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 放課後、ハルはマナへの連絡事項を書いた担任からの紙を持って、マナの家へ向かった。


「え? お嬢様は帰ってきておりませんが……」


 使用人の女が言い、ハルは、冷や汗が噴き出るのを感じた。気がつくと、駆け出していた。


――エモン! 聞こえる?


 ハルは走りながら、家にいるはずのエモンに呼びかける。


『何だよ?』


――探して欲しい人がいるの! 級友のマナって子で……


『どのあたりだよ?』


――ごめん、わからない……学校からそんなに遠くへは行ってないと思うんだけど……


『おまえなぁ……! この街、どれだけクソ広いと思ってんだ……』


――お願い! 干し肉2倍にするから!


『……ったくもう』


 図書館や、学校近くの公園、学生が集う甘味屋など、マナが行きそうなところをハルは探し回った。




『ハル、そろそろ時間切れだ。暗くて地上が見えなくなってきた』


 エモンからの声が届く。


――もう少し……あとちょっとだけ


『俺の鳥目をなめんな! まだ完全に光は沈んでいないが、地上のものが識別できなくなってきている』


 ハルは走りながら、遠くの光星を見やる。


 もうマナを見つけることは難しいだろうか。いや、これだけ探してもいないのだから、ひょっとしたら家に戻っているのかもしれない。明日、マナはいつも通り登校するかもしれない。けれど……。


――この胸騒ぎは何だ? 何か良くないことが起こる気がする……


 その時、エモンの声が響く。


「見つけたぜ、ハル! 南の溜池公園だ! 中央の噴水近くに1人でいて、別に変わったところは見受けられないが……あ、誰か来た」


「ありがとう!」


 ハルは方向を変え、全力で走る。




 すっかり暗くなった溜池公園は、不気味な空気を含んでいた。人の姿はなく、耳を澄ますと水の流れる音が聞こえる。


 ハルは、公園の中央にある噴水を目指して走った。その時、何かが一瞬光った。そして、女性の悲鳴。


 咄嗟に、ハルは上衣の内袋から『枝』と呼ばれる1本の黒い棒を出す。


「ルト!」


 魔法を唱え、棒を身の丈ほどの杖に変化させる。その先端には黒の魔石が埋め込まれており、それは魔力を集中させ、魔法を発現させる役割を持つ。


 噴水の陰に、マナの姿があった。そしてその足元に、女性が倒れている。マナは、杖を女性の腹に突き立てていた。


「何をしている!」


 ハルは叫び、杖の先端をマナに向ける。


「ハ・ドラ!」


 魔法を唱えると、炎の玉が出現し、マナに向かって放たれた。


 マナはそれに気づいて杖を抜くと、魔法を唱えた。


「イル・バト」


 彼女のまわりに氷の結界ができ、それは炎を打ち消した。


 ハルは倒れている女性のもとへ行くと、それが骸骨であることがわかった。骸骨は気を失っているようだったが、腹からは血が溢れ出ている。


「どうして……」


 ハルは、エモンに呼びかける。


――エモン、国警と医師をここに向かわせて


『は? おいおい、まさか……』


 マナを見ると、口元に笑みを浮かべていた。


「どうして、って……わかるでしょ? こいつ、あたしに恥をかかせたのよ」


 その視線はうつろで、真っ暗だった。まるで底無し沼のように光が無かった。


「せっかくハラワタを取り出してやろうと思ったのに、気絶しちゃうんだもん。つまんない。でも……」


 マナは、杖の先端をハルに向ける。


「新しいオモチャがきたから、いいわ。あんたのお腹、グチャグチャにかき回してあげる」


「その前に、1つ質問」


 骸骨を庇いながら戦うのは難しい。国警が来るまで時間を稼がなければいけない。


「あなたが先生をこんな風にできるとは思えない。覚醒したの? それとも、魔石を取り込んだ?」


 ハルは、恐らく後者だろうと思った。以前、魔石を取り込んだ者を見たことがあったが、それとそっくりだ。変に気持ちが高ぶっており、残虐的になる。


「知りたい?」


 しかし口調には抑揚がなくなる。魔獣の中で人の言葉を真似、人をおびき寄せるものがいるが、その口調と同じだ。


「うん、どうしても知りたい」


「両方よ」


 マナは、杖の先端で地面に何かを描き始める。


「魔石を取り込んで、覚醒したの」


 暗闇に、火花が散った。ハルは咄嗟に結界を張る。


「イル・バト!」


 その瞬間、炎風が吹き荒れる。ハルは、自分と骸骨を覆う結界が壊されないよう、手を前に出し、結界に魔力を供給しつづける。


 それが止んだあと、マナは関心したように声を上げた。


「すごい。これ、1級の魔法なのよ」


 ハルは結界から飛び出すと、光の紋章を指で自分の腕に描き、身体強化の魔法をかける。マナまで一気に距離を詰めると、杖を振り上げ、力一杯振り下ろす。


 しかしマナは、風の魔法を唱えてハルの体を押し戻し、自分は後退して杖をよけた。


「身体強化なんて、私の魔力の前じゃ意味が無いわ」


 マナが杖を振った瞬間、ハルの体は飛ばされる。しかし空中で体勢を整えて地面に降り立つと、林の中に飛び込む。


 マナは骸骨を見て、それからハルに視線をやった。


「私と遊びたいんでしょう?」


 ハルの問いかけに、マナは口元を歪めた。


「いいわ。遊んであげる」

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