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願い

作者: 水神宮

ゲホッ、ゲホッ……

隣にいるじっち(お爺さん)は苦しそうに咳き込み、ペットボトルの蓋を開け、汲み置きしてある水をちっと(少し)飲む。

「俺も長くねぇからな。」

と言いつつペットボトルの蓋をきっちり閉める。

おら(私)は心配でたまんね。なのに、そんなおらの気持ちも知らずにじっちは、

「ばっぱ(お婆さん)、何ボケッとしてる。もうすぐメシの時間たべ。ほら、用意すっぞ。」

じっちは田畑を耕すのを止めてから、夕食の用意を進んでするようになった。昔からすっど、えらく変わっただな。田畑耕してた頃は

「メシ作っぞ。」

なんて言った事なかったのにな。

二人で台所に向かい、夕飯作り始めるおら達。

「ばっぱは目離すと危ねかんな。俺が見張ってねぇと気が気でなんね(ならない)。」

そう言ってガスコンロに鍋を置き、慣れた手つきで味噌汁を作り始めるじっち。

心配性だなぁ。そら、おらはちっとボケてっけど、メシ作る位しっちゃもんねぇ(大した事ない)。

苦笑しつつ、おらは菜っ葉を刻みながら昔に思いを馳せる。



おらはちっと土地持ちの農家の一人娘で、じっちとは見合いしてすぐ婿様としてじっちに家に来て貰い結婚しただ。

ろくに話した事もねぇ人と結婚して、不安だっただなぁ。じっちは始めからきかね(気性が荒い)人だった。

でも、婿様だからって卑屈になる事なく、よく働いてくっちゃ(くれた)。

雨の日も、風の日も、嵐の日も、雪の日も。

文句言いつつ、毎日、田んぼと畑の作物をまめたく(こまめに)世話してくっちゃなぁ。

三人の娘と息子にも恵まれた。一番目と二番目の娘と息子はじっちにそっくりだぁ。きかね所、頑固で意志が強い所。三番目の娘だけは穏やかな子だったな。おらに似ただか?

子供達が独立する迄は家ん中、騒がしかっただな。いつもじっちと誰かしらは喧嘩してたからな。



なぁ、じっち。半世紀以上も一緒にいただな。何度

「別れっか」

と思ったかしんね(分からない)。時代が時代だったから結婚指輪すら貰えなかった。でもな、おらはじっちと一緒になって良かったと思う。

咳き込みながら料理するじっち見てるとしんぺぇで(心配で)涙出そうだ。

「ばっぱ、また菜っ葉刻み過ぎだ!!全く、ちっと目ぇ離すとこれだ。俺が居ねくなったらどうすんだ。」

ぶつぶつ言いつつ、刻み過ぎた菜っ葉を味噌汁の鍋に放り込む。



気ぃ遣ってくれるのは分かってっけどな、じっち。ちっとだけ願い聞いてくんろ(下さい)。

「長くねぇ」

とか

「居ねくなったら」

とか言わさんな(言わないで)。不安になるべな。いつまでも元気でいっせ(いて)。


じっち、頼むからおら残して死なねで(死なないで)。

もうちっと二人で一緒に生きっぺ(生きよう)?

それだけがおらの願いだ…。



   〜了〜


作者、祖父母実話にアレンジを加えました。祖母は現在、こんな事を考えられる状態ではあらません。大好きな祖母の生きる証を記します。この作品は最愛の祖母へ捧ぐ。

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