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●序章:さあ、拷問の時間です


『ねえおじさま、パパとママはどこにいったの?』


父と母が不慮の事故でいなくなったとき親戚の皆は黒い服を着て葬儀という幼い子供であった私にはわからないことをしていた。


『彼等は空のお星様になったんだ。きっと今ごろ宇宙に住む神様の使い、天使になっている頃さ』

『神様は宇宙人だったのね!?』


金髪の青年はまだ死がなんなのかわからない私に教えてくれた。


『でも神様のところでお仕事をしていたら、もう帰ってこられないの?』

『ああ、そうだよ。今日から私が君のパパだ』


「ふあ……」


―――朝日がカーテンの隙間から差し込む。

今日の天気は晴れ、気持ちよく今日をむかえられて幸せだ。


「おはようパパ」


大きなドアを開いて、毎朝目につくのはまるで英国貴族が使うような長テーブル。


「おはようテルナ」


父マグナリッドは微笑んでラッピングのされたプレゼントをテーブルに置いた。


親戚に引き取り手がなく亡き父の友人だった彼が救ってもらえた。

私はそれから海外へ渡り、名字は亭野貞からラファジウムになった。

マグナリッドはハーフで貴族の母を持っている。今暮らしている屋敷も、義祖母の実家だ。


「二つもあるのね?」


ケーキが入るくらいの箱と、消ゴムが入るくらいの小箱だった。


「二つセットだからね。とにかくあけてごらん?」

「ええ」


いわれるまま開けてみると、施錠つきの本に王冠、クロスのついた金と銀二対の鍵だった。


「大きな箱と小さな箱で二つだと思ってたら、三個もプレゼントをくれるの?」

「だから二つセットだっていっただろう?」


「……もしかしてこの王冠の鍵はあの部屋の鍵?」

「どうだろう、開けてみればわかるんじゃないか?」


屋敷に来たばかりのとき、部屋をまわっていたとき誕生日を迎えたら、屋敷の地下に入ってもいいと義父に言われたのだ。



『あ、あの部屋はいつ入っていいの?』

『子供には刺激が強すぎるからね、あと10年経ったらかな』


わくわくしながら鍵をあけ、薄い暗い地下へ足を運ぶ。そこには刃のついた危ない器具が沢山置いてあり、怖くなった私はすぐに地下から逃げた。


「どうだった?」

「怖くてしかたがないから、ちょっと外にいってくるわ!」

「今夜のパーティーまでには戻ってくるんだよ?」


今日の夕方には王子の婚約パーティーがある。

それまでには帰るといって気晴らしに手ぶらで街を歩く。


「やあ、こんにちは」


すると黒いフードつきのコートを着た怪しい男性が声をかけてきた。


「こんにちは」


私はつい日本語で話していたけど、通じた。

挙動不審ではない、むしろ堂々としているようなので、服装はスルーしておこう。


「私はデギル、このあたりの会社で社長をしている者だ」

「社長!?」


社長がこんな格好で街を彷徨いているなんて社員が気の毒になる。


「君は…面白いソゥルをしているね」

「魂?」


「気が向いたら会社に来てくれ、皆君を待っているから」

「あの、ちょっと…?」


話しも聞かずにビルへ戻ってしまった。

私は彼をおいかけないといけない気持ちになり、おいかける。

しかし、見失ってしまう。このまま探しても仕方がないから屋敷に帰ることにした。


パーティーの為にスタイリングしにいく。


「聞きましたか奥さま?」

「ええ、近頃は物騒ね」


最近はこのあたりで殺人事件が多発しているという話を耳にした。


「支度は済んだかな、お姫様」

「ええ」


さすがに馬車ではなく車で会場へ向かった。


「パパはちょっと彼等と話をしてくるから、くれぐれも迷子にならないように」

「わかってるわ」


パパの知人は声が大きく、やあ久しぶりだなマグナリッド、少しフケたなとか距離があっても聞こえてくる。


私は昼に会ったあの男を見かけ、エントランスまで走る。

すると、悲鳴があがってきたので何事かと思っていると――――――


テーブルを倒したり、人を刃物で切りつけ暴れまわる狂人がいた。


「パパは!?」


皆がこちらから逃げてくる。

探しにいきたいけど、危なくて中には入れない。警備兵はいったいなにをやっているんだろう。


「君もここから逃げよう」

「サァン王子!?」


彼から手を引かれ驚きつつ、やんわりとほどいて断る。


「いいえ、私は探し人がまだ来ていないので、お逃げください」


サァン王子は護衛に連れていかれた。

とても不躾なことをしたけどマグナリッドをおいていくなんてできない。


会場が静かになったので、男は移動したか取り押さえられたと思い入ってみる。

数名の怪我人たちの中にはいないようできっと別のところにいたんだと安堵した。


―――気がつけばドレスの飾りの薔薇が切られている。

床にはハサミが落ちていた。


「あ……」


口を黒マスクで覆ったハサミを持つ男はすぐ近くに迫っていて、悲鳴をあげようにも声が出ない。


「こっちだ!」


ハサミ男はリンゴを叩きつけられ気絶した。私は薄緑髪の青年に手を引かれていく。

再び外へでるとさっき気絶したばかりのハサミ男は追ってきた。


「どうしたらいいの!?」


私が焦ると、上から本がふってきた。

これは今日もらったばかりのもので、部屋においてきたはずなのに、どうしてだろう。

なにか対処法はないかと首からかけた銀の鍵で本をひらく。

まばゆい光が本から放たれてハサミ男が苦しんで去っていった。


「どうしてその本を……君はいったい何者なんだ?」

「私にもなにがなんだかわからないけど、この本は誕生日プレゼントで今日貰ったものよ」


がさりという音がして、警戒していると現れたのは普通の人とはいいがたい者だった。


「昼間の!!」


さっき彼を見かけて追いかけなければ、私はハサミの餌食になっていたことだろう。


「さっき彼が言ったこと、気になるかな?」


どうやら社長と青年は知り合いらしい。


「ええ、教えて……でもその前に父を探したいの」

「家に帰っているかもしれないな」


さっきの男から逃げるのはともかく私をおいて一人で帰るなんてことはないと思う。


「テルナ……!」

「パパ無事だったのね!?」

「騒ぎが収まったようだから来てみれば、酷い有り様だ」


さっきの知人も後ろから追ってきた。


「ああ、彼やその友人にビリヤードでもしようと誘われてね」


やはり事件がおきる前に移動していたらしい。


「さあ、すぐに帰ろう」

「え、でも」

「そこに誰かいるのかい?」


デギル達はいるのに、マグナリッドには見えていないようだ。


「構わないよ明日おいで」


―――彼等の話は明日あらためて聞くことにした。


「君はたどり着けないだろうと思って迎えに来た」


デギルについていきオフィス内へ入るとゾロゾロ男性達に出迎えられる。


「まあ座れ」


トゲトゲを首につけた少年に言われた通り椅子に座る。


「飴たべる?」


軍服の男性がキャンディをくれた。


「あーパスタ最高」


向こうにいる男性が大量のパスタをフォークに巻き付けて頬張る。


「フォックス!お嬢さんの前で下品だぞ!」


黒髪の男性はバイオリンを引きながら、器用に話す。


「……それ以上近づかないで」


クロスしたフリルの服を着た少年はこちらから距離をとった。

そのわりに近づいては離れてを繰り返して面倒。

それと服がカーテンみたいでおもしろい構造をしている。


「この服を閉じたら死んじゃうんだ…」

意味不明だ。


「あの人…包帯だらけなんだけど」

「ウィクだから」

理解不能だ。


「君もこれを見てください」

髪の長い美男がゆらゆら揺れる時計の振り子を眺める。

こう言っちゃわるいけど、首を揺らす様がなんとも滑稽である。


「洋ナシを食べたいが血糖値がヤバイ…たべるべきか食べざるべきか…」


なにやら洋梨を片手に苦しみながら考えている薄緑髪の青年がいる。


「貴方パーティーでリンゴを投げて助けてくれた人?」

「ああ、君か」


それだけいって彼はまた考え込む。


「ねーコンビーフって上手いよね」

「……共食い?」


牛の格好をした少年が肉をムシャリムシャリと食べている。


「はーはっは!王子のお通りだー!」


馬でドアを破壊し、登場したのはサァン王子。なぜここに、というか昨日と印象が違う。


「ビリヤードの玉がどこかにいった。社長、サァン王子を極刑に処してください」

「ちょっと、王子になんてひどいことをいうの!」


注意すると王子は構わないといって私を止める。


「うるせーな酒が不味くなるだろぉがよ」


よっぱらいがすわった目をしてフラフラになっている。


無視して次にいくと揺れる椅子に座りながら枕に顔をうずめる青年がいた。


「ゆーらゆらー」


しかし彼は寝ていないのか、目に深いクマがある。


「フゥー」


向こうでは暑苦しいダンサーが踊っている。まともに仕事しろ、と言いたい。


「なんかわけがわからないから私かえ……」

「待たんかい嬢ちゃん」


葉巻、グラサン、日本刀の危なげな男性が私を引き留めた。


「帰るんなら親指おいてけ」

「小指じゃないの?」

「知るかよ」


マグナリッドの趣味のニンキョウ映画で組織を抜けるケジメに出てくるらしい。


「……論点が違うだろ」

「君達、彼女を見て何か感じないか?」

「社長、趣味わるいですね~」


青年はビリヤードを止めて、台に寝そべりながら笑う。


「年のせいか社員が多くて捌き切れないな。ロクロウをクビにするか。台なんてパッとしないしな」

「嘘すすみません殺さないで」


クビくらいで死にはしないだろうに大袈裟に謝るロクロウ。

さっきまで疑っていたが、デギルは社長なんだと認識した。


「で、彼女は一体誰なんです?」


バイオリンの人が私とデギルを交互に見る。


「新しいエンプレスだよ」

エンプレスってなんだろう。

「彼女が新しい女帝…」

女帝…女王様みたいな?


「君、名前は?」

「輝奈」

「よし…テルナ、君はエンプレスとなり我々17の道具を使い、罪人を裁くんだ」

「うん、道具ってなに……」


「要するに我々は拷問具に魂が宿ったような存在だ」

拷問具って地下室にあったあれのことかな。



「右からインカド、ニタイル、フォックス、アロス、ウィク、テュス、ペデュド、アンジェロス、フォラオ、サァン、ヴァイロン、ロクロウ、ハイド、ジュダ、クロエ、ブレイズだ」


ついさっきまでいなかったハイドって人…はトゲのハンマーを背負っている。

「なにジロジロ見てんだ頭かち割るぞ」

笑顔で物騒なことを言われた。


「要するに皆は拷問具の妖精さん?」

魂とかより妖精のほうがオブラートに包んだ感じで幾分マシだ。


「もうそれでいいよ」

「私まだ死にたくないんだけど」

「君は死なないよ、罪人は死ぬけどね」

そんなこと言われても困る…。


「イエスかハイかオーケーか喜んでやりますで答えろ親指貰うぞ」

「わかった…」


こうして私は罪人を裁く女帝エンプレスとなった。


●1章:拷問舞台の幕開け、飴と鞭は基本


私はロクロウやニタイルと共に、罪人の反応があるという場所へ歩いて来た。


もちろんそんなヤカラを関知する力は私にはない――人間だもの。


……ここはいかにも危ない奴等のたまり場だ。


本当は全員でいけば安心だが、目立つし。

なにより他の皆は、この二人よりまともに働く気がないらしい。

というわけでついてきてくれたのがこの二人だけなのだ。


「ねぇ女帝エンプレス

ロクロウが私を呼ぶ。名前でよんでくれたほうがいいのに。


「…テルナでいいよ」

「良くないデギルに殺される」

切実、といった様子。

そんなに怖いのだろうか。


「他の皆は好きなことやってたけど、二人はどうしてついてきてくれたの?」

「飴は外でも食べられる」

「僕は台だから」


意味がわからない。



「僕達はついつい機具に合わせた行動をとるんだよ~」

機具…どんなだろう。


「俺はムチ、だから飴を食べる、こいつがビリヤード」

アメムチ?


「というかなんでビリヤード?」

「拷問台だから台つながり、みたいな?」

ビリヤードである必要がない。


それにしても…まったく人がいない。



「あはははは」

乱雑な髪の粗野な男が異常なほど笑いながら現れた。


「出たな罪人インフェリオ

「インフェリオ?」

聞いたことない言葉だ。


「女帝が狩る罪人のことだよ」

「それ普通にザイニンかトガビトじゃだめなの?」


「さあ女帝、武器を使って」

「私、戦ったことなんてないんだけど」

「ただ振り回せばいいんだよ」


そう言って、ムチと台が出てきた。


変わりに二人の姿が消えた。


「でもなんで私なの?武器は二人のうちどちらかが使えばいいじゃない」


《ほんとは女の子にこんなことをさせたくないけど

武器は女帝にしか使えないんだよ…》


「まだかあ?」

粗野な男は律儀に、会話が終るまで待っていたようだ。


ともかくこの男が罪人なら倒さないといけない。


そう覚悟を決めたら。


――――意識を誰かに乗っ取られたような、不思議な感覚になった。


それと共に見えるこの男が武器を使い、不良を殴る姿。きっと犯した罪の光景だ。


私はムチを手にとり、

縄跳びのナワを片手でふる感覚で振り回した。


「あたんねーよ」

「困ったなー」

男は逃げる。そうだ、それでいい。


「えい!」

「あはははっどこ狙って――――!」


かかった。男は後ろにある拷問台に倒れた。


台は自動的に手足をロックした。


ムチを一度も当てられなかったが、結果的に狙い通り、男を背後の拷問台へ誘導したのだからいいか。


一度、軽くムチで叩くと、罪人は一瞬で黒い影をまとい、粉のようにさらさらときえた。



罪人を裁くということが、よくわからない。

なぜ、私がやる必要があったんだろう。

警察ではダメだったのだろうか。


しかし、私が見逃さなかったから、男はもういない。

―――疑問を抱くには、少し遅かったのだ。


■第二章



「最近外出が多いな。友人でもできた?」

「そうなの、かわいい子でね」


ボーイフレンドができたなんていうと面倒なので女の子ではないがそれっぽく言っておく。

それに男じゃないなんて言っていないから嘘ではない。

想定した通り、それ以上の追求はされなかった。


「おはようみんな」

「おはよ~」


皆がぞろぞろ集まり私に気がつく中、なんとかネムネム君は枕をかかえて寝ている。


「ったくこいついつ起きるんだ?」

「精霊はモチーフの行動をとるっていっていたけど、寝てないとだめな縛りなの?」

「別に強制じゃないよ癖みたいなものだから」


つまり長時間眠っているのは改善しようと思えばできるということだ。

というか振り子をいつまでも眺めるペテュドには彼より眠ってもらいたいと思う。


「寝顔は天使みたい」

「起きたらナマケモノだがな」




「今日はジュダとペテュドに行って貰おう」


私が不眠君と熟睡君を引き連れるの!?


「よろしくお願いします」


ペテュドは振り子を見るのをやめて、首を傾げながら私を見ている。


「あ~良く寝た~出掛けるの~?」


ジュダは体をのばすと、あくびをして目を擦りながらたずねる。


「ああ、よかった。ちゃんと起きられるんだ」


ジュダは目の下のクマはともかく、弟みたいで可愛い少年だ。


「さあ行きましょう」


ペテュドが私に手を繋いで、プラプラと振り子のように揺らした。


「ぐー」

「あーも~!ちゃんとあるいてよー!」


ジュダが私に引き摺られながら歩く。


「はあ……マジヤバいから、背中と腕がハード筋トレ後みたいだから休憩しよ」

「わかった」

「ボクを枕にしていいよ」


パパの膝は固いから止めといので、ジュダの膝枕が人生初膝枕だったりする。


「成長期前の男の子って柔らかいんだねー」

「ボク生誕100年越えてるんだけどね」


ペテュドはハンカチで風を送る。


「インフェリオは現れないね~」

「そろそろ移動しますか」


ペテュドは振り子をまるでハンスドピナーのようにくるくる回転させた。



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