僕は紫の野菜☆
今日もだけれど、ここ数日の天気は良くない。雨の日が稼ぎ時の職業の人も居るので「悪い天気」とは言わず、天気予報では〝ぐずついた〟と表現される様な空模様。
「よーし、じゃあ点けるぞー」
人造恐竜用ケージに設けられたフルスペクトルライト。ケージ外の壁面に設けられたその点灯スイッチを押すと、ケージの中には人工的に作られた太陽光が降り注いだ。
その光を浴びて、サラもレモンも満足そうだ。スマンネ、こんな紛い物の太陽で。まぁそれは、俺達のせいって訳でもないけどさ。
様々な脊椎動物の採用部分を積み込み、現代に生まれてきた人造恐竜。
雑多な生物の遺伝子が組み込まれて管理はしやすくなっているが、だからと言って雑に扱っていい訳でもない。現生の爬虫類と同じく彼らもまた、その骨格を十分に成長させる為には適切な日光浴が必要だ。
しかも邪竜との戦闘を目的として生み出された身だ。その体の成長速度は著しく、十分な紫外線を浴びなければ健全に成長する事はできない。
……本当はさ、外で本物のお日様を浴びせてあげるのがベストなんだよ。だけどこうも曇ってちゃな。そこんとこ、許してちょんまげ。……ねぇ、笑ってよ。
* * * * *
モニター越しにサラとレモンの様子を見ながら昼食を取る。
幼竜用ケージ前の給湯室。俺の他に誰もおらず、のんびりと食事ができる。……べ、別に友達がいない訳じゃないんだからね! 食堂に一人で居るのが恥ずかしいとか、そんな……ごめんなさい。少し前まで本当にそういう状況でした。
でも今は一緒にご飯食べる友達……って言うか同僚? そう言う間柄の人はいる。だからご心配なく。それでも今日は修大が休みだし、サラとレモンの様子を見ていたいからケージ前の給湯室で食事を取っているんだ。
それにしてもトマトヌードルは美味しいねぇ~。いつもは自前の弁当だけど、たまにはカップラーメンもいいな。トマトとラーメンの組み合わせとか、最初に考えた人は天才だよ。すごく合ってる。
あっ、決して名字が「篭目」だからトマトを推してる訳じゃないですよ! ただ単に好きなだけです。因みに野菜ジュースでは紫の野菜が好きです! CM待ってま~す! なんちゃって☆
《今晩から関東地方の天気は荒れる模様。場所に寄っては竜巻などの恐れも――》
テレビのない給湯室で食事のお供になってくれるのは、このラジオだけだ。ダイヤルを回して選局する様なアナログ仕様だが、感度は悪くない。まぁ、十二時四十五分になったらワンセグで連続テレビ小説見ますけどね。今年の流行語は「じぇじぇ」で決まりだよ、多分。
しかし今晩の天気は荒れるのかぁ……ちょっと風が強くなっただけでも怖がってたし、アイツら大丈夫か?
「予報通りに荒れてきたな……」
一人暮らしが長いと、独り言が増えるんです。だから窓の外を眺めながらこんな事をぼやくのも、決して珍しい事ではないんだからね! ……いや、やっぱり俺だけか。希人ちゃん、ちょっとショック。……なんか俺、気持ち悪いね。失礼しました。
吹き荒ぶ強風と大粒の雨が、俺の部屋の窓を叩き続けている。
水槽の中で解凍したピンクマウスを飲み込むコーンスネークのマリア。外の天気にも、こいつはあまり動じてなさそうだな。オレンジ色した体を膨らませ、美味しそうにネズミの赤ちゃん(の死体)を召し上がっています。
続いてヨツユビハリネズミのイガジロー君。……は、ガリガリとペレットフードを齧っています。美味しいですか? ……そうですか。なら満足です。
あとはヒキガエルのぶふぉ太……あっ、コイツ昨日Lサイズのフタホシ五匹も食ったじゃん! じゃあ今日は特にやる事ないな。まぁシェルターの中から、ず~っとこっち見てくるけどね。そんなに見つめたって、俺は契約して魔法青年にならないぞ!
……と、取り敢えず俺んところのペットさん達は心配ないようだ。元々が「ご主人様がいないと無理! 寂しいのは嫌!!」って言う動物でもないからな。
だけど、アイツらはそうじゃないんだろうなぁ~。見た目的にはバリバリの爬虫類なんだけどさ。なまじ頭が良くて人間に依存する分、不安だろな。最終的には俺が住んでる二階ぐらいの高さまで成長するとは言え、まだワンちゃんサイズの子供だしね。
「仕方ない……ちょっと様子見てくるか」
そう独り言を呟いた俺は、化繊のスウェットを脱いでジーパンに履き替える。お洒落着ではなく純粋な作業用なんで、デニムではなくジーパンです。
部屋着用のTシャツの上からはパーカーを羽織ってと……無地の茶色パーカーとジーパン。「ちょっとそこのコンビニまで」くらいなら問題ない格好だろう。まぁ、俺の宿舎の傍にはコンビニないですけどね……。東京湾の上で暮らすのは不便だなぁ……。