GW中、次期魔王、街でデート中
勇司視点です。
タイトルが明良視点と微妙に違うのはいわずもがな。
僕は明良と並んで城門までの道のりを案内していた。途中、すれ違う侍従・侍女はては護衛兵さえ、明良に愛想良く、僕に対しては、不気味なものを見る目で見て、その後、無理やり見なかったことにして(現実逃避とも言う)視線をそらし、そそくさと立ち去っていった。(護衛兵は完全に僕をスルーした。)挨拶するのはまぁいいとして、さすがに人数が多いとイラッとしてくる。せっかく明良と2人きりなのに。邪魔するな。だんだんと全身から黒いオーラを出してるとやっと城の大正門が見えてきた。
さて、貴族の屋敷なんて明良は興味がないだろうから(どうせ『敷地面積広いな。土地の狭い日本人からしたら羨ましい』ぐらいだろう)、サラッと軽ぅく説明して、とりあえず明良の興味がありそうな、スイーツ・雑貨から案内しようか。
城の正門の門番に挨拶をして、城を出ると街は小高い丘に建つ城の麓に広がり、ちょうど城は街の真北に位置していた。
街は段々畑のように城を中心に高い壁で何十にも囲まれ、まず城のすぐ南側、城に近い一区は公爵貴族、その下の二区は侯爵貴族、三区は伯爵、四区は男爵、五区が子爵と街に近いほど貴族の爵位が下がっている。
城を出て待機していた馬車に近寄り、明良に手を差し伸べた。
「お手をどうぞ」
差し出された手に、少しビックリした顔をした明良は、数瞬考えて、ニッコリ笑って
「ありがとう」
と言って、僕の手のひらに手を乗せた。
この感じからすると、おそらく、きっと、多分いや絶対『めったに無いことだから、淑女気分でも味わおう』ってなところかな。いいんだよ、地道にコツコツじわじわ周りから攻めて攻めて逃げられないようにするから。
きっと僕が明良を恋愛対象として『女の子』扱いなんてしてるとは思わないんだろうなぁ…。
ちょっぴり凹んだけど立ち直って(我ながら切り替えが早いな)、明良を馬車に乗せた。
後から馬車に乗り、明良の左隣を確保してドアを閉めると馬車が動き出した。
明良はトコトコ進む馬車に珍しそうにしながら、好奇心を抑えきらなくなり、
「どこまで行くの?」
と聞いてきたので、街の北門までだというと、窓の外を見てみたいと言ってきた。
まぁ、見てもどうと言うことは無いので、許可を出すと、明良は窓のカーテンを開けて窓の外を眺めた。少しだけ、貴族の屋敷を眺めたと思うと、町並みを眺めては『街灯のデザインが可愛い』『石畳の地面って、なんかいいよね』とはしゃいでいた。明良、君のほうがかわいいよ。
そうこうしているうちに北門が見えてきたらしい。
「あれが北門?」
明良が振り返って尋ねてきたので、僕は明良の後ろから窓の外を覗き込んだ。
「あぁ、そうだよ。北門で降りて昼までたっぷり時間あるから、じっくり観光できるよ。帰りも馬車だから、たっぷりはしゃいでも大丈夫」
「わーい、じゃぁ雑貨とおやつのスイーツ買いたい」
「まかせといて、ちゃんと人気店はチェック済みだから」
「さすが勇司、気が利くぅ!」
明良の心のそこからの笑顔に、きっと今の僕の顔を見たら城の者は倒れるんじゃないかなっていうくらいに僕は思わず微笑んだ。
北門についてまず僕が先に馬車から降り、乗車のときと同じように明良に手を差し出して、明良を馬車から降ろした。
御者に礼を述べ、昼前にここに迎えに来るように言ってから街の中に入った。
明良は相手がどんな身分のものでも態度が変わらない。
僕達魔王一家にしても、さっきの御者にしても。普通、身分の高いものは、受けるサービルに対して感謝の意は言わないし、思わない。この大陸は魔界の中でも割と民に壁を作らない貴族たちがいるので差ほどでもないが。どこでも誰に対しても態度の変わらない明良を見てると優しい気持ちになれる。
やっぱり、明良は明良だよねぇ。
僕は気持ちを切り替えて観光をしようというと歩き出した。
城下の町は屋根瓦がオレンジ色で壁が白で統一している。建物の高さも制限し、塔や時計台以外は高い建物は無いので、空が広く感じる。
地面はレンガや石畳で出来ており、このまま南に歩くと中広場で噴水があり、東西南北に伸びる大通りの道沿いに店が立ち並んでいる。
ちょうど、開店の時間帯なのでそこそこ人通りも多く、明良は初めて見る魔界の街に興味津々でキョロキョロしている。明良の歩調に合わせてるけど、明良はよそ見してばかりなので、はぐれそうだ。ほっておくと、そのままあちこちフラフラしそうなので、
繋いでいた手を握りなおした。しかも恋人繋ぎだ。っっ至福。
「何?急に」
「ん?そのままほっといたら迷子になるだろ。だからだよ。前科があるんだから。」
他意はございません!な顔で明良に告げると、明良は少し唇を尖らせて拗ねた顔をした。
「むぅ、ちょっと迷っただけじゃない。そんな何年も前の話を」
「何年も前?そんなこと無いよね、記憶が正しければ、地図を見ても道間違えたんでしょ」
「もう、お母さんね。すぐしゃべるんだから。」
「そう、おばさんから『方向音痴の癖して好奇心旺盛だから手綱代わりに手を繋いでね』って言われてるから、諦めて」
下心なんてミジンコほどもありません!な爽やかな笑顔で言った僕に
「うぅ、わかった。」
明良は自分の方向音痴を自覚してるのか、渋々了承した。
そんな明良に僕は念願の恋人繋ぎをしているという現実に幸せを感じて微笑み、明良の歩調に合わせて、歩き出した。
噴水から西側が雑貨・スイーツの店が多く東側は武器・防具類の店が多く、北側はドレス・紳士服、南側が食料品。
大通りを通ると遠回りなので、近道をすることにした。裏道でも魔王城の城下町だけあって、治安はいい。まぁ、裏道とはいっても、道幅は広く、道沿いに店が立ち並んでいるので、明良は好みの雑貨やスイーツの店を見つけるたびに、立ち止まり、眺めていた。
すれ違う街の住人が終始笑顔の僕を見て顔を引きつらせ(失礼な)、明良を見て涙ぐみ(生贄を見るような目は止せ)、繋がった手に小さな悲鳴を上げ(僕に捕まった明良に同情か)、口元を手で覆うのを見て、僕は明良に気づかれないように視線だけで黙らせた。
すると、とたんにあからさまな態度はなくなったが、さすがに明良が僕を複雑そうな目で見て、何か納得したのか視線を完全スルーしだした。
まぁ、いずればれるだろうから、帰りの馬車の中でも話そうか。
そう決意をして、店先に並んだ商品を眺めてる明良に
「欲しいのがあったら、遠慮なく言って。ちゃあんとお小遣いはあるよ。あばさんから貰ってるから大丈夫」
「ホント?でも、物価が分からないから、高いのか安いのかわかんないわ」
明良に魔界での貨幣の種類と価値を教えると物価が安いことに喜び、俄然買い物に燃え出した。
「人気の雑貨店とスイーツの店が近くだから、行こうか」
「おぉ、さすが勇司」
喜ぶ明良の手を引いて、件の雑貨店に向かった。
さぁ、明良と僕の楽しい初デートだ。
ええそうです。
明良は『勇司と観光』勇司は『明良とデート』のつもりです。
次で観光は終わるはず。