第2話 「祢音の体験秘話」
「これは私たちにしか解決できない問題よ!」
1月のある日、そんな祢音の言葉で立ち上がった独立問題解決機関、その名も………!
『如月祢音探偵事務所』
事の始まりはこうである。
水月島にある水月学園では、ある噂が学園を包み込んでいた。
「ねーねー聞いた?昨夜の話」
丁度HRが終わった後の休み時間、
祢音は隣に座る兄である無月の席へと向かった。
ちなみに兄妹だが色々あって同じクラスである。
(その辺は本編である終わりなき闘争曲シリーズを読んでくれ)
「ああ、嫌でも耳に入ってくるよ」
その無月は本当に嫌そうに言う。
話題の少ない水月学園では噂は広まりやすい。
それが幽霊なんてものだったらなおさらだ。
「その噂については私も聞きました」
続いてもう1人、奏がやってくる。
ちなみに彼女は2人の妹なのだが、これまた同じクラスである。
(くどいようだがその辺は本編である終わりなき闘争曲シリーズを読んでほしい)
「おもしろいよね、幽霊なんてさ〜」
そう言って祢音は手を胸の前まで持ってきて手首をだらんとさせる。
「どうせ誰かのいたずらだろ」
無月は素気なく言い、授業の用意を始める。
だが祢音は違うようだ。
「でも何人も驚かされたりいたずらされたりしてるんだよ?」
とわくわくさせているようだ。
幽霊なんてものは信じない人が多いのだが、
何人も幽霊の仕業と思われるいたずらをされているので、やけに信憑性が高い。
しかも七不思議があるとまで言われてくる始末。
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
授業開始のチャイムが鳴り、話は一時中断した。
そしてその授業後の休み時間になったころのことだった。
突然、祢音が自分の座っていた椅子の上に上履きを履いていながらにして登り始め、
「私、この事件解決してみせる!『じっちゃんの名にかけて…』なんてね!!」
とクラスの視線を浴びながら、高らかに宣言した。
ここからは祢音SIDEでお送りします
昼休み、私とお兄ちゃんと奏ちゃん、
あと友達の千春に新田くんに安井くんに
お昼ご飯を一緒に食べようと誘って屋上にいました。
「ね〜祢音、ホントにやるの?危ないんじゃない?」
千春ちゃんは私の顔を心配そうに見てるけど問題ない!
「大丈夫だって!私に任してよ!」
と胸を張って見せる私。
「幽霊探しなんておもしろそうじゃん。オレも仲間に入れてくれよ」
って新田くんは言う。
「ダ〜メ。私とお兄ちゃんと奏ちゃんでやるから。適任なんだよ」
そう、こーゆーのは私たちがやった方が適任なんだよね。
実は私とお兄ちゃんと奏ちゃん、魔法使いなの。
しかもほとんどが魔法使いで構成される組織の上位に入るほど腕も立つんだから!
だからこんな奇妙な現象も解決できることが多いんだ。
これは千春たち一般人には言えない秘密♪
「何で無月はいいんだよ!?こいつ一番ノリ悪ぃだろ!」
新田くんの箸の先には黙々と私と奏ちゃんが作ったお弁当を食べてるお兄ちゃん。
「確かにノリは悪いし口悪いし素直じゃないけど、
こーゆー時は一番頼りになるんだよ♪ねー、お兄ちゃん♪」
と、私はお兄ちゃんに抱き着きました。
そんな私を見て、ひとまず食べ終えたお兄ちゃんは
「だ〜、昼飯食ってる時くらいは離れろ!祢音〜!」
って言いますから。
「てへっ♪」
私は舌をちょっと出す。
「てへっ、じゃな〜い!!」
一方、千春はと言いますと…。
「はぁ〜…(溜息を吐く)。
祢音、そろそろ兄離れしなきゃいけない年だよ…?彼氏もできてないし」
「という千春もできてないんだよね、彼氏…」
ニヤニヤと笑って千春を見ると
「はいはい…そうですよ」
千春はかわいい顔で拗ねて、ソーセージを頬張るのでした。
【解説】
実は祢音には浮いた話はない。
見ての通り兄の無月にベッタリだからである。
兄妹が同じクラスにいるというのは滅多にないケースだ。
だからこの事を知らない者がたまに祢音に釣られてクラスまで様子を見に来ると、
祢音と無月のやりとりを見て彼氏持ちかと勝手に思い込み、諦める者も少なくない。
「じゃあね〜また明日〜」
「気をつけてよね!」
「わかってるって!」
放課後、千春たちと別れて私とお兄ちゃんと奏ちゃんは家に帰りました。
そして夜、ついに私は立ち上がった。
「さてと!!」
私は気合を入れてお兄ちゃんと奏ちゃんの前に立って、
「お兄ちゃ〜ん、奏ちゃ〜ん、行くよ!」
と、叫ぶと
「はいはい。んじゃ行くか」
と、お兄ちゃんが
「わかりました。お姉様」
と、奏ちゃんが同時に言いました。
あとね、それからね…。
言うまでもないと思うけど、メデスはお留守番なの。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「夜の学園ってやっぱり不気味だよねぇ」
学園に侵入したのは午前0時。
先生たちは既に帰った時間だし、
この島は犯罪なんて滅多に起こらないからセキュリティなんてないし、安心して探検できるの。
「…だーっ!歩きにくいから引っ付くな!てかお前がリーダーだろ!前を歩け!」
お兄ちゃんはそういうの信じない人だし、
奏ちゃんは何も動じなさそうだから頼もしいんだけど、
でもやっぱりいまいち盛り上がりに欠けるなぁ。
夜の学園で幽霊探しなんて、最高のシチュエーションなんだけどなぁ…。
「そもそも言いだしっぺのお前がビビるな!怖かったら来なけりゃよかっただろ」
「いやぁ、まさかここまで不気味だとは思わなかったしさぁ。それになんか空気生暖かいし」
「まぁいい。で、どこ行くんだ?」
「そうそう、まずはやっぱり音楽室だよね」
「…? どうしてやっぱりなんですか?」
そっかぁ、奏ちゃんはこういうの聞いたことないんだっけ……。
やっぱりこういうことはお姉様である私が教えていかなくちゃいけないよねぇ…。
「そうだね、学園の怪談というのがあってね。
簡単に言うとそれぞれの学園にまつわる怖い話のことなんだけど―――」
ガラガラガラガシャーーン!!
「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「…うるせぇっっ!!」
ゴツンッ!
お兄ちゃんが私の頭に鈍い音を立てさせました。
「あいったぁっ!」
肘(かなぁ?)で頭を殴られてしまう私…。
ズキンという痛みを両手で頭をこすりながら、ちょっと私…涙目……(泣)。
「ゴミ用具の扉が開いて、んでほうきとかが倒れただけだ。あと抱きつくな。苦しい」
お兄ちゃんは私を振りほどこうとして私の腕を掴むけど、私はさらに力を込めて抱きつく!
「大丈夫?お姉様…?」
「うん……。これヤバいよ。絶対幽霊の仕業だよ!もう帰ろうよ!」
私は精一杯悲痛な声でお願いするけど
「まだ一つも調べてねぇだろうが。さっさと音楽室行くぞ」
お兄ちゃんはそう言って私の気も知らないで歩き出すの……。
「いやだあぁぁ!わ、わた…。私…、もうどこにも行きたくないよぉ〜…!」
と、叫ぶとお兄ちゃんが
「うるせぇ!リーダーはお前なんだがらな!リーダーがビビってんじゃねぇ!わかったか!」
と怒鳴って、私をずるずると引きずって音楽室に……。
今思ったんだけど、なんかお兄ちゃん楽しんでない?
「そんなわけで音楽室、到着したんだけどさぁ…………。あれって絶対おかしいよねぇ?」
絶対おかしいって………ピアノが勝手に鳴ってるしぃ!!
「おお、すげぇな!」
って言ってる割には冷静だねぇ!お兄ちゃん!
「あの絵は動くんですか?こっちを見ていますが…。気になりますね…」
余計なことに気がつかないでよ!奏ちゃん!
「じゃ、次行くか」
お兄ちゃんは再び私の体を引きずって保健室にぃぃ…。
「ねぇ、もう帰ろうよぉ…(泣)」
「ん?向こうから誰か走ってくるぞ」
「誰かって………!?いやあああああぁぁぁぁ!!!!」
私は無我夢中で銃を放ち、気がついた時には穴だらけの人体模型が。
「あ〜あ、今回はそんなのナシって予定だったんだけどなぁ」
「だってぇ…」
…グスッ。
…怖かったんだもん。
ザッザッザッザッ!
後ろから無茶苦茶足音が聞こえてくるんですけど………。
「今度は何…!?」
振り返った私の視界には何人もの人体模型が!
「もうダメぇ………。ばたんきゅ〜…」
その瞬間、私の意識は途切れてしまいました……。
(未公開シーンその1が入ります。そのシーンは下の方に)
【AM8:35分】
「ん……?う〜ん…、人体模型が迫ってくるよ〜。…って、アレ…?ここは私の部屋…?」
再び見えた私の視界には見覚えのある壁がある。
あと奏ちゃんの顔も見えてる。
「お姉様、大丈夫ですか?随分うなされてましたが」
額が冷たいなぁ。
(私は右手で額を触ってみる)
これは冷えピタ?
上半身を起こすと確かに私の部屋だった。
日差しが眩しい、どうやら朝みたい。
あの時気絶でもしちゃったのかな…?
ガチャ!
「よう、起きてたのか」
ドアからお兄ちゃんが入ってきました。
手にはプラスチックの桶があるのが見える。
「う、うん………。ひ…、ひぇ…、ひぇっっくしょい!」
「まだ治ってないみたいだな」
ああ、寝ぼけてたみたいだけどようやく思い出したよ。
そういえば私、風邪ひいてたんだ!
…私がみんなとお昼ご飯を一緒に食べたり、
午前0時に私とお兄ちゃん、奏ちゃんの3人で夜中の学園に忍び込んだ
あの出来事も全て夢だったんだ…って考え直したんだ。
やけにリアルに感じたけどね。
「夢オチだったんだね………。なぁ〜んだ、それなら安心だね♪」
(なんであんな夢を見たんだろう…?
もしかして、私の心のどこかにいつかこうなってほしいと思う感情があったのかなぁ…。
よくわかんないや。怖かったけど夢を思えば案外楽しめたし、そこは深く考えないでおこうかな…)
「…夢オチ?」
「いや、独り言だよぉ」
私はポフッと音をたてて横になった。
(ここにも未公開シーンその2が入ります)
☆未公開シーンその1★
ザッザッザッザッ!
後ろから無茶苦茶足音が聞こえてくるんですけど………。
「今度は何…!?」
振り返った私の視界には何人もの人体模型が!
「もうダメぇ………。ばたんきゅ〜…」
そこで私の意識は途切れたぁ。
祢音が意識を失ってしまったので、ここからは無月SIDEでお送り致します。
「おい、祢音!しっかりしろ!言い出しっぺのお前が勝手に意識を失うんじゃねぇよ!」
オレは祢音の頬を何度かビンタするが、祢音は意識を失っているようなのか全く動じる気配がしない。
「ちっ…、祢音がこんなんじゃあ、今日はもう無理みてぇだな。
せっかく用意した企画だったんだけどなぁ…」
オレが人体模型の集団を見ると、そいつらは今まさに煙のようにゆらめき、姿を消す所だった。
実はこの一連の事件、オレと奏が仕向けたものだった。
祢音は、年末年始に相次ぐテレビの特番の中で、幽霊やらUFOなどのミステリー物や、
探偵物のドラマをやっていたのを見て、影響されていた時があった。
それで最近「うちの学園にも何か起こらないかなぁ」とぶつぶつ呟いていた。
そしてある日のこと。
突然奏が、
「手伝ってくれませんか?」
と言いにきた。
奏が言うには最近退屈そうにしている祢音を楽しませる企画を作り上げたから、
それを手伝ってほしいというものだった。
奏の幻術を使い、たまたま夜にこの学園に来た生徒に幽霊を見させ、祢音に探検させようという企画だった。
オレの役割はその間奏に付き合ったり辻褄合わせをやったり、というものだった。
普段はメンドくさがるオレだったが、最近祢音をいじったりすることもなかったので嬉々(きき)として参加した。
ちなみにメデスは仲間外れだ。祢音の状態は知っているが、この企画のことは何も知らない。
そのつもりだったのだが夜にたまたま学園を通りがかり、魔力を嗅ぎつけバレてしまった。
まぁ知られたものの直接参加はしていないし、辻褄合わせに協力させたからその方がよかったかもしれない。
「少々刺激が強すぎたようです。結果的には、楽しんでもらえたようで私は満足です。」
奏は軽々と祢音の体を背中に背負う。
「さて、後は後始末だな…」
「メデスに風邪をひかせて、その影響で悪夢にうなされてた。ってことにするんですね…?」
一息ついてから奏は
「わざわざ風邪をひかせるのは私自身、気が進みませんが…」
と言った。
「問題ないだろ。1日で治るぐらいの重さにするし、明日は土曜だ。
部活はオルタナティブ(如月兄妹が属する魔法使いたちの組織。詳しくは今までのシリーズ参照)
に入って任務があったせいで全然参加できなくてやめたからな。2日休める」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「…ふ・ざ・け・ん・な!!オレの愛しの祢音ちゃんに風邪をひかせるだぁ!?
んなことできるわけねぇだろ!!…あぁ!?」
家に帰って早々メデスに怒鳴られる。
このことだけはメデスには話していなかった。こう言ってくるってわかってたしな。
「ほらほら祢音のためなんだよ。もうこれしか誤魔化せる方法ねぇんだからさっさとしてくれ」
「……仕方ねぇなぁ。ほれ」
メデスが手をかざすと、気絶する祢音の周囲だけ一気に気温が下がる。
しばらくすると思い通りに風邪をひいた。
「…あとは2階のベッドで寝かせるだけだな」
★未公開シーンその2☆
「いや、独り言だよぉ」
私はポフッと音をたてて横になった。
〜無月SIDE〜
祢音のふてくされた寝顔を目の当たりにしながら、
「ふぅ…、なんとかごまかせたな」
と呟く。
「案外お芝居はお上手なんですね。
それにしても……お姉様ほどの魔法使いに気づかれずに魔力を使うのは疲れますよ」
「そうかもな。知覚しようと意識したオレでも感じ取るのは難しかったからな。
奏はうまいよ、魔力のコントロールが。不器用で力任せなオレには無理だわ」
「あ、ありがとう……ございます……。」
お、赤くなってる。まぁ褒められることなんて滅多にないからな。特にオレからは…。
「まぁ、これで祢音は100%夢だったと思うだろ」
「お姉様にはお気の毒ですけど、仕方ありませんわね…。
この際ですし、今更本当のことをお話しするわけにはいきませんしね…」
「…そうだな」
オレは桶を棚に置き、祢音の部屋の窓越しに外を見詰めていた。
その日以降幽霊を目にする者がなくなるどころか、噂も一切なくなった。
そしてたまに首をかしげる祢音を見て、オレはニヤニヤ笑うのであった。
もちろん、気づかれないようにそっとな。
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