彼女の目的
「なぁるほど、2人は同じ高校、しかも幼馴染な訳だ」
オータムこと、秋ヶ原さんが来てからは彼女が会話の主導権を握り、俺たちのことを聞いてきている。
「いつ頃から一緒なのかな?」
「それこそ、保育園の頃から一緒だったよな」
「そう、ですね」
人見知りの彼女はあまり発言することなく、俺の言葉に同意するだけである。
話しやすい話題になったら振っておこう。
「確かに、それじゃあご両親は仲良いのかな?」
「かなり良いんじゃないんですか?確か俺の親が日本に留学した時に仲良くなった友人らしくて」
「いいご縁じゃあないか大切にね。てことは、2人はよくゲームやってるんじゃない?」
俺と秋ヶ原さんが会話をしていると、俺の視界の端でキリュウさんが携帯をいじり始めた。
「いや、それほど。ゲームの趣味が若干違うんですよね。だから今回一緒に出来るのは中々嬉しくて」
葵は突然とくん、と頭を垂らした。意図は分からない。
「そう。それはよかった。サム君は普段は何やってるの?」
「fpsとかよくやってますよ。前はインベーダーとか、サ終しちゃいましたけど」
「あ~そういうことね。だから、あんなにチーターが嫌いなんだね」
すると秋ヶ原さんは俺がここにいる理由を看破した。
「分かる。あれ、チーターに荒らされちゃったもんね。それで、ホリーハックちゃんと一緒にたおそーってなったんだ」
「まぁ、そんな感じです」
「それで、そこでずぅっと携帯いじってるキリュウさーん。何しているんですか?」
すると秋ヶ原さんが会話の途中で、キリュウさんへと言葉の棘を刺した。
「チーター報告のdmを見てる」
すると彼は悪びれる様子もなく、持っているスマホの画面をこちらに見せてきた。
「我々、チートハンターズのSNSだ。このことについて説明したか?」
「さわりくらいかな」
「説明頼んだ」
「はーい」
結局、彼が急にスマホを触り始めたことは咎められることはなく次の話題に移った。
「んで、サム君、覚えているかな?これはチーターを晒上げるアカウントだ」
「はい、覚えてます」
彼女は「借りるねー」と言ってからキリュウさんのスマホを取って動画を俺の方へ見せてきた。これは、俺がゲームを始めた時に遭遇したチーターとの戦いの記録だ。
「これをツイスタと動画サイトに上げている。『いいね』は251。中々上場だね」
これは初めの街に行く際に教えてもらったことだ。
「ホリーハックちゃんもいるから復習しておこう。私たちはチーターを討伐し、その様子をネットに上げることで、チーターを撲滅する。チーターが恥ずかしいこと、結局負けてしまうことを喧伝するんだ。動画を通してチーターを悪役と仕立て上げて、『こんなんじゃチート使っても意味ないやぁ』って思わせるんだ」
「チーター討伐をエンタメ化するってことですね」
「その通り、チーターは欲求を満たすためにチートを使う。その欲求を果たせない。と思わせれば私たち。『チートハンターズ』の野望も果たせるはずだ」
「そして、そのアカウントではDMでチーターの報告を受け付けている」
突然、キリュウさんが立ち上がり貸していたスマホを「返せ」と言わんばかりに掴みながら会話に割り込んできた。
秋ヶ原さんは「やれやれ」と言いたげな表情でスマホに手を離すと、彼はそのアカウントのDMの画面を見せてきた。
「だから、このようにチーターの報告が来る。君が戦った初心者狩りも、君たちが戦ったチーターチームも、このDMによって存在が判明した。そして。新たなチーターの報告がコレだ。とあるサブストーリーのダンジョンで辻斬りが起きているらしい。使われているチートは強制決闘モードだな」
「それって俺がこのゲームを始めた時に使われたやつですか?」
俺は強制的にプレイヤーキルをされる現象に心当たりがあった。
「ああ。指定した相手を強引に決闘モードに引き込んで負けたらゲームオーバーにするチートだ。このダンジョンで最後のボスを倒した直後、何者かがパーティ全員をキルしてゲームオーバーにしているらしい。しかも、判定的にはダンジョン内でのゲームオーバーだから、サブストーリークリアしたことにはならないらしい」
「運営は何してるんですか?」
ここで思い当たった至極当然な疑問を口にする。
こんな、ゲームという楽しみを決定的に阻害するがチートを放置されていいはずがない。
「もちろん、対応はしている。今、アンチチートを作ってテスト環境で正常に動くか試しているそうだよ」
「……待ってください。なんで運営のことを知っているんですか?」
それは本来社外秘レベルの情報だ。そのことにいち早く気付いた葵は秋ヶ原さんへ鋭い目を光らせて追及する。
「それはね。私と運営と繋がってるから。私、仕事の関係上、その辺りの人たちとつながりがあるんだ。それじゃあ、話を戻すよ。『チーターをBanする』。私はそれだけではチーター根絶への有効打にはなり得ないと考えている。知っているはずだ。こういうのはイタチごっこだってね。Banだけでは彼らの汚い野心は折れない。だから私たちがバン以外のペナルティを作るんだ。さぁて、このチーターは中々まずい。いわば、ゲームを進行不可にするものだからね。早急に対処しよう。明日は日曜なわけだけど、2人はいけるかい?」
「「行けます」」
俺たちはその申し出に了承した。
強引に話を流されたが、チーターの撲滅は優先してやらなければならないことだ。これを引き受けない訳にはいかない。
こうして俺たちは明日、昼過ぎにそのサブストーリーを同時に攻略することとなった。
「よぉし、それじゃあ決まりだ。後はこの会を楽しもう!私、リアルではゲームの記事のライターやってて……」
今後の予定が決まると、彼女の身の上話が始まる。
この話題以降、チーターに関して話すことはなく、決起会はお開きとなった。
『はーい、もしもし。お疲れ様でぇす』
慶と葵が帰り、キリュウの部屋を片付けた後、秋ヶ原楓は渋谷のスクランブル交差点近くの大きな広告の前で何者かと通話をしていた。
『ええ、順調ですよ。このままチートの販売業者に接触できるかもです』
『そのユーザーを特定する手段も確立しました。もし、ホシがこのゲームをしていたなら一気に情報開示まで持っていけます』
『ええ、ええ、はい。了解しました』
『えぇ?どうしてキリュウが動き出したのかって……私にも分かりませんよ。諦めムードだったって報告は嘘じゃないですからね。でも、いい流れだと思いますよ。彼の実力観ました?流石、VRゲームに最も適応したヒト、ですね。それに、彼が戦っているということは、立ち直りかけているということですし』
『はい。はい。もちろん。絶対に阻止しますよ。それでは定期的に報告しますので』
通話を切り、雑踏の中へ消えていく。
(絶対に阻止ししてやる。ここで掴むぞ、デスゲームの尻尾を)
決意を胸に。
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