第21話 「上を見れば蜘蛛」
〜水月学園・2−1〜
「いいよ」
「私もです」
放課後、オレは生徒会の仕事を手伝ってほしいと妹2人に頼むと二つ返事でOKしてくれた。
「そう言ってくれると思った。んじゃあ早速行こうぜ」
「うん」
〜生徒会室〜
「ちわ〜っす」
「「こんにちは」」
ガラガラっとドアを開けると既に生徒会長や2人の生徒会員がせっせと仕事をしていた。
オレたちも遅く来たわけではないのだが、それ以上に早く来ていたようだ。
「あ、早速来てくれたんですね。ありがとうございます!」
作業の手を止め、こちらに来ると小さくお辞儀した。
「そちらの2人も手伝ってくれるんですか?」
「はい!如月祢音です」
「如月奏です」
「3人もいれば集計の方は任せられますね。ではこちらに来て下さい」
プリントが積まれた1つの机の前に案内され、簡単に説明を受ける。
「ではよろしくお願いします」
そうして生徒会長は自分の仕事に戻って行った。
「さて、始めるか」
そうしてオレたちも作業を始めた。
プリントは今から丁度1週間後の木曜日、その日の遠足にどこへ行くかアンケートをとったものだ。
水月島散策や遊園地など、様々なプランの候補があり、そこから選択するものだ。
ちょっと始めただけだが、やはりこんな小さな島より、普段行かない本州の方に票が集まっている。
学年の人数は277人。クラスは7クラスある。3人とはいえ、ちょっと時間がかかりそうだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「無月さん、今どのくらいですか?」
声がしたので振り返ると生徒会長が自分の手を休めずに訊いてきた。
「今、半分ぐらいですかね…」
積まれているプリントを見比べてだいたいの予想を答える。
「お疲れ様でした。今日のところはここまでです」
「まだそんなに時間経ってませんよ?」
始めてからたった30分程度しか経っていない。
祢音が訊くと生徒会長は
「元々半分以上できてたら帰すつもりでしたし。
週末に先生方が下見に行ってくださるので、金曜までに提出すればいいんですよ」
「…そうですか。生徒会長がそう言うんなら…。祢音と奏もそれでいいよな?」
それでいいか2人に訊くと
「私はいいよ」
祢音はそう答え、奏はこくりと頷く。
ということだったので帰ることにした。
「じゃあお疲れ様でした」
「「お疲れ様でした」」
「はい、お疲れ様でした」
そして今日のところはオレたちは帰った。
〜下駄箱〜
「さ〜て、帰るか」
靴を履き替え、祢音と奏が準備できたのを見計らって独り言のように言うと
「ちょっと待って下さーい!」
生徒会長の声がした。
それだけでは誰に言ってるかわからなかったが、
おそらくオレたちの事だろうと思い、振り返ると後ろに生徒会長がいた。
「何かミスでもありましたか?」
また戻るのは面倒だなと思いつつそう訊く。
「いえ、どうせなら一緒に帰ろうかと思いまして」
だが嬉しい事に予想は外れてそういう事だそうだ。
「生徒会は忙しいんじゃなかったんですか?」
という祢音の質問には
「いえ、みなさんが助けてくれ、余裕ができたので終わらせて来ました」
と答える。
「そうですか、そんなに余裕ができたらなら良かったです。一緒に帰りましょうか」
〜水月公園・並木道〜
目の前では3人が話している。
まぁ主に話しているのは祢音と生徒会長だがな。
「生徒会長ってもっとしっかりした人だと思ってましたよ」
「そうですか?」
「いつも前で話してる時とかキビキビしてますし、声にも力がありますし」
「そういう所では少し演技してますよ。
それと、生徒会長と敬語は止めて下さい。
学園外では友達として付き合っていきたいですから呼び捨てでもいいですよ」
「はい。ですけど敬語は年上ということで使わせてもらいますよ?」
「わかりました。無月さんも、よろしくお願いしますね」
それをわざわざ振り返ってオレにそう言ってきた。
「わかりました」
「…ちょっとちょっと、天照」
すると桜の木の陰から手招きする人影が…。
「久遠?」
その人影は久遠だった。話しかけてきてからずっと手招きしている。
「どうしたんですか?」
天照さんは何の疑いもなく、久遠に近づく。
「上上…」
天照さんが傍まで近寄ると、今度は人差し指を上へ向ける。
「上…?」
そして上を向くと
「それ!」
というかけ声と共にピッと音がし、丁度天照さんの上からクモやらムカデやらが大量に降ってきた。
「きっ…きゃあああああああああ!!!」
1秒ほどの溜めがあった後、大きな悲鳴が聞こえた。
天照さんは悲鳴を上げながら、頭を抱えてしゃがみこんだ。
「じゃあね〜」
その様子を満足そうに見届けると久遠は走って去って行った。
「う…うう……」
震えてしゃがみこんでいる天照さんの傍まで駆け寄り、下を見るとクモやらムカデやらの人形が落ちていた。
「人形…」
奏が摘み上げた人形をよく見ると本当によくできた人形だった。
今回はちょっとやりすぎじゃないか?
「ひどいよ!喋ってる時にはいい人だったのに!」
「はぁ〜〜……久遠にも困ったものです。いつもいつも…」
落ち着いた天照さんは立ち上がると片手で頭を抱える。
「なんか正反対な性格ですね。双子って聞いたんですけど…」
「結構似てる所もあるんですけどね」
そんなハプニングがあったが、この後は大したこともなく平穏に帰れた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
そんなこんなで遠足前日まで過ぎて行った。
そしてどういうわけか、今日は珍しく久遠も一緒に帰ることになった。
〜水月公園・並木道〜
「今までお疲れ様でした。明日は存分に楽しんでくださいね」
帰る途中で天照さんが労いの言葉をかけてくれた。
「はい。私たちも天照さんの手伝いができてよかったです」
実はオレたちはアンケートの集計が終わった後も生徒会の手伝いとして今日までやってきた。
普段生徒会なんて意識していなかったが、大変なことをしているというのがわかった。
毎年の体育祭の時も文化祭の時も、こうやって頑張ってきたんだな。
「何で生徒会長になったんですか?」
オレはふと、疑問に思ったことを訊いてみた。
「そうですねぇ…。やっぱりみんなの学園生活を支えられるということですかね?
嬉しいじゃないですか、自分が頑張ってきた行事でみんなが楽しんでくれるのを見ると」
その時の光景を思い出しているのか、そう言って天照さんは笑った。
「生徒会が頑張ってくれてること、みんなほとんど実感ないんじゃないですか?
実際オレはなかったですし」
「それでもいいですよ。縁の下の力持ち。褒められるためにやってるんじゃないんですから」
自分より他人に尽くすのか…。
「立派ですね」
「ありがとうございます」
「で?結局どこへ行くことになったわけ?」
話が一段落ついた所で久遠が話しだした。
「本州にあるTDL、とってもドラマチックランドですよ」
その問いに祢音が答える。
「へぇ〜。船に乗るわけね。何時?」
「7時半のですけど、それが何か?」
「何も…。7時半…かぁ……」
そんな会話があったことを、オレは覚えておくべきだった…。
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