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SM談義

 今日も、最初に店へ来たのはM女史の方だ。

 連れの方はなかなか来なくて、彼女はイライラしているようだった。



S氏

「よお、待ったか?」


M女史

「いいえぇ、ほんの二時間です。こないだと同じですからぁ?」


S氏

「うーん、いい笑顔。

 惚れ直すねぇ。そうそう、今日、読んだ雑誌に面白い記事があったんだ、聞いてくれよ。」


M女史

「……また猟奇殺人とか残虐事件簿とかじゃないでしょね?」


S氏

「俺はそこまで悪趣味じゃないぞ! ほら、昔、話題になった映画でさ……世界の中心で……ナントカいうヤツ。」


M女史

「世界の中心で愛を叫ぶ、でしょ? それがどうしたんです?」


S氏

「当時の週刊誌を見つけてな。面白い記事があったんだ。

 あれを評して、最近は恋愛に疲れて、皆が自分捜しを止めたがっているからだ、とか言うんだよ。

 ホラ、あの話は最後、恋人が死んじゃうだろ? 死んだってコトはそこで、愛が完結しちまうんだとさ。愛の放浪者をやめたい願望だってさ。

 ほら、今まで恋愛至上主義で、「本物の愛はドコ?」みたいなノリが多かっただろ? で、恋愛は自己責任、確証求めて苦悩する……みたいな話が王道だったろう。

 本当にこのヒトが、運命の相手なの? みたいなさ。」


M女史

「はぁ……。女性の好むシチュエーションの三大柱ですよね、

 取り柄なしの普通人が主人公でなぜかモテモテ。

 んで、複数の相手が主人公を巡って火花を散らすんだけど、決まって金持ちでルックス良くって、デキる男性ばかりですよね。

 さらに主人公は優柔不断で、自分じゃ絶対、どっちか決めないんだ。」


S氏

「そうそう、よく解かってるじゃないか。

 で、当時から、『自分じゃ決めない』が加速度的に進んでいる、みたいな話だった。」


M女史

「はぁ……そう言われれば、そうかも。」


S氏

「SMでも同じことが言えるんじゃないか? ……あれだって、見方を変えりゃ、自分で責任取るのが嫌だ、ってのが見え見えだよな。

 調教されて、洗脳されたから、本物の愛かどーかはわっかりませーん、てなモン? 本末転倒、ってか、愛ってナニ?とか聞きたくなるね。」


M女史

「……あなたの口から『愛』の定義なんて聞かされても……、」


S氏

「なんだよ?」


M女史

「いや……なんか、胡散臭い……

 ペテン師に引っ掛けられる小娘、みたいな気分なんですけど……?

 なんか企んでます?」


S氏

「世界の中心であ痛と叫んでやろうじゃないか!

 ……まあ、そんなワケでホテル予約してるんだが、付き合わん?」


M女史

「いやです。」


S氏

「即答かい。

 まあ、他人任せの恋愛がしたい、ってのが最近の傾向だとさ。

 で、他人任せに無責任な夜を過ごして、それに対する言い訳がほしい、と、そういうことだろうな。」


M女史

「ははあ……、失敗の言い訳を先に用意してから、付き合いたいわけですね? 貴方なんかさしずめ、責任取りたくないからSM好きなんでしょ?」


S氏

「ぎく。」


M女史

「読めてますよ、ちゃんと。

 マゾは包容力があって、我侭言い放題でも許してくれて、飽きて捨てても恨まれない……とか、本気で思ってません?」


S氏

「ぎく、ぎく。」


M女史

「マゾだから、冷たく捨てられるのも快感だ、なんて勘違いしてんでしょ?

ロリコンのサドなんて、最悪ですもんね。相手が弱いの解かってるから、好き放題できる、なんて……見え見えですよ、その心理。」


S氏

「……それ、なんかで吹き込まれたんだろ?」


M女史

「先日、テレビでやってました。

犯罪心理学のエライ先生の受け売りです。精神年齢が低いんだそーですよー? 聞いてますー?」


 S氏は頭を抱えてしまい、M女史はしてやったり、の笑みを浮かべて手にした水割りを傾けた。S氏がすごすごと一人寂しく引き上げた後……。



M女史

「ねぇ、マスター。

 精神年齢が低い、ってコトは、それだけ自己制御が出来ないって意味だから、犯罪に走る確率も高い、ってコトですよねぇ?」


マスター

「どうでしょうね……、

 そう言えば、スーパーフリーのとある幹部はロリコンで、12歳の少女を強姦した、と、自分のHPに書いていたそうですけど?」


M女史

「あはは、それはバカでしょ?」


マスター

「ええ。

 けど、スーフリの事件は、連帯感とか仲間外れにされたくない、とか言った馬鹿げた理由で行われていたわけですからね……素質があった、とかより、本当に犯人達の精神が幼なすぎただけ、と言われていますよ?」


M女史

「ふーん。そういうネタが大好きなあの人も、要注意ですよね。

 好きってコトは、それを肯定して受け入れる素地があるって事で……言い変えれば、幼稚だと告白してるようなものですよね?」


マスター

「そうですねぇ……、そう言えば、警察にはWeb犯罪捜査班というのがあるそうですから、案外、すでに目を付けられて、チェックされているかも知れないですね。」


 一人、カウンターでちびちびとグラスを傾ける彼女が、まじめに話を聞いているかどうかは分かりにくい。マスターは気付かれないように肩を竦めて、グラス磨きを再開した。

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