第22話 「TDL」
〜水月港〜
「ふわ〜…ねむ……」
現在時刻は8時25分。
8時30分に水月港に集合ということだった。
これから2時間ほどかけて目的地のTDLへ向かうわけだ。
オレは島内散策でよかったんだけどなぁ。
あ〜眠い眠い。
「よーし!船に乗れー!」
その一声でみんなが船に乗り込んでいった。
〜船〜
船の中では早くも写真撮る者あり、酔う者ありな光景だ。
まずは船で1時間ほどかけて本州へ辿り着くわけだ。
「さ〜て、着くまで何しようかな…」
「オレはボーっとしてるから2人で何かやっててくれ」
「つれないねぇ…。仕方ない。私たちは船の中散歩してよっか」
「はい」
そして船の後バスに乗って1時間、ようやくとってもドラマチックランドに着いた。
〜TDL〜
「さてお兄ちゃん、どこ行こっか?」
バスを降りるやいなや2人そろってオレについてきた。
ちなみにメデスは一緒に遊ぶ女子を探してさっさと消えた。
「お前らは友達と行けよ。オレはテキトーにブラブラしてるから」
「そんなことしたらお兄ちゃん寂しいでしょ?
せっかく一緒に遊んであげようってんだから素直になりなよ」
「…好きなようにしろ。ただオレは後ろについてくだけだからな」
「OKOK。じゃ行こっか」
「……で、これ最初に乗るのか?」
目の前では大きく水しぶきをあげて滑ってくる乗り物。
まぁいわゆる急流すべりだ。
「そ。ビビったの?」
挑発するようににやける祢音。
「そんなことねぇよ。さっさと行くぞ」
「へいへい。行くよ、奏ちゃん」
「濡れるのは好きじゃないんですけど…」
「大丈夫だって、雨具みたいなの貸してもらえるだろうし」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「ビショ濡れ………」
「いやぁ!楽しかったねぇ!」
「お前なぁ…」
急流すべりに乗る前にカッパのようなものを借りれるだったが、
祢音の「全員いりません♪」の一言でカッパ無しで乗った。
そして結果はビショ濡れ。
奏も強引に押し切られしぶしぶカッパ無しで乗った。
「これ最初にやるべきじゃあなかっただろ」
「ちゃんと先の事を考えて下さい」
「今さら言っても遅い遅い。太陽出てるし、そのうち乾くよ。さぁ次次ぃ」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
それから乗り回したのは全て絶叫系のアトラクション。
くるくる回ったり急上昇&急降下したり左右に振れたり…。
飯食ったし、もう乗りたくないな。
「あ〜死ぬ……」
「あれ?お兄ちゃん、もうギブアップ?まだまだあるのに」
「もうギブだ…。少し休ませろ」
それよりなんでお前らそんなに平気なんだ?
「う〜ん。せっかくのフリーパスだから遊びつくしたいんだけどなぁ…。あ…」
祢音がオレの後ろ方向を見て固まったから振り返るとそこには…。
「久遠…。もうちょっとファンシーなものにしませんか?」
「何言ってんのよ。遊園地と言えばジェットコースターに決まってるじゃない」
本来ならば学園で授業中で、ここにいるはずのない赤司邪姉妹だった。
「天照さん!?」
「と久遠さん!?」
その声が届いたのだろう、2人はこちらを見ると天照さんはバツの悪そうな顔をして、
久遠は眉をひそめてこちらへ来た。
そして傍まで近寄ると顔を寄せて
「そんなに叫んだら教師共に見つかるじゃないの!!」
と怒鳴った。
「いや、お前の方がうるさいだろ」
「どうしたんですか?今学園で授業中じゃあ…」
「学園で授業なんてつまらなさすぎるから天照と遊びに来たの。あなたたちもいるしね」
「私は止めたんですけど…」
天照さんはいつものオーラはなく、しょんぼりとしている。
「強引に連れてきたの。でもこの子絶叫系てんでダメで…。なんのための遊園地なんだか」
「私はもっとゆったりしたのがいいんです!」
そう言う天照さんを無視し、久遠はオレと祢音、奏を見る。
「見た所、そっちも同じ状況のようね…。どう?そこの無月と私、交換しない?」
それを聞いたオレたちは一瞬呆気にとられていたが
「それいいですね!じゃあ早速行きましょう!」
「無月、健全な行動を心がけて下さい」
「2人は仲良くメリーゴーランドにでも乗ってなさい」
3人はそれぞれ言いたいことを言うとパンフを見ながら去って行った。
「はぁ…仕方ないな。どうします?」
人混みの中に消えて行くのを見送った後、オレは天照さんに訊いた。
「そうですねぇ。では何か乗りましょうか」
「わかりました。何にします?」
「ちょっと歩きながら考えてみましょう。パンフも持ってますし」
「コーヒーカップですか…」
子供ん時に乗ったような気はするが記憶にないアトラクションだな。
「さ、行きましょ!」
フリーパスの証を見せ、青いラインのあるカップに乗った。
「全力で回して下さいね」
「いいんですか?動きの激しいものは苦手そうでしたが…」
「これぐらいなら大丈夫ですよ」
強がりかどうかはわからないが生徒会長は笑顔で答える。
「じゃあ遠慮なく」
「大丈夫ですか?」
「なんとか…」
コーヒーカップを降りると天照さんはふらふらで足元が覚束なかった。
「やっぱり動きの激しくないものですね」
「では、メリーゴーランドなんてどうでしょうか?」
………………。
「あれなら私大丈夫ですから」
「そ、そうですか…。それじゃあそれで」
「オレは止めときます。天照さんだけで乗ってください」
メリーゴーランドを目の前にした時、オレは言った。
「? どうしてですか?」
本当に疑問に思っているようで、首をかしげてこちらへ振り向く。
「この年になってこういうのはちょっと…」
「さっきコーヒーカップに乗ってたじゃないですか。一緒ですよ。それとも…私と乗るのは嫌ですか?」
「いや……そういうわけではないのですが…」
「無月さ〜ん!」
………恥ずい。かなり恥ずい。
目の前で白馬に跨って手を振る天照さんは楽しそうだがこっちはたまったもんじゃない。
こんな目立つことしてると…
「おい、如月がメリーゴーランド乗ってるぞ」
「それより、あれ…うちの生徒会長じゃね?」
こんなヤツが来るわけだな。
「楽しかったですねぇ」
「少し離れましょう!」
オレはここから離れるために天照さんの手首を掴むと走り出した。
「え?きゃっ!」
「はぁはぁ……どうしたん……ですか…急に…」
「いや、ちょっと走り出したくなりまして」
「? よくわかりませんけど…。じゃあ丁度いいですね、これに乗りましょう」
天照さんが指さす、目の前のアトラクションは…。
「観覧車ですか」
この辺りでは一番の大きさを誇る観覧車。
集合時間的にもこれに乗って1周する頃には丁度いい時間になるはずだ。
「いいですよ」
そしてオレたちは観覧車に乗り込んだ。
「観覧車なんて久しぶりです。遊園地すら滅多に行かないのに久遠に振り回されてばっかりでしたから」
「いつも振り回されてますよね」
「そうなんですよねぇ。小さい頃から私がいないと危なっかしくて…」
4分の1あたりまで回った所で天照さんの携帯が鳴った。
「あ、すみません。ちょっと待ってもらえますか?」
メールのようで天照さんはケータイを開き、眺める。
するとポンと顔が赤くなり、パチンと力強くケータイを閉じると窓の外を向いた。
それっきり会話はなく、天照さんは窓の外を見ながらぶつぶつと何かを呟いている。
そして一番上に来た時、ようやくオレに聞こえるほどの声で呟いた。
「あ、あの…実は言いたいことがありまして……」
「なんですか?」
「私のこと…どう思いますか?」
「どうって…いい先輩だと思いますけど?」
「突然で…申し訳ないのですが……私と付き合ってくれませんか?」
「………へ?」
あまりに突然のことでこれしか言えなかった。
「で、ですから…私と付き合ってくれませんか?」
…………………。
「一目惚れ…だったんです。こんなことないと思ってたんですが…私も驚きました」
「いいですよ」
オレは驚きに強張った顔を弛めて言った。
「いいんですか!?」
天照さんはビュッと身を乗り出して訊き返した。
「はい。オレも付き合えたらな、と思ってましたから。
もしかして、さっきのメールは久遠からですか?」
「はい。背中を押されてしまいました。それで、お願いがあるんですけど…。
キス…してもいいですか?」
「はい。喜んで」
「わっ…じゃ、じゃあ、いきますよ」
天照さんは恐る恐る顔を近づけてきてそして――
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「……アレ?」
目の前に見えるのは天照さんの顔ではなくガラス越しの見覚えのある天井だ。
「って……なんだ今のはぁ!!!」
叫びながらバッと起き上がって祢音たちを見る。
祢音たちも起きたようで上半身を起き上がらせてきた。
そこからは阿鼻叫喚とでも言えそうな光景が…。
「久遠!なんでそこで止めるんですか!?あと少しで――」
「だっておもしろくなかったんだもん。それに夢はいい所で終わるもんでしょ」
「奏ちゃ〜ん。私たち出番少なかったねぇ…。久遠様ー!なんとかならなかったの!?」
「脇役以下…」
それぞれの感想が聞こえてくる。
「オレはこんな性格じゃねぇぞー!!」
そこにオレの感想も加える。
「うるさいわねぇ…。
まず祢音、あなたたちは予告無しに来たから即興で組み込むことができなかった!
そして無月、このDramatic Real Eccentric Amusement Machine。
通称『DREAM』はその人物の人格を自由に変えられるのよ!
最後は付き合えてめでたしめでたし、ってことでいいじゃない!」
「「「よくなーーーーーい!!!!」」」
「バカばっか…」
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