第23話 「イミテーション」
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「お兄ちゃーーん!!大変大変大変態変態変態!」
「大変なのはわかったからまぁ落ちつけ」
本部での休養中、祢音が突き破らんばかりにオレの部屋へのドアを開けた。
そしてそれに続いて奏も入ってくる。
「寝転んで本なんか読んでる場合じゃないんだよ!」
祢音は本を強引に取り上げ、自分の方へ注意を向けさせる。
「どうした?」
オレは鬱陶しく思いながら不機嫌に聞こえるような返事をする。
「いたんだよ!お母さんが!!」
「……!?」
オレの想いも伝わらず発せられたこの言葉にはさすがに驚いた。
祢音がこうなるのも無理はない。
「はぁ!?んなことありえねぇよ。夢でも見てたんじゃねぇのか?」
「それが夢じゃないんだよ!ほとんど一瞬だけど間違いなくお母さんだったって!」
「奏も見たのか?」
オレの肩を前後に激しく揺らす祢音を静止させ、その様子をいつも通り見ている奏に訊く。
「いえ…」
奏は見ていないようだが祢音がこんな嘘を吐くとは思えない。
こんなのは笑えない冗談だ。
となると…母さんの姿を見たのは間違いなさそうだ。
本人かどうかはわからないが。
「どこでだ?」
「2階の資料室の前!」
「行ってみるか」
「うん!」
と言うやいなや、祢音はオレの手首を掴み、走り出した。
よっぽど興奮しているようだ。
あまり期待しないほうがいいんだけどな…。
「ここか…」
資料室の前は丁度T字路になっている。
角を曲がる際に見たという感じか。
だが姿は見えそうも――
「お兄ちゃん!」
急に肩を後ろへ引っ張られ、前を見ると目の前に間違いなく母さん、如月桔梗がいた。
見た目は全く寸分の違いもなく本人だった。
だがオレにはそれは母さんではないということがわかっている。
「ウソ……」
「誰だ、お前は?」
オレは敵意を込めた視線を送る。
しばらく何も言わず、表情すら変えなかったがそいつはようやく話し始めた。
「よくわかったな。アタシが如月桔梗本人じゃないって」
そいつが母さんの姿のまま話し始めるとオレは剣を取り出し、突き付ける。
「さっさと正体を現わせ!その姿でいられると目障りだ」
祢音はというと何が何だかわかっていないようで、ポカンと様子を見ている。
するとそいつはほんの一瞬姿が真っ黒になり、次の瞬間には見たことのない細身の女性になった。
「いや悪い。そこまで怒るとは思ってなかったから…」
その女性は観念したように両手を少し上げる。
「お前は誰だ?」
オレは剣を下ろさず訊く。
「アレ……?はじめましてだっけ?そうかそうか…そいつは失礼」
オレの問いが意外だったようで少しの間眼を丸くし、その後懐からタバコを取り出し吸い始める。
「はじめまして、アタシは来栖真夜。真夜のもう一つの人格だ」
そいつの正体がわかり、オレは剣をしまう。
「ねぇ。今お母さんの姿だったけどそれどうやったの?」
ようやく祢音も会話に入ってきた。
「あぁ、これアタシの魔法の能力。
写真でも何でも一目でも見たならそいつにに変身できる。
隠密にはうってつけなんだ。なんせそのままコピーできるわけだからな。
そういやどうしてわかった?少し聞かせてほしいね」
「母さんはもう死んでる。死んだ人に似せたモノは創れても本人生き返らせることはできない。
それは骸使いによって操られているか、別の誰かかとか…。
とにかくどの世界でも絶対に死者を蘇らせることはできないということを知っている」
これはオレがなんとかして2人を生き還させられないか様々な異世界の本を読んで知ったことだ。
「へぇ…。物知りだな。専門外だろ?」
「まぁ…ちょっとな…」
「そっかそっか。んじゃまたな」
マヤは一方的に話を終わらせ、一方的に去って行った。
「何しようとしてたんだろ?」
「よくわからない人です」
同感だ。
「あ、ちょっとごめんね。チェーーンジ!」
「何が?」と訊く前に祢音から黒い翼が生えた。
「「!?」」
オレと奏は反射的に構える。
「ストップストーーップ!!」
悪魔は先ほどのマヤのように両手を上げる降参ポーズをして言った。
「悪魔、今度は何する気だ?」
「大丈夫、わたしはもうそんな事しないって約束したのよ。
それにわたしは悪魔なんて名前じゃないのよ」
今度の悪魔は殺気が感じられない。
「いやあーっ!久しぶりの外だーっ!」
ぐっと伸びをする悪魔のフインキはどことなく普段の祢音に似ている。
なので少しだけ警戒を解いてみる。
「わたしの名前は『ルナ』。そして天使のわたしの方は『サラ』。
こないだわたしたちの会議で決まったの。よろしく」
「ルナか…。何もしないって言葉、本当に信じていいんだろうな?」
「大丈夫よ。見てなかったの?主人格の祢音が自分から躯を渡したの。
それは信用に値すると思わない?」
…それも一理あるな。
「本当に大丈夫なんだな?」
「うっさいわね。大丈夫って言ってるじゃない。何回言わせるつもり?」
苛立っているルナ。
まぁ…………いいか。
「わかった。だが、奏を連れていけ。見張りだ」
「何で自分でしないんですか?」
奏は眉をひそめてオレを見る。
「めんどくせぇ」
そしてオレは即答する。
「……バカ。
仕方ありません。危険なことをしなければ空気でいますのでどうぞお好きなように…」
「そ。じゃあ行くわよ」
そして2人はマヤが去って行った方向へと走り出した。
「さて、寝るか」
〜ルナSIDE〜
「どこ行ったのかしらねぇ?」
すれ違う人が私を見て驚いた反応をするけどほうっておく。
「あ、いたいた」
タバコを燻らせて気だるそうに歩く後ろ姿が見える。
「ちょっとちょっと!」
私が名を呼ばなくてもマヤには自分が呼ばれているとわかってくれたようで、すっと振り返った。
「お、さっきの…いや、それは…」
「大丈夫よ。危害は加えないわ。ところでさ、その変身の能力おもしろそうじゃない。
一ついたずら考えたんだけど参加してみない?」
「いたずらねぇ……よし、丁度暇だしやってみるか。
で、どんないたずらするか考えはあるのか?」
興味を持ってくれるみたい。よーし…。
「うん。ちょっと無月の野郎を困らせてやろうと思ってね。
奏、今回は邪魔するんじゃないわよ。姉からの命令よ」
「あなたは私の姉ではないです。
ですが別に姉からの命令でなくても危険なことをしなければ…」
「別にいいじゃない。同じ躯なんだし。
まぁいいわ。無月にしか危害はないから安心して。じゃ作戦を話すわよ…」
「それはそれは…。あいつの反応が楽しみだな。…ふふふっ…」
マヤはその時のことを想像しているのか、早くも笑っている。
ま、それはわたしも同じなんだけどね。
「奏、これなら問題ないわよね?」
「はい」
「奏ちゃんもやってみない?」
「私は遠慮します」
予想通りの答えね。
やってる奏おもしろそうなんだけど。
「つれないわねぇ。じゃああいつに変身ということで」
そしてわたしたちは無月の部屋へ向かったの。
〜無月の部屋〜
「いたいた。寝てるわね」
そっと中を覗いてみると無月はベッドに寝転がって背中を向けていたわ。
「チャンスだな」
と言ってるマヤは同じ調律師のメデスの姿になってる。
「じゃ、頼むわよ」
「任せておけ」
そう言ってマヤは静かに無月へと近づいた。
そしてメデス(=マヤ)は無月に跨り、押し倒す体勢になった。
「おい、無月」
「…ん?………お前何してんだ?」
呼びかけるとすぐに無月は眼を覚ました。
しかもメデスに押し倒されてる体勢になってるのに結構冷静。
「そうだな、お前の体が欲しくなったとでも言えばわかりやすいか?」
うわっ、案外直球ね。
「お前そんな気があったのか。知らなかったな」
「そりゃあ隠してきたからな。
そしてこれからお前の純潔はオレが頂く。お前はただオレに身を任せていればいいんだよ」
「フザけたこと言ってんじゃ…ねぇっ!!」
我慢が限界に達したみたいで、
無月はメデスの鳩尾目掛けて殴りかかってきたけど、後ろに身を引いて簡単に避けてしまう。
「そんなに恥ずかしいか…。大丈夫、みんな初めはこ・う・さ☆」
キラリと星の出るようなウインクを無月へ投げかける。
ブチッ
あ、何か切れた。
「お前なぁ…。この際だから今までの分いくらか怨みを晴らさせてもらうぞ…」
無月の手にはいつの間にかレーヴァテインが握られてる。
ちょっとヤバくない?
「じゃ、じゃなっ無月!」
メデスに扮したマヤもさすがに危険を感じたようでさっさと逃げていく。
「おいコラ!待ちやがれー!!」
「待つかってのー」
わたしと奏は部屋から出ていく無月に見つからないように物陰に隠れた。
「奏、あなたの魔法でわたしたちの姿って隠せるわよね?」
「できます」
「じゃ早くそれして。追いかけるわよ」
「………」
奏は無言で魔法をわたしにかけてくれた。
「さ、行くわよ」
〜本部・廊下〜
「どこ行きやがった…?」
無月はどうやら見失ったようですぐに見つけられた。
「へへっ、ちょっといたずらしちゃえ」
わたしは背中を向けている無月にゆっくりと近づき、そして足払い。
「おわっ!」
無月は変な声を上げて、ドスン尻もちをつく。
良い気味ね。
「………」
すると無月は振り返ってわたしの顔をじっと見る。
まさか…バレてないわよね?
「お前か…ルナ」
律儀に名前を呼んでくれたのはいいんだけど、この後はヤバいかも…。
危険を察知したわたしはすぐに奏の所へ戻る。
「ちょっと、見えないんじゃなかったの!?」
「…見えませんよ。ですが存在自体は消えてません」
「えーーーっ!?」
ポン
っとか言ってる間に誰かに肩を叩かれた。
恐る恐る振り返ってみるとそこには怒りを押し殺した顔でわたしの両肩を掴む無月。
しかも魔法も解かれてる。
「あ、あはは」
「『あはは』じゃねぇ。今回のはお前の仕業か!」
「ギクゥッ!そんなことないわよ。ねぇ…奏?」
「………」
頼みの綱の奏は無言で首を振る肯定の動作。
こんな時だけ言うこと聞かないんだから。
「お前自分で『ギクゥッ!』て言ってるだろ。
………………そうか、来栖さんの変身能力か。
さっき本物のメデス本気で殴っちまったじゃねぇか。まぁ全然気にしてねぇけど」
うわぁ結構本気で怒ってるみたい。悪魔の尊厳台無しね。
「いやぁそんなに見つめられるとさすがのわたしも照れる…」
「嘘をつけ」
せっかく視線をそらしたのにまた正面を向けさせられる。
「いやぁすまないなぁ。無月」
後ろから全然悪気のなさそうな声と共にマヤが現れる。
姿はもういつもの女の姿に変わっている。
「マヤさんの方ですか、さすがにちょっと怒りますよ?」
「いやぁ、暇な時にこいつが持ちかけてきてな。ついつい調子の乗ってしまったわけだ」
「やっぱりお前の仕業か」
これは逃げるが勝ちね。
「あ〜と、え〜と、んじゃあね。ババーイ」
〜無月SIDE〜
その一言の後一瞬で悪魔は祢音に人格を変えてしまったようだ。
黒い翼も無くなっている。
逃げやがったな。
祢音を睨みつけるわけにもいかないからオレは手を放す。
「あ、ごめんね。こんなことになるとは思わなくてさ」
「ま、いいさ。お前が望んだことでないなら…」
「…案外そうでもないかもよ」
「は?」
今悪寒のしそうなこと言わなかったか?
「ん?なんでもないよ♪」
誤魔化すかのように笑顔全開の祢音。
はっきりと聞こえたんだが、誤魔化すならここは乗ってやるか。
「そういやさっきモノホンのジュライアスが気絶してるのを見たんだが大丈夫か?」
「大丈夫なんじゃない?頑丈だし」
そうして騒がしい今日も過ぎていくのであった。
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