第9話 「捜し物発見!その1」
〜六課隊舎・談話室〜
朝食後、訓練開始までの空いた時間にオレは奏に談話室に来るよう言われた。
「昨晩お姉様の血を吸いましたね?」
談話室に誰もいなくなった頃を見計らい、奏はオレにそう言った。
「ああ、吸ったよ。起きてたのか?」
別に隠すことでもなかったのであっさり認めた。
「……いえ。ただ、お姉様の首筋に傷があったので。そう思っただけです」
「そ。で?それがどうした?」
「無月が吸血鬼になった時、私言いましたよね?無月の餌になるって」
「言ったな」
「だったら私の血を吸ってください」
「今までだって奏の血を吸ったことあるだろ?」
「ですがお姉様の方が多い気がします。
私はお姉様に負担をかけさせたくないですし、その覚悟を無駄にしないでください!」
初めの方はいつもの調子だったが言い始めて止まらなくなったのか、最後の方では声を荒げている。
まぁ普通の人と比べると荒げているとはいえないかもしれないが。
オレはその様子に驚き、少しの間奏を見ていたが
「わかった。今後は奏のも吸うようにするよ。
だが祢音のも吸う。1人だけに負担をかけるわけにはいかないからな」
と答えた。
「わかりました」
それに奏はそれだけ言うと背中を向けて祢音の待つ、自分の部屋へ戻って行った。
オレの返答に納得したかどうかはわからない。
「ん〜相変わらず普段何考えてるかわからんヤツだな」
言ってもらわなきゃ気づかないオレもどうかと思うけど……
少し間を置いてオレは奏の去った方へ歩き出した。
なんだかんだやっている内に1週間が過ぎてしまった。
六課での生活にもほとんど慣れたものの、
全く捜し物を発見したとの報告がないまま時が過ぎていったので、
捜し物の件は当たり外れがあっても
自分たちで捜した方が早いんじゃないかと心配していた頃だった。
その日、訓練を始めてまもなく、はやてさんから通信があった。
―無月くんたちが捜してるアイテムの一つのバリア発生装置が見つかったそうや。
今回はスターズだけで行ってくれるか?―
「了解。じゃあスバルとティアナ、あと……」
そうしてなのはさんはこちらを見る。
「私だけ行きます!」
そこで祢音が手を上げて立候補する。
「いいのか?何ならオレたちも行くぞ?」
「いいの。あまり多くてもダメだし、
それに同じ銃を扱う者としてティアちゃん、それになのはさんの実戦見てみたいしね」
祢音は奏の耳元に口を寄せ、
「お兄ちゃんの事、任せたよ」
と囁いた。
「わかりました」
「じゃあスバルとティアナ、そして祢音は出動準備をしてね。ライトニングと無月たちは……」
―少しの間ならわたしが訓練するよ。今丁度空いてるし―
突然フェイトさんからの通信が入る。
「ありがと、あとは頼むね。私はもう行くけど、これからフェイト隊長が来るから待っててね」
「「「「はい!」」」」
〜祢音SIDE 異世界〜
「さて、到着」
そんなわけでなのはさんとスバルちゃんとティアちゃんとヴィータちゃん、
そして私で構成されたスターズは異世界に到着したんだけど…
「きゃっ!」
私たちの来た場所は砂嵐が起こっているようで眼が開けてられないほど風と砂が飛んできます。
「くっ…」
私は眼を閉じ、顔に降りかかる砂を腕で防ぎながら魔法で風を起こしました。
私たちの周りだけ、風や砂が来ないようにするためです。
「ありがと。助かったよ」
「うん」
「なのは隊長、今は建物に隠れた方がいいと思うぞ」
「そうだね。このままじゃあ捜索は難しそうだし」
眼が開けられるようになって気づいたんだけど、
どうやらここは日本の都会部分に似ている。
でも建物とかの荒廃が激しくて人の気配は感じられない。
なんとか風がしのげる小さなビルのような建物を見つけた私たちはその建物の中に入りました。
「砂嵐が止むまでに作戦の確認をしておこうか。ここにあるのはバリア発生装置」
「これですね」
私はそこで腕輪からその画像を表示させました。
「そう、これ。この辺りにあるはずだけど見ての通り今は砂嵐で視界がすごく悪いからおさまってから捜索開始。
デバイスにはそれぞれアイテムの表示と反応感知機能がついてるから、それを確かめながら捜索して。
腕輪と同じ機能だから反応があるとわかっても方向まではわからないから注意してね。
スバルとティアナは地上で捜索」
「「はい」」
「わたしとヴィータ副隊長は空から捜すね。祢音も空から捜してくれる?」
「了解だ」
「はい」
そしてしばらくすると砂嵐が収まったので最初に確認した通りにそれぞれ散っていきます。
さ〜て、どこへいったものかねぇ…
なんて思いながらふらふらとしばらく探しているとスバルちゃんから通信が入った。
怪しい場所を見つけたみたい。
私はUターンしてスバルちゃんの所へ向かいました。
私が着くともうみんな揃っていました。
「おまたせ!で?その怪しい場所ってのは?」
「ここだ」
ヴィータちゃんがグラーフアイゼン(ヴィータちゃんの武器ね)で指す先には地下へと続く階段がありました。
「地下鉄の駅に行くための階段だよね?」
地下鉄は水月島にはなかったけど本土や異世界で何回か乗ったことがありました。
「そうだろうね。ここから反応があるんだね?」
なのはさんは第一発見者のスバルちゃんに確認をします。
「はい、周りを回ってみたんですけどどこも反応が微妙で。
だったら地下か空にあると思ったんで、ここじゃないかって」
「あたしはこの辺の上空を探してたが目立った反応はなかった。なら地下だろうな」
「十中八九ここにあるってことですね」
「私もティアちゃんと同意見だよ」
「じゃあ行こうか」
そのなのはさんの声で私たちは地下へ入りました。
〜地下〜
「え?」
私が地下に降りて最初に言った言葉でした。
「ちょっとおかしいよね」
なのはさんも同意してくれたみたい。
「ただの地下じゃねぇ。くさいな」
地下に入るとそこに券売機や改札口はありませんでした。
広い廊下と分かれ道だけだけど、壁や床の素材はちょっと違うかも。
壁はコンクリートにしてはそれよりも少し頑丈そう。
とにかく、駅にあるようなものじゃないです。
まるでどこかの悪者のアジトみたい。
「気をつけた方がいいね」
「お出迎えみたいだぞ」
奥の角を曲がって見えたのは結構な数の人型のロボットでした。
手には機関銃みたいなのが。どうやら荒っぽいお出迎えみたい。
「こんな相手にケガすんじゃねぇぞ」
「「「はい!」」」
あら、私まで。…染まってきちゃったみたいね。
『アクセルシューター』
『シュワルベフリーゲン』
『リボルバーシュート』
『クロスファイアシュート』
『サイクロンショット』
一度に多くの敵を撃破できる技を中心に攻撃していきます。
てなわけでとりあえず一掃しました。
ちなみにみんな無傷です。
「よし、行くぞ!」
行く道には所々にロボットがいたけど数も少ないし難なく倒していきます。
けれど道は迷路みたいでクネクネと動き回っています。
「あ!シャッターが!」
ある曲がり角を曲がってすぐシャッターが閉まっていくのが見えました。
上の看板には階段だとわかるマークがついています。
でもシャッターの閉まるスピードには多分追いつかない。
しかも両サイドからロボットが現れて、さらにシャッターの前にも現れます。
「スバル!頼んだよ!」
「はい!!」
「ティアナと祢音はスバルの援護!両サイドはわたしとヴィータ副隊長で抑えるから!」
「「はい!!」」
私は右側の、ティアちゃんは左側のロボットをそれぞれ撃っていきます。
私たちの両サイドは隊長たちが抑えていてくれるので心配なく撃ちまくれました。
そしてロボットの残骸の中をスバルちゃんが突き抜けていき、構えます。
「はああぁぁっ!!『リボルバーシューーート』!!!」
スバルちゃんの繰り出した拳から衝撃波が放たれ、見事シャッターは砕かれました。
「よし、じゃあ下に降りようか」
下に降りても光景は全く一緒で、しばらく進んでみましたがやっぱり迷路のようでした。
「まぁこんなもんなんだろうけどねぇ…」
「どうしたの?」
隣で走っているスバルが訊いてきました。
「いや、なんでも」
今隊長たちは傍にいません。
あまりに広いということで、別れて捜すことにしたんです。
隊長たちは1人で1組。私とスバルちゃんとティアちゃんで1組です。
「来たわね」
目の前にはまたロボットに小型の戦車のようなものが現れました。
地下1階と時とは違って武器や装甲も強化してあるみたいで、
隊長たちみたいに傷一つなく、というわけにはいかなくなってきました。
でもまだ余裕はあります。
「うわ!囲まれてるよ!」
わらわらと敵が出てきて私たちはあっという間に囲まれてしまいました。
「ティアちゃん、いくよ!」
私は今もっている『フリューゲル』とは別のもう1丁の銃、『レリーフ』を取り出しました。
「スバル、伏せてて!」
スバルちゃんが伏せた瞬間、私とティアちゃんは互いとカバーし合うように色んな方向に撃っていきます。
訓練中に同じ銃使い(しかも2人とも2丁使える)ってことで、
連携や気づいた所など教えてもらったり教えたりして毎日訓練をしていきました。
同じ所を撃つこともなく、ちょっと危ない所もあったけどなんとか全部倒せました。
「付け焼刃、ってやつにしちゃあ結構うまくできたね」
「そうね。でも満足してられないわよ。ミスがいくつかあったし」
「厳しいねぇ。ティアちゃんは」
「あ、なのはさんが階段見つけたってさ」
「じゃあ行こか」
何回降りたことやら、地下5階ぐらいかなぁ。
それだけ降りても出てくるのはロボットばっかし。人間なんて1人もいない。
ロボットも強くなってってるし、これ何の隠しダンジョン?
最後にはレアなお宝があったりして。
あ、それがバリア発生装置か。
「ようやく到着ですね。…ん?バリアで守られてるあの赤い宝石って何ですか?」
少しボロボロ気味になってやっと最深部に到着したわけなんだけど、
バリア発生装置は赤い宝石を守るように赤いバリアを張っていました。
「あれって…」
「『レリック』ですね」
「レリック?」
「私たちが前に扱っていた事件に深く関わっていてね、六課はレリック専門に回収していたんだよ。
強大な魔力を持ったかなり危険なロストロギア。気をつけないと」
「そうなんですか」
お宝はこれってわけね。おっと、不謹慎かな?
「このバリアは結界型ではないので普通に破壊してもいいハズです。
でも中にレリックがあるとあまり無茶苦茶なことはできませんね。
そのまま勢い余って衝撃を与えでもしたら……」
「問題ないよね?ヴィータ副隊長」
「おう、当たり前だ。離れてろよ」
ヴィータちゃんはバリアの方へ近づくと先端をドリルにしたハンマーを振りあげます。
ドリルが勢いよく回転し、ヴィータちゃんはそれをバリアに叩き込みます。
激しい火花を散らしますがバリアは壊れる気配をみせません。
「……くっ…硬いな…」
だけど粘り強く続けていくと次第にヒビが入り、そしてバリアは破壊されました。
ヴィータちゃんはドリルがレリックに接触する前に器用に振り抜きました。
「ありがとうございます」
私は辞書ぐらいの大きさのバリア発生装置を回収し、なのはさんたちはレリックを回収します。
ビービービービー
すると警報のようなサイレンと一緒にアナウンスが聞こえてきました。
―研究所爆発まで、あと5分―
「「ええええぇぇぇっ!!??」」
声を合わせて驚いたのは私とスバルちゃん。
「今から戻る時間はないですよ!」
さ〜て、どうしたものかねぇ。
あ、転移魔法でも使えばいいか。
「大丈夫だよ。一直線に外へ出られるから」
私が転移魔法を使えばいい、と提案する前になのはさんは言いました。
「そうか!その手がありましたね!」
「少し離れてて」
なのはさんは杖の先端を斜め上の天井へ向けます。
そしてなのはさんの足下に魔法陣が展開されました。
「??」
「『ディバイン………バスター』!!!」
杖の先端から砲撃が放たれ、それは天井を破壊していきます。
「………………?」
なにそれ。
「すごい……見事な吹き抜けができましたねぇ〜」
なのはさんの砲撃した場所から上を向くと茶色い雲が見えました。
ここまでの砲撃、私だけじゃあできないね。
天使か悪魔の力を借りなきゃ。
しかもあまり知られるわけにはいかないから頻繁に使えないし。
「スバルちゃんたちは飛べるの?」
なのはさんたちが先に飛び立った後、私は聞きました。
吹き抜けだから階段とかもないし。
「大丈夫です。スバル」
「うん。『ウイングロード』!」
スバルちゃんが拳を地面に叩き込むと蒼い道が外に向かって伸びていきました。
「おお!!そういやそれがあったね!」
スバルちゃんたちはそれに乗って外へ走って行きました。
「世界は広いねぇ。色んな魔法があるもんだ」
私も後に続いて外へ脱出し、無事に機動六課へ戻りました。
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