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新天地へようこそ

作者: 衣良 儀一

 灰色の空の肌寒い昼下がり。弱々しい日光を浴びながら、老人は空を仰ぐ。老人は苦悶の表情でもがくような姿で固まっていた。その老人の身体は、石の様に堅かった。表皮は緑色をしており、おそらくは雨風にさらされた所為で、所々汚れていた。

老人は人々から彫刻と呼ばれており、噴水が備わる公園にあった。

公園は、彫刻で溢れかえっていた。

楽しそうに球遊びをする子供と、子供達の保護者が不安そうにお喋りをしている様子が伺える。

全員足しても五人に満たない。

子供が蹴った球が、老人に当たる。だが、老人は痛みはおろか、感触さえ感じることは無かった。そして勿論、球を拾って子供たちやその保護者に警告すると云うことも出来なかった。

「新天地へようこそ」

機械仕掛けの清掃人形が、子供達に向かって挨拶をした。

その後、何事でもない様に老人の身体を削り始める。


西暦2514年、この頃から深刻な大気汚染、疫病等が大流行し人口が激減する。

それから二百年後の西暦2715年頃には、人口は全盛期の千分の一を下回っていた

そして、新天地を求めた人類は、地上を見限り、大規模な地下シェルターへ避難していった。

技術を総動員して建造された地下シェルターは、素晴らしく快適なものに仕上がっていたが、収容人数が少ないのが欠点でもあった。だが、皮肉なことに、汚染が進み人口が激減したため、都合よく全ての人々を受け入れることができた。

人々が新天地に移り住むと同時に、全ての国は統合され、新政府が誕生した。

さらには地下に移り住んだ後も、様々な発見、発明がなされ国民は快適な生活を送っていた。人類が地下に住むことが当たり前の様になり、長い月日が経とうとしていた。

西暦3016年、政府は新たな問題に直面していた。

地下シェルターは、その後も段々と拡張されていったのだが、ここに来て人口増加抑制の為のあらゆる政策が上手くいっていない様子だった。今はまだ大丈夫ではあるが、百年、二百年後には、シェルターを拡張しても間に合わなくなるであろう事が予想された。

そこで、政府は新たな対策として、地上への移住計画を立てる。

現在の科学力を持ってすれば、地上に移り住むことが可能だと、政府は判断したようだ。

そして計画は動き出す。

厳重な防護服を着込んだ先発隊が、少しでも都合の良い土地を探す為、不毛の大地へ旅立った。程なくして土地は確保された。

その後、最新の人工知能を搭載されたコンピュータが機械を操作して、住居を次々と建てていった。

住居を含む施設には地下施設からの直通の物資配給ラインが通る。

勿論、地上からの汚染物質が入らない様、五段階からなる厳重なる検査が行われる。

それらも含め、掃除、洗濯、炊事など全て機械による全自動で行われる。

受け入れる用意が整うと、いよいよ応募者を募る。はじめの応募者は予想より多かった。

人数を絞るため、コンピュータによる公平な審査で抽選が行われた。

選ばれた第一陣百五十名は大衆の歓声を浴びながら政府の職員と共に地上に旅立った。

地上の様子は、稀に送られてくるのみであった。大空を仰ぐ家族。公園で遊ぶ子供達。

そのどれもが地下となんら変わらない。空があるだけだった。

そのため、地下シェルターで悠々自適な生活をおくる国民達は、地上への関心をそれほど持たなかった。

一部の者達だけが、地上行きを熱望した。

それから二百年経った。

その間、年間八千人弱、のべ百五十万人が地上に旅立った。

地上では、機械のメンテナンス、医療、犯罪の取り締まりに至るまで、全て機械がおこなっていたため、生活は快適なはずであった。

試験的とはいえ、生きる事が不可能とされていた地上に、人類の技術を尽くして誕生したこの楽園は、個性豊かな彫刻が彩る街に発展した。

地下シェルターに普及しているテレビのコマーシャルにも、脚色された映像が映し出され、案内役の機械人形がお決まりの文句を云う。

「新天地へようこそ」

しかし、公にされていないものの、地上進出には相当の犠牲があった。

二百年前地上に降りた人々は、汚染された大気に含まれる有毒物質を吸い込むことにより身体が石化するという事態に苦しめられた。その有毒物質を吸い込んだ者は、徐々に石化し、終いには全身が鉱物となってしまうのだ。それはまるで人間の彫刻であった。

街は、あっというまに彫刻で溢れかえった。

街を諦めた政府は、地上行きの便をコンピュータの自動制御に切り替えた。


今日も新天地に訪れる人々を迎える機械人形の姿がある。

そして、いつもの文句を並べる。

「新天地へようこそ。お住まいはこちらです」



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