった。でも、そのおかげで、ゲームとかが楽しく感じられたのかもしれない……。数年前までは、日常的に機嫌が悪く、殺したいほどに憎んでいた時期もあった両親だって、過去をなかったこととして、普通の親子のように接することができるようにだってなったのに。

 今更になって、過去のことが頭に流れてくる。

 ――ダメだ。走馬灯が見えてきた。

 もう、死ぬんだよな……。

 そう思うと、もう色々なことがどうでもよくなってきた。

 不思議なことに、痛みは感じない。これから死ぬ人間への、天からの最後の慈悲だとでも言うのだろ……


「――ガハッ!」


 痛ったッ!

 どうやら、地面に背中から叩きつけられたらしい。痛みを感じていなかったのは、単に体が宙に浮いていたのが原因だったようだ。

 地面に叩きつけられたせいで、口から血がこぼれた。この血は、口が切れて出たのか、なにかしらの内蔵が傷ついて出たのだろうか? ……それとも、その両方だろうか。

 それにしても、今まで地面に着いていなかったのか。死ぬ直前の時間は永遠に感じられるというのは、本当の話だったのか……。

 暗くなりつつある視界の中で、交差点の車が停まり、大勢の人が倒れている俺を取り囲んでいるのが見える。遠くから、救急車の音が微かに聞こえてきた。誰かが通報してくれたのだろうか。

 ……でも、もう遅い。そろそろ意識がなくなりそうだ。自分の死期ぐらい、自分で分かる。痛みなんて、最初から感じられないくらいにひどい有様なのだ。これで、生きていられる方がおかしい。

 俺の人生は、これで幕を閉じるのだろうか……? せめて、今年の十月公開のアニメの映画を観たかったな……。

 ――せめて、次に生まれ変わる時は、美少女にでも生まれてきて、楽に人生を送りたいな。……そういえば、生まれ変わる時って、記憶を持ち越せるのか? 無理っぽいよなぁ……。

 ――そして、そんなくだらないことを考えながら、雲母拓磨(きららたくま)は、人生に幕を閉じた。

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