聖女の仕事をサボってませんよ
あえて子供の言葉はひらがなです(ここ強調)
「ニィナ。筆頭聖女でありながら職務を放棄して遊んでばかりとは何事だっ!!」
いつも通り神殿の中庭で子供と一緒にいたらいきなり怒鳴られた。
「ニィナ。だれだ?」
不思議そうに大きな目を向けて尋ねられるので、
「我が国の第二王子殿下ですねアレルヤアローさま」
すぐに質問に答えが、
「そういうところだ!! お前は、筆頭聖女でありながら聖女の職務をカザリーナに押し付けて毎日遊び呆けて」
第二王子の後ろには公爵令嬢の名目聖女のカザリーナ嬢。
聖女というのが代々平凡な女性なのはおかしいと詰め寄られて、それに根負けした時の神官長が、名目聖女という職業を作って、多額の寄付を目的に聖女として短期間預かっているのだ。
一時的に聖女となれば、箔がつく。神殿は寄付金がもらえる。相互に利がある関係なのだが、なんでそこで名目聖女の彼女が口を出すのだろう。
「あっ、そうか」
名目聖女というのは内情を知っている者達が言っている言葉で外部の人……当の名目聖女も知らない者も居る。自分が名目聖女だと気付いた聖女はその時点で名目という言葉を外して、寄付金も減額している。
神殿の一番の仕事である神々の世話を任せているのだ。
「ニィナ。おなかすいた。おやつは~?」
アレルヤアローさまに促されて、
「はい。今日はプリンです」
先日名目聖女からしっかり聖女になった少女の作るお菓子は、何でも美味しいと評判だ。
「プリンっ!! ボクすき~」
にこにこと笑っているアレルヤアローさまと手を繋いで、お菓子が用意されている厨房に向かって歩き出そうとする。
「またサボるのかっ!! そんなやる気のない態度の聖女は筆頭に相応しくない!! 筆頭聖女の座をカザリーナに明け渡せっ!! 後、お前との婚約は破棄させてもらう!!」
婚約破棄?
「私って婚約してましたか?」
つい手を繋いでいたアレルヤアローさまに尋ねると、
「――してないよ。ニィナのけっこんあいてはボクがりょうえんをむすんであげるから。テリアーズとかはどう? ホーリーライトがきにいっているし」
「そっ、それは、テリアーズさまの希望を聞かないと…………私の一存では」
憧れている方の名前を言われて顔を赤らめる。
「じゃあ、テリアーズはこうほにしておくね。まちがってもボクいがいがきめることないから」
安心してと言われて、やはりそうですよねと第二王子の言葉は聞き間違いか勘違いだろうと納得する。
「筆頭聖女のカザリーナと第二王子の俺が結ばれるのは運命なんだ」
「ルードルさま」
見つめ合って愛を語り合っている様を見て、普通に公爵令嬢と第二王子で結ばれるのは正しいよね。権力的にも身分的にも。なんで筆頭聖女に絡んでくるのだろうか。
というか、第二王子の名前ルードルというのか知らなかったな。
「と言うことだ。さっさと神殿から出ていけ。筆頭聖女という名前で今までカザリーナを奴隷のように扱ってきた罪を償わせてやる」
「奴隷……。いえ、(名目)聖女は私の補佐をするのが決まりなんですよ」
所詮寄付金目当ての名目聖女なのだ。まともな仕事はさせられないけど、聖女見習のする神殿の掃除や補佐の仕事をしてもらっていたのだ。
「そんなことを言って、騙そうとしてもそうはいかないぞ!!」
「………………」
話通じてないな。
そもそも。
「なんで名目聖女なんて引き受けたんですかね……」
押し付けられたとはいえ、もうやめてもいいんじゃないですか。
「んっ。おかねがいっぱいだとおかずがいっぴんふえるし、おやつもでるから。ボクがつづけていいよ~って、いったの」
「アレルヤアローさまのご命令でしたか……」
それなら納得です。
「何こそこそしている!! さっさと出ていけっ!!」
いきなり腕を掴んで地面に叩き付けられそうになったが、
「――ご無事ですか」
黒髪の男性が支えてくれる。
「おまっ……」
「神官長さまっ!!」
カザリーナが黄色い悲鳴をあげる。
「ニィナ。怪我はありませんか?」
「だ、大丈夫です。テリアーズさま」
顔が赤くなるのは仕方ないだろう。先ほど話題に出ていた憧れの神官長のテリアーズさまが助けに来てくれたのだ。
私を支えながら視線を第二王子に向けて、
「これはどういうことですか? 殿下」
詰問する声が冷たい。
「なぜ、勝手に神殿に入って、聖女に危害を加えたのでしょうか。詳しく話を聞かせてもらいたいですね」
「はっ、筆頭聖女に相応しくない女を追い出すためにしたことだ。何も悪くない!!」
悪びれることなくそう言い放ち、
「聖女と言いながらも聖女らしいことをせずにカザリーナを奴隷の様にこき使い、子供と遊んでばかりいる女が聖女なわけがない。聖女はカザリーナこそ相応しい」
堂々と言い放つさまに、
「それはあり得ませんね」
テリアーズさまがアレルヤアローさまに視線を落として、アレルヤアローさまはこいつ嫌いと言うかのように顔を歪めているので、すぐに返答している。
「そもそもなんで、カザリーナ嬢と婚約するのに筆頭聖女の座が必要なのですか? 彼女は公爵令嬢でしょう」
不思議に思って尋ねるとカザリーナと第二王子が一瞬だけ、変な反応をする。
「そうですね……。身分差もなさそうですし、年齢差もない。恋愛関係でも普通に認められますよね」
テリアーズさまも同意する。
「わざわざ聖女の……筆頭などにならなくても困りませんよね」
第一王子の婚約者に比べたら障害は少ない。厨房でお菓子作りが得意な彼女は、姉妹格差が激しくて、不遇な身の上で妹に婚約者を奪われた後神殿に捨てられるような形で一応寄付金を払った名目聖女として来たが、今では名目という文字も消えて、聖女としてしっかり役目を果たしている。
聖女として働いている時に第一王子に見初められたのだ。
その彼女に比べたら障害もないのに。
「………もしかしたら、このだいにおうじ。むかし、せいじょとけっこんしたおうぞくのまったんがおうになったことあったからそれをねらっているとか」
ずっと黙っていたアレルヤアローさまが告げる。
聖女と結婚した王位継承権が下位だった者が王になった。確かにそういうこともあったけど。第一王子の婚約者は聖女。そして、第二王子は名目とはいえ、聖女。
表向きは同格なのだ。
それから一歩出るには……。
「“筆頭”聖女という名前が欲しい。ですか……」
聖女の中で一番偉いと思われる筆頭の言葉が欲しいからというだけでの暴挙。
「そうですか。今回の暴挙は陛下に報告させてもらいます」
「なっ⁉ 一神官のくせに何を偉そうに!!」
「ルードルさまっ!! この方は神官長ですっ!!」
慌てて止めるカザリーナに、
「何を言っているんだ。俺が王になったらたかが一神官などどうとにもなる」
そんな風に喚いているのを見て呆れたようにテリアーズさまは溜息を吐き。
「アレルヤアローさま」
「いいよ。つないじゃって」
アレルヤアローさまに許可を取り、
「――ということですが」
テリアーズさまが中庭の壁に触れると王宮の執務室――陛下と第一王子のいる空間に繋げる。
神官長になる人材はある条件がある。
神自らの力を与えて、非常事態の際空間を繋げる魔術を使える者。
緊急事態の際に王族や民を逃がせる力を得る覚悟と神に気に入られる人材じゃないとできないので、一神官などとは言えないのだ。
王族にとって命綱の存在なのにそれをぞんざいに扱うような発言は王族としてはかなり許せないだろう。
「愚息が済まない」
近くで聞こえる陛下の声。
「いえ、ということで渡しておきます」
テリアーズさまは渡すという言葉にはそぐわない感じで思いっきり蹴り飛ばす。
「空間を閉じます」
あっちへ行ったのを確認すると、
「次はこっちですね」
カザリーナに向かって冷たい視線を向けるテリアーズ。
「寄付金をもらってもここまでの問題児は割に合いません。聖女が何たるかを知らないで問題を起こしてくれるなんて……」
また空間を繋げたと思ったら神殿地下の牢屋。
「そこで反省しなさい」
と突き飛ばして閉じ込める。
「――さて、アレルヤアローさま。お菓子の時間です。ホーリーライトさまがお呼びなので迎えに来ました」
恭しく頭を下げるテリアーズさまに、
「そうだった。プリン♪」
すっかり機嫌を良くしたアレルヤアローさまを見て、
「子どもと遊んで仕事をしない。とは……」
神殿の奥まで子供が入れないのにどうしてそんなことを思ったのかと溜息を吐かれるテリアーズさまに頷いてしまう。
聖女と神官長の仕事はその子ども……子どもの姿をしている神と付き合うのが仕事なのだ。
神殿の奥にいる時点で察している者は察しているのに。
「ニィナ。助けるのが遅れてすみません」
ふと思い出したかのように告げるので、
「いえ、厨房からこちらに来るのも大変だったですよね」
来てくれただけ嬉しいですと微笑むと、
「そう言われると居た堪れないですね……。好きな女性の危機は一目散に助け出したかったのですが……せっかく空間を繋げる魔術があるのにこういう時には役に立たない」
困ったように告げてくるが、いきなり言われた発言にかなり動揺してしまう。
「来てくれただけ嬉しいです……。それに」
とっさに支えてくれた手が嬉しかったとあの時のぬくもりを思い出して顔を赤らめる。
「ニィナ。テリアーズとりょうおもいだね。ボクがふたりのえんがきょうこになるようにしてあげる」
前を歩いていた子どもの姿をした神の言葉と同時に赤い糸が私とテリアーズさまの間に現れて結ばれる。
「神の縁結びですか……」
「嬉しいですけど、もう少し待ってほしかったですね」
せめてしっかりした告白をして、返事をもらうまで。
そんな二人の気持ちは神にとっては結果は同じだからいいじゃないと軽く片付けられるのだった。
おやつ欲しさに子ども姿を取っている夫婦神(笑)




