ブゥードゥーな結末
「よお、早いじゃないか。 待ってたのか?」
洒落たバーのカウンターで、遅れて入店した男が会話を始める。待っていた女性が軽く手を挙げた。どこかの会社員らしく二人ともスーツを着ている。
いつもの常連……、仮にS氏、M女史としておこう。
M女史
「……待ってた、じゃないですよ。二時間も放っとらかしにしておいて……、」
S氏
「すまん、すまん、……いや、ちょっと、込み入った事情がさぁ……」
M女史
「え? なにか、あったんですか?」
S氏
「いや、別になかった。」
M女史
「もうっ!」
S氏
「あれば良かったのになー、ってハナシだ。
それよかさぁ、小耳に挟んだ話があるんだ、まあ聞いてくれよ。」
M女史
「え? なんです? なんです?」
S氏
「興味深々だな。
実は某国でのハナシでな……、ある男が嫁の来てがない事を、その母親に相談したという。」
M女史
「……マザコンの話は、ちょっと。」
S氏
「聞けっての。……その母親の返答は、こうだ。
それは、きっと呪いがある、生贄を立ててお祓いをしなければ、ってな。
で、ブードゥーの秘術にのっとって、儀式を行う事に決定した。」
M女史
「祟りとか呪いとかも、嫌いなんですケド……?」
S氏
「聞けよ、テメェは!
……ブードゥーの儀式ってのは、あれだ、人身御供なのさ。
男は喜んで自分の姪っ子を攫ってきて、生贄にして、殺した。」
M女史
「……ヤな国ですね、そんな事が横行するなんて……、」
S氏
「ブードゥーにも色々あるそうだが、この男の宗派は、生贄を料理して食ってしまうんだ。……何十人もの客が招かれ、少女は捌かれて、肉料理にして、振舞われた。炒め物、スープ、ソテーに唐揚げ。
幾十の皿に少女の身体から取った肉が盛られたんだ。
人肉ってのは、ブタと変わらんらしいから、白くてプルプルしていたそうだぞ?」
M女史
「……マスター、さっきの注文、取り消して。
うん、唐揚げ。いらないから。」
S氏
「俺が食うんだよ! 勝手に注文、下げるな!
……少女はまだ、11,2歳だっていう。可哀想になぁ。
で、俺の話では、少女はメインディッシュじゃないから、詳しい経緯は省くとしよう。」
M女史
「残虐描写オンリーのトークショーかと思ってました。」
S氏
「面白かったのは、この後なんだよ。
無論、行方不明という事で、警察が捜査を始めるよな? で、事件が明るみに出た。男とその母親は言うに及ばず、招待客まで一網打尽。」
M女史
「ほぉ、それは良かった。……すっ、としました。さすが、警察。」
S氏
「そうか? 関係した三十数名、全員銃殺になったって聞いてもか?
……顔が白くなったぞ? 大丈夫か?
某国は国を挙げて、ブードゥーを弾圧しているからな。当然だ。
人の肉を一口でも口にしたら、銃殺刑。厳しいねぇ、くくく。
全員逮捕までの道程が、どれほど凄惨を極めたか……想像するだに、楽しいとは思わないか? 国家権力ほど、残忍なモノはまあ、ないだろうしな。ほら、唐揚げが来たぜ、食えよ。」
M女史
「……いやぁ……楽しいトークを、どうも、ありがと……。
マスター、お勘定してっ。」
S氏
「あらら。お気に召しませんでしたかね?
なあ、なあ、じゃあ、こんなハナシはどーだ?」
M女史
「いやだー、もう聞きたくなーい!」
M女史は両手で耳を塞ぎ、逃げるようにカウンターを立って、店を出てゆき……。
S氏は御満悦に唐揚げを平らげ、一言。
「はっはっはっ。長い豚(人肉)ごときが怖くて、トリが食えるか。」
とほほな夜の小噺でした、ちゃんちゃん。




