GW中、勇者の娘、街を観光中
たいへんお待たせしました。
観光編が終わらない。次こそ終わるはず。
まずは明良視点です。
魔王城の正門まで勇司に案内をしてもらい、あっちに地下牢があって、そっちに書庫-重要書類や禁書が保存されている-の場所を説明され、勇司にまた説教しつつ(説教されてるのに勇司はニコニコ顔なのは何故?謎だ)、魔王城の正門が見えてきた。
さすが、魔王城だけあって、天井高いし、高そうな壷やら花を挿した花瓶やら、床は大理石で真ん中に長ーい絨毯を敷いてて、足音を消してるの。スゴイふかふか。雨の日とか靴の裏洗わなきゃ。汚れちゃう。
ここに来るまで侍従さんたち(なのか文官の人たちなのか分からないけど)や護衛兵たち(要所要所にピシッと背筋を伸ばして立ってる)が、あたしにすれ違う度に
「おはようございます。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「おはようございます。今日はいい天気ですので、観光を楽しんでらっしゃいませ」
等など、丁寧に頭を下げて挨拶してくれる。なんて、いい人たちなんだ。こんな小娘に。まぁ、そりゃあ勇者の娘で、魔王一家の客と言えば客だけど、すごいな。なんか一流ホテルのコンシェルジュみたい。VIPな気分になっちゃうね。ただの女子高校生だけどね。
挨拶される度に、あたしは
「おはようございます。ありがとうございます」
とか言ってるんだけど、いい加減二十人を超すと、ちょっとしんどいぞ…。
どうなってるんだ?
その間、勇司はあたしの隣でニコニコ。延々ニコニコ。
さらにすれ違う人皆、勇司の顔を見て一瞬固まるんだよね。何故?
珍しいのか?勇司の笑顔。結構な頻度で見てるけどなぁ。
不思議に思いつつ、歩いてたら、やっと正面玄関に着いたー。ホッとしてたら、
「明良、馬車に乗るよ。」
って言われて、あたし達の前に馬車が止まった。
勇司はあたしに右手を差し出して、
「お手をどうぞ」
ってお前は王子様かーっって、あ、魔王子?そんな言葉は無いか。ま、いっか。ここにいる間だけだもんね。数瞬考えて、ちょっと淑女になりきって
「ありがとう」
と言って勇司の右手に左手を乗せて馬車に乗り込んだ。なんだか照れちゃうな。後から勇司が乗って馬車のドアを閉めると、トコトコと馬車が動き出した。
「どこまで行くの?」
左隣に座った勇司に聞くと
「このまま街の北門までだよ。城は街の北に建ってるからね。正門から北門までが貴族の居住区なんだ。少し距離があるから、徒歩だと観光する前に疲れちゃうよ。」
「へぇ、そうなんだ。ねぇ、窓の外ちょっと覗いてもいい?」
「もちろん」
あっさり許可が下りたので小さな右窓のカーテンを開けると、立派なお屋敷が、遠くに。壁が長いよ。門はどこ?門から屋敷の玄関まで徒歩だとしんどそう。朝なんて寝坊したら遅刻しそう、不便だな。
貴族だけあって敷地面積が広いのね…。日本人にはうらやましい限りだわ。
地面を見ると道幅はすごく広い。石畳で整備されてて、馬車が横一列四台ぐらい並べそう。あ、等間隔で並んでる街灯がカワイイ。いいなぁ。ザ・ヨーロッパみたいで。あっちキョロキョロこっちキョロキョロしてると大きな門が見えてきた。
「あれが北門?」
振り返って勇司に声をかけると、あたしの肩に顔を寄せ後ろから窓の外を見た勇司が
「あぁ、そうだよ。北門で降りて昼までたっぷり時間あるから、じっくり観光できるよ。帰りも馬車だから、たっぷりはしゃいでも大丈夫」
「わーい、じゃぁ雑貨とおやつのスイーツ買いたい」
「まかせといて、ちゃんと人気店はチェック済みだから」
「さすが勇司、気が利くぅ!」
満面の笑顔で勇司を褒め称えてると勇司はそれこそ蕩けそうな顔をした。
北門に着くと勇司が最初に降りて、あたしに右手を差し出した。
「お手をどうぞ、明良」
乗車の時と同じ台詞に、淑女気分を満喫しようとあたしは
「ありがとう」
と勇司に礼を言って右手に左手を乗せて馬車から降りた。
「じゃあ、昼前には城に戻るから、迎えを頼む」
勇司は御者さんにそう言うと
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
御者席から降りたその人はそう言うと軽く頭を下げた。
「送っていただいてありがとうございました。お迎えもお願いします。行って来ます。」
御者さんにお礼と迎えのお願いを言うと
「もったいないお言葉です。お気をつけて楽しんでくださいませ」
と御者さんがあたしにも頭を下げてくれるので、あわててあたしも頭を下げた。
「では、また後で」
勇司はこのままでは一向に街に行けないと思ったのか(おそらく正解)、話を切り上げて、あたしの左手を握って街に入った。
あたしは振り返って軽く会釈をして勇司の後について行った。
「んもう、勇司待って。」
「いつまでも御者と頭を下げ合いしてたら、時間がなくなるだろう。」
「そうだけど、せっかく送ってもらったんだからお礼を言うのは礼儀でしょう」
「明良はどこでも明良だね」
「?そりゃそうよ。あたりまえじゃない。場所であたしがコロコロ変わる訳無いでしょ。」
「あんまり、良く分かってないだろ明良。」
「うん?そんなこと無いよ、多分」
良く分からないことを言う勇司に答えると勇司はハァ~とため息をついて、あたしを目を細めて微笑んだ。なんだ、その微笑みは。『お馬鹿さん』って顔に書いてるよ。
いや、分かってるよ。仮にも魔王一家の客なんだから、『サービス受けて当たり前』までとは言わなくても、堂々としてろってコトでしょ。でも偉いのは魔王一家であってあたしじゃないし。ましてや、ただの女子高校生のあたしに送ってもらったのに礼も言わないなんて。『親切にされたらちゃんと御礼を言うのよ』と教育されたしね。お礼言わなかったらお母さんに、どんなお仕置きされるか。想像して悪寒が走った。
深く考えたらダメだ。気を取り直して観光だ!気持ちを切り替えたあたしが横を見ると、イロイロ諦めたような顔をした勇司はまたため息をついて
「ま、おいおい説明するよ。今日はとりあえず、観光しよう。雑貨とスイーツだったね。」
と勇司は歩き出した。
あたしは、初めて見る魔界の街にキョロキョロしていると、繋いでいた手が恋人繋ぎになった。
アレですよ。指と指を交互にしてぎゅっと握るアレ。ビックリして
「何?急に」
「ん?そのままほっといたら迷子になるだろ。だからだよ。前科があるんだから。」
なぬ、いったい何年前の話よ。もぅ。
「むぅ、ちょっと迷っただけじゃない。そんな何年も前の話を」
「何年も前?そんなこと無いよね、記憶が正しければ、地図を見ても道間違えたんでしょ」
「もう、お母さんね。すぐしゃべるんだから。」
どうしてあたしの事を勇司にばらすのよ。お母さんは勇司になんでも話すんだから。
「そう、おばさんから『方向音痴の癖して好奇心旺盛だから手綱代わりに手を繋いでね』って言われてるから、諦めて」
爽やか過ぎるほど爽やかに言った勇司にあたしは反論できなかった。うぅ勇司の笑顔なんて見慣れたと思ったけど、この顔に弱いんだよねぇ。
「うぅ、わかった。」
渋々了承したあたしに勇司はそれこそ王子様のような(いや、次期魔王だけど)笑顔をして歩き出した。
噴水から西側が雑貨・スイーツの店が多く東側は武器・防具類の店が多く、北側はドレス・紳士服、南側が食料品。
勇司に通り沿いの店の種類を教えてもらいながら、てくてくと歩いていた。
さっきから道行く人、店の人が勇司の顔を見て、顔を引きつらせ、かつあたしを見て涙ぐみ、さらに繋いだ手に思わず口に手を当てて『ひっ』って小さく悲鳴を上げるのは何故。
聞きたいけど怖い。聞くのが怖い。もしかしてここでは勇司は怖がられてるの?いやまさか。
さらに二度見する人もいた。リアクションがすごいなぁ。勇司に聞いても誤魔化されそうな気がする。
うん、日本でもあまたの視線をスルーしたんだから、気にしないでおこう。でも、ちょっと気になるから城に戻ったら蘭ちゃんに聞いてみようかな。
あたしは周りの視線を完全スルーして好みの雑貨やスイーツの店を見つけるたびに、立ち止まって眺めていたら勇司が
「欲しいのがあったら、遠慮なく言って。ちゃあんとお小遣いはあるよ。あばさんから貰ってるから大丈夫」
「ホント?でも、物価が分からないから、高いのか安いのかわかんないわ」
「そうだね、平均的に物価は日本より低くて、通貨は銅貨・小銀貨・大銀貨・小金貨・大金貨の五つ。
銅貨百枚で小銀貨一枚、小銀貨十枚で大銀貨一枚、大銀貨十枚で小金貨一枚、小金貨十枚で大金貨一枚になるんだ。
日本円で言うと銅貨一枚百円、小銀貨一枚は一万円、大銀貨一枚は十万円、小金貨一枚は百万円、大金貨一枚は一千万円。
まぁ、街で多く見かけるのは、銅貨か小銀貨ぐらいだね。それ以上は貴族や豪商の買い物や取引ぐらいで使用してるぐらいだね。
だいたいランチでも二人で銅貨五枚あれば十分だよ。女性二人なら三枚ぐらいでお腹いっぱいじゃないかな。けっこうボリュームあるし」
「へぇ~安いね。じゃぁ思いっきり食べても財布にやさしいね。いいなぁ、日本じゃ五百円以上はしちゃうもんね。あっでもお昼はお城で食べるんだよね。じゃ先に雑貨を見てから、おやつになるスイーツを探そう。」
「雑貨店とスイーツの店が近くだから、行こうか」
「おぉ、さすが勇司」
ほんと勇司はそつなくリードしてくれるよね。
歩調もあたしに合わせてくれるし、致せり尽くせりなのに勇司になんで今まで彼女いないんだろうと今更ながらに不思議に思いつつ、目的地に向けて歩き出した。
次は勇司視点です。
さぁ勇司と明良の意思疎通のズレを楽しみにしてください。