第15話 「追われる身」
ウーウーというやかましいサイレンと共にその持ち主のパトカーがついてくる。
追っているのはオレたち。
「あ〜あ、どうするの、この状況」
「だったらなんとかしろ!」
「え〜メンドくさ〜い」
「奏!そんな無口無表情で座ってないでなんとかしろ!」
「無理です」
「お前らーー!!」
現在オレたちはカーチェイスの真っ最中だ。
どうしてこんな展開になったかというと……
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
殺しの任務を請け負ったオレたちは日本の東北地方のある県に来ていた。
調律師が1人増えたから、ってだけでもないんだろうが仕事も多く回ってくるようになった。
相変わらずオレたちは3人1組で行動しているが。
自宅前で難なく任務を終え、さあ帰ろうかとしたその時。
「あ」
と声を上げた祢音を見ると、その視線の先には少し年をとった中年の女性がいた。
オレたちの足下には殺しの標的で、今はもう亡き衆議院議員。
どう考えてもオレらが殺ったように見えるだろう。
コートで身体的特徴は隠せているが顔はどうも隠しようがない。
その女性は悲鳴を上げる。
「ごめんね」
祢音はすぐさま記憶消去の魔法を女性に使う。
女性はそのまま気を失い、その場に倒れるが、
今の悲鳴で周辺に住んでいるであろう人間が何事かと顔を出し、オレたちの姿を見る。
こんなに大勢、それに散り散りにいられたら記憶消去の魔法も使いづらい。
どうしようかと考えていると警官たちが、
オレたちを挟み込むようにパトカー2台に乗ってやってきた。
誰かが通報したのだろう。
オレたちはフードを深くかぶり、顔ができるだけ見えないようにする。
魔法などを知らない一般人の前では魔法をできるだけ使ってはいけない。
それはどの世界にいる時でも守らなければならない規則。
『できるだけ』だが、ここで使うつもりはない。
オレたちの住む世界だし、あまり派手なこともしたくない。
見えない所まで撒いて、そこで転移魔法を使わなければならない。
「そこから動くなよ!」
警官が数人パトカーから降りてこちらへ歩いてくる。
―目の前の警官だけ殴れ。んでパトカーに乗って逃走。これでどうだ?―
オレは2人に念話を送る。
―いいんじゃない―
―了解―
オレたちはまっすぐ走りだし、
正面から向かってくる警官の3人をそれぞれ殴ってひるませるとそのまま正面のパトカーに乗り込む。
運転席にはオレが乗る。
助手席には祢音、そして後ろの席に奏が座る。
「さて、逃げるか!」
バックし、すぐ後ろの十字路で右へ曲がる。
ちなみに方向は勘で選んだ。
すぐさまもう一台のパトカーが追跡してくる。
「これじゃあすぐには撒けないんじゃない?援軍呼ばれるよ?」
「このまま高速に行く。その方がスピードも出せるし、行き止まりがない」
その時看板が見えた。
その通りにオレは右へ曲がる。
「おっと……それでいこ」
「一方通行なら進行方向を把握されて塞がれると思うんですが」
「そん時はそん時だ。なんとかなるだろ」
「そうですか」
「てゆうかお兄ちゃん運転できたの?」
「そんなもんアクセル、ブレーキ、ハンドル、ギアチェンジがわかってたら走らせるくらいはできるだろ」
「交通事故でお陀仏ってのはやめてよね」
「努力する」
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というわけだ。
高速道路は意外と空いていた。オレたちにとっては都合のいいことだ。
「うわぁ、数増えてる」
ちらりとサイドミラーを見るとパトカーが4台に増えている。
まぁそんな変わりないとは思うが。
「そろそろ飽きてきたから終わりにしたいんだけど?」
「お前飽きたってなぁ……」
「左に車近づけないで。んで、できるだけまっすぐに走って」
「は?」
すると祢音は窓を開けるとそこから銃を握った右腕と顔を出し、後方のパトカーを見る。
「おい、それじゃあ顔見られるぞ。それにその銃は実弾は撃てねぇだろ?」
「大丈夫大丈夫」
目の前をちんたら走ってる車がいたからオレは左へ避ける。
「っと…こらぁ!揺らさないでって言ったでしょ!」
「そうしなきゃぶつかるんだよ!」
「壁ぶつけたら怒るよ?」
「はいはい。……右曲がるぞ!」
そう言って次は右へ曲がる。
車が祢音にぶつからないように早めに曲がった。
「前なんもねぇから今がチャンスだ!」
「オーケー」
タァン!
1発かわいた銃声が鳴った。
弾は先頭のパトカーのタイヤをとらえ、タイヤをパンクさせる。
そのパトカーはコントロールを失い、後ろのパトカーを2台巻き込んで視界から消えていく。
「こうゆう時のために実弾が撃てるように改造してもらってたの」
「止まるぞ!」
「きゃあっ!!」
「…挟まれた」
前方にはパトカーで作られたバリケード。
「顔隠しとけよ」
「これじゃあ本物の殺人犯だねぇ」
と言いつつもしっかりと顔を隠す祢音、そして奏。
「さっさと気絶させて帰るか」
高速道路は上りも下りも閉鎖中。
これなら見てるヤツも両側にいる警官たちだけだ。
あ〜あ、別世界なら魔法使ってさっさと終わらせられるんだけどなぁ。
パトカーを降りると早速拳銃を突きつけられる始末。
―奏、お前は右側。祢音はここで支援頼む―
―わかった―
―了解―
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「最初っからこうすればよかったじゃん」
「あほか。あの場でこんなことやったら面倒なことになるだろ」
そう言いながらオレは転移魔法を使う。
本部に帰っても面倒なことになりそうだな。
予想通りオレたちは本部へ帰ると殺しを見られたことなど、
大騒ぎになったことを咎められることとなった。
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