放課後
ボールを受ける。前を向く。走り出す。
恋愛はサッカーと似てるな、と新島百合は近頃そう思うことが増えてきた。
恋をする。まっすぐな思いをもつ。そして付き合う。
自分たちのようだ。
百合はサッカー部のマネージャーをしていて、一ヶ月ほど前から同じサッカー部の早水涼太と付き合っている。涼太から告白して付き合うことになったのだ。涼太は女子からとても人気がありバレンタインデーには毎年チョコを数えきれないほどもらっているのだが、お返しはしない。
本人いわく、「返すと勘違いされるから」ということらしい。
そんな涼太から百合は告白されたのだから、友達はもちろん学校中で一時期はすごく騒がれた。
しかし、一ヶ月がたち、やっと今は周りも落ちついてきた。
部活が終わりミーティングも終わり解散となった。
「帰ろ」
涼太が鞄をもって走ってきながらそういい、百合の隣に並んだ。
「うん」
二人は歩き出す。
「…近いよ」
「なにが?」
「…早水くん」
「近くねーよ、別に。」
「近いよ」
再度そう言って百合は恥ずかしがり下を向いた。
百合はかなりの恥ずかしがり屋で、涼太の方は平気なのだが、百合の性格によって未だ手も繋げずにいる。お互い友達から遅い遅いと言われ、涼太的にはそろそろ百合と手ぐらいは繋ぎたかった。
「なぁ百合。俺のこと涼太って呼んでよ」
「…恥ずかしい」
「一回呼んじゃえば平気になるからさ」
「でも…」
「俺も百合って呼ばないよ」
「…」
「いやだろ?」
「…今日は…とりあえず…。…今度…」
こうやっていつも交わされてしまう。仕方なく涼太は今度を待つことにした。
二人は公立中に通っているため家はわりと近い。そのため、涼太は百合と一緒に帰る時は百合を家まで送っていく。
名前は呼んでもらえないけど手くらいは、と涼太はこの帰り道に賭けることにした。
手は繋ごうと思えば普通に繋ぐことは出来ると思うのだか、涼太は無理矢理そういうことはしない。それが彼の良いところだった。
比較的積極的ではあるが本人のペースには合わせる。
しかし、さすがにそろそろ、と思ったのである。
「なぁ百合?」
「うん?」
「手、繋いでもいい?」
涼太は聞いて見た。すると百合は顔を真っ赤にしてうつむいた。しかし、首は振らない。かといって肯定をするでもない。
「いい?」
「…」
「…百合?」
「………いいよ…」
涼太は少し驚いたが、気が変わる前にと思い、けれど気持ちの昂りを必死に押し殺した。
百合との距離を自然に縮める。左手を百合の右手へ近づける。指を百合の指と絡ませ手を繋ぐ。一瞬、百合は身体を硬直させたが繋がれた手を見つめ自分も握り返した。
涼太といえば、百合の手に少々興奮していたが、それでも手を繋げたことに満足していた。