第38話 「I.P.D.」
遅くなってすいません。
「ま、待て!
いいものやるから見逃してくれ」
お兄ちゃんが様子を見ているとベレッタはチャンスがあると思ったみたいで
懐から首飾りを取り出しました。
「!?」
多分わたしたち4人全員が驚いたと思う。
だって差し出された首飾りは藍紗ちゃんの首飾りと同じものだったから。
藍紗ちゃんは確かオーダーメイドだって言ってたはず。
ということはそれは蒼紗ちゃんのもの。
「それ…どうしたの…?」
怒りをこらえて(?)藍紗ちゃんが訊きます。
「ああ…ここにいたヤツが持ってたんだ!
盗賊のオレの目から見てもいいものだ!」
ベレッタは必死に言葉を繋ぐ。
「持ってた子は?」
「あ、あんまり暴れるんで…殺しちまった」
ばか…。
そんな事わざわざ言う必要ないのに…。
さっきから話すのに必死みたいだから
つい口から出てしまったのかもしれないけど…。
「その殺した子は…私の妹よ!」
「っ!」
急に空気が変わった!?
「オマエ…シネェェエエ!!!」
藍紗ちゃんが狂ったように叫んで詩を謳い始めました。
でも今まで聴いてきたものは違う。
これは…?
「IPD暴走だわ!」
近くにいたレーヴァテイルの子が叫ぶ。
これがIPD暴走…。
「シネェ!!」
「きゃあっ!」
ベレッタに向かって魔法が放たれました。
直撃してないのに近くにいるだけですごい風が来る。
「ちっ」
放たれた魔法弾とお兄ちゃんとベレッタの間で火花が散ってる所を見ると
お兄ちゃんがシールドかバリアを張ってるみたい。
助けにいかなきゃ…。
あの魔法を完全に防ぐには…。
「サラ…お願い!」
〜サラSIDE〜
「無月さん!」
「ん?…ああ、サラ…だっけか?」
無月さんはちらっと私を見て再び前を向きます。
「はい。防御は任せて下さい」
「わかった。頼むぞ」
祢音さんと作った新しい魔法を使う時が来たようですね。
『アイギスの楯』
私の前に魔力で楯を作る。
普段魔術師が使うシールドとは違う。
さらに硬度を増し、魔力からの防御に特化させた楯。
楯による防御で魔法弾の魔力が減っていき、最後に消滅しました。
「グレイプニルで縛れないか!?」
「縛っても攻撃を防げないと思います。
あの魔法は謳う事で発せられますから」
「ちっ、暴走はどうすれば収まる!?」
「気絶よ。
藍紗をどうにかして気絶させるしかないわ」
これは久遠様の提案。
「なら背後に回れたらOKだ。
首に1発かましてやる」
「ですがどうやって近づくんですか?
藍紗さんは移動することはないようですが魔法がとても強力です」
「まぁなんとかやってやるさ」
無月さんはやる気の様ですが…。
―祢音さん、どうですか?―
私は祢音さんに呼びかける。
―いいと思う―
―ですが藍紗さんとの約束は…?―
―………できれば破りたいよ―
―わかりました。ではそのように―
「無月さん、これを使ってください」
私は真っ白な銃を無月さんへ差し出す。
「効果…あるのか?」
「わかりません。
ですが可能性は十分あります。
ただ撃つ時はできるだけ近くで撃ってください。
離れると効果が薄くなりますから」
「そうか。わかった」
「防御は私に任せて、
無月さんは攻撃だけを考えて下さい」
「ああ。任せる」
無月さんは真っ直ぐ走り出す。
任せられた以上、全力で守らなければなりません。
私はいつでもすぐに守れるように魔力を高めます。
藍紗さんから力を感じます。
来る…。
無月さんの前に楯を…いえ、範囲攻撃にも備え、バリアを張る。
もちろん私たちの前にもバリアを張る。
藍紗さんが放った攻撃は範囲攻撃ではありませんでしたが、
炎による強力な攻撃。
強力でも私なら問題はない。
攻撃が強力な分、次の攻撃までの間隔が長いはず。
無月さん、今のうちに…。
「くらえっ!」
銃声なく銃弾は放たれ、見事当たりました。
藍紗さんは気を失い、その場に仰向けで倒れました。
では、私の役目はここまでですね…。
そして私は祢音さんと交代しました。
〜祢音SIDE〜
サラに交代してもらうと一気に疲れが出てきた。
貧血みたいな感じ。
久しぶりだったからかな。
膝をつくとお兄ちゃんが近づいてきます。
「大丈夫か!?」
「大丈夫。ちょっとクラッとしただけ…」
でもこれで任務完了…………かと思ったら…。
「近づくな!」
声の方を見れば藍紗ちゃんが
ベレッタの人質として捕まってるのが見えた。
「近づきゃあこいつの命はねぇぞ!」
斧をちらつかせるベレッタが言う。
藍紗ちゃんはまだ気を失っている。
「ちっ、すっかり忘れてたぜ。
まだ抵抗する気か…」
「……………」
どうしようか。
ここまで危険にさらされているという事は…殺せという事?
「仕方ないね。
藍紗ちゃんを……殺す」
「本気か!?」
「IPDが発症したから大鐘堂が嗅ぎつけて来るかもしれない。
来るとすればもうすぐ。
そうなれば藍紗ちゃんが連れてかれる。
それなら殺してあげるしかないよ。
元々…約束…したしね」
〜エレベーター内〜
「ねぇ祢音…頼みがあるんだけど…」
「何…?」
「もし…私がIPDを発症したら祢音が私を殺して」
「え!?そんな事…!」
「もし蒼紗が見つからないうえに
IPDまで発症したら私は死ぬしかない。
大鐘堂に捕まったところを蒼紗には見せたくないしね。
ね…お願い…」
「……………わかった」
〜スラム〜
わたしは銃を構える。
こんな事になるとは思ってなかった。
でも大丈夫。
あんなヤツに藍紗ちゃんを殺させはしない。
できればなんとかしてあげたかったけど、
藍紗ちゃんが死ぬ事を望んでるなら…。
「あんたを狙うわけじゃないんだから、邪魔しないでよ?」
一瞬で終わらせてあげる。
ダァン
一発で脳天を貫かれた藍紗ちゃん。
人質が意味を失った事で慌てるベレッタの右腕に
お兄ちゃんが剣を突き刺した。
「ぐうう…」
腕の中を行き来する剣の痛みに耐えるベレッタ。
その間にわたしの魔法の紐で縛り上げる。
「もう1人、ダッジはどこにいるの?」
「知らねぇよ!
この世界に着いた時にはオレ1人だったんだ」
「………2人とも、本部からの新しい情報。
ダッジはこの世界のこことは別の場所にいるそうよ」
「だったらさっさと行くぞ!」
「無理よ。
ここは3本の塔それぞれにへばりつくように大陸が浮かぶ世界。
大地はなく、雲海が広がっててそこを通っていくのは無理。
3つの塔が直接繋がる場所はないし、転移しようにも行った事のない場所だから無理。
まぁ本部の転移装置を使えば別だけど。
それに奏が行くらしいから問題ないわよ」
「奏ちゃん1人で!?」
「レミアが誰か連れて行くように言ったから大丈夫よ」
「そう…………じゃあわたしたちは帰ろうか」
わたしたちは藍紗ちゃんの亡骸を残してこの世界を去った。
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