仄暗い海を見つめて
窓の外に映し出される夜の海は仄暗く、そして冷たい。陸を賑わす人の営みや灯りも、夜の闇に染まった海中までは届かないのだろう。
ここはパンゲア基地内の休憩室。人工島の浸水部に設けられたこの部屋は、窓から海中を眺める事ができる。もっとも、既に日の落ちた時間に映し出されるのは、一面に広がる暗黒だけだが。
「お疲れさま! こんなところで何してるの?」
渓流に響くカワセミの様に澄んだ女性の声。背後から掛けられた声に、ベンチに腰掛けていた亘は振り返る。そこにいたのは、ハニーブラウンのショートヘアが瑞々しい印象を与える童顔の女性だった。
「あぁ、天貝か」
抑揚のない亘の声には、「なんだお前か」と言うニュアンスが込められていた。再び書類に向き合う彼に歩み寄り、天貝と呼ばれた女性もその書類に目を向ける。長いまつ毛に縁取られた色素の薄い瞳からは、色香が漂う。だが亘はそんなものに気を取られるでもなく、真っ直ぐに書類を見つめていた。
「全く驚いたよ。俺としては無茶振りをしたつもりだったんだがな」
亘が見ていたのは、今日行われた『人造恐竜習熟度試験』の結果が記された一覧表だ。驚愕なのか喜悦なのか、感情が読み辛い切れ長の瞳。しかし目の奥にある輝きは、しっかりと受験者一覧の中にある二名と二頭に注がれている。
彼の視線が注がれている名前欄に、女性も視線を向ける。そこに記された名前は、彼女にとってもよく見知った名前だった。
「おぉ~! 篭目君も木野君も流石だねぇ~」
「ほう……こいつらを知っているのか?」
「うん、まぁね。とってもいい子達だよ! ついでにブリーダーとしての技能もかなり優秀かな。『知恵と洞察力の篭目君、技術と感覚の木野君』って感じかな」
「そうか……」
――ならば予定よりも早く実践投入しても良いかもしれんな。
邪竜を模したロボットに対し、善戦どころかそれを打ち倒した二頭の仔恐竜。そして二頭を育てる二人の青年。彼らもまた、大河の様な運命と対峙する小さな魚なのかもしれない。
【機甲猟竜DFの世界観に初めて触れていただいた方へ】
お目通しありがとうございました。DF本編をご覧になっていない方でも楽しめる内容を目指しましたが、いかがでしたでしょうか?
もし希人や修大の活躍(?)を読みたくなったり、サラやレモンに興味を持っていただけたのなら、『機甲猟竜DF』(N1819BP)本編もどうぞよろしくお願い申し上げます。
※ちなみにDF本編は三人称視点で描かせていただいております。
【機甲猟竜DFの番外編としてご覧いただいた方へ】
いつも私の拙作に足を運んでいただき、誠にありあがとうございます。
さて、このエピソードは、全体を通しての構成を練っている際、
「早く主人公恐竜の戦闘を描いた方がいいよな……」
と言う考えに至り、全体を通してのテンポを重視して削ったエピソードであります。
初期の段階ではこの試験での成果が亘君の決断を促し、第四話の展開に繋がる展開になっていました。ですが三話時点でも彼の焦りは描きましたし、ここは削っても大丈夫かな? と、削ったエピソードになります。
果たしてそれが良かったのか悪かったのか……作者自身では何とも判断し難い問題です。その辺りにもご教授いただけたら助かります。
まぁ書き始めた本当の理由は、柴犬サイズのサラやレモンのエピソードをもっと描きたかったからだけなんですけどね(笑)
実はあともう一本、番外編用のエピソードを用意しております。近日中にそちらも公開予定ですので、どうかよろしくお願い申し上げます!
2013/10/21
結日 時生