表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/47

第14話外伝

第14話は祢音SIDEでしたが、こちらは無月SIDEです。

〜水月学園3−1〜


「ん?」


いつも通りの朝、自分の席に着き、置き勉している教科書を取り出そうと机に手を突っ込んでみた。


そこには感じるはずのない紙の触感があり、オレはそれを取り出した。


入っていたのは横に長い長方形の封筒。


これは…ラブレターか?


いまどきなぁ、と思いつつも誰にも(特に祢音に)見られないよう封筒の中から手紙を取り出して読み始めた。


手紙の内容は、いったいどんなものだったかというと…。


『大事な話があります。放課後、体育館裏に来て下さい』


という名前も書かれていないシンプルなものだった。


筆跡からして明らかに男がいたずらで書いたようには思えない。


まぁ祢音や千春がやったという可能性はあるが…。


「とりあえず行ってみないとこれだけじゃわからないな」


そう思いながら、ともかくオレはそこに行くことにした。




☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★




放課後、別に何の緊張もなくオレは約束通り体育館裏に来た。


朝でも夕でも日光が当たることが少ないこの場所。


オレがそこに来た時には、既に1人の女子生徒がいた。


……誰だ?


クラスメートの女子ですら名前と顔が一致させられないヤツもいるのに、


こんな所で名前も名乗らずに出会うヤツなんて思い出せるはずがない。


「ど、どうも!来て下さってありがとうございます!」


オレの姿を見るやいなや、その女子は頭を下げて礼を言った。


「えーと……」


「あ、麻上涼子あさがみりょうこです!3年5組の!」


オレが誰かわからず口ごもっているとその女子はオレの考えを察知したのか麻上涼子と名乗った。


「名前…、書いてませんでしたよね…?あとから気付いたんです。ごめんなさい!」


申し訳なさそうにもう一度頭を下げた。


「いや、いいよ。とにかく大事な話ってのを聞かせてくれ」


「あの……、えっと………その……」


なんとな〜く言いたいことはわかるのだが、オレはそのまま待ってみることにした。


「…如月無月さん…あなたのことが…、す、好きでした!!」


!マーク2つ表示させているが実際その時の麻上の声はそこまで大きくなかった。


だが、元々声が小さいであろう麻上の精一杯の声だということがオレにはわかった。


「ふぅ…悪いな。オレは今のところ誰とも付き合う気はないんだ」


「ど、どうしてですか…!?」


麻上は問い詰めてくる。


「女に興味はない。ただそれだけだ」


「そ……そうなん…です…か…」


その声にだんだん悲しみが込められていく。


別段チャラケたようには見えない真面目そうな麻上のことだ。


かなりの覚悟があったんだろう。


だがオレにはそれに応えてやることはできない。


オレはオルタナティブで仕事をしている限り、任務で死ぬかもしれない。


そんなときに悲しむヤツをわざわざ増やしたくはない。


これが本心なのだが何も知らないヤツに教えることはできない。


だからいつもこうやって偽ってきた。


まぁ実際好きな人はいないんだけどな


「うっ……ひっく…」


とうとう麻上は小さな嗚咽おえつを漏らして泣き始めた。


「泣くな。また他のヤツを探せばいいだけだろ?」


我ながら酷い言葉だと思った。


だがオレから離れてもらうにはこれぐらい言わないといけない。


「じゃ…じゃあ…1つだけ、お願いしても……いいですか?」


麻上は本格的に泣くのをこらえるように言った。


「内容によるけど、聞くだけなら」


「実は私、1学期で転校するんです。親の仕事で……。


元々5年前にこの島に来たのも親の仕事があったからなんです」


「………」


オレは麻上が話している間、相槌あいづちも打たず、その話を聞いていた。


「一度だけ……一度だけでいいですから…私とデ、デートをしてくれませんか?


この島を出ていく前に…忘れたくないたった1つだけ想い出が欲しいんです……」


「ふぅ……わかった。いいよ、一度だけならな」


オレは少しの間考えてそう答えた。


こんな状況で一度だけという条件ならいいと思ったからだ。


「あ、ありがとうございます!」


麻上はさらにもう一度頭を下げた。


「いきなりですけど…明日でもいいですか?明日の放課後…」


「ああ。わかった」


「よろしくお願いします!」


てなわけでオレと麻上は明日の放課後一日デートをすることになった。



祢音や奏たちと買い物に出かけることを思い出したのは、帰って祢音がその話をしだした時だった。



☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



〜水月学園・3−5前廊下〜


祢音との約束を破り、オレは麻上のクラスの前に来ていた。


ひょいとのぞいてみるが麻上の姿はない。


どっか行ったのか?


「無月さん!」


後ろから声がしたので振り返ってみると、そこに麻上がいた。


「…っと。いたのか」


「はい、すれ違いに出てしまったみたいですね」


そうして麻上はかすかに微笑む。


「じゃあ行くか」


「はい」


そうして歩き出した麻上の肩を掴んで引き止める。


「どうしました?」


「こっちから行こう」


「なんでです?」


「そっちから行くと都合が悪いんだ」


そっちへ進めば3−1の教室の前を通ることになる。


そこにはもしかしたらまだ祢音たちがいるかもしれない。


見られるとやっかいなことになるかもしれないからな。


「別にいいですけど…?」


麻上は疑問に思いながらもオレの言う通りにしてくれ、


オレたちは祢音たちに見られることなく校門を出て商店街へ向かった。




〜商店街〜


「どこに行く?麻上の好きな所でいいぞ」


「あ、あの…お願いがあるんですが…」


急に歯切れが悪くなった麻上は続けて言った。


「付き合っているんですし…あの…その…今日だけ、名前で呼んでくれませんか?」


「へ…?」


呆気にとられて思わずマヌケな声を出してしまった。


「だから……『麻上』ではなく、『涼子』って呼んでください……」


そう言い終わると髪から少しだけ見える麻上の耳や頬がカッと赤くなる。


「……わかったよ。り…涼子……」


こっちまで恥ずかしくなってくる状況だ。


「ありがとうございます。それともう一つ、手を繋いでください」


「ああ、お安い御用だ」


名前で呼ぶ時、十分に恥ずかしい思いをしたからあまり抵抗なく手を差し出せた。


すると涼子は手を絡めるように繋いできた。


「ふふ…これで立派な恋人ですね。あたたかい…」


そう言って微笑む涼子の手は少し冷たいように感じた。


冷え性なんだろうか?


「じゃあオレからも頼みがある。敬語はやめろ。かたっ苦しいからな」


「これが一番話しやすいんですけど…やめなきゃダメですか?」


「まぁ話しやすいってんなら仕方ないか。涼子、どこへ行きたい?」


「あまり考えてなかったです」


「デートなんて初めてだからな、どこへ行けばいいのやら、オレにはよくわからん」


「無月さんの行きたい所でいいですよ、私は」


「行きたいってわけじゃねぇんだが、なら…あそこかな?」


というわけで、オレと涼子は商店街にあるゲームセンターへ行ってみることにした。




〜ゲームセンター〜


「ここ…ですか!?」


オレたちが初めに来たのはゲーセン。


中はさまざまなゲームの音で騒がしい。


涼子の声ならだいぶ張り上げないと聞こえないぐらいだ。


こういう所は涼子みたいなヤツは苦手かと思ったから


「こういう所は苦手か?」


と聞いたが


「いえ、大丈夫です。行ったこともなかったですし、興味あります…」


と答えた。


とはいえ、少しビビっているように見えるんだけどなぁ…。


「色々見て回ろうぜ。何かやりたいものがあるかもしれねぇからな」


「はい」




「あ…これ……」


涼子が立ち止まったのはクレーンゲーム。


中にはネコやイヌやパンダのぬいぐるみが所狭しと置いてある。


「何か欲しいのか?」


オレは涼子に聞いてみた。


すると涼子は


「この…ネコが欲しいです」


と言いながら、中のネコのぬいぐるみを指さした。


「やってみるか?」


「はい。えーと…」


オレの説明を聴き終えると、涼子は財布の中から100円玉を取り出し、投入口に入れる。


「えーと…えーとぉ……」


あたふたとしながらの1回目。


初プレイだからか緊張していて動きがぎこちない。


結局ネコには触れたものの引き上げるまではいかなかった。


続いて2回目のプレイ。


今度は引き上げることに成功したが、動き始めるとあっけなく落ちてしまう。


「ならオレがやってみる」


そしてオレも100円を投入する。


クレーンゲームなんてやったことが1回くらいあった気がするぐらいだ。


予想通り1回目は失敗した。


だが手応えはあった。


持ち上げ、移動している途中で落ちたから穴にも近づいている。


もう少しうまくやればできそうな感じがした。


こいつはオレの闘争心に火をつけちまったようだな!


「もう1回だ!」


「頑張ってください!」


そして2回目。


今度も掴むことに成功し、持ち上げるまで落ちることはなかった。


ちらりと涼子を見ると、涼子は食い入るようにその様子を見ている。


そしてその結果…。


「よっしゃぁ!」


「やった!」


見事、お目当てのぬいぐるみを手に入れることができた。


「ほらよ」


オレは取出口からぬいぐるみを取ると涼子に渡した。


「ありがとうございます!」


ぬいぐるみを渡すと涼子は満面の笑みを見せてくれた。


珍しく熱くなって頑張った甲斐かいがあったな。


と思わせるには十分だった。


その後もいろんなゲームをし、オレと涼子は満足してゲーセンを出た。


「楽しかったな」


「はい。少し疲れてしまいましたけど」


「だったらそこで休むか?」


少し前に喫茶店の看板が見えた。


滅多に行かない店だが、まぁたまにはいいだろう。


「はい」




〜喫茶水月〜


「いらっしゃいませー」


店員に案内されて、オレたちは指定された席に向かい合うようにして座る。


「新しい店みたいですね」


「そうだな」


建物自体は前からあったが店が変わって、それに合わせて内装も新しくしたようだ。


「注文は何になさいますか?」


すぐにウェイトレスが来て注文を尋ねた。


「オレはコーヒーで」


「えーと…私は…」


涼子はというとまだメニューを見ている。


眼が色々な方向に動いている所から見ると、見当すらついていないように見える。


「ケーキは欲しいですけど太りますし…」


という呟きが聞こえた。


「今日はせっかくのデートなんだ、好きなもの頼めよ」


それを聞くと涼子は少し赤くなり、小さな声で


「…ショートケーキをお願いします」


と言った。


「かしこまりました。コーヒーに、ショートケーキですね…?少々お待ち下さい」


そう言い、ウェイトレスは去って行く。


しばらくするとコーヒーとショートケーキが運ばれてきた。


オレはコーヒーを、涼子はショートケーキをそれぞれ飲んだり食べたりしながら話している。


「無月さんって、趣味は何ですか…?」


「趣味かぁ…特にはないんだけど強いて言うなら音楽を聴くこと、かなぁ…?」


「どういうものを聴くんですか?」


「これといって偏ってはいないな。ロックでもバラードでも、それが良ければ聴いてるし。


涼子はなんだ?」


「私は読書です。最近はファンタジー恋愛が面白いのでよく読んでます」


「やっぱり。涼子ってよく本読んでそうだしな」


「そう、見えますか…?」


「ああ、頭も良さそうだな」


とまぁ喫茶店ではそんな会話を続けていた。


「そろそろ次行くか」


「そうですね」


その後も色々な店を回ったがどこも楽しかった。




☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★




「ようやく行ったか…」


「何がですか?」


「いや、別に。そういやそろそろ日暮れだな。


夜まではさすがに心配するだろうし、次の場所で最後でいいか?」


「…はい」


涼子は少し名残惜しそうに言った。


「どこがいい?」


「では…公園でいいですか?」


「いいぞ」




〜水月公園〜


公園には小学生ぐらいの子供が何グループかでワイワイ言いながら遊んでいる。


「散歩でもしましょう」


「ああ」


散歩をしている間、涼子から話しかけてくることはなく、


オレが話しかけても、うつむいたまま「そうですね」や「はい」、としか答えなくなった。




だんだん日も暮れ、暗くなってきた。


遊んでいた子供たちも家に帰ったんだろう、この公園に人はいなくなった。


そろそろ一日デートも終わりだ。


「そろそろデートも終わりだな」


噴水の前に来た頃、オレは言った。


「はい」


この時になってまで、涼子はこうだ。


しかし、涼子はうつむき気味のままこう言った。


「無月さん、どうもありがとうございました。今日デートをして私はとても楽しかったです。


今日が終わるのが今までにないくらい名残惜しいです。無月さんはどうですか?」


「オレも楽しかったよ、とても。


祢音たち以外の女子とこうやってブラブラしたこともなかったし」


「名残惜しくは…ないですか?」


「惜しくはない、と言ったら嘘になる」


すると涼子は顔を上げ、オレを見つめながら言った。


「どうしても…付き合ってはくれませんか?


今日一日過ごして、こんな日が明日も続いたらいいとは思いませんか!?」


涼子はどうしてもオレと付き合いたいらしい。


「はぁ…。それは前にも言っただろう?オレはお前と付き合うことはできない。


絶対にできないんだ。


それにオレは涼子……いや、麻上・・のことは恋人としては好きじゃない」


それを聞いた瞬間、麻上の瞳に絶望が見えた。


瞳から涙が流れて、泣いた。


「うっ…ううっ……」


麻上はオレに抱き着こうとしたが、オレは麻上の肩を掴み、それを遮った。


「!?」


「オレたちはもう恋人同士じゃない」


しかし麻上はその手を強引に払い除け、無理矢理抱き着いてきた。


「うわあああん!!」


そして思いっきり泣いた。


らしくない強引なことをしてきてまで抱き着いてきた麻上を、オレは引き剥がすことができなかった。




麻上が落ち着いてきた頃を見計らってオレは言った。


「恋人でいることはできない。けど、友達としてなら付き合っていける」


「はい。わかりました」


眼を赤くしながら小さく頷くと


「これからもよろしくお願いしますね。無月さん」


そう笑って言うと麻上は振り向いて走って行った。


これから家へ帰ってまた泣くんだろうかと思うと少しだけ心が痛んだ。


「…帰るか」


祢音に聞きたいこともあるしな。


麻上が見えなくなってからオレは家へ帰るため、麻上が去った方向とは反対方向へ歩き出した。

感想&評価待ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ