第16話 「初任務」
「メデスはなんでそんなにへばり付いてくるんです?」
久しぶりにメデスが家に来たある休日の午後、独り言を言うようにふと奏が呟いた。
「ん?どうしたの、いきなり」
「ラグナロク以前は調律師がたくさんいましたが、会うのはメデスばかりでしたから……」
「へぇ〜。気になる?」
「いえ、気になるというほどでは…」
「ならオレが教えてあげよう」
メデスが意気揚々と奏の傍に来るが
「情けねぇ話だからするな」
と、オレが止める。
「無月がそういうのでしたら、私は余計気になりますが?」
「お前なぁ……」
「わたしは別に構わないから話していいよ。いいよね?」
「いや、オレが話す」
「へぇ、珍しい。ならよろしく。おっと、お茶でも準備しようかな」
4人がテーブルに座り、お茶と菓子が用意される。
「あれは何年前だったっけな…。
調律師にもなっていないオレたちの初めての任務の時だった。
任務の内容はある市の市長、皇 宗二朗の麻薬取引の現場を
写真に撮り、その証拠写真を持って帰ること。
それさえあれば皇はいい金づるになるからな。
近々取引があるから、そこで写真を撮ってくるってことになったんだ」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
〜オルタナティブ本部・総帥の間〜
「お前たちの最初の任務だな。最初にしては荷が重いかと思うが」
「「大丈夫です」」
「そうか…なら任せよう」
〜本部・廊下〜
「いよいよ初任務だね」
「ああ」
「がんばらなくっちゃ!」
隣で右手をグーにする祢音は少し興奮しているようだ。
「初の任務だからな、失敗はできない」
「わかってるよ」
オレたちはまだ転移魔法を使えない。
だから転送してもらうために転移魔法が使えない者が移動するために作られた部屋へ向かい、転送してもらった。
〜日本・某所〜
「任務の計画の確認をするぞ」
「うん」
オレたちは計画の確認をした。
今夜取引は廃工場で行われる。
オレたちは天井近くで物影に隠れつつ写真を撮る。
内容だけ言うなら簡単なものだった。
「じゃあ早速行こうか。もうそろそろ日が沈むよ」
オレたちはその廃工場へと向かった。
廃工場には窓はほとんどなく、夕方でも中は結構暗くなっていた。
そしてオレたちは取引が行われる午後10時まで隠れて待機することにした。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「来た……!」
丁度時間通りに2台の車がやってきた。
まず1台の黒い車から男が5人ほど降り、続いてもう1台の車から同じように男が5人降りてきた。
そこには皇もいた。
取引相手はどこかの暴力団だろうか、お世辞にも人の良さそうなヤツには見えない。
まぁこんなことしてるヤツらがいい人に見えるはずがないのだが。
「さぁ、取引を始めようか」
廃工場で5人づつ向かい合って取引を始めた。
まず皇側が銀のスーツケースを渡し、暴力団側が中身を確認すると白い粉の入った袋を渡した。
その瞬間を写真に撮った。
そこまではうまくいったのだがここからだった。
「誰だ!?」
背後から声がし、振り向けば暴力団の仲間と思える男がいた。
どうやら皇側がルール違反をしないよう見張っていたようだった。
その声が廃工場あたりに響き、オレたちがここにいることはそこにいる全員に知れ渡ってしまった。
「ちっ!」
オレはすぐにその男を刀で斬り殺すと下へ飛び降りた。
「何者だ!?」
皇が叫ぶ。
「お前に教える必要はねぇよ!」
そう言いながら廃工場の出口へ走るが
「あらぁ…ダメだこりゃ」
出口には暴力団のヤツらが何人も待ち構えていた。
「おい!どういうことだ!?取引は5人づつでやるという決まりだろ!」
「お前がズルしないようにな。万が一の保険だ」
これは皇にも予想外だったようだ。
なんてやってる間にもオレたちは囲まれてしまう。
「どうしよっか?」
「ここから脱出すればそれでいい。殺しは許可されてる」
「りょーかいっ」
それからはごちゃごちゃとした乱戦となった。
皇たちは逃げたのかどうか確認すらできないほど忙しく動いている。
するとしばらくした所だった。
「ちょっと!放してよ!!」
祢音の声がした。
すると円のように囲まれている状態から半円のようになり開かれた場所には祢音と祢音の四肢を掴む男たち。
1対1なら余裕だし、ある程度人数がいても十分対処できる技量はあるつもりだが、
一斉に飛び掛かられればさすがに対処できないこともある。
「これ以上暴れるな。こいつがどうなってもいいのか?」
「どうしろと?」
「そのデジカメを渡せ」
「ダメ!任務優先だって言ってたでしょ!」
「渡せ!!」
ヤツらとの距離は5m程度。
この距離じゃ祢音を助ける前に祢音が殺られる。
手も足も出ないか…
任務と妹、どちらをとるかってヤツだな
まさかこんなことがあるなんてな。
マンガの中だけだと思ってたぜ。
「渡せばちゃんと解放してくれるんだろうな?」
「当たり前だろ」
「わかった」
「お兄ちゃん!」
まだまだ甘いな、オレも。
「良い子だ。まずは刀を捨てろ」
「ああ」
オレはヤツらの足元へ刀を投げる。
他の男がその刀を持つ。
「よし、まずはお前からだ」
オレはポケットからデジカメを取り出すと左へ投げる。
そしてたまたまそこにいた男が慌てながらもそれを落とさずに受け取る。
「オーケー。じゃこいつを受け取りに来い」
罠がありそうな気がかなりしたが、
人質をとられていてはオレはそれに従うしかなく、オレは歩き出した。
だんだんとヤツらとの距離が近づき、ここからなら何とかできるかもしれないという所で
「ほらよ!」
「きゃっ!」
と、急に祢音の背中が押され、祢音はオレにぶつかってくる。
「2人仲良く死ねやぁ!」
すぐさま周りの何人かが銃を構える。
「くそぉ!」
だが次の瞬間、銃を撃とうとしていたヤツらは銃を落とし、赤く染まった手を抑えている。
「まだまだガキだな」
その後上から1人の男が目の前に飛び降りてきた。
「お前は…確か……ジュライアス?」
「そ。オレは水の調律師の『メデス・ジュライアス』。ほらよ、お前の刀だ」
ジュライアスはいつの間にか取り戻していたオレの刀を渡す。
「なんでここにいる?」
「その話は後だ。市長は逃げた。
こいつらの頭はいねぇし、下っ端なら全員殺してもいいだろ。証拠写真もあるしな」
ジュライアスの手にはデジカメも握られていた。
「いつの間に……」
「市長は放っといていい。敵はこいつらだ。いけるな?」
「ああ」
「任せて」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
ジュライアスが最初に放った一撃はヤツらに動揺させることができた。
恐れを抱いたヤツは敵ではない。
まぁ数が問題なだけで、もともと敵ではなかったが…
「で?なんでここにいる?」
戦闘終了後、改めてオレは訊いた。
「総帥に頼まれたんだよ。案外親バカなんだなぁ、あの人」
「余計なことを…」
「でもおかげで助かったんだし、あとでお礼言わなくちゃね。ジュライアスさんにも」
「オレのことはメデスでいい。これから長い付き合いになりそうだしな」
「そう?助けてくれてありがとう、メデス♪」
「おう、用も済んだし、帰るか」
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「その後も何かと会うことが多くてな。
それでこんな関係になったわけだ。
こいつがものすげぇ女好きなのを知ったのはもう少ししてからだったよ」
「そうだったんですか。よくわかりました」
「オレはこの2人の命の恩人ってわけだな。借りは大きいぞ〜」
「返す気はさらさらないけどな」
「ふふっ、大きすぎて何されるかわからないからね」
「お前ら、助け甲斐ないな」
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