KILL.2 第一島人発見?
…
……
………
「ん…」
俺はふと、太陽の眩しさに目を覚ます。
昨日島に何故かいたことについては夢かなと思ったりもしたが、島に優しく押し寄せる波がこれは現実なんだなと実感させられる。
「ま、そりゃそうだよな」
また誰に対してでもなく俺はそう呟くと、探索を開始するべく重い腰を上げる。
「見た感じはどう考えても無人島…だな」
眼前に広がるこの如何にも人間が踏み入ってなさそうな生い茂った森、明らかに開拓はされてない証拠だ。
どうしてこんな場所に俺は昨日からいたのか、それなりに調べる必要がありそうだ。
それなりに。
「徹底的にだなんて冗談じゃねえ、こういう所こそもっと自分の身体を大事に使っていかねえとな」
…て、俺は誰に聞いてほしくて喋ってんだよ。
そんなツッコミを頭の中でしながら俺は今度こそ探索を始めるべく森の中へと足を踏み入れた。
と同時に急に木々をガサガサと掻き分けるような音が聴こえ始めてきた。
(なんだこの音?ここに住む動物か何かの類いか?)
なんて事を思っている内にその音は段々大きくなっていき、そして“それ”は俺なんか眼中にも無いと言った感じでいきなり砂浜へと飛び出してきた。
「はぁ、はぁ、はぁ…!」
「んなっ!?」
思わず俺は素っ頓狂な声を上げた。
それも当たり前、さっきここには人がいないと思っていたのに砂浜には明らかに人がいて息を切らしていたのだから。
「こ、ここまで来ればあのやべえヤローからも撒けただろう…ざまあみやがれ!」
(やべえヤロー?)
息を切らしていた人物―とある男は森を睨み付けながらそう叫んでいる。
俺はと言うとその辺の幹の太い木に身を隠しながらただ見ていた。
て、なんで隠れる必要があるんだよ。
(人がいるなら俺と同じ境遇でここに来たかどうか聞けば済むじゃんよ)
ラッキー。
これでわざわざめんどい探索もしなくていいんだからな。
俺はウキウキ気分で木の陰から出ようとした―が、出るのをやめた。
いや、やめたというよりは出たら何かやばいという警戒心が無意識に働いたのか出てこれなかったのだ。
「…」
男「ひっ!?な、なんでだ…なんで来れるんだよ!?俺は森をジグザグ移動しながら抜けてきたのに、なんでお前は…!」
理由は森の奥からすっと現れた謎の黒ローブに身を纏ったやつのせい。
そいつから発せられる雰囲気が異質で、かつ狂気染みた笑みを浮かべて怯える男を見ているためだ。
男「く、くそっ!こうなったらお前を倒して俺はレベルアップしてやるぜ!そうなりゃ俺は更に強くなるんだ…やってやらぁ!」
(レベルアップ…て、何だ?)
俺がそんな事について疑問に思うやすぐに、男は背後にある海に向かって走ると“キル・ウォーター”と叫び何かを出す。
遠く離れた位置に走ったためその何かについては良く見えないが、手には何やら筒みたいなのが握られている。
男「くたばりやがれ、このくそ野郎ー!」
次の瞬間、その筒らしきものから大きな水の玉が勢い良く飛び出し黒ローブの者に向かって放たれる。
(は、はええ!あんなのかわせねえだろ!)
俺ならかわすのには不可能な速さだ。
あれは間違いなく黒ローブに直撃する、そう思っていたが黒ローブはそれを難なくかわすと片手を男に構えながら近付いていく。
男「く、来るなぁ!」
男が海の中に筒を入れて取り出し再び黒ローブに構えるとまた大きな水の玉が放たれる。
どうやらあのキル・ウォーターというのは連発は出来ず、水辺が無いと補給すらままならないものらしい。
(そのかわりに放たれる速さはとてつもなく早いんだろうが、それをかわせるとかどんだけ運動神経いいんだよ!?)
黒ローブはまたもやそれを難なくかわす。
一体どれだけ運動神経に恵まれているんだろうか。
そんなやり取りを繰り返していく内に黒ローブはついに男の眼前までに迫っていた。
黒ローブの片手が男に迫る。
男「や、やめてくれえええええ」
その叫びを最後に男が海に力なく倒れた。
どうやらあの黒ローブが何かしたようで、再び立つ気配は無かった。
「…」
しばらく黒ローブは男が立つかどうかを待っているのだろうかその場から動かない。
(い、一体どうなったんだ…?何であの男は動かねえんだ!?)
もちろん俺もあの男がどうなったのか気になって仕方ない。
だがあの黒ローブがいる限り下手に出るのは非常にまずい。
だからここは果報は寝て待て作戦だ、必ず後で確認は出来るだろうからな。
「…」
ようやく黒ローブが納得したのかその場から離れ、視界からさっと消える。
何でああも尋常じゃない動きが出来るのやら…でもこれでやっとあの男について調べることが出来そうだ。
黒ローブについては今は考える必要はない。
「まずはあの男を介抱して、それからこの島にいる理由を聞いてみよう。だが下手すると…」
俺は先程の2人の戦いを見ている。
あの黒ローブは男をその場に倒れ込ませていた、それはつまり最悪―
「殺された、可能性があるんだよな…」
と俺はそこまで言うと急に吐き気を催した。
つまりあの男は死んだ、殺された、亡くなった。
あの男がもし仮に生きていたならそれでいいが死んでいたならばその苦悶に満ちているであろう表情を見ることとなる。
「うっ…おえっ…!」
嫌だ、死体なんか見たくない。
そう拒否しているかのように俺の身体は拒絶反応として嗚咽しようとする。
だがそう決めつけるのは早い、しっかりしろ俺。
「まだ確認、してねえだろうが…!」
俺に言い聞かせ、身体を奮い立たせる。
何を勝手にネガティブに決めつけてんだ馬鹿野郎。
「い、行くぞ!」
意を決し、ついに俺は男の状態を確認するため歩き出す。
まさかここまでチキンハートだとは思わなかったぜ、ちくしょう。
俺自身への評価点マイナス。
そんな自己嫌悪に陥りつつもついに男の所まで辿り着く、偉いぞ俺よく頑張ったな。
なんて、ナルシーなことを思いながら俺は男の顔を見た。
「うわ、白目ひんむいて泡まで噴いてるよ…」
形相は明らかに酷い、が身体はピクピク動いているためどうやら死んではなく気絶しているようだ。
「ったく、内心ヒヤヒヤしたぜ…おーい、もしもーし」
俺はとりあえず男を起こすべく額をぺちぺちしたり頬をむにむにしたりしてみる。
こいつ、頬毛すげえ!てか髭濃っ!
触りながら無駄な発見をしつつ起こすこと3分。
男「う、う~む…?」
「あ、起きた。もしもーし大丈夫ですか?」
男「え?あ、ああ…!?う、うおおおお!?」
目を覚ました男は俺の姿を見て飛び起きるとあの筒のようなものを俺に構えた。
え、ちょっと待って、それってつまり―
(俺、やばいんじゃね!?)
明らかに敵意丸出しの攻撃態勢。
そして先程見た限りかわせそうにはないスピードの大水玉。
かわした先の薙ぎ倒された木々。
イコール―
(あ、やべえ。殺されるかも)
そんな最悪中の最悪な答えが頭に浮かんだ。