表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

事故物件ファイル05:住人を拒絶する邸宅 住民のことごとくが家庭崩壊 妻子もろとも自害した戦国武将の呪い 謎の地下室と三つの壺 妻を付け狙う親友 そして幽霊が出ない『幽霊坂』

作者: 大濠泉
掲載日:2026/03/23

★本作品には図面が挿入されています。

 が、表示されない場合があります。

 そのときは右上の回る矢印マーク(リフレッシュ/更新マーク)を押すか、再度、この画面に入り直すと表示されます。運営には問い合わせ中です。

◆1


 五月末の昼下がりーー。


 私たち、竜胆(りんどう)不動産の面々は、「道の駅むなかた」の食堂にある窓際テーブルで食事を()っていた。


 この食堂は、カウンターから好みの料理皿をそれぞれが取ってくるカフェテリア方式なので、各人の前で湯気を立てている料理は違っていた。


 竜胆光太郎(りんどうこうたろう)社長は、メイン料理のあら煮に箸を付ける。

 その一方で、私、神原沙月(かみはらさつき)と、藤野亨(ふじのとおる)先輩は、ともに貝汁を(すす)っていた。

 ほんとうに旨い。


 テーブル席に着くまで、やたらと並ばされたけど、たしかに美味しい。

 特に、竜胆社長は上機嫌で、


宗像(むなかた)の道の駅は、全国的にも有名で、何かのランキングで高順位を取ってるってテレビでやってたんだ。

 ほんとうは鮮魚も買って行きたかったよ」


 と語る。

 鮮魚コーナーでは、漁師が今朝(しめ)たばかりの魚が、一本売りで並んでいるそうだ。

 魚を(さば)ける人は、特にお得な買い物ができるだろう。


 ここまで来ると、あと少しで福岡県を東へ脱けて、本州の山口県へと至ることになる。

 この地にある物件を見終えると、私たちはほんとうに九州から出て行く予定だった。


 私、神原沙月は、これまでの道のりに思いを馳せた。


◇◇◇


 十日前、福岡都心部にある、竜胆不動産のオフィスにてーー。


 いきなり、竜胆光太郎社長が、私をデスクの前に手招きして、提案した。


「近々、『事故物件買取りツアー』に出かけようと思う。

 沙月さんもスタッフとして同行してもらいたい」


 竜胆社長が言うには、最終的な目的地は、京都にある事故物件らしい。

 だけど一直線で向かうのではなく、京都へ向かう途上、寄り道をする。

 それぞれの地方で、めぼしい事故物件を幾つかリストアップしているから、それらを買取りしつつ進む旅に出ようというのだ。


「フットワーク軽いですね。

 福岡にはいつ帰るんですか?」


 と私が問うたら、竜胆社長は端正な顔を少し歪めて、天井を見上げた。


「わからない。

 下手したら、何ヶ月も帰れないかも」


 私としては、とうとうその日が来たか、という思いだった。

 竜胆不動産の本店所在地が関東の横浜だということは、スタッフとして雇用される際の契約書で承知していた。

 それに、竜胆社長は事故物件を探し求めて全国を渡り歩いていると、藤野亨先輩からすでに聞いている。

 社長が福岡に来たのは、彼の祖父が亡くなって、その遺産である福岡県志賀島(しかのしま)の不動産を得る手続きのためだという。

 その手続きが終わったのだろう。


 社長が私の表情を窺うようにして、問いかける。


「で、福岡から離れて行っても、仕事は問題なさそう?

 リフォームの計画書はしっかり出来てて、すでに内装工事に入っているって(なぎさ)ちゃんから聞いているけど」


 私は笑顔で(うなず)く。

 今現在、リフォームを手掛けている物件が、「三角地にある喫茶店」とか「博多のワンルーム」など、複数あったが、大手不動産会社の古賀渚(こがなぎさ)さんを介して、幾つもの内装会社を紹介してもらい、彼らと連絡を取り合いながら、仕事を進めていた。

 なので引き継ぎも簡単だろうし、私が何処にいてもリモートで打ち合わせが可能な状態になっていた。


「私の仕事場は、社長にお任せしますよ。

 私は竜胆不動産のスタッフなんですから。

 どこで働こうと、住むところと休暇さえ貰えれば、私は文句言いません」


「そりゃ助かる。

 だったら、十日後には福岡を発つから」


(おいおい、いくらなんでも唐突すぎません?)


 そう思ったが、私は口には出さなかった。



 そして、十日後ーー。


 藤野亨先輩が運転するワゴン車で、我ら竜胆不動産のスタッフは一路、東へと向かうことになった。


 福岡都心部からスタートして、基本的には玄界灘の海岸線に沿った道路をかっ飛ばした。

 が、その途上、宗像(むなかた)市に入った辺りから、藤野先輩は何度も嘆き節を唱える羽目に(おちい)っていた。


「ああ、宗像大社(むなかたたいしゃ)が後方の彼方(かなた)へと遠ざかっていく。

 せっかく近くまで来てるっていうのに、立ち寄れないなんて、もったいない。

 世界遺産になったほどの神社だというのに!」


 藤野亨先輩によるとーー。


 宗像大社とは、朝鮮半島や中国大陸への海路を掌握した、古代豪族の宗像氏が祭祀する神社で、辺津宮(へつみや)と、大島の中津宮(なかつみや)、沖ノ島の沖津宮といった三宮の総称なのだそうだ。

 天照大神(あまてらすおおみかみ)の三柱の娘をそれぞれ祀っており、他の遺跡群と共に、2017年に世界文化遺産に登録されたという。


「そもそも、古代の大和朝廷が朝鮮半島や中国大陸へと渡航できるようになったのは北九州一帯を牛耳っていた宗像氏を傘下に収めたからであって、のちに天武天皇になった大海人皇子(おおあまのおうじ)も宗像大社を参拝し、宗像徳善むなかたとくぜん(むすめ)(めと)ったほどでーー」


 などと悲鳴にも似た声で蘊蓄(ウンチク)を語りながらも、先輩はワゴン車を運転し続け、やがて「道の駅むなかた」に到着したのだったーー。


◇◇◇


 あら煮を頬張りながら、竜胆光太郎社長は言う。


「これから向かう場所は、福岡県遠賀郡(おんがぐん)O町だ。

 とにかく治安が良い地域で、市区町村別の治安ランキングで福岡県第一位、令和六年のデータによれば、人口に比しての犯罪件数は、292人に1件だった。

 わずか0・342%なんだ。

 ネットでの住み続けたい街ランキングでも、子育て環境で一位を獲得してる。

 福岡都心部にも北九州にもアクセスが良いうえに、海岸線は広くてサーフィンにもってこいで、葡萄をはじめとしたフルーツも旨い。

 理想的なベッドタウンーーそうした地域の物件が安く手に入ったんだ」


 貝汁を啜りながら、藤野先輩が横槍を入れる。


「その前に、検証したいことがあるんですよ。

 物件に辿り着く前に、『幽霊坂』っていう場所があるんです。

 どうも不思議な現象があるそうでーー」


 だが、いつもと違って、今日の竜胆社長は、藤野先輩の提案に乗らなかった。


「悪いが、心霊スポット訪問は後回しだ。

 さっさと物件を見て、沙月さんにリフォームプランを立ててもらう。

 宗像か北九州でビジネスホテルを確保しなきゃ、だから」


 どうやら宿泊地がいまだ未定で、予約を取っていないらしい。


 でも、心配は要らないと私は思っている。

 このワゴン車は結構、大きい。

 念のために寝袋を持参してきたから、いざとなったら、車中泊もできる。


 そうした旨を私が語ると、竜胆社長は悲しげな顔になった。


「沙月さんは二十代の女性なんだからさ、そこら辺は嫌がってもらいたいところなんだけど」


「はあ。

 でも、学生時代、演劇やってましたから、男の部員と雑魚寝なんてザラでしたんで」


「はっははは。いかにもですよね」


 と藤野先輩は少年のように屈託のない笑顔を見せる。

 今晩の宿の心配など、先輩もまるでしていないようで、のんびりとした口調で続けた。


「じゃ、社長と沙月さんを物件まで送り届けてから、僕一人で戻って『幽霊坂』を下見しておきます」


 藤野先輩が気にしているのは物件ではなく、「幽霊坂」とかいう近場の心霊スポットなようで、相変わらずのマイペースだ。

 竜胆社長は肩をすくめるだけだった。



 道の駅を出て、私たちが乗る黒いワゴン車は、再び国道を走り始める。

 宗像の街を抜けてさらに森林を左、田畑を右に見て、進んだ。

 そして、N山不動寺入口という看板が目に付くと、そこで道を左に折れる。

 そのまま桜並木を通り抜けると、そのすぐ先に、「幽霊坂」があった。


 が、そのとき、私たちが乗るワゴン車は特に何も感じることなく、通り過ぎたのだった。


◆2


 竜胆社長が購入した物件は、住宅街から外れた、緑に囲まれた地にあった。


 幽霊坂を越えて、すぐ近くの場所である。

 このまま道なりに進めばN山不動寺に辿り着き、さらに奥には湯川山登山口がある。

 が、その手前、ジビエ料理の店の辺りで、右に曲がった。

 そして、茶色の暖簾を掲げる酒造店と池の間の道を進み、K蔵寺がある区域へ至る。

 民家がわずかに点在する地域だった。


 ワゴン車から出ると、私は黒のリュックを降ろして、目の前の物件を見据えた。


「普通の平屋造りに見えますが」


 竜胆光太郎社長は、水色の麻のスーツの襟を正しながら胸を張る。


「それが普通じゃないんだな。

 ま、入ってみればわかる」


 答えにならない答えを受けて、私は尋ねる。


「今回はどういう事故があったんですか?」と。


 竜胆社長は片目でウインクしながら、恐ろしいことを口にした。


「別に殺人とか、そういったグロいことはないよ。

 けど、この十年間で所有者が五家族も入れ替わった。

 平均二年で、家族が追い出されてしまう。

 言ってみれば、『住人を拒絶する家』だ」


 有名建築士に依頼して建てた注文住宅だったが、その初代所有者は仕事の関係で、わずか一年で遠方に引っ越してしまった。

 それから四組の家族が九年の間に入れ替わり続けた。

 そして、五組目の住人だった人が、今回、売主となって、竜胆光太郎社長に邸宅を譲った。

 佐藤健介と恵という、四十二歳と三十六歳のご夫婦で、結婚十年目だったそうだ。

 六歳の男の子がいるという。


 佐藤家は、もともとは仲良し家族だった。

 二年前、健介さんのお父さんが亡くなったので、それを機にこの家を買って、お母さんの藤子さんを引き取り、同居を始めた。

 ところが引っ越してすぐに佐藤家では夫婦喧嘩が絶えなくなり、二年もすると、奥さんの恵さんが子供を連れて実家に帰ってしまったーー。


 私は首を(かし)げた。


「不幸な話ですがーーそんなの、事故物件とは言えないんじゃ?」


 そう疑問を呈すると、竜胆社長はどこかバツの悪そうな顔をして、頭を掻く。


「いやあ、でもコイツ、知り合いのツテで回ってきた物件でさ。

 破格の安さだったから、即決で買っちゃったんだよね」


 私は呆れた。


「事故物件の内見だけは、しっかり自分の目と足でしなけりゃ」


 と口を酸っぱくして言っていたのは、他ならぬ社長自身だったのでは?


 私が思っていることを読み取ったのだろう。

 美顔の青年社長は、照れたようにペロッと舌を出す。


「まあ、今回は事故物件モドキってことで、大目に見てよ。

 でも、せっかく安く買えたんだからさ、できるだけ高く売りたいことに変わりない。

 通常の事故物件の内見だと思って、気を引き締めてよ。ね?」


 なによ、それ? と思う。

 でも、美形男が懇願すると、こんなおふざけもサマになるから不思議だ。


「わかりました。

 じっくり見ていきましょう!」


 私は黒リュックを背負い直して腕まくりし、物件の玄関へと足を踏み出した。


◇◇◇


 いつも通り鍵を開けて、物件に入った。


 玄関ホールには、綺麗なマットが敷かれたままだった。

 竜胆社長と連れ立って、携帯スリッパを履き、ホールに乗り込む。


 まずは左に折れて、廊下を進む。

 右手の壁にある引戸を開けると、十帖のダイニングがあった。

 コバルトグリーンの横柱で区分けされ、腰壁にはシックな木目板が貼り巡らされている。

 壁の上方には全面、壁紙が貼られていた。

 壁紙は、青や赤の花が蔦を絡めて伸びるデザインだった。

 天井には、全面飴色の板が貼られてあり、緑の傘を被った電灯が吊るされている。


 そして、大きめのカウンターキッチンがあった。

 キッチンのシンクは、清潔に磨き上げられている。

 重厚な木目板や、黒を基調としたシックなデザインをしていた。

 壁などもコバルトグリーンの柱や枠でコーディネートされている。


 竜胆社長は、「案内は任せてよ」と声を弾ませた。

 社長はこの物件を購入している。

 仲介した不動産会社から、間取り図をすでに見せてもらっているらしい。


「お隣のリビングとは引戸で仕切られてるだけだから、こうして開けてしまうと……」


 キッチンの反対側の引戸を、パシン! と開け放す。

 すると、ダイニングと、隣の十二帖のリビングとが一体になり、合計二十二帖のLDKになる。


「たしかに、こうすると広いですね」


 リビングには、羽付きのシャンデリアが輝いていた。

 ほとんど、隣接するダイニングと同系色の内装だった。


 が、天井も壁も、微妙に色の明るみが、それぞれに違う。

 板の色がちょっと明るかったり、暗かったり。

 壁紙の花がリビングのは黄色と緑だったり。

 それもよく見たら、壁の位置によって色が異なったり、花柄デザインが変わっていたりしていた。

 四方を一気に見回すと、ちょっと目がチカチカする。

 だが、基本的には似たようなデザインをしていた。


 リビングの外には、バルコニーが広がっていた。

 私は両目を(こす)りながら(つぶや)いた。


「何組も異なった家族が住んだにも関わらず、あまり人が住んでた気配を感じませんね」


「あ、そーいうの、感じるクチなの?」


「はあ。まあ、なんとなく」


「じゃあ、キッチンの方へ戻ってみよう。

 面白いんだ、この家はいろいろとーー」


 竜胆社長が指し示す方へ目を遣ると、私は「あっ!」と声を出し、口に手を当てた。

 なんと、キッチンの奥にサンルームへの入口があったのだ。


 扉を開くと、サンルームには、大きな窓辺にカウンター席があった。

 窓の外には青い空が広がる。

 まるで喫茶店のようだった。


 カウンター越しに身を乗り出し、窓の外を見渡すと、さらに驚いた。


「あれ?

 一面、芝生のお庭?

 ここ、裏庭が随分と広いんですね!?」


 裏山との間、窪地の底に、芝生の空間が広がっていた。

 竜胆社長はカウンター越しに窓の外を見据えながら、得意げに腰に手を当てる。


「庭は建物全体より広い。

 100平米もあるってさ。

 窪地の底にあるけど、幸い、陽光は存分に降り注ぐ。

 おかげで春には右隅の桜が咲き、秋には左隅の(かえで)(あか)く色付くそうだ。

 さあ、物件を見て回ろう」


 私たちは、サンルームからキッチンへ出て、ダイニングを経て廊下に出る。

 右手には窓があり、陽光が差し込む。

 真正面の壁には引戸があった。

 開けると和室だった。


「十帖の茶室だ。

 ちょっとした縁側もある。

 真ん中の畳を開けると、茶釜置き場になる。

 ま、茶室にしては広すぎると思うんだけどね」


「そうですね」


 なんだか疲れたので、私は畳の上に座り込んだ。

 ちょっとめまいを感じる。

 どうにも落ち着かない。


「掘り炬燵でもあると良いんだけど……」


 季節柄、寒いわけではない。

 が、私は足を堀の中に入れて、椅子に座るようにして休みたかったのだ。


「ほんとだね。

 でも、ここで長居しても仕方ない。

 さっさと外に出て、一通り、見て回ろう」


 先導する社長に従い、私も廊下を右へ進んで、玄関ホールに戻る。

 左に折れて進むと、壁に沿ってトイレ、洗面所、バスルームと続く。

 そして正面には階段があった。


「あれ、平屋じゃなかった?」


 私は目を丸くする。

 そして、気付いた。


「あれ?

 階段が下に??」


 竜胆社長は得意げに鼻を鳴らした。


「ふふん、だから言ったろ?

 これは普通の平屋造りじゃないって。

 この家、じつは玄関が二階にあるんだよ。

 さっき、裏庭を見渡して、位置が低いって思わなかった?

 すぐ後ろに山があるけど、その間に大きな窪みがあって、その傾斜地に沿う形で建ってる家なんだ。

 この階段の下に一階がある。

 ーーあ、ちょっと待ってて。

 間取り図を描いておくから」


 すでに仲介不動産会社から間取り図を得ているはずなのに、律儀なことだ。

 もっとも、この邸宅が建造時のままかどうかはわからないし、今までの体験でも、事前情報は当てにならないことを痛感している。

 だから、丁寧に足を運んで、間取り図を描くことは良いことだと思う。(すでに購入しているんなら、遅い気もするけど)

 社長はタブレットに次のように描き込んだ。


挿絵(By みてみん)


★〈図面表示があります。もし図面が表示されていない場合は、右上の回る矢印マーク(リフレッシュ/更新マーク)を押すか、再度、この画面に入り直すと表示されます。運営には問い合わせ中です〉

◇◇◇


 さあ、次は一階だ。


 階段を降りて一階まで辿り着くと、左手の引戸を開く。

 狭い通路を通るようにして、八帖の和室に入る。

 

「二階に比べて、一階は随分狭いですね」


 と、私は周囲を見回しつつ、素直に感想を述べた。


 和室の窓から延びるバルコニーは地面に突き出す形になっているが、視界が開けていない。庭の樹々が覆いかぶさっていて、日陰になっているからだ。

 しかも、一階部分は実際に相当小さく、二階部分が突き出た、かなり頭デッカチなシルエットをした家で、山肌や地面に突き立てられた鉄柱が、上層階を支えていた。


 凝っているのはわかるが、何かとアンバランスで、奇妙な雰囲気のある家だった。


 現に、今居る和室の床の間にも、奇妙なオブジェが飾られている。

 赤、白、黒の壺が三つ置かれており(真ん中の黒い壺だけが、圧倒的に大きい)、それぞれの壺に刺さるような形で、木の枝が挿し込まれていた。

 

 なんだか薄気味悪い。


 私は気分転換をはかり、少しでも視界を明るくしようと、視線を窓の方へ向けた。


「ほんとうに樹々で視界が塞がれてますね」


 バルコニーを塞いでいる庭木はクロマツのようだ。

 さらに、バルコニーの右端には、じかに松の木が植え込まれている。


(どんだけ松の木が好きなんだ?)


 私は嘆息した。


「もったいないですよね。

 せっかくお庭が広いのに」


 庭木がバルコニーを覆ってしまっていた。

 おかげで、バルコニーはすっかり薄暗くなっている。


 私は窓を開け、そのバルコニーへ足を運ぶ。

 そして右端に寄り、松の木が植えられているところの、すぐ傍らにまで進んでみた。

 すると、バルコニーの右端に、四角い蓋みたいな扉があるのを発見した。


 社長と二人で、その扉を覗き込むようにして、しゃがみ込む。


「なんだか、マンションの高層階にある災害時の避難口のようですね」


「でも、ここは一階バルコニーだからね。

 避難口ではあり得ない。

 どれ、開けてみるか」


 竜胆社長は取手を手に取り、思い切り引っ張る。

 が、取手が錆びて掴み難い。

 社長は、ショルダーバックから、いきなりバールとハンマーを取り出した。

 私は驚いた。


「なんで、そんなモノ、持ってきてるんですか?」


「事故物件を相手にしてると、何が起こるかわからないなからね。

 基本的な工具は持ち運ぶことにしたんだ」


 竜胆社長は工具を器用に用いて、バカッと蓋のような扉を開ける。

 扉を開けた途端に、パッとライトが点いた。

 二人して屈んで、中を覗く。


 地下室のようだった。

 いや、地下室と言って良いのかどうかも疑問だ。

 底はコンクリートで固められ、二、三帖ほどの広さしかないのだ。


 社長は腕を組み、首を(ひね)る。


「ちょっと大きめの収納スペースかな。

 でも、おかしいな。

 この空間については、間取り図には載ってなかった……」


 この地下室には階段もないから、入り方すら、良くわからない。

 梯子(はしご)でも下ろすのだろうか?

 でも、扉付近にも、梯子らしきものもない。


「物置だとしても、入れた後、その収納した物をどうやって取り出すんだろ?

 不便なーー使い方のわからない地下室だな」


 竜胆社長は眉間(みけん)に皺を寄せつつ、蓋を下ろす。

 そんな社長に、一応、


「庭を見ます?」


 と、私は問いかける。

 が、正直、私は庭を散策するのは、ちょっと気乗りがしなかった。


 バルコニーの眼前を、壁のように、松の木が何本も立ち塞がっている。

 しかも、樹々の間から見るだけで、庭に雑草が無造作に生えているのがわかった。

 二階から見下ろしたときは綺麗に見えたが、地上近くで見ると、芝が荒れ放題になっていたのだ。


 そりゃ、そうだろう。

 住民が不在で、庭の手入れがまったくされていないのだから。

 とても樹々を越えて、庭へと出て行く気がしない。

 それに、バルコニーから出るためのサンダルも靴も置いてないのだ。


 竜胆社長も肩をすくめる。


「仕方ない。

 二階に戻って、玄関から回ってみるか」


 二人でバルコニーから上がって、和室に入る。

 そのとき、ようやく気付いた。

 一階奥、和室の向こうに、もう一つ部屋あることを。


 バルコニーがある窓とは反対側に、引戸があった。

 竜胆社長は手を打つ。


「そうだった。

 たしか、一階には奥座敷があるんだった……」


 そう(つぶや)くと同時に、引戸の両脇に、盛り塩があることに気付く。


「なんだ、これ?」


 竜胆光太郎社長は口をへの字に曲げる。

 たしかに、気持ち悪い。

 でも、勇を鼓して、竜胆社長は引戸を開けた。


 すると、奥の部屋に人がいた。

 七、八十代と思われる、いまだ矍鑠(かくしゃく)としたおばあさんだ。


 闇の中で爛々(らんらん)と眼を輝かし、両腕を振り回した。


「何者だ、貴様(キサン)ら。

 出て行かんか!」


 私も社長も、同時に思った。


(あんたこそ、何者なんだよ!?)と。


◆3


 まさか、奥座敷に、見知らぬ人がいるとは思わなかった。


「おばあさん。

 この物件、ウチが買っているの。

 出て行くのは、おばあさんの方ですよ」


 と竜胆光太郎社長が言っても、おばあさんは言うことを聞かない。


「ここは佐藤家のモンだ。

 他所者(よそもの)は出て行け!」


 聞けば、売主・佐藤健介の母親ーー佐藤藤子さんらしい。


 藤子おばあさんは、茶色のブラウスに、刺繍の付いたニットのベストをはおり、ベージュのスラックスを穿いていた。

 いかにもここに長年、住み込んできたかのように、建物の雰囲気に馴染んでいた。


「ここは佐藤家の邸宅(ウチ)だ。

 うちは浄化のためにここに残っとるちゃ。

 浄化さえできりゃあ、息子だけでのうて、嫁も孫も帰ってこようもん」


 といった内容のセリフを、まるでお経を唱えるように、おばあさんは繰り返す。


 彼女はこの邸宅が呪われていると信じているらしい。

 そのために盛り塩とお花を供えて祈ることによって、この家を浄化することを、自分の使命と思い込んでいた。

 今現在は、息子の健介までもが家から出て行き、嫁も孫もみんな、散り散りになってしまった。

 それでも、この家は佐藤家の邸宅だ。

 自分の役目は、佐藤家を盛り立てること、そしてまた家族みんなと一緒に住むことだ、と。


 竜胆社長は首を横に振ってから、再度、諭すような口調で説明した。


「だから、あなたの息子、佐藤健介さんから権利を買ったんですよ。

 この土地も、家も、全部、我が竜胆不動産のもの。

 息子の健介さんも出て行ったし、お孫さんもお嫁さんの実家に帰ってる。

 今度は藤子おばあさんが出て行ってくれないと」


「そんなの、知らんちゃ。

 居住権だ、居住権!」


 藤子おばあさんは居住権を盾に取って、居座ろうとする。


退()けちゃらんね、貴様(キサン)!」


 と金切り声をあげると、佐藤藤子は和室へと突撃する。

 そして、素早く床の間の前へと駆け込んで、正座した。

 床の間には不思議なモノが飾られていた。

 三つの壺に、それぞれ木の枝が挿し込まれている。

 それらの枝に向かって、おばあさんはブツブツと祈り始めた。


 私や社長が話しかけても、無視して取り合ってくれない。

 竜胆社長は髪の毛を整えてから、溜息をつく。

 そして、持ち前の驚異的な記憶力を発揮して、おばあさんが唱えている文言を聞き取って、彼女が何を崇拝しているのかを紐解いた。


「『……時に皇后、天皇(すめらみこと)の神の(みこと)(したが)はずして早く(かむあが)りたまひしことを(いた)みたまひて……』


 これはたしか、『日本書紀』のくだりーーそうか!

 この木の枝ーー神功皇后(じんぐうこうごう)にあやかってるのか。

 トオルくんから、ここら辺の逸話をあらかじめ聞いておいて良かった」


 伝承の語り部・藤野亨先輩が、ドライブがてら、社長に語っていた。


 遠賀郡O町の海岸には、三里に渡る松原が広がっている。

 この松原は、実際は江戸時代に福岡藩が防風・防砂のために、領民に植林を命じて作り上げられたものだ。

 が、伝説としては、1600年も前、神功皇后が激しい強風や飛砂、高潮などを防ぐために千本もの松の枝を()したことによって始まったとされていた。

 もちろん、正史たる『日本書紀』にそんな記述はない。

 だが、とかく北九州は神功皇后にまつわる伝説が豊富だから、そんな「逸話」も伝承されていたのだ。


 竜胆光太郎社長はショルダーバッグからタブレットを取り出し、今のうちにとばかりに間取り図を描く。

 一階はこんな感じだった。


挿絵(By みてみん)


★〈図面表示があります。もし図面が表示されていない場合は、右上の回る矢印マーク(リフレッシュ/更新マーク)を押すか、再度、この画面に入り直すと表示されます。運営には問い合わせ中です〉

◇◇◇


 そして、新たに発見した地下室も、一階部分に照らし合わせた形で図示した。


挿絵(By みてみん)


★〈図面表示があります。もし図面が表示されていない場合は、右上の回る矢印マーク(リフレッシュ/更新マーク)を押すか、再度、この画面に入り直すと表示されます。運営には問い合わせ中です〉

◇◇◇


 上手く描けたとばかりに、竜胆社長は満足げに(うなず)いてから、タブレットをバッグに仕舞い込む。


 そのうちに、バンバン! と背後から音がしてきた。

 私も社長も、共にギクッとして振り向く。

 すると、奥座敷と繋がっている和室の窓を、大勢の人たちが手で叩いていた。

 庭から松の樹々を脱けて、多くの人々が、バルコニーに乗り込んで来ていたのだ。


 おばあさんは飛ぶように走って行って、窓を開ける。

 その結果、総勢十人もの、白い作務衣(さむえ)姿の老若男女が乗り込んできた。


「なんだ、なんだ?」


「誰なんですか、あなたたちは!?」


 慌てる私たちを無視して、その怪しげな団体と、藤子おばあさんが(ゲキ)を飛ばし合った。


「ここを守り抜くのは、フジコおばあさんしかいません!」


「はい!」


 藤子おばあさんが威勢良くお辞儀するさまを見届けてから、白い作務衣の者たちは、私の方に顔を向けた。


「我々は『三里の響き』という団体です」


 と語り、胸の部分にある、クロマツを(かたど)ったマークを誇示した。

 そして、「世界の救済がこの邸宅から始まるのです!」と(うた)いあげる。


 次いで、佐藤藤子おばあさんに、この家に居座るように励まし続けた。


「今の運気がどれほど悪く見えていても、今が最低、最悪の状態です。

 この最悪状態から佐藤さんが神に祈って、邸宅の浄化がなされれば、それだけでプラスになっていきますよ!」


「この呪われた邸宅を、祝福の場に変えるのは、佐藤さんの努力と奉仕によるのです。

 現状に負けずに、あなたが頑張らないと、この邸宅は浄化されません!」


「実際、普通は一ヶ月で浄化されるはずなのに。

 この家には、なんて恐ろしい瘴気(しょうき)が巣喰っているんだろう!」


 白服の集団は口々に言い募ると、まるで「瘴気」とは私たち竜胆不動産のメンバーであるかのように、こちらをいっせいに睨み付けてくる。

 十人近くの人々から凄まれると、さすがに気後れする。


(恐ろしいのは、お前らだよ!)


 と喉まで出かかったが、私は口を(つぐ)む。

 藤子おばあさんと同様、団体さんたちの目が血走っている。

 相手にしてはいけない、そう思った。


 だが、竜胆社長は違った。

 目敏(めざと)く、団体さんの一番奥に控えている女性に目を付けていた。


 紫の作務衣を身にまとった、ロングヘアの女性で、三十五、六歳ほどだろうか。

 色白でホッソリしており、手には赤瑪瑙(あかめのう)数珠(じゅず)を巻いていた。


(む。アイツだけ、目が血走っていない。

 貼り付けたような笑顔だが、目は笑っていない。

 冷静だ……)


 そう思って、竜胆光太郎は声を張り上げる。


「物件所有者として、あなたたちに立ち退きを命じます。

 出て行かないのならば、警察を呼びますよ」


 竜胆光太郎社長は、奥の女性に向けて語りかけたつもりだった。

 だが、彼女の前にいる、坊主頭の信者が割って入ってきて、


「この家は浄化されなければならない。

 そのための儀式を行うゆえ、私たちもここに居座らせていただく!」


 と叫んだ。


 結局、佐藤藤子さんは立ち退こうとしない。

 怪しげな団体連中も同様だ。


 竜胆社長は眉を八の字に曲げる。


(まいったな。

 現況優先とはいっても、こんなのは初めてだ。

 いっそのこと、この物件をこいつらに売っちまえば良いのか?)


 そう思った竜胆社長は、群衆の一番奥に控えている女性に語りかけた。


「あなたたち、この物件、買いません?」


 おばあさんも信者たちも、キョトンとしている。

 ここでようやく奥にいた女性が微笑みを浮かべて前へと踏み出し、問い返す。


「おいくらで?」


 竜胆光太郎社長は、自分が買った値段の三倍の額を提示した。

 すると女性は口に手を当てた。


「ほほほ。

 そんなに高くして、売れると思っているのですか?」


「売るつもりなんだけど」


「あなたの購入価格の三倍でしょう?」


「……」


 ここら辺の相場値段ではなく、竜胆社長が購入した値段を、この女性は知っていた。

 この怪しげな団体は、不動産会社が入手する業界情報を仕入れることができるらしい。


 リーダーらしき女が、社長と私に向けて指をさした。


「この人たちは、可哀想な人なのですよ。

 金の亡者なのです。

 皆で祈りましょう」


 信者たちは両手を合わせながらも、声を張り上げる。


「神様に従う私たちを相手に、そのような行為!」


「恥を知りなさい!」


「そうだ、そうだ!

 浄化の邪魔をするな!」


「お前らこそ、出て行け!」


「佐藤のおばあさんを守るんだ!」


 白服連中が、わあわあと騒ぎ立てる。


 私たちは、ゲンナリした。


(なんだ、こいつら。

 やってられない……)


 仕方なく、竜胆社長と私は二階へと昇り、玄関から外へ出た。



 すると、玄関の前で、藤野亨が待っていた。

 藤野先輩は、黒のジャケットにジーンズといった格好で、茶色のキャップを頭にかぶる、ラフなスタイルだった。

 彼は、謎の白服集団が庭から押しかけていくあたりから、外にあって、高みの見物と洒落(シャレ)込んでいたようだ。


「社長も藤野先輩大変そうですね。

 では、ここはひとつ故事に倣って、近所のお寺に避難しましょう」


◆4


 物件からほど近い、由緒ある禅寺・K蔵寺に、藤野亨は私たちを誘導した。


 K蔵寺は、古めかしい雰囲気だった。

 石燈籠(いしどうろう)と、『奉納 馬頭観世音菩薩ばとうかんぜのんぼさつ』と白字で書かれた赤い(のぼり)とが、左右に立っている。


 私たちは古い石段を登る。

 境内には、石垣で囲まれた石塔が二つあった。

 そして、石板を背景にした、苔むした観音像もある。


「これは、県指定文化財となった、木造の馬頭観音坐像(ばとうかんのんざぞう)を模したものでしょうね。

 実際、『馬頭観音』のご加護は舐められませんよ。

 押し寄せて来る外敵をすべて打ち破って、本願を果たす威力があるといいますから。

 戦国時代初期、北九州から遠賀川流域を領有していたO城の三代目城主なんかは、馬頭観音の加護を期待して、敗戦後、妻子を引き連れて、このK蔵寺まで落ち延びて来たと言います」


 本殿に至る石段で腰を下ろすと、竜胆光太郎社長は、


「ああ、今は良いから、そうした昔話は」


 と不機嫌な声をあげた。


 そして、ここの地元の仲介不動産会社に電話を入れた。

 もちろん、「売主のおばあさんが居座って困っている」「あの白服の団体はなんだ?」などと苦情を述べるためである。


 ところが、相手の会社の営業係は、


「現況優先です」


 と言うばかりだった。

 竜胆社長は不満げに頬を膨らませて、


「せめて売主に会いたい」


 とだけ語って、溜息を吐いた。

 だが、それすらも叶わない。

「もう売買契約を終えたのだから」と取り合ってくれない。


 竜胆社長は舌打ちをして、電話を切った。


 それでも諦めない。

 タブレットに仕込んだデータを参照しながら、竜胆社長は声をあげた。


「幸い、売買契約書はあるから、売主の住所はわかる。

 さて、直接、会いに行くか!」


 立ち上がってから、社長は藤野先輩に尋ねる。


「ところでその三代目城主、このK蔵寺にまで逃げて来て、それからどうなったの?」


 藤野先輩は、満面の笑みで答えた。


「切腹して果てました。

 連れて来た妻子も一緒に自害です。

 ですからてっきり、その滅んでしまった武家一族の呪いが(たた)って、その物件が変なことになってるのだろうと思ってましたが、違いました?」


 藤野先輩の笑顔に含まれる邪気に気付いて、竜胆光太郎は額に手を当てて慨嘆した。


「おいおい。

 心霊スポットには後で行くからさ、縁起悪いこと、言わないでくれよ。

 そんな一族の呪いを、僕は感じないな。

 これからアポなし突撃するんだから、見事、売主と出会えるよう祈ってくれ」


 アポを取ると売主に逃げられるかもしれないから、来訪をあらかじめ報せず、なんとか売主を捕まえたい、と竜胆社長は言う。

 まったく非常識な話だと、私は呆れた。


 が、竜胆光太郎社長の「無謀な願い」は叶ったようだった。

 突撃訪問した先に、今回の物件の売主である佐藤健介さんがいたのである。


◇◇◇


 売主の佐藤健介は、すぐ近く、O町のアパートに住んでいた。


 健介さんはヨレヨレのグレーのトレーナーの上下を着込んで、疲れ切ったかんじだった。

 彼が部屋の外へ出て竜胆社長と語り合っている隙を見て、私が奥をチラッと覗けば、卓袱台(ちゃぶだい)のような折りたたみ型のテーブルがあるだけの部屋だった。

 カップ麺を食べている途中だったようだ。

 仕事で必要だからだろう、壁にかかったスーツとシャツだけは綺麗だった。


 やがて、健介さんは私と竜胆社長を部屋に招き入れ(藤野先輩はワゴン車で待機している)、ポツポツと往時を懐かしむように語り始めた。



 家を買った当初は、家族みんな仲良く、あの家も気に入っていた。

 少し変わったデザインながら、広大な庭を抱える立派な建物で、その割に安くて、ローンも10年で済んだ中古物件ーーお得な買い物だと思っていた。

 だが、住み始めてすぐに、スッキリ起きられないようになった。


「頭が痛い、めまいも感じる。

 これは呪いじゃないのか?」


 どうやら健介さんは、K蔵寺に逃げ込んで妻子もろとも自害した戦国武将の逸話を知っていたようだった。だから、自分と家族の体調の異変を、すぐに「呪い」に結びつけたのだ。

 そして、実際に「呪い」があったかどうかはともかく、そうした体調不良のせいで、日が経つにつれ、家族同士で、お互いがギクシャクしていった。

 部屋に閉じ籠りになったり、頭が痛くなったり、めまいが感じられるようになった。

 それぞれが体調不良を訴えて、家族の者同士が顔を見るたびに、お互いがイライラして、口喧嘩が耐えなくなった。

 一ヶ月もする頃には、なんでこんな家を買ってしまったのかと、健介さんは自分でも腹が立ってきていた。

 自分自身、会社の仕事に熱中して、夜遅くに帰ってくるせいもあるけれども、妻や母、息子までもが、自分を優しく出迎えてくれなくなってしまった。

 お互いが部屋に閉じ籠るばかりで、疎外感を感じていた。

 これだったら、各々が寄宿生活してるようなもの。

 おかげで、こんな家に住んでいたってしょうがないという気持ちが強まっていった。


(こんな家、買わなきゃ良かった。

 分不相応だったんだーー)


 健介さんはそう思うこと(しき)りだった。


 やがて夫婦喧嘩すらなくなり、妻の恵が息子を連れて、実家に帰ってしまった。

 何度も妻の実家に電話を入れて、帰ってくるように(さと)したが相手にされない。

 頭を抱えていると、今度は母の藤子が新興宗教めいた白服集団の教えにハマってしまう。


 怪しげな連中に(そそのか)されて、母は一階の床の間に置いてあった、クロマツの枝を挿し込んだ三つの壺を、必要以上に、ありがたそうに崇拝するようになった。

 さらに、盛り塩をした小皿を置いても、御神酒(おみき)を神棚に供えても、すぐさま倒れてしまうのを見て、乗り込んで来た例の白服の者どもが母を糾弾し始めたのだ。


「ご先祖様が怒っていらっしゃる。

 このままでは、あなたの代で佐藤家は潰れてしまいますよ!」と。


 母は恫喝されて、オロオロする。


「そげなこと言うても……やけん、どげんたらーー」


 怪しげな連中は、母への糾弾をやめない。


「佐藤家が崩壊したのは、あなたのせいだ!

 盛り塩が崩れなくなるまで、お祈りしなければならない」


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 謝り続ける母を取り囲み、信者たちが、日本書紀や古事記を元にした、祝詞(のりと)めいた、怪しげな呪文を唱える。

 新興宗教ならではの独自の作法だった。


「お清めしているから、いずれは良くなります。

 この『忌まわしき場』が『祝福の場』に変わるさまを、世界に発信していきましょう」


 信者たちは、「世界の救済がこの邸宅から始まる」と、何度も(うた)いあげた。


 実際に、佐藤藤子おばあさんが壺に向かって祈るさまをスマホで撮影し、動画サイトで世界に発信し始めていた。(閲覧者は数えるほどしかいないが)

 しかし、新興宗教の御多分に洩れず、彼らは佐藤藤子さんから、お金を引っ張れるだけ引っ張ろうとする。

 そこでようやく、息子である佐藤健介さんは「迷惑だ!」と怒ったという。



「だから、私は『もう引っ越す!』と言ったんです。

 このアパートの部屋も賃貸契約しました。

 でも、『ご先祖様は、あなたが引っ越してもついてくる』と、ヤツらから母は言われたみたいで。

 母は動こうとしないんです。

 いつ、母がここに来ても良いように、ここの鍵は預けてあるんですがね。

 もう、知りませんよ……」


 こうして、文字通りの家庭崩壊になった経緯を、売主の佐藤健介さんは語る。

 世帯主にとっては断腸の思いだったろう。

 こうした不幸に、気安くかける言葉は、誰も持ち合わせてはいない。


 竜胆社長は話を切り替える。


「結局、あの地下室は何ですか?」と。


 だが、売主の佐藤健介さんは、首を(かし)げるだけだった。


「地下室?」


 と問い返すほどで、ほんとうに地下室の存在自体を知らないようだった。


「私は買っただけですからね。

 あの邸宅について、詳しいことは知りませんよ。

 ーーあんな家、買わなきゃ良かった……」


 そう(つぶや)いてからうずくまり、伸び切ったインスタント麺をズルズルと啜り始めた。

 見ているだけで、落ち込んでしまうような光景だった。


◇◇◇


 それから竜胆不動産の面々は、道路脇に停めたワゴン車に総出で乗り込み、皆でタブレットやノートパソコンを取り出し、調べ始めた。

 誰もが思っていたのは、いったいどうしてこんな「住民を追い出す家」が出来てしまったのか、ということだった。

 結局、それを明らかにするためには、最初の住人、この奇怪な邸宅を新築した人物に当たるしかない、との結論に至っていたのだ。


 竜胆光太郎社長は整った髪型をクシャクシャにして、歯軋りする。


「正直、どうしてあの家から、こんなに多くの住人が追い払われたのかわからない。

 一向に、理由は見えない。

 だから、とりあえず、元々の所有者に会おうと思う。

 明らかに注文住宅だから、最初に建てられた頃から知っている人に、事情を聞かないと」


 不動産登記を辿って初代所有者の名前を知り、その名前をネットで調べる。

 そうしたら、


「どうやら、この人では?」


 という人物に辿り着いた。


 某IT企業の代表取締役として、会社紹介のホームページに、堂々と腕を組んで映っている中年男性がいた。

 薄らと茶色に染めた頭髪に、薄い顎髭を生やした、丸顔の、恰幅の良い男だった。

 白いワイシャツに、レモンイエローのネクタイを締め、ブラウン系のチェックの上着をはおって、茶色のスラックスの脚を組んで座っている画像だ。


 吉田将太ーー。

 十年ほど前、北九州を拠点にしたIT企業を率いる青年社長だった。

 当時、吉田将太とその妻・香澄は、結婚四年目、三十歳と二十九歳の夫婦で、娘の誕生を機に、家を建てようと決意したらしい。

 建築士・須崎和則に住宅の設計デザインと建築を依頼した。


 ところが、わずか一年で転居。

 有名企業との契約を機に、拠点を名古屋に移転したのだ。


 竜胆社長は腕を組む。


「名古屋か。遠いな。

 でも、仕方ない。

 連絡を取ろう」


 私は念のために確認する。


「相手はベンチャー企業の社長さんですよ。

 なかなか取り次いでもらえないかも。

 取り次いでもらうための口実は?」


 竜胆社長はタブレットの画面を覗き込みながら、スマホで電話する。


「もちろん、O町の物件に、間取り図にない地下室があったんだから、それについて尋ねるんだ。

 売主の佐藤さんも、不動産会社も、その存在を知らなかった。

 どうなってるんだ? と聞くんだよ」


 実際、私の予想通り、受付嬢から社長に取り次いでもらうまで手間取った。

 が、連絡を取れさえすれば、吉田将太社長本人は至って気さくな人柄だった。



 IT企業の吉田将太社長によれば、やはり、この事故物件は建て売りではなく、注文住宅だった。

 知り合いの建築士・須崎和則が設計してくれたという。


 設計した建築士の須崎は、大学時代、将太社長の親友だった。

 だが、大手事務所から独立して、個人で建築事務所を立ち上げたばかりの須崎和則は、なかなか客が付かなくて、羽振りが悪くなっていた。


 往時を思い出したように、吉田将太は学生のような口調で語った。


「起業したての頃は、特にキツイものなんですよ。

 資金がなかなか集まらなくて。

 だから、助けるつもりで注文住宅を頼んでやったんだよ。

 実際、私が注文したあの住宅での儲けを元手に、アイツは東京で建築事務所を開くことができたんだ。

 今では、その業界では、それなりに知られた人物になってる」


 次いで、吉田将太社長の人となりを知るために、O町についてどう思っているのかを訊ねてみると、想像していたよりもずっと熱い郷土愛が語られた。


「O町は私の生まれ育った故郷で、とても良いところですよ。

 海の潮風があって、松林があって。

 私も現役を引退したら、絶対に生まれ故郷のO町に戻りたいと思ってる。

 それくらい良いところなんです。

 わずか一年で引っ越してしまったけど、大学の同級生に頼んで、良い邸宅を注文したと思っている。

 なのに、君の話によれば、幾つもの家族が入れ替わり、『呪われた邸宅』などと噂される状況だっていうので、まったく残念だよ。

 せっかく私が注文した邸宅だというのにね。

 建築士のアイツーーカズは悪い奴ではないんだ。

 大学の頃からの知り合いだし、贔屓目もあるが、とかくぶっきらぼうなヤツでね。

 誤解を受けやすいんだよ。

 対人関係でうまくいってなかったようだから、住宅の建築を頼んで援助してやった。

 カズのヤツは妻に気があったようだけど、あいにく妻は私に惚れていてね。

 悪かったけど、こればっかりは仕方ない。

 そんなこともあって、カズには花を持たせてあげたかったんだ。

 アイツも頑張って、東京で成功したみたいだからホッとしたよ。

 もちろん、お互い、これからどうなるかはわからないけどね」


 竜胆社長は新築当時の資料の写しを請求したら、吉田将太社長は鷹揚に応じてくれた。


「本来、ここまでする義理はないんだろうけど、まあ良いだろう。

 妻に届けさせよう」



 竜胆社長はスマホを切って、吉田社長の奥さんからデーターが送られるのを待つ。

 スーツを脱いで、グレーのワイシャツ姿になった竜胆社長に、私は缶コーヒーを差し出しながら言った。


「大学時代の友人に新築住宅を注文して、仕事を振ってあげるだなんて。

 さすが太っ腹な社長さん、って感じですね。

 良い話です」と。


 軽い感想のつもりだったけど、よほど意外な見解だったようで、竜胆社長は目を丸くしていた。

 そして、缶コーヒーを口にしながら、首を(かし)げていた。


「そうかな?

 社長さんは気さくな人柄だけど、その建築士ってのはどう思っていたのかな」



 三十分後ーー。


 例の事故物件の、新築当時の設計図がメールで届いた。

 開いてみると、やはり、例の地下室についての記載がない。


 メールだけのやり取りでも良かったが、それでは礼を失すると思い、竜胆光太郎は、送り主として記載された電話番号にお礼の電話を入れる。

 すると、奥さんの吉田香澄さんが出た。

 が、声のトーンは至って低く、しかもいきなり、


「もう資料は送りましたから、これ以上、私に関わらないでください。

 私は、この物件にも、建築士の須崎にも興味がありませんから」


 と、開口一番に言われてしまった。


 じつは、吉田将太の妻である香澄さんは、「夫の親友」である建築士・須崎和則を、酷く嫌悪していたのだ。

 彼女は竜胆社長に誘導されるまま、学生時代から須崎和則にまとわりつかれてきた歴史を赤裸々に語って聞かせた。

 よほど誰にも話すことができず、苛々(イライラ)していたようだった。



 その話によるとーー。


 学生のとき、香澄さんは独り暮らしをしていた。

 夜に、ちょっと喉が渇いたからジュースやお菓子を買いに、近所のコンビニに行った時、いつもバッタリと、一学年上の須崎和則と出会った。



「気持ち悪いったら、なかったわ。

 須崎はいつも、ニタっと気色悪い笑みを浮かべていた。


『香澄さん、奇遇ですね。

 俺も喉が渇いたからジュース買いに来たんだよ』


 と言って、私と同じジュース缶を持っていったり、お菓子を持っていたりして。

 出逢うたびに、


『よく出逢いますね、俺たち』


 と言うけれど、明らかに須崎はこの地域に住んでもいないし、こんな時間に、こんな遠方のコンビニに来るのはおかしかった。

 さりげなく今度は違う時間帯に行っても、必ずまた『奇遇だねぇ』と言って、須崎は私が買った商品と同じものを手にしてレジに並んでいる。

 そして店員さんにまで、


『俺たち同じ大学でね。

 お付き合いを、これからしようとしてるんだ』


 とか言って、私が『迷惑です』と抗議しても、


『冗談だって。

 そんな大事にしないでくださいよぉ』


 とか言いながら、仲良しアピールを、周りにするのをやめないんです。

 気持ち悪いと思ったけど、どうすることもできなかった。


 また、ある時など、夜に雨が降ってきた折、そのことに気づかずテレビを見ていたら電話が鳴った。

 須崎からの連絡で、


『香澄さん。

 今、雨降っているから、洗濯物を早く取り込んだほうが良いよ』


 と言うんです。

 私はその時は何も考えず、


『どうも、ありがとう』


 と言ったけれども、ふと考えると、


(なんでウチのベランダに洗濯物が干しっぱなしになってることが、わかったのかしら?)


 と思って、ゾッとしたわ。

 それを機に、私は独り暮らしを切り上げて、女性同士の共同生活に居を移しました。


 須崎和則というオトコは、ほんとうに関わりたくない人間でした。

 ただ夫の手前、仕方なく私は近づくのを許していただけで。


 それに、私と夫が付き合っていた当時、言ってはいけない嘘をついたんですよ!


『香澄さんは、じつは俺とも付き合ってるんだよね』


 と周りに吹聴して、付き合ってないのに、『付き合っている』と嘘をついたんです。


 当時はまだ恋人関係でしたけど、ビックリして、そのことを将太に打ち明けましたら、須崎のタチの悪い冗談だと受け止めてくれて、笑い飛ばしてくれました。

 けれども、もし彼が真に受けてたら、あらぬ疑いをかけられて、私が『二股をかけた悪い女』として捨てられていた危険もあります。

 夫の将太は、須崎のことをどこか小馬鹿にしている節があって、


『君があんなヤツを選ぶわけないよね』


 と笑い飛ばしてくれたから良いようなものの、ほんとに肝が冷える思いをしました。


 でも、今となってみたら、夫の将太の煮え切らない態度にも我慢なりません。

 夫もじつは気の小さいところがあって、自分より劣った人物と付き合って、優越感を感じたいだけなんだなって気付きました。

 当時は、私もまだ若かったですから、須崎などとの付き合いを辞めないのを、夫の優しさというふうに捉えて、許していましたけれども、今となっては、おかしい、あんなゲス男のどこが良いのか、まったくわからず、腹が立っています。

 初めての住宅を、あんな須崎なんかに注文して任せたことにも、ほんとうに腹が立ってます。

 ーーですから、あんなオトコの手垢が付いた、あの家を売り払って、わずか一年で出て行くことができて、ほんとうにせいせいしました。

 実際、そういう経緯があったせいか、一年住むだけで、めまいがしたり、気持ち悪くなって吐くことが多かったんです。

 もし、夫が今後、故郷に帰ると言っても、あの家に戻るつもりなら、私はついていかないと宣言するつもりです」


 そうした吉田香澄さんの告白を受けて、竜胆社長はスマホ越しにキッパリと明言した。


「ご安心を。

 今では、その忌むべき家は、私が所有しておりますから、誓って、ご主人には売却いたしませんから。

 それに、例の建築士と今後、私が接触することがあっても、決してあなたに近付かせません」


 安堵の吐息が、スマホの向こうから聴こえた。


「ありがとうございます。

 夫があなたほど、私を気遣ってくれると良いのですが」


 そして、電話が切れた。


◇◇◇


 次に竜胆社長は、建築士・須崎和則に連絡を入れた。


 資料に記載されていたのは北九州時代の住所と電話番号だったが、ネットで調べれば、現在の事務所の所在地と電話番号はすぐにわかった。


 建築事務所のホームページでは、ほっそりとしたスタイルの男が、ブルーのワイシャツの上に白いジャケットをはおり、黒と白の千鳥格子デザインのスラックスを穿いて、ポーズを取っていた。

 チタン製金色フレームの丸眼鏡を付けた、唇の厚い男だった。

 頬がこけた、いかにも神経質そうな外見をしている。


 案の定、電話での話し合いを申し入れたが、受付がなかなか応じてくれない。

 仕方なく、吉田の奥さんーー香澄さんの名前を使った。


「吉田香澄さんに紹介された者です」と。


 すると、ようやく須崎和則本人が電話に出た。

 竜胆社長は急いで言い募る。


「須崎和則さん。

 私は竜胆光太郎という、不動産会社の代表を勤めさせてもらっている者です。

 最近、私は福岡県遠賀郡O町で、あなたが設計した邸宅を購入したのですが、この物件について幾つかお尋ねしたいことがありまして」と。


 すると、


「なんだよ」


 と、露骨にガッカリした声が、スマホ越しに響いてきた。

 

「で、要件は何なの?」


 と問うてくる。

 が、竜胆社長が、地下室について、どうして設計図に記載がないのか、と尋ねても、


「知らないなあ」


 とシラを切るばかりだった。

 建築事務所の代表者だというのに、「設計図は紛失したなぁ」と平気で言う始末だ。

 どんな狭い地下室であっても設計図面に記載して、自治体に床面積を申告しなければ、違法建築扱いになるというのに。


 そのくせ、


「もっと、大事なことがある。

 君に教えてあげよう」


 と言って、問いもしていないことについて、長々と講釈を垂れ始めた。

 仕方なく、竜胆光太郎も受け応えて会話を進める。



錯視(さくし)ーー視覚的錯覚について、君はどれだけ知ってる?」


「錯視?」


「目の錯覚ってヤツさ。

 ほら、コップに満たした水に、一本の棒を半分だけ浸したら曲がって見えるってヤツ」


「ああ、子供の頃、科学の授業か何かでやったような……」


「あれは、物理的な錯覚なんだけどね。

 そうそう、物理的って言えば、『坂道錯視』ってのもあるだろ?

 ほら、向かう先の坂道が急激に上がってると、その手前での勾配(こうばい)を錯覚して、上り坂なのに下り坂って錯覚するっていう」


「ーー知りませんが?」


「ああ、君はO町の住民じゃないんだね。

 じゃあ、仕方ない。

 ーーとにかく、目の錯覚ってのは、様々な手で、人工的に生み出すことができるんだ。

 強い光を受けるとボンヤリ残像が残ったり、色や物の位置の配置の仕方によっては、大きいものが小さく見えたり、長いものが短く見えたりする。

 その理由は、そもそも人間が見てるこの世界ってのが、あるがままの世界ではなく、すべて目という感覚器官を通じて見ている像に過ぎないからだ。

 具体的に言えば、外部の光が目の網膜に当たってから、脳がその情報を視覚化するまでに約10分の1秒かかると言われてる。

 だからその隙を付けば、認知を歪めることができる。

 それに、そもそも外部から操作しなくたって、勝手に錯覚を呼び起こすこともできる。

 だって、すべて目に入ってくる感覚を、頭脳はゲシュタルトーーつまり『形』として意味化して、ようやく『認識』するんだからね。

 厳密に言えば、目で見た刺激を、勝手に脳が無意識のうちに推測して映像化してるってこと。

 つまり、人は認識するに際して、錯覚は避けられない、ということなんだ。

 コントラストの強い色で運動錯視を生み出したり、ほんとうは平行なのに傾いているように見えるカフェウォール錯視なんかも、意図的に演出することに、俺は成功しているんだ。

 凄いだろ?

 あの家は、そうした仕掛けの(かたまり)なんだ。

 長い間、視覚的に異常信号を喰らっていると、次第に生理学的、もしくは病理学的な錯視も呼び起こすに違いない。

 ふっふふ……。

 だから、住人が居つかなくて当然なんだ。

 ただ、残念なのは、そういう憂き目に遭うのは、あのショウタであるべきだった、ということだ。

 チッ、たった一年で転居しやがって。

 運の良いヤツめ。

 香澄さんも被害に遭うかもしれないと思ったけど、そうした気分の悪さから、ショウタの許から僕のところに逃げてくるのも良いかと思ってたんだけど、そう上手くはいかないようだ」


 そこでいったん、長演説が止まる。

 どうやらドリンクでも飲んでいるようだった。

 それだけ一気に話せば、そりゃ喉も渇くだろう。

 そして、再びスマホ向こうから声が響いてきた。

 目の錯覚についての講釈が終わると、今度始まったのは、自分と、吉田将太社長の奥さんである吉田香澄さんとの、妄想じみた、ストーカー側から見た「物語」だった。


「君は知らないかもしれないけど、じつは香澄さんは俺と結婚したかったんだよ。

 実際、あんな無神経なショウタより、繊細な俺の方が彼女にはお似合いなんだ。

 だけど、ショウタはかなり強引な男でね。

 相応(ふさわ)しくないのに、香澄さんを奪うようにして結婚してしまったんだ。

 俺は細やかな気配りができる紳士だから、その辺のところは無理強いはしないけど、ほんとうは香澄さんだって俺の方が良いに決まってるんだ。

 香澄さんの学生時代の姿、君にも見せてあげたいよ。

 パープルとピンクグレーのウェイブストライプが入った、サマーニットのワンピースを好んで着ていてね。

 耳には金色の小振りのピアスを付けていた。

 そして彼女の、僕を見る目……。

 まるで、『助けてほしい』と(すが)るように、俺に訴えかけているようだった。

 ほんと、今からでも遅くないと思うんだ。

 ショウタの馬鹿が大きくしくじりさえすれば、いつでも俺が迎え入れてあげる、と香澄さんに伝えておいてくれ」


◇◇◇


 結局、初代所有者と設計した建築士に当たってみたが、地下室について知ることは何もなかった。

 私たちがこの奇妙な邸宅の新築当時のありようを知るためには、直接、あの奇妙な邸宅を建てた大工との接触を試みるしかなくなってしまった。


「もう、工務店とか建築会社の大工さんに当たるしかない。

 いくら設計図がないと言っても、あの地下室も、実際に人の手で作られたものなんだからな」


 竜胆光太郎社長は、建築に関わった会社について、さっそく調べ始める。

 すると、吉田香澄さんから送ってもらった資料で、実際に建築した会社とその棟梁を知ることができた。

 幸い、地元近く、宗像市にある建築会社で、車ですぐに会いに行けた。



 例の邸宅を建てた大工は、八代高峰という名前の、元宮大工の爺さんだった。

 長袖のポロシャツに、黒の薄手ジャージを穿いており、手拭いを首に巻いている。

 いかにもな老大工だ。


 老いた奥さんが出してくれた緑茶を啜りながら、竜胆社長はテーブルで対峙する。

 老大工は煙草をスパスパふかしながら、(しゃが)れた声をあげた。


「そりゃあ、覚えている。

 あれほど奇妙な家造りは、後にも先にもあれだけだ。

 床やら壁を、微妙にズラせっていうんだからーー」


「立て付けを意図的に悪くしろってことですか?」


「ふざけるな!

 立て付けが悪い家を建てちまうほど、俺は落ちぶれちゃいねえ!」


 緑茶をクイッと飲み干してから、老大工は語り始める。


「あの建築士は、実際、気持ちの悪い若造だった。

 設計図をもらったんだが、それじゃあカバーし切れねえほど、奇妙で、細かな、注文だらけだったんだ。

 床を右に傾けて低くしておいて、壁の近くで急に坂を上げるように高くするとか、反対に横柱は右上りにして、しかも柱の幅を微妙に細くしていけとか。

 錯視がどうとか、なんとか現象がどうとか、いろいろと小難しい理屈を並べてたが、ありゃあ碌なもんじゃない。

 それはわかっちゃいるが、


『そんなことも出来ないんですか?』


 と俺様を小馬鹿にしたように煽るもんだから、俺も意地になって、職人の誇りにかけて、注文通りに造ってやった。  

 が、住人がちっとも居つかないと聞いて、やっぱりな、と思ったよ」


 結局、「建築士の設計図通りに作っただけだ」と老大工・八代高峰が証言したのだ。

「設計図を紛失した」と建築士は言っていたが、老大工は念のために設計図をコピーしていたので、竜胆社長はその写しを手に入れることができた。


 そして、地下室について尋ねたら、大工の八代さんは素っ頓狂(すっとんきょう)な声をあげた。


「あの建築士、知らねえと抜かしたのかい!?

 酷いな。

 一番、うるさく口出しして造らせたくせに!」


 大工は社長に向けて身を乗り出し、真面目な顔で(ささや)いた。


「でも、その仕掛けに、誰も引っ掛かってなくて、良かった。

 コイツだけは洒落になんねえからなーー」


◆5


 再び、私、神原沙月と竜胆光太郎社長は、例の奇妙な邸宅へと乗り込んだ。

 二階の玄関ではなく、草ボウボウの庭を通って、一階のベランダから邸宅へと押し入ったのだ。


 窓を開けると、茶色のブラウスに身を包んだ佐藤藤子さんを先頭に、グリーンのクロマツのマークが入った白い作務衣をまとう集団が待ち構えていた。


 スーツ姿の竜胆光太郎社長は、ポッケから赤い色のビー玉を取り出す。

 そして、


「佐藤藤子さん。

 あなたは即座に、この家から出て行った方が良いですよ」


 とだけ口にして、それを床に無造作に落とす。

 すると、ビー玉はコロコロと右斜め横へと転がって行く。

 床が斜めになっていることを示していた。

 さらに、


「今度は、こっちでビー玉を落としてみますか」


 竜胆社長はズカズカと藤子おばあさんの近くまで近寄って、今度はポッケから青いビー玉を取り出す。

 落とすと、今度は左方向へと蛇行しながら転がって行く。


 皆がビー玉の行方を目で追って、口を(つぐ)む。

 竜胆光太郎社長は両手を広げた。


「ほんと、気持ちの悪い床ですよ。

 高くなってたり、低くなってたり、所々は段々になっている。

 しかも、目に見えない微妙さで。

 遊び心にも程がある!

 床を片方に沈めたり、壁を斜めにしたりするだけじゃない。

 柱が右上がりだったら、床は左下がりだったり、微妙なズレがあちこちに仕掛けられている。

 柱や梁や、壁の板なんかは、床や壁とは別方向に微妙にズラされて、意図的に目の錯覚を引き起こし続ける設計で建てられているんですよ、この家は。

 それが、この家に住人が居つかない原因だったんです。

 でも、一見するだけでは、そうは見えない。

 その結果、住む人が皆、頭が痛くなる。

 酷くなると、幻覚が見え、幻聴までが起こる。

 そりゃあ気持ち悪くなるわけだ。

 立て付けが悪いんじゃなく、意図的に気持ち悪くなるように設計されていたんだから」


 これまた、間取り図からは読み取れない罠だった。


「出て行ったほうが身のためですよ!」


 と、再度、竜胆社長は、佐藤藤子おばあさんに念を押す。

 ところが、


「嫌だ。

 うちは騙されんちゃ。

 貴様(キサン)、うちを騙す気っちゃろ!?」


 と、悲鳴にも似た甲高い声を張り上げて、白装束の連中に(かば)われながら、藤子おばあさんは床の間へと逃げ込む。


「ああ!

 そこから離れて!

 特に、そこの床の間の辺りは危険なんです。

 左右の小さな壺はともかく、中央の大きな壺に触れないでください!」


 おばあさん鼻息を荒くして、竜胆社長を見返す。


「なんばこきよーと!

 床の間にある三つの壺は、三種の神器を表す、バリありがたかモノばい。

 植えてあるクロマツは、遥か昔に、神功皇后様が植えてくださった松の木の末裔で……」


「いや、そんな(いわ)れはどうでも良い。

 大工さんに伺ったら、その大きな壺をズラしたら、あなたはーー!」


「このお壺様は御神体だ。

 うちに仇なすはずなか!

 ほんなこつ、うちがババアと思って、脅すっちゃろ?」


 強がるおばあさんを、白服の団体が煽りまくる。


「そうだ、そうだ!」


「負けるな藤子さん!」


「この家はあなたのもの!」


「これは試練です!」


「脅しに屈するな!」


 おばあさんは得意満面の笑顔を浮かべ「見るっちゃ!」と甲高い声を張り上げて、大きな壺を腕に抱えるようにしてしがみついた。

 その結果、一番大きな真ん中の壺が、少し位置をズラしてしまった。

 カチッとなにか耳慣れない音がした。


 が、しばらくは何もなく、辺りは静寂に包まれた。


「ほら、いっちょんない!

 貴様(キサン)、嘘ばっかし言うちょったろ!

 ははは……」


 藤子おばあさんが甲高い声で笑った、その瞬間ーー。


 おばあさんの姿がスッと掻き消えてしまった。

 茶色の残像を残して。


 社長は慌てて床の間へと駆けつけた。

 だが、遅かった。


 壺が割れる音が、地下から響いてくる。

 床の間の板が抜けて、落とし穴が出現した。

 窓際にあった壺と一緒に、藤子おばあさんが奈落へと落下してしまったのだ。

 落ちた先は例の地下室だった。


 真ん中の大きな壺を特定の位置からズラすと、窓際の床の間の底が抜け、落とし穴が出現する仕掛けがあったのである。

 下はコンクリートだ。

 打ちどころが悪ければ、おばあさんの生命はーー。


「救急車!」


 私が悲鳴をあげてスマホを取り出すと、そのスマホを白服の男性信者が叩き落とす。


「これは試練です!

 藤子さんの献身を無にするつもりですか!」


「け、献身ってーー」


 気が動転して、私は涙目になる。

 そこを竜胆社長が怒鳴りつけた。


「なにが試練だ!

 献身だ!

 これは性悪な建築士の仕掛けた罠に、おばあさんが引っ掛かっただけだ。

 おまえら、もし藤子おばあさんが死んだら、どうする!?

 おまえらが煽って、老婆を殺したんだ。

 警察が来ることになるぞ!」


 竜胆社長の恫喝がよほど応えたのか、無言のまま白服連中が、私に向かって、いっせいに襲いかかってきた。

 私は両手で顔を覆った。

 が、打撃音は聴こえたが、自分の身体には衝撃を感じなかった。


 目を開けると、竜胆光太郎社長が、大柄の男性信者を後ろ手に組み伏していた。

 相手の片腕を背中側に捻じ曲げて、その身体を片足で踏みつけにする。

 竜胆光太郎は、それまで見たこともない精悍な顔付きで、凛とした声を張り上げた。


「我が社のスタッフに手を出すのは許さない。

 どうしてもというなら、ソイツから病院送りにしてやる!」


 長身の青年社長が啖呵を切ったので、一気に緊迫した空気が張り詰めた。

 そこへ、遠くから救急車のサイレンが近づいてくるのが聴こえた。


 紫の作務衣をまとう、リーダーらしき女性が、いつの間にかスマホを手にしていた。

 白服の信者たちが、「御前!」「御前様!」と口々に叫ぶ中、彼女は赤瑪瑙(あかめのう)数珠(じゅず)を掲げる。


「鎮まりなさい。

 これも神様の思し召しです!」


 その一言で、信者たちの動きが止まり、私は竜胆社長の許に駆け寄ることができたのだった。


◇◇◇


 それから小一時間後ーー。


 幸い、おばあさんの生命は助かったようだった。

 救急車に同乗して、近くの総合病院にまでいった男性信者から、報告があったのだ。


 今現在、竜胆光太郎社長と「御前」と呼ばれたリーダーの女性は、サンルームで仲良く並んでカウンター席に座っていた。

 その後ろで、ズラッと三人の白服信者と、私、神原沙月、そして藤野亨先輩が並んで立っていた。


 藤野先輩は物件内に入るのを拒んでいたが、私の周りに白服連中ばかりで怖かったので、同行してくれるようにお願いしたのだ。

 ところが、藤野先輩はいざ物件内に足を踏み込んだ途端、興味深そうに周囲をグルリと見回し始め、


「ちょっと、他の部屋も見てきますね」


 と言って、しばらく私から離れて行った。

 先輩が私の傍らに戻ってきたのは、ちょうど竜胆社長が、紫の女性リーダーと席を並べたときだった。


 竜胆光太郎は、水色スーツの襟元を正しながら吐息を漏らす。


「おばあさんが死ななくて良かったな。

 あなたも捕まらずに済んだ」


 赤瑪瑙(あかめのう)数珠(じゅず)を手にする女性は、薄らと笑う。


「もしそうなったとしても、私は捕まりませんよ。

 信者の誰かが私の身代わりになって、全責任を負って警察に出頭してくれます」


「ご立派なもので。

 もちろん皮肉ですが」


「ほほほ」


 女リーダーは赤い唇に白魚のような手を当ててから、遠い眼差しになって語り始めた。


「人はいろんな悩み事や苦しみに囚われているーー少なくとも、そう信じています。

 実際は、そうでもないのにね。

 現在の日本では、ほとんどの人間が、悲惨な戦争下にあるわけでもなければ、奴隷のように(しいた)げられているわけでもない。

 それなのに、被害者意識に囚われている。


『思っていたのと違う』


『こんなハズじゃなかった』


 などと、不満を持っている。


 それは単純な事実を見落としているからです。

 ものごとや人間関係がうまくいかないのは、ものごとや相手のせいだけではない。

 本人の考え方や、人との接し方によって、ものごとや人間関係は、うまくもいったり、壊れたりもするのだという真実を、すっかり見落としているからなのです。


 ですけど、そんな単純な真実をすら、受け入れられない者が多い。

 自分の愚かさや弱さを棚に上げて、すべてを他人や世の中のせいにする。

 あそこにあるのが問題、ここにあるのが問題と、自分から問題を穿(ほじく)り返しては、このヒトのせいだ、世の中のせいだ、と騒ぐ。

 このヒトのせいで、今、こんなにも問題多い現状になったと言っては、自分は正義で、正しいと主張する。

 自分は悪くない、悪いのは、自分以外の人間や世の中だ、と言って居直っている。

 彼らの頭の中にぎっしり詰まってるのは、不平不満と他者への敵意なんです。

 それなのに、その汚い思いを偽善のオブラートで包み込んで、『他者に奉仕』とか『世の中に貢献』などとうそぶいている。

 そんな、『選民意識を持った愚民』がいっぱいいるんです。


 だから、そんな愚か者を救うのが、私の役目だと思っています。

 どうやって救うか、ですか?

 そうですね、いろいろな手が考えられます。


 厳しい現実を思い知らせる?

 善いことも、悪いことも、ものごとの半分は自分のせいで起こっているのだから、それを直視せよ、と?


 ほほほ。

 冗談じゃありません。

 そんなことを言ったものなら、私は愚民どもに殺されてしまいます。

 それこそイエス・キリストのように。

 私はそのように、『神のひとり子』だとか、『羊飼い』だと自称するつもりも、覚悟もありません。


 ではブッダのように、真実を直視できるよう、その者どもを相手に説法する?

 まさか。そんな義理も人情も、私にはありません。

 私は『悟った者』ではないし、神々から人々に教え諭すよう訴えられもしていません。


 ですから私にできることと言えば、せいぜい彼らに夢を見させてやることぐらいです。

 現実を認識するだけで厳しいと感じてしまう者たちに、甘い夢を見させてやるのです。


 あなたの思いは正しい。

 あなたが思い通りに行かず、不満を持ってしまうのは、全部、世の中が悪い。

 あなた以外の人々が悪い。

 でも、あなた以外の人々が悪いのも仕方ない、世の中のせいーーそれも世の中の背後で人間を(もてあそ)ぶ悪魔が、悪霊が悪い。

 その『真実』を人々は知らない。

 だから、私たちが教えてあげなければ。

 悪い世の中に操られている人たちを解放するのは、あなたたちだ。

 あなたたちは神様に選ばれた民なのだ。

 あなたが神様によって選ばれたという真実は、この私が神託によって明らかに知っている、とーー」


 こうした女リーダーの人間観というか、信者観を耳にして、私は後ろに立ちながらハラハラしていた。

 すぐ近くには、彼女が「愚民」と称した人々であろう、白服の信者たちが立ち並んでいるからだ。

 こんな暴露話をされて、彼らは憤慨しないのだろうか、と気が気ではなかった。


 ところが、白服連中は、彼女の「ご高説」を耳にしながらも、微動だにしない。

 どうやら、彼らは、自分たちはリーダーと同様の立場にあって「愚民に夢を見させる」側であると確信しており、彼女から「愚民」と見做されているとは微塵も思っていないようだった。

 なんとも怖い話である。


 そうしたありようを面白く思ったのか、竜胆光太郎は苦笑いを浮かべて肩を揺らす。


「まさにローマのカエサルが『ガリア戦記』 で記したセリフのようだ。


『人間は自分が信じたいことを喜んで信じる』というーー」


 紫の女性は両目を見開いて、強く同意した。


「まさに、その通りです。

 でも、仕方ありません。

 それが人間の現実なのですから。

 もとより人は信じたいものだけしか信じない。

 殊に愚民はね。

 ですから、そんな彼らを落ち着かせるために、私は甘言を(ろう)しているんですよ。

 それが私のやるべきことだと思っていますから。


 ーーそれにしても、落とし穴ですか。

 この家を設計した人は、よほど幼稚な悪意を持っていたようですね。

 結構浅かったのが救いでしたがーー落下したのがお年寄りだったので、ほんとうに死にかねなかった……」


 二メートル程度の深さだった。

 割れた壺の破片も、落下したおばあさんには危険だったろう。


 竜胆社長は女がいる方に顔を向けて、身を寄せる。


「問題は、これからどうするのかっていうことだ。

 すでにこの物件は我々、竜胆不動産のものになっている。

 再三の退去要求にも耳を貸さず、挙句、おばあさんが大怪我を負った。

 もちろん、あなたたちが責任は取ってくれるよな?

 おばあさんの治療費とかの面倒は、おまえらが見ろってことだ。

 おまえらがおばあさんを追い込んだんだから」


 白い作務衣を着た信者が、後ろから叫ぶ。


「追い込んだのは、あんたら、不動産屋だ!」


 竜胆社長は振り向いて怒鳴り返す。


「バカ言え!

 不法侵入をしたのは、おまえらだ。

 ここは、我が社の所有地なんだから。

 出るところへ出て争っても良いんだぞ!」


 リーダーの女は再び赤瑪瑙(あかめのう)数珠(じゅず)を掲げて、怒る信者を抑え込む。

 そして社長に向かって笑みを浮かべた。


「この物件、寺社仏閣にも近く、環境が良いんで、教会の支部にするのにもってこいだったのですがねえ。

 まあ、ここは私どもが身を退きましょう。

 それにしても、あなた方はじつに興味深い。

 揃いも揃って、重い業を背負ってなさる。

 それに旅の相が出ている。

 せいぜい気を付けることですね」


 後ろで聞いていた私は、絶句する。


 揃いも揃って、重い業を背負ってなさる?

 ーーそれって、私、神原沙月も含んでるの?


 隣で藤野亨先輩は至って気のない様子で、あらぬ方角に視線を向けて口笛を吹いている。

 が、私は内心、激しく動揺していた。


(待って?

 私、ごく普通の一般人ですけど!?)


 一方で、竜胆光太郎社長は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


◆6


 それから三十分後、私たち竜胆不動産のメンバーは、玄関前に駐車していたワゴン車に総出で乗り込んだ。

 竜胆社長が女リーダーといろいろと話し合って、白服連中を物件から退去をさせることに成功し、あとは今晩の宿泊先を決めるだけとなっていた。


 藤野亨は茶色のキャップを脱いでエンジンを吹かし、紫色のシューズでアクセルを踏む。


「それじゃあ、宿泊所を探す道すがら、O町の名所に立ち寄りますか」


 K蔵寺の前を通り、ジビエ料理屋から曲がって、N山不動寺への参道に入る。

 それから少し車を走らせると、『ゆうれい坂』と、白い文字で一字一字、カクカクと配置された看板があった。

 そこでぐるっと車を反転させる。


 O町のミステリーロードとして有名な「幽霊坂」に到着したのだ。


 車はほとんど通っていなかった。

 おかげで、停車しやすい。


「それでは、実験を開始します」


 と声に出して、藤野先輩は車のギアをニュートラルにする。

 でも、何もなし。


「おかしいな。

 登り坂に向かって、車が動き出すっていうんだけどーー」


 そう言われると、ちょっと動いたような気もする。

 でも、あらかじめ、そのように報されていないと、気付かない程度の変化だ。


 藤野亨は独りでドアを開けて車から出て、道路脇に身を屈める。

 そして、用意した空き缶とペットボトルを置く。

 それでも動きなし。


 首を(ひね)りながら、藤野先輩はワゴン車の運転席に戻ってくる。


「わざわざ寄ってみたんですが……」


「ここは、何なの?

 なんかの心霊スポット?」


 と私が問うと、先輩はいつもの説明モードになった。


「いや。

 たしかに、この坂、『幽霊坂』って言うんだけど。

 それでも、お化けが出るわけじゃない」


 先輩が指さした先にある看板に書いてあった。


『下り坂なのに、空き缶が戻ってくる!?』と。


 ほかにも、可愛らしい、布をかぶったお化けのイラストと共に、以下のように記されていた。


『体験は車に注意して近所迷惑にならないよう行いましょう』


『体験で使用した空き缶やごみなどは持ち帰りましょう』


『ゆうれいはでません。ご安心ください』ーー。


 藤野亨は運転席で黒ジャケットをはおり直しながら、残念そうに語る。


「じつはこの坂、『緩やかな上り坂』が続いているんです。

 それなのに、そのすぐ先が急な上り坂になっていて、さらに緑生い茂る周囲の風景によって平衡感覚が曖昧になってしまって、この坂が『緩やかな下り坂』に見えてしまう。

 だから、空き缶などが『坂をさかのぼって』手元へと戻ってくるように錯覚してしまう、というんです。

 がーー空き缶も動いてくれませんし、それに言われるほど、下り坂には見えないような……」


 藤野先輩は、可哀想なぐらい落ち込んでいる。

 仕方なく、私が窓の外に向かって指をさす。


「でもセンパイ、あれ、見てくださいよ。

 空き缶、ちょっと動きました!」


 私の合図で、藤野先輩だけでなく、助手席の竜胆社長も、窓に向かって身を乗り出す。

 藤野先輩が道路脇に置き忘れた空き缶があった。

 その空き缶がほんの少し、こちら側に向かって、戻るように転がったような気がした。


 それを確認して、藤野亨は胸を撫で下ろす。


「良かった。

 地元テレビじゃ、もっと派手に動いていたそうなんですがね。

 このまま動かなかったら、どうしようかと。

 もっとも、同じような現象が起こる坂は、日本各地にあるようなんですけど。

 ーーとりあえず、あの空き缶、拾って来ますね」


 先輩はドアを開け、即座に空き缶を拾ってくる。

 それから再び運転席に戻って来た彼に対して、竜胆光太郎社長は笑いかけた。


「目の錯覚を誘う坂ーーまるで、今回の事故物件のありかたそのものだった。

 あの須藤とかいう建築士が『坂道錯視』とか言ってたヤツだ。

 そうか、地元民ならこの『幽霊坂』を知っているはずだから、僕が要領を得ない様子を見て、アイツは、


『ああ、君はO町の住民じゃないんだね。

 じゃあ、仕方ない』


 って言ってたんだ。

 たしかにトオルくんの勧めに従って、真っ先にこの坂を訪れていたら、今回の事故物件の原因究明ももっと早くなったかもね」


◇◇◇


 車を進めると、国道への合流地点にカフェレストランがあった。

 そこで会食をする。


 店の外のテラス席を陣取った。

 社長と先輩はエビフライが目立つフライ定食に舌鼓を打ち、私は、ナポリタンのパスタに、焼いたウインナーと目玉焼きを添えたプレートをいただいた。


 竜胆社長はモグモグとフライを食べながら、概括する。


「結論から言うと、あの物件は、(たくみ)が作った、巨大な仕掛け細工だったんだ。

 所々で床の傾斜が右下になってたり、左下になっていたりして、一定していない。

 しかも二階が玄関になってるし、キッチンからしかサンルームに出られないし、いろいろ不便な造りをしていた。

 階段の段差それぞれ厚みが違ったり、ホールも廊下も微妙に歪んで片方に寄っている。

 天井や床、柱の走り具合でも、目の錯覚を意図的に誘導していた。

 問題は、どうしてこんな家を建てたか、ということだ。

 これは例の如く、僕の『妄想』ーーというより、今回は単なる『推測』というか、事実を積み重ねただけの読み解きなんだけど……」


 と前置きしてから、竜胆光太郎社長は語り始めたーー。



 学生時代の須崎和則は、吉田将太を妬んでいたうえに、彼のカノジョ香澄さんに横恋慕してストーカーとなっていた。

 ところが、肝心の吉田将太が決定的に(ニブ)かった。

 建築士・須崎和則の妬みに気付かず(あるいは、気付いていたがゆえに情けをかけたか)、IT企業の社長として成功した後、新居の建築を注文して経済的にも助けたりした。

 それが、須崎和則にとっては、すべて屈辱だった。

 大学時代の親友だった男から、憐れみで住宅を注文されたーーそう感じたのだ。

 その結果、逆恨みして、


(設計に仕掛けをして、困らせてやる!)


 と、須崎和則は、建築士ならではの嫌がらせを思いついた。

 計算づくで意図的に目の錯覚を誘導して、頭を悩ませる、そんな、住民を気持ち悪くさせる邸宅を設計をした。

 かくして、世にも珍しい「住民を拒絶する家」が誕生した。


 彼の狙いは、あくまでマウントを取ってくる吉田将太の頭を狂わせること、そして気味悪がって、香澄さんが家から飛び出して来て、自分の許にやって来ることだった。


 だが、将太社長にあまり効果はなかったようだ。

 それはそうだろう。

 北九州全体でも名を馳せた起業家だった吉田将太は仕事が忙しく、会社がある北九州のオフィスが事実上の寝所だったはずだ。

 そして、奥さんの香澄さんは実際、嫌いな人物が設計した邸宅で過ごして、相当参っていただろうが、間違っても、須崎が夢想するように、須崎の許に駆け込むはずはなかった。

 それにわずか一年で、日本を代表する有名企業と大型契約を結べた結果、吉田将太は名古屋へと会社を移すことにして、転居する運びとなったので、須崎の悪意に満ちた設計の邸宅による被害を受けなくて済んだのだった。

(もっともこの一年間、「嫌なオトコが設計した家」で子供と二人、めまいを感じながら過ごした香澄さんは、夫の将太さんに対する愛情をすっかり冷ましてしまったようだったが)


 あとの住人たちは、おおかたが将太社長の会社の取引先だったり、仕事仲間の人物が名を連ねていたものの、皆、建築士・須崎和則の悪意ある設計に苦しめられて、佐藤家のように家庭崩壊などして、事実上、家から追い出されてしまった。


 実際、須崎のヤツは、住人に何が起きても事故として処理されると踏んでいたようだ。

 未申告の地下室があれば違法建築となるというのに、図面を一枚、役所や買主に提出し損ねた、とシラを切れば片が付く、どうせ大きな問題に誰もしないだろうとタカを括っていた。

 そんなことで問題を大きくして、物件の価値を貶めたり、生活するのに不便になるようなリスクを背負うヤツはいない、と踏んでいたらしい。

 そうとしか考えられない。

 要するに、須崎和則は「住人」を舐めていたのだ。



「どちらにしろ、魂が腐ってる。

 いくら腕が良かろうと、建築士としては、もうダメだろう」


 とエビフライを頬張りながら、竜胆光太郎社長は断言する。


「建築士が、妙に松の木にこだわっていた理由は?」


 と私が問うと、


「神功皇后の伝説にあやかったんだ。

 それはもう指摘したはず」


 と竜胆社長は言ったが、それに藤野先輩が付け足した。


「ほかにもあります。

 この遠賀郡O町には、『浜山証文』という、福岡藩の家老・吉田六郎太夫(ろくろうだゆう)が残した藩の法令があるんです。


『いつも松の手入れをして、松を切らないようにすること』


『松を切ると、重い罰をあたえる』


 といった内容だったそうです」


 藤野先輩によるとーー。


 O町の海岸線には、全長約12キロもの「三里松原」が広がっているそうだ。

 数百万本ものクロマツを中心とした松林だが、これは江戸時代の植林事業によって出来上がったものだった。

 太古より響灘(ひびきなだ)から吹き荒れる潮風や砂風に、浜辺の住民は苦しめられ、田畑が一晩で砂に埋もれたこともあったという。

 ゆえに、福岡藩主が、防風林・防砂林として松の植林を命じたのだが、生活の必要もあって、たびたび松の木を切ったりして、松原が薄くなっていった。

 そのタイミングで、潮風の被害に加えて、遠賀川が氾濫して田畑が荒れ、干魃(かんばつ)も続いて作物が実らなくなり、福岡藩全体で10万人以上の餓死者が出た。

 歴史に名高い「享保の大飢饉」である。

「松の木を迂闊(ウカツ)に切ったせいだ」と深く反省した福岡藩は、浜辺の村民を動員して、植林事業を展開する。

 松苗を遠方から取り寄せ、一坪ごとに一本ずつ植えさせ、潮風が強い中、二十三年間も植え立て作業を行った。

 その結果、三里松原を保護する福岡藩の家老が、「いかなる理由でも松を切ってはならぬ、切った者は厳罰に処す」という書付を村々に出したのだったーー。



 こういった話を藤野亨から聞き、竜胆社長は相槌を打った。


「この地方で大切にされているクロマツだから、バルコニーを覆うように植えてあっても伐採しづらい、と建築士の須崎は思ったのだろう。

 さらに、『切ったら厳罰』とされる松の木を、あたかも切ったかのように、松の切り枝を床の間に飾る。

 実際に、須崎和則が呪いの願掛けとして、三里松原の松から切り出してきた枝を壺に挿した可能性すらある。

 要するに、この地方の歴史を知る者にとっては、有効な嫌がらせだった……」


 女性をストーカーするような人物ならやりかねないと思いつつ、私は(つぶや)く。


「でも、嫌がらせをしたい相手は、すぐに一年で引っ越してしまったのは皮肉ですね」と。


「ほんとうに」


 と、社長は苦笑いを浮かべ、隣の藤野先輩も首を縦に振る。



 そして竜胆不動産の面々は食事を終え、コーヒーを飲むあたりから、この奇妙な建物をどうするのか、という議論に移った。


 私は顎に手を当てる。


「この建物、カッコいいんだけど、外観以外は全部使えない。

 リノベーションでどうにかできるとは思えない。

 全部ぶっ壊して、新たに建て直すしかないのかな」


 藤野亨先輩が手を挙げて提案する。


「だったら、証言してくれた、例の大工さんに再建してもらいましょう。

 あの宮大工だった大工さん、かなりの腕だよ。

 あんな細かく指示された、うるさい設計に従って、実際に建物を建てられるんだから」


「いや、もっと楽ができる手がある」


 と竜胆光太郎社長が言うので、私は「どんな手が?」と問いかける。

 すると竜胆社長は胸を張った。


「ゲストハウスにするんだよ。

 あるいは、レンタルスペースとして貸し出したって良い。

 考えてみれば、活用方法はいろいろあるんだよ」


 竜胆光太郎社長は、グレーのワイシャツの袖を(まく)りながら言った。


「レンタルだったら、泊まる時間は、そんなに長くはならないはず。

 数時間だったり、たった半日から数日使うぐらいだったら、そこまで利用者の身体に支障をきたさないだろう。

 特に若い子たちはエネルギーがある。

 一泊や二泊したって、なんてことはないだろう」と。


 私は、膝を打って同意した。


「これほど立派な邸宅なら、奥様たちがママ友の集いにしても良いですね。

 バルコニーを覆っている庭の松の木をバッサリ伐採して視界を開きましょう。

 芝生が綺麗な、広いお庭が誕生しますよ」


 竜胆社長はやおらパン! と手を叩くと、勢い良く立ち上がった。


「やはり、資産価値があるんだよ、この家は。

 改装なら、例の大工さんなら、喜んで応じてくれるだろう。

 沙月さんは、二、三日のうちに指示書を作成してくれ。

 それから、僕たちはさらに東へと向かおう!」


◇◇◇


 そして、翌日ーー。


 打ち合わせをした、このカフェレストランが宿泊所も併設していたので、私たちはここで泊まった後(もちろん、部屋は私だけ別だった)、私、神原沙月は、モーニングをいただきながら、リフォーム指示書の作成に取り掛かった。


 すでに建てられた家の、奇妙な歪みは変えられないーーと思っていたけど、実際にあの家を建てた大工さんが健在なら、彼と協議して、様々に改善ができるはずだ。

 床の凹んだ部分には緩衝材を薄く敷くなどしてできるだけ平衡を保つようにしたり、壁紙の種類を変えて目がチカチカしないようにしたり、ダイニングとリビングの天井や壁の色を完全に統一したりと、改善が可能なことが様々に頭に浮かんできて、忙しいほどだった。

 物件のすぐ近くだったので、昼過ぎに大工さんと合流して、いろいろと打ち合わせをして、あとはリモートで仕事ができるよう手配した。


 ちなみにそのとき、竜胆光太郎社長も、この「住人を拒絶する家」にやって来ていた。

 彼は、庭のクロマツに白字で梵字を描いたり、地下室への扉に黒色で三角形を描き、床の間には大日如来(だいにちにょらい)を中心にした胎蔵曼荼羅図(たいぞうまんだらず)が描かれた掛け軸を掛けたりして、忙しそうだった。


 今回は「霊道」の痕跡が見られなかったために安堵していたようだけど、竜胆社長はそうしたオカルトめいた作業に没頭している間は始終、周りの誰とも口を利かない。

 竜胆光太郎というヒトは、今回の建築士・須崎和則がしたような、姑息で陰気な振る舞いを特に嫌悪しており、それゆえ、彼なりに、この邸宅から邪気を祓うための儀式を念入りにしていたみたいだ。

 地下室への落とし穴を封印したのは言うまでもない。


 そしてその間、藤野亨先輩はワゴン車を駆って 、O城跡を散策したり、宗像大社(むなかたたいしゃ)香椎宮(かしいぐう)に参拝しに向かったりと、これまた忙しく動き回っていたらしい。

 それでも、夜になって、このカフェレストランに舞い戻って来たときには、


「明日の昼には、小倉で糠味噌炊き(ぬかみそたき)を食べましょう!」


 と熱く訴え、意識はすっかりこれから先の旅へと向けられていた。


◇◇◇


 さらにそれから、半年後ーー。


 その頃には、竜胆不動産の面々はすでに京都に辿り着いて、事故物件を買い付けていた。


 が、その一方で、建築士の須崎和則は、窮地に立たされていた。

 彼が設計した関東の建物が地震で破損し、手抜き工事が露見してしまったのだ。

「手を抜いて資材費を横流しすることは、須崎和則によるお墨付きだった」と、建築会社が暴露して、それを否定する建築士・須崎との醜い争いが始まった。


 さらに、須崎の建築事務所が、脱税により摘発された。

 税務署に差出人不明の、詳細な会計資料が提出されたことによって発覚した。

 幾つかのペーパーカンパニーとの架空取引で、支出を過剰に報告していたのだ。

 これまた資材の横流しに関わる犯罪行為で、手抜き工事の件と絡めて、いずれ捜査が入るだろうと噂された。


 須崎和則建築士は、「ショウタに嵌められた!」と騒ぎ始めたが、誰も取り合わなかった。

 須崎の建築士としての名声は地に落ちようとしていた。



 一方、例の事故物件に居座ろうとした佐藤藤子おばあさんは、病院での治療後、腰を痛めて寝た切りとなっていた。

 そのため退院後、施設で生活するようになる。

 入所の手続きと初期費用の捻出は、息子の佐藤健介ではなく、例の宗教団体モドキの「三里の響き」が労をとった。



 なお、結局、「住人を拒絶する家」も、海原沙月と大工・八代高峰による改修を経て、例の宗教団体モドキによって高値で購入された。

 紫の作務衣(さむえ)をまとい、赤瑪瑙(あかめのう)数珠(じゅず)を手にする、女リーダーの指示によって、竜胆社長の言い値で買い取ったそうだ。


 白服連中は、竜胆社長と同様の着想を得て、レンタルスペースとして、この家を貸し出すことにした。

 宗教的な看板を表に出さずに、一種の収益事業として真面目に経営に取り組んだのである。

 結果として、幾つかの地元グループが、サークルやボランティア活動の拠点に、あの家を使い始めた。

 彼らは、例の宗教団体モドキとは一切関係なく、近在の海岸線にある松原で、ゴミ拾いのボランティアに精を出しているとのことだ。



 そして、名古屋の吉田将太と香澄の夫婦は離婚協議に入っていた。

 どうしていきなり妻が怒っているのかわからない、と夫の将太は主張し、離婚を思い止まらせようとしているが、妻の香澄の離婚の意志は固く、ひとり娘も、母親を応援しているという。


(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ