ムカシバナシ
世ノ中、見ナイ方ガ良イ話モ御座イマス
触レヌガ吉ト思シ召セ
むかぁしむかし、或るところにおじぃさんとおばぁさんがおりました
おじぃさんは山へ芝刈りに
おばぁさんは川へ洗濯に
子は失いましたが一粒種の孫は残り、それはそれは可愛らしいその仔と何変わることもない日々を過ごしておりました
そんな代わり映えのしない日々の果て、村を飢饉が襲います
年が明けた時、笑顔をふりまいていた孫は亡く、二人っきりになりました
悲劇も今は昔
飢饉の傷跡も薄れ、また淡々と日々が続きます
おじぃさんは山へ芝刈りに
おばぁさんは川へ洗濯に
とあるそんな日に、おじぃさんは山から一人の幼子を連れて帰ります
神隠しに逢うたか
野武士に襲われたか
はたまたアヤカシの餌と見込まれたか
仔はただガタガタガタガタと身を震わせて口も利けぬ有り様で
樹の虚に身を寄せて、瘧のように震え怯えるその仔を見つけて連れ帰ったそうな
さても憐れな此の幼子を、二人は育てると決めました
何くれとなく世話を焼き、まるで孫が黄泉還ったかのように可愛がるのです
怯え続ける仔に、辛抱強く笑みを向けて
痩せこけた仔に、乏しい自分の喰い物を分け与え
汚れて饐えた臭いの仔に、ようよう集めた芝を燃して湯を使わせて
二人の心づくしが続き、時も経て、ようよう心の傷も癒えたか、幼子も笑みを浮かべるようになりました
蝶よ花よ
掌中の珠よ
飢饉で失せた孫と同じく
貧しいながらも精一杯の飯を喰わせて育てた幼子は
いつしか山のふもとで草木に埋もれるあばら家には不似合いなまでの、麗しい女子となりました
目を細めて二人は娘を眺めます
アァ、目に入れても痛ぅないのぅ
エェ、ほんに。食べてしまいたいわぇ
無邪気な笑いを取り戻した、幼子が笑みこぼれます
再び飢饉が襲います
おじぃ、おばぁ、おなかすぃたよぅ
くぅくぅと腹を鳴らして、飢えを忘れた娘が嘆きます
嘆き疲れて眠る娘を爺と婆が眺めて曰く
やれ、しようのない仔じゃのぅ
ほんにのぅ
苦味を浮かべて爺と婆が笑います
にたりにたりと嗤います
こらえきれぬと言わんばかりに
笑みこぼし
涎をこぼし
ココカラサキハミチャナラヌ
ココカラサキハキイテモナラヌ
ゴトン
ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁぁ
ぐえぇえぇぇっぇぇぇぇぇえぇ~~~
ぐちゃりぐぢりぎぢぎぢぎぢ
ごぉりごぉり
切れぬのぉ
ほんに、骨が面倒じゃのぅ
くちゃくちゃ
ぞぶりぞぶり
こりりこりりり
ぅぎぃぃえぇぇぇぇえいぃぃぃああぁぁぁぁぁいああぉぉぁああおぁぁげえぇぇぇぇ~~~
あしぃ
ゆびぃ
しりぃ
ぎぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぎぃぃぃぃいぃいいっぃいぃぃいいぃ~~~
ごろじでぇ
もぅころじでぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇ~~~
なんのなんの
まだまだ
まだまだ
冬はまだまだ長いでのぅ
ほんにのぅ、今息の根止めてしもうては腐れてしまうわぇ
ぐちり
ずずずずぅ
ぺちゃ
おや、目玉はわしじゃ
いや妾じゃて
では片目ずつじゃのう
しよぅのない
せいぜぃしゃぶらねばの
じゅるじゅるじゅる
まだ生きておるかのぅ
まだまだ
まだまだ
孫は二月生きたでのぅ
そうじゃのぅ
ワシらの手際もあがっとろうて
ほんにのぅ
三月はいけようか
・・・おや、蛆じゃ
珍味じゃ珍味じゃ
ぉじぃ・・・ぉばぁ・・・
・・・もう・・・じなぜでぇ・・・
また年が明け、あばら屋には爺婆二人っきりが残っておりましたとさ
とっぴんぱらりのぷぅ