婚約破棄は突然に
今日は王宮の大広間で国王陛下の御生誕を祝う舞踏会が行われている。
本来なら私は婚約者のルードヴィッヒ殿下に伴なわれて来るはずなのですが、直前に殿下からは迎えに行かないと連絡があったので両親とともに来ています。
国王陛下に御挨拶をして挨拶回りも済ませると、婚約者以外の人と最初のダンスを踊る事も出来ないので壁の花になっているとルードヴィッヒ殿下が少女を伴って近づいて来ました。
儚くて思わず背中に庇いたくなる美少女、恐らく彼女が殿下が御執心の平民なのでしょう。
「公爵令嬢エリザベート・ランゲンブルク。貴様との婚約は今ここで破棄する」
ルードヴィッヒ殿下は前置きも無く得意気な顔で私に宣言しました。
周りの人達が驚愕してますし、あらあら国王陛下が頭を抱えておられます。
「殿下、さようでございますか、ご随意に」
私が微笑みながら返事をすると殿下は私の返事が意に染まないのか不満げな顔をしています。
もしかして、私が殿下の御考えを変えて欲しくて縋り付くとでも御思いになられてたいのでしょうか?
「それとエリザベート、アンナに謝罪しろ」
その平民の名はアンナというのですね。
それと随分唐突です。
あらあら、いつの間にか殿下の側近達も来てますわ。
「アンナという方はそちらの御嬢さんですか? 私、今日、初めて御会いしたと思いますが、何かしましたでしょうか?」
「貴様がアンナに嫉妬して取り巻きの令嬢達を使って嫌がらせを遣らせていたのはもう分かっている、諦めて謝罪しろ」
成程、婚約破棄して私が縋り付いた所を捏造で断罪する予定だったのですね。
「殿下の仰る私の取り巻きの令嬢方とはどの様な方々なのでしょうか?」
私は殿下の側近で婚約破棄した人達を順番に見つめながら聞きました。
一人の平民の少女に執着し、その平民への愛が誠である事を証明する為に些細な事で言い掛かりを付け、婚約者と婚約破棄した愚か者達。
さぞ、元婚約者とその家に怨まれているでしょう。
「それと嫉妬する理由もありません」と殿下へ親切にも真顔で言って差し上げました。
「無礼な!!」
殿下は顔を真っ赤にして怒るだけで御自分の危うい立場を全く理解して無い御様子です。
「義姉上、殿下に謝罪して下さい」
カール、養子の貴方も自分の危うい立場を理解しなさい。
ルードヴィッヒ殿下は側妃のルイーゼ様の御子で性格は傲岸不遜。
ルイーゼ様は国王陛下の寵愛を一身に受けている方ですが男爵家出なので後ろ盾は弱いのです。
国王陛下は愛するルイーゼ様の為にルードヴィッヒ殿下を皇太子にする為に後ろ盾を作る事にし、私との婚約や有力諸侯の子弟をルードヴィッヒ殿下の側近にしました。
一粒種の私が殿下と婚約したので養子に迎えたカールも殿下の側近になり、エルスハイマー公爵令嬢と婚約になりました。
対するケッセルリング公爵家出の王妃殿下にもアレクサンデル殿下がおられます。
アレクサンデル殿下は文武に優れ、性格は温厚で思慮深く、婚約者もレオンハルト公爵令嬢です。
二つの派閥の勢力は表面上拮抗していて皇太子も決まらない状態でした。
そして、大事件が起きました。
貴族の子弟が通う王立学園には平民でも優秀な者なら入学出来る仕組みがあり、一人の平民の少女が入学しました。
その少女は儚くて思わず背中に庇いたくなる美少女で多くの貴公子の心を虜にしました。
ルードヴィッヒ殿下もその一人です。
心を虜にされた貴公子の中には婚約者と婚約破棄をするも多くいましたが、何故か婚約破棄の関係者はルードヴィッヒ殿下派の貴族が殆んどで、カールを含め多くの殿下の側近の方々もおりました。
そして、怨まれた少女をルードヴィッヒ殿下が庇いルードヴィッヒ殿下の派閥は崩壊しました。
私はしばらくルードヴィッヒ殿下に絡まれましたが何とか躱す事が出来ました。
しかし、疲れてしまったので舞踏会の途中ですが帰る事にして出口に向かっていると人気の少ない通路でアレクサンデル殿下と出会いました。
「やあ、エリザベート、災難でしたね。いや、上手く逃げられたと言うべきかな?」
「まあっ、アレクサンデル殿下も御口が悪い事。でも、国王陛下はルードヴィッヒ殿下にランゲンブルク公爵家を継がせたい御様子でした」
「仕方ないさ。ルードヴィッヒが状況を理解してないのが悪い」
「驚くほど急に状況が変わってしまいました」
「偶然とは怖いものです」
「はい、(アレクサンデル殿下の作った)偶然とは怖いです」
私は心の声を出さずに答えるとアレクサンデル殿下は微笑んで去って行きました。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
また、特定の人物・団体への批判中傷ではありません。