第26話「クリスマス・イブ」
え?久しぶりの投稿だってのに1日ズレてる?
気にしない気にしない。
というわけで、リクエスト第……2弾です。
〜奏SIDE・奏の部屋〜
ピンポーン
とチャイムが家に響き渡りました。
ですが誰も応対に出ようとする人はいません。
お姉様も兄さんも補習とやらで学校に行っています。
〜無月&祢音SIDE・水月学園〜
「何で私たち冬休みの真っ昼間に補習に来てんの?」
「あんまり出席してない上にテスト結構悪かったからなぁ。
まぁ英語は問題ないけど現代文とか特に歴史は空っぽだったし」
〜奏SIDE〜
仕方ないですね。
私は読みかけの本に付箋を挟み、玄関へ行きました。
客は宅配便の方でした。
その小さな小包は珍しく、というか初めて私宛てのものでした。
誰からでしょう?
………『久遠』?
どうやら久遠様から送られてきたようです。
わざわざ宅配便なんか使ってどうしたんでしょう?
私は部屋で開けることにしました。
〜奏の部屋〜
重さはそんなにないです。
何でしょうか?
開けてみると手紙と綺麗な小瓶が出てきました。
手紙には
『いい香りだから祢音と一緒に嗅いでみなさい。
私からのクリスマスプレゼントよ』
とそれだけでした。
どこか怪しいです…。
とはいえ好意であれば申し訳ないです。
万が一お姉様に危害が及ぶ前に少し嗅いでみることにしました。
あ………。
少し甘ったるい気もしましたが、結構いい香りです。
今のところは体に異常はなさそうです。
これなら大丈夫そうですね。
そして瓶を引き出しの中にしまいました。
下でお姉様たちを迎える準備をしましょうか。
「……っ!」
と思ったら扉の前で急に気が遠くなり、力が抜けて倒れてしまいました。
〜無月SIDE〜
「あー終わった終わった」
「ただいまー!」
家に入ると、とたとたと奏が出迎えた。
そしてオレたちの姿を見ると一瞬だが驚いた顔をして背中を向けてしまった。
どうしたんだろうか?
ちょいとしてから奏は振り返りとんでもないことを言った。
「お兄様、お姉様…お帰りなさい」
!?
まず耳を疑った。
それは祢音も同じのようで驚いた顔をしている。
「お茶…用意してますから来て下さい」
とダイニングの方へ消えていった。
「お兄ちゃん、今、『お兄様』って…」
「あ、ああ…やっぱりそう言ったよな」
かなり疑問に思いながら奏の待つ部屋へ向かった。
〜ダイニング〜
ダイニングテーブルには2人分の紅茶とクッキーが置いてあった。
「初めて1人で作ったのでおいしいかわからないんですけど…」
どうしたどうした?
こんな事って1回もなかったぞ。
疑問に思いながらイスに座り、1口食べてみる。
奏はその様子を不安げに見ている。
自分から感想を訊くのも恐れているようだ。
「まぁ…うまいよ」
まぁまぁうまい。
「…………………」
奏はそれを聞くと嬉し恥ずかしといったような顔をした。
「ねぇ、奏ちゃん今日はどうしたの?
いつもとかなり様子が違うんだけど…」
「そうですか?
私はそうは思わないんですけど…」
おかしい…。
「お兄様、後で宿題を見て欲しいんですけどいいですか?」
「ああ…いいけど…」
今までこんなのあったか!?
祢音じゃなくてオレか!?
メンドくせ…。
その後も奏はちらちらとオレを見た。
んで、オレが奏を見ると顔をそむけるといった具合だ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「えーと、ここはこーで、こーで、こーだ」
奏は言われた通りに書いていく。
「ここは…?」
「あーして、こう」
何やってんだオレ…。
「ここ…」
「わからん」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「ところでお兄様、今夜ピアノミニコンサートが
島民ホールのエントランスで行われるのをしってますか?」
勉強の途中で奏が突然言った。
「へぇ〜。あ、なんかそんな張り紙があったような…」
商店街にちらほらと。
「行きませんか?私たち2人だけで」
「は……?」
口を「は」のままポカンと開けて奏を見る。
「2人だけ?
オレと……お前…?」
言葉に合わせて自分と奏を指差す。
「はい」
「祢音は?」
今度は祢音がいるであろう下を指差す。
「お姉様には申し訳ありませんが……」
こりゃ驚いた。
ドリームの中でもないのにこうくるとは…。
何か変なものでも食ったのか?
「祢音に訊いてからだ。
ちゃんと話してな。オレから話しといてやるよ」
「はい…」
〜リビング〜
「ほーーーーーーーーーー」
その後、奏に内緒で祢音にその事を伝えると、
自分が除け者にされた事なんか頭に入ってないような反応だった。
「どうしよう…?」
「どうしようってそんなのついてってあげれば?」
祢音は当然と言わんばかりに答える。
「そうなるとお前1人だぞ?寂しいぞ〜」
「別にいいよ。奏ちゃんがそう言うのって初めてじゃない。
わたしとしてはそれで嬉しいからいいんだけど?」
祢音にそう言われると誘いを断る理由がない。
行くしかないか。
「でも、イブの夜に年頃の少女を独りにする見返りはもらうからね」
「はいはい」
〜奏の部屋〜
「奏、いいぞ。一緒に行ってやる」
「ほんとですか?」
それを聞くとホッとしたようで、表情を和らげる。
ずっと不安だったんだろう。
「ああ」
「ありがとうございます!」
奏は今にも跳びついてきそうなフインキだ。
「はは…で、いつからだ?」
「21時からです」
「そうか…少し遅いな。まぁいいか」
〜玄関〜
「申し訳ありませんが、留守をよろしくお願いします」
「うん。いってらっしゃい」
「じゃ、いってくる」
〜島民ホール〜
小さいコンサートで演奏者も無名なせいか、
エントランスには40席ほどパイプイスが用意されているがそれで十分なほどの人数がいた。
それでもクリスマスだからカップルもいる。
オレたちは隅の方の席に座る。
2席並べられていて丁度よかったからだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
その後はずっと曲を聴くのに没頭していて奏と2人で来ていることも忘れていた。
だったらいいのだが、恥ずかしいことに奏はずっと寄り添っていた。
2人の演奏者がいて、時間は1時間と15分ぐらいだった。
その間ずっとだ。
しかも奏は半分ぐらいで眠ってしまう始末だ。
寝るぐらいなら来なけりゃよかったのに。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「奏…起きろ」
演奏がすべて終わってからオレは奏を起こす。
「ん……あ、すいません」
「いいよ。帰ろうぜ。祢音が待ってる」
「そうですね。帰りましょう」
〜帰り道〜
「………あれ?」
奏は突然ヘタヘタと座り込んでしまった。
そして立ち上がろうとしているようだが、どうやら立てないようだ。
「力が入らないみたいです」
力が入らない?
「さっき寝過ぎたせいか?」
「いえ!それはないです……多分」
人がいないから邪魔にはならないだろうが、
このまま座ったままでいるのもなんだしなぁ。
「ほら」
オレは奏に背中を向けてしゃがむ。
「え…?」
「普段のお前ならいやだけどな!特別だぞ!」
「ありがとうございます」
少ししてから背中に重みを感じる。
「落ちるなよ、しっかり掴まってろ」
「はい」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「ところでお兄様、私、魅力ないですか?」
「は…?」
あまりに突然そんなこと言うからとっさに答えられなかった。
「男の人は胸が大きい方が好きだって聞きますから」
あーー、そういうことか。
まぁ………確かに背中に感じる奏の胸は……小さいな。
「気にしてんのか?その……小さいこと」
言っていいのかちょっと考えながら言った。
「戦闘には必要ないですし、大きいと戦いにくそうですからいいんですけど…」
「別に…胸は関係ねぇよ。
お前の場合は普段の無愛想さだな」
「そうですか…。
それならなんとかなりそうですね」
そうかい。
そりゃよかったな。
〜如月家・玄関〜
「ただいま」
「おかえりー…ってこれはどういうこと?」
「まぁかくかくしかじかでな」
で、経緯の説明をした。
「へぇー」
「もう大丈夫です。降ろしてください」
言われた通り、奏を降ろす。
「疲れてるかもしれねぇし、風呂入って早く寝ろ」
「はい、そうします」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
プルルルルル……プルルルルル……
その夜0時丁度に電話がかかってきた。
だれかと思ってでてみれば
「メリークリスマス」
聞くはずのない声が聞こえてきた。
「ちょっと…聞いてるの?」
「久遠か…」
相手は久遠だった。
電話なんか使ってくるとは思わなかったな。
「どう?楽しんでる?私からのクリスマスプレゼント」
「楽しんでる?何を?」
「届いてないの?むらむら香水」
どうやら話が噛み合ってないようだ。
…………『むらむら香水』?
ここでオレの中では繋がった。
「奏があんなのになったのはあんたのせいか!?」
「むらむら香水、あなたの一部を材料にしたから嗅いだ人はあなたにメロメロになるのよ。
しかもその間記憶がないからやりたい放題できるわ。
……奏が?祢音の方はそうでもない?」
「祢音はなんともねぇよ」
「そう…残念ね。
嗅いでなかったのかしら。
せっかくあなたにハーレム気分を味あわせてあげようと思ったのに…」
電話終わったらさっさと回収しないとな、そんな危険物。
「奏はずっとあのままか?」
「いえ、数時間寝たら元に戻るわよ」
「1時間弱寝た後、力が入らなかったらしいが?」
「中途半端に寝たからかしら…?
改良の余地があるわね。試供品だし丁度よかったわ」
「そんなもん。寄越すなよ」
「悪かった。今度は完成品を送るわ」
そういうことじゃなくて…。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
その後、事情を祢音に話し、奏の部屋を漁ると例の香水が出てきた。
迅速に回収、封印(と言っても開かないようにガムテープで縛り付けただけだが)
して本部に行く時に久遠へ返すことにした。
そして次の日、すっかり奏は無愛想に戻った。
よかったのか悪かったのか…。
とりあえず一件落着、と。
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