拝啓 リア充の皆様へ
遺伝子操作の元生み出された人造恐竜。
アルバートサウルス・サラのブリーダーである篭目希人は、同僚の木野修大と共にそれぞれが受け持つ人造恐竜の習熟度試験へ向かう。
彼が受け持つカルノタウルスのレモン、そして希人が受け持つサラも、危なげなく試験をクリアした。
しかし、規定の試験を終えた彼らに課せられたのは、強力な邪竜型ロボットとの模擬戦闘だった。
その圧倒的な力に友軍は疲弊し、次々と脱落していく。
だが、希人と修大はサラとレモンに的確な指示を与え、その難関を潜り抜けるのだった……。
世間様は今日までゴールデンウィークらしい。が、俺には関係ない。
と言うか、社会人になってからゴールデンウィークに休める仕事に就いた事がない。
……まぁいいけどね。どうせ〝一緒に出かける恋人〟とか〝親友〟とか居ませんし。それに人ごみとか嫌いだ。……なんだよ。別に強がってなんかいないぞ!
まぁ、空は生憎の曇天だ。ついでに風も強い。ここ数日の天気は悪い。
やれ「ゴールデンウィークだ! 遊ぶぞぉ~!!」と羽を伸ばそうとしたリア充御一行様。
ご愁傷様ですね! お祝い…………ではなく、お悔やみ申し上げます。本当、ご愁傷様♪
「グゥウ……」
「はいはい、ご飯ね」
鉄格子の向こうから「お腹空いたぁ~!」と言わんばかりの声がする。人の言葉を持っていなくても、生きとし生きるもの全てが持つ欲求と言うのは本当に判りやすい。
声の主である恐竜は、翠玉の様な瞳で俺を見つめてくる。
名前はサラ。紅白の更紗模様から俺がそう名付けた。俺が育てる可愛い仔恐竜だ。
ついでに今日は修大が非番なので、隣のケージに居るレモンの分も餌を用意しなければならない。レモンのほうはサラと違い聞き分けが良く、お行儀よく待っている。……うん、サラもこれくらい出来る様にしないと!
「ほら、ちゃんと食べろよ」
サラとレモンのケージにそれぞれ餌皿を入れる。解凍した鶏頭の中にサプリメントを入れ込んだものが、今日の餌だ。アルバートサウルスのサラとカルノタウルスのレモン、まだ小さな肉食恐竜たちは鶏頭を美味しそうに呑み込んでいく。
それにしてもサラは器用だな。一度口に入れた肉からサプリメントだけ取り出して吐き出すとか……って、ちゃんと食べなさい!
まぁサラの方は順調に成長しているからいいけど。レモンの方は……う~ん、まだちょっと華奢だなぁ。拒食気味だった頃の影響がまだ尾を引いてるのか。でもレモンは今日のサプリメントもちゃんと食べてくれてるし、持ち直してきてはいるな……よし!
サラやレモンの給餌記録をつけようとした時、尻のポケットに入れた携帯が震えた。ヤダ……感じちゃう!
取り出して見ると、修大からのメールだった。「レモンはちゃんと餌食べた?」……って、そんなに心配なら見に来ればいいだろ。お前が居る宿舎の方がここ近いんだし。
ってか、修大君は早起きだね。俺が休みだったら、このくらいの時間はまだ寝てるわ。
彼は寝てなくていいんですかね? 寝る子は育つっていいますよ? 成長期は過ぎてしまいましたが、諦めたらそこで試合終了だよ? まっ、俺が修大のセコンドだったらとっくにタオル投げてますが。「170センチの壁は厚かったんだ……諦めろ、修大」ってね。
どうでもいいけど「諦めたらそこで試合終了だよ」って何のスポーツの漫画だっけ? スポ根とか読まないから分かりません。
「ブゥウ……」
「ん? どうした、レモン」
レモン何かに脅える様に声をあげた。鮮やかなイエローの体を縮こませている。ついでにサラの方もちょっと不安そうだ。
そう言えばさっきより風が強くなってきたな……天窓を叩く風の音も大きくなってる。もしかしてそれが恐いのか? う~ん……どうしたもんか。
と、考え込んでいたら突風が吹いた。轟音を伴って通過していく強い風に、小さなこの仔恐竜たちは本能で恐怖を感じている様子だ。
『高い知性と優れた五感を持つ人造恐竜』……そうは言っても、まだ子供だもん。恐いものは恐いよな。
……今日は俺の他に誰もいないか。
よし! ならいいだろ!
「サラ、レモン……」
……さっきまでの不安そうな様子はなんだったのか? 今は二頭ともスヤスヤ夢心地です。
本当、良かったわ。でも、俺はちょっと無理しちゃったかな? やっぱりブランク作っちゃうと、ちょっと息切れしちゃうね。今日からまた腹筋とか再開しようかな……。