第14話 「まさか!?お兄ちゃんがデート!?」
〜水月学園・教室2−1〜
「さ〜てお兄ちゃん、帰ろうか」
ようやく全ての授業が終わり、帰る支度もしました。
わたしは隣のお兄ちゃんに言ったんだけど
「今日は用があるから先帰ってくれ」
と言われました。
わたしは続けて
「え…?だって今日わたしと奏ちゃんとで買い物行く予定があったのに?」
昨日、夕ご飯の食材とか買いに商店街に行くって話をしてたんだけどなぁ……。
「ああ、本当に悪いな。今日はどうしても済ませなきゃならない用事があるからな」
お兄ちゃんはそのまま1人で教室を出て行っちゃった。
どうやら今日は一緒には帰れないみたい。
でも珍しいよね…。
約束を破ってまでしなくちゃならない用があるなんて。
初めてのことだったからわたしはしばらく考え込んでたけれど、ここはあまり突っ込まないことにしました。
「奏ちゃん。帰ろろうか」
「これを職員室に届けてからでいいですか?」
奏ちゃんが持っているのは一枚のプリント。
それはこないだ休んでた分の補習のプリントでした。
「うん。わたしもついてくよ」
「では行きましょう」
〜水月学園・廊下〜
奏ちゃんの職員室での用も終わって、
窓を眺めながら廊下を歩いていると、校門の方へ歩くお兄ちゃんの姿が見えた。
「ん?あれは…?」
隣に女の子の姿も見えるねぇ。
たまたま近くで歩いてるんじゃない。
何か喋ってるみたいだから多分一緒に歩いてるはず。
「ふ〜ん。なるほどねぇ…」
「どうしました?お姉様」
奏ちゃんは急に止まったわたしの方へ振り返りました。
「奏ちゃん、ちょっと寄り道するよ!」
「え?えぇ!?ちょ、お姉様!?」
わたしは奏ちゃんの手を掴むと廊下と階段を猛ダッシュで駆け降りました。
〜水月学園・校門〜
校門を出て右を見るとお兄ちゃんと女の子が角を曲がっていくのが見えました。
「こっちだよ!」
そしてお兄ちゃんたちが曲がった角まで来ると隠れながら角から様子を見ます。
「一体どうし――」
「静かに!ほら、あれ」
奏ちゃんの口を防いで、前を見るよう促しました。
「……なるほど、そういうことですか」
「ねぇ、奏ちゃん」
「はい…?」
「今までお兄ちゃんがわたしたち以外の女の子と帰るなんてあった?」
「いえ…私の記憶では…」
そう言ってる間にもお兄ちゃんたちはさらに角を曲がりました。
「さ、行くよ」
私たちも慎重に後を追います。
追いながら奏ちゃんはわたしに向かって言いました。
「でもこれから買い物をするのではなかったんですか?
それに、人の後を尾けるなんで趣味が悪いです」
「ふっふっふ、奏ちゃん、いい言葉を教えてあげる。
『他人の恋路ほどおもしろく、そして恨めしいものはない』んだよ」
「お言葉を返すようで申し訳ありませんが、お姉様、
『他人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて地獄行き』という言葉もあるようですが?」
「…………いいんだってば!今が楽しければいいんだよ!」
「…勝手にしてください。私は帰ります」
呆れたように言い、振り返って歩き出す奏ちゃんの腕をわたしは見もしないで掴みました。
お兄ちゃんたちを見失わないようにするためにです。
「なんですか?」
「奏ちゃんは気にならない?お兄ちゃんとあの子がどんな関係か」
「いえ。無月がどんな交際をしようと私たちには関係ない事です」
「そう?そんなこと言ったって、気になるんじゃなーい?
それにわたしたちはお兄ちゃんの妹だよ。これだけでも尾けるぐらいなら十分な理由じゃない?」
「…………わかりました。お姉様がそこまで言うなら。でも、ちょっとだけですよ?」
「いい子だね。あ、また曲がったよ」
わたしたちが曲がると商店街に出ました。
お兄ちゃんたちはどうやらゲームセンター、いわゆるゲーセンへ入ったようです。
私たちも見つからないように入ります。
「ああ、あの子は確か隣のクラスの『麻上涼子』だよ」
人見知りする性格なのか、普段は大人しいけど友達には明るい子。
長い黒髪を持っていてスタイルは…まぁいいことにしよう。
「誰ですか?」
「まぁ奏ちゃんはあまり他のクラスに行かないしね。
でも1回ぐらいは喋ったことあると思うよ」
「…そうですか」
2人は定番のクレーンゲームをしている。
1人2回ずつ、4回トライしてとれたのはかわいいネコのぬいぐるみ。
お兄ちゃんがとって、それを麻上さんに渡すと嬉しそうに笑ってました。
あ〜あ、私にもそんなことしてくれないくせに!
お次はガンシューティングのようです。
自分で銃を持ってそれを画面に向かって撃つというような体感型のゲーム。
「あぁ!もうっ!そこはその敵を撃つんじゃないって!」
麻上さんは画面上に出てくるゾンビたちに驚いて、キャアッっとか叫びながら闇雲に撃っています。
お兄ちゃんはというと麻上さんに指示やフォローをしながら自分の役割も果たしています。
私たちはバレないようにクレーンゲームのガラス越しに様子を見ます。
一応ゲームをやってるように見えなきゃダメだからということでプレイしながらです。
でも私の眼はクレーンゲームよりお兄ちゃんたちに向けています。
だから外れてばっかりです。
さて次100円投入しようとしたその時。
「お金の無駄遣いはやめてください」
奏ちゃんに腕を掴まれてようやく私は腕を止めました。
お兄ちゃんたちはその後も格闘ゲーム、レーシングゲーム、さらにはプリクラをやっていきます。
私だってお兄ちゃんとプリクラしたことないのにー!
そして無事気づかれることもなくゲーセンを出ることができました。
「これはどう考えてもデートしか考えられないねぇ…」
「無月はああいう女性が好みなんでしょうか?」
「う〜ん。どうなんだろ?お兄ちゃんの好みなんて聞いたことないしなぁ」
千春や他の女の子ととも普通に喋ってるしね…。
次に来たのは喫茶店。
最近できたっていうおしゃれな喫茶店、お兄ちゃんたちはその中へ入って行きました。
もちろん、わたしたちも気づかれないように入ります。
そしてお兄ちゃんの死角になるような席に座ってパフェを頼みます。
それもとびきりでかいのを!
奏ちゃんは紅茶。
ちなみにお兄ちゃんはコーヒー。
麻上さんはショートケーキを頼んでいました。
その後特大のパフェが運ばれてくると、奏ちゃんはそれを見て
「お姉様、私たちは後を尾けてるんですよ?
そういうのを頼むのはまた次の機会にしませんか?」
と言いました。
「何言ってるのよ!こんなトコこういう時じゃないと滅多に入らないじゃない!おっと…」
ちょっと声大きかったかな。
お兄ちゃんを見ると気付いてないようで振り向く様子はない。
ふう…。
改めて耳を澄ませると、
お兄ちゃんたちはさっきのゲーセンでの事とか学園の事とか音楽の事を楽しそうにしゃべってます。
そしてわたしがパフェを食べ終えてしばらくすると、お兄ちゃんたちは席を立った。
もう出るみたいだね…。
私たちのいる席は出口近くのレジとは逆方向だから観葉植物の陰に隠れれば見えない。
そだ。お金はどっち持ちなんだろ?
気になって、ちょっと覗くとちょうどお兄ちゃんがサイフからお金をとる所でした。
会話を聞くと初めはお兄ちゃんが奢るようだったんだけど、
『麻上さんが自分の分は自分で出します』って言い出しました。
どうするんだろ…?
するとお兄ちゃんは自分の分のお金だけを取り出して
「お前とは仲良くなれそうだ」
そう言って麻上さんの分のお金を受け取るとレジへ行きました。
へぇ〜。
お兄ちゃんはそーゆー主義か、勉強になったよ。
で、私はというと…。
「奏ちゃん、ここは割り勘にしよっか♪」
わたしが嬉しそうに言うと、奏ちゃんは言いました。
「そうすると明らかにお姉様が得をするのですが?」
私が頼んだのは特大のパフェ。
奏ちゃんは紅茶一杯。
値段を見るまでもないです。
「はいはい。自分で出しますよーだ」
「そうしてください」
続いて私たちも喫茶店を出ました。
その後も服やアクセサリーの買い物をしてデートは進んでいました。
その間もずっと尾行してたけど、2人とも結構楽しそうでした。
「………奏ちゃん、そろそろ帰ろうか」
「……?いいのですか?無月たちはまだどこかへ行くようですが?」
「いいよ。だってこれ以上、お兄ちゃんと麻上さんが楽しんでいるデートをわたしたちが邪魔しちゃ悪いもの。
それに、夕ご飯の用意もしなくちゃなんないしね」
「わかりました。お姉様がそう言うなら…。では行きましょう。
でもお姉様、今から買い物へ行っては夕食を作る時間がありませんので、
買い物はできませんからカレーは作れませんよ?」
「うん。いいよ」
〜如月家〜
その夜、夕ご飯でお兄ちゃんはいきなり一言言いました。
「お前ら今日何してた?」
「!?」
私の手の動きがほんの一瞬だけ止まる。
平然を装おうとしてもお兄ちゃんは多分気づいてると思う。
一方、奏ちゃんは焦りもなく普通にご飯を食べてる。
「別に、いつも通り過ごしてたけど」
わたしはお兄ちゃんの顔をまともに見ることができず、
お兄ちゃんから眼を反らして平然と答えました。
「商店街にいなかったか?」
「そりゃあまぁ、買い物行ってたからね」
「ならなんで夕飯カレーじゃなくてハンバーグなんだ?
今夜はカレーだって行ってただろ?」
「いや…それは……やっぱハンバーグの方がいいかなぁって思っ――」
「放課後オレの後尾けてただろ?」
うわ、言っちゃったよ。
ここは開き直るしかないかな。
「そーだよ!お兄ちゃんが女の子と付き合ってるなんて知らなかったからね。
おもしろそうだから尾けてたの!奏ちゃんとね」
お兄ちゃんは知ってるだろうけど、こうなったら奏ちゃんも道連れよ。
「はあ!?オレは麻上と付き合ってるわけじゃねぇよ」
「あんなに楽しそうにしてたのに……?」
「楽しそうにしてたからといって、必ずしも付き合ってるとは限らない」
「じゃあ何でよ?」
「あいつ、こないだオレに告白してきたんだよ」
「で?どうしたの」
「もちろん断ったよ。そしたら一度だけでいいからデートしてくれないかってさ。
もうすぐお父さんの仕事で転校しなくちゃならないんです。だから最後の想い出に、ってな」
なんてベタな…
わたしは半分ホッとし、半分複雑な想いでした。
「それでオーケーしたわけね。麻上さんとの一日デートを」
「ああ。案外楽しかったよ」
「……そう。よかった!」
「何が?」
「わたしみたいなかわいい子が傍にいるから彼女なんてできそうにないなぁ〜って思ってたからね♪」
「自分で言うな。オレから見たらお前はまだまだだな」
さすがお兄ちゃん、突っ込むだけでなく斬り込んでくるとは……恐るべし。
「とにかく、明日は土曜で休みだから、朝から買い物に付き合ってもらうからね!」
「暇だったらな」
「邪魔するモノはみんな排除するから大丈夫♪」
「するな!」
「麻上さんとのデートは楽しくて、わたしたちとのデートは楽しくないなんてことないよね?」
「あるな」
「な!!??」
そこで言う!?
「ふっ冗談だ」
「鼻で笑うなー!」
「悪かった。明日は何か奢ってやるから機嫌直せ」
「言ったなぁ!じゃあ5ケタはいくと思って覚悟してよね」
「…はいはい」
ふっふっふ。明日が楽しみだなぁ。
こうしてお兄ちゃんの財布は痩せ細っていくのだ!
おわり♪
無月SIDEとして外伝もありますのでそちらもよろしく。
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