スイッチ
朝の通勤、駅に向かう。
途中、黒猫とカラスを見かけた。
朝、黒猫を見かけた
横を向いて、顔は見えない
鴉を見かけた
横を向いて、顔は見えない
駅に着く
ホームの人
全員、下を向いている
顔は見えない
電車に乗った
座っている人、全て
下を向いている
立っている人は上
何れも、顔は見えない
床に、しゃがんで顔を見る
一斉に、上を向く乗客たち
立てば
一斉に、下を向く乗客たち
何か、腹が立つ
手を大きく開き、閉じる
パン!
車内に響く
スイッチが変わった
全ての人が、こちらを向いている
乗り換え
広い構内を通り抜ける
ホームで並ぶ
全ての人が、こちらを向いている
満員の電車が到着する
窓から、乗客全てがこちらを見ている
扉が開く
全員、こちらを見ながら降りてくる
目を閉じる
これは夢に違いない
何処か遠くで
猫の声、鳥の羽ばたき
目を開けた
誰もいない
朝の通勤時のホーム、電車内
誰もいない
静かな世界に、一人
電車も動かない
手を大きく開き、閉じる
パン!
鳴らし続けている
パン!、パン!、パン!
戻れない
