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 放課後、教室を出たハルをマナが呼び止めた。


「ねえ、ハル。ちょっと聞きたいことがあって……」


「ん、どうしたの?」


 ハルは、マナに近づく。するとマナは話しづらそうに、小声で言った。


「ちょっと、一緒に来てくれる?」


 ハルはマナについて、学校近くの小公園にやって来た。この時間、日陰がほとんどないこの公園は、人の姿も無かった。


 しかし1つだけ、木陰の中に長椅子があった。2人はそこに座る。


「ハル、教えてほしいの。魔導実技でどうやったら強くなれるか……」


「どうしたら……? 方法を知りたいの?」


 マナは、うなずいた。ハルは戸惑った。強くなる方法など、考えたこともなかった。


「そうだなぁ……」


「ハルは、どうやって強くなったの?」


「私は……あまり答えになってないんだけど、気づいたらこんな感じになってた。5年間、がむしゃらに世界を渡り歩いて、危険なことにも巻き込まれて……そしたら、こんな風になっていたよ」


 嘘ではなかった。強くなりたいと思うより、強くならざるを得ない状況だった。暴漢に襲われ、その場にいた男たちを打ち負かさなければならなかったこと。集めていた『輝石』を奪われ、それを取り戻すために雇われ魔導師と対峙しなければならなかったこと。旅費を稼ぐために魔獣を倒さなければならなかったこと……全て無駄ではなかったが、痛みと恐怖、体中に残る傷と引き換えにした強さだった。


 黙って苦い顔で自分を見つめているマナに、ハルは慌てて取り繕った。


「ご、ごめんね! でも、本当なんだ……」


「私……このままだと落第する」


 突然、マナの顔が暗くなった。


「先生が言うには、最低点にすら届かないだろうって……」


「そんな……だって、基礎魔法さえ使えれば大丈夫でしょう?」


 基礎魔法とは、火・水・土・風の四元素を使った初歩的な魔法だ。火であれば、発火させる。水であれば、それを凍らせたり、逆に氷を水にする、などが基礎魔法と呼ばれる。魔導の家系に生まれた者ならば、10歳までには習得できると言われている。


 マナの家は、この街では有名な魔導の名門だ。だからマナは、基礎魔法などとっくに習得しているものだと、ハルは思っていた。


「基礎魔法、私1つしかできないのよ」


「えっ!?」


 ハルは驚いて、言葉を失う。


「いつか『覚醒』するだろうって言われて、だけどしないまま、ずっとここまで来て……」


 『覚醒』とは、ある日突然魔導の才能が開花し、一気に高等な魔法まで使えるようになることだ。稀にそのような者が現れるが、大抵18歳までに見られることだった。


「ねぇ、ハル、あなた6年前と比べてとても強くなったわよね」


「え? ま、まぁ……」


「あなた、魔石を体に埋め込んでいたりしない?」


 それは魔導師として最大の禁忌とされている、魔力を向上させる術だ。しかし魔石を体に埋め込んだ者は、やがて人の心を失ってしまう。魔獣と化し、やがて人間を喰らう者となる。


 ハルは、首を横に振った。


「してない……するわけないよ、そんなこと」


 疑われたことが悲しかった。しかし彼女は、ただ知識しかなく、それを見たことがないのだろうから、仕方ない。


「『覚醒』って、魔石を体に埋め込んだ結果、得られるものじゃないかしら」


「それは違うと思う。魔石を埋め込むと、数日もしないうちに魔獣化してしまう。人の姿でなくなるんだ。『覚醒』したという人たちは、その後魔導師として活躍した人たちばかりだと聞いたことがあるよ」


「ふーん……そもそも、魔獣化、って本当なのかしら」


「本当だよ。旅をしていたとき、実際に見た」


 しかし、マナは疑いの目を向けてくる。


「ハル、私が強くなるのが嫌なんでしょ」


「な……」


「せっかく強くなって帰ってきたのに、私の方が強くなったら、悔しいもんね」


「そんなわけないよ!」


「じゃあどうして教えてくれないの? 強くなる方法」


「だからそれは……言葉で説明するのが難しくて」


「もういい、あなたなんかに頼んだ私が馬鹿だった。せいぜい優越感に浸っていたらいいわ」


 そう言って、マナは立ち上がった。その背中に向かってハルは呼びかける。


「待って! 先生に相談してみようよ。今年1年待ってもらって、その代わりに座学と実技の方を頑張って……」


 しかし、マナは振り返らずに去っていった。ハルは無力感に襲われ、しばらく立ち上がることができなかった。

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