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チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜  作者: 隈翔
シーズン1 チーター討伐チュートリアル
7/39

オフ会


翌日、土曜で午前中だけ授業だった俺と葵は、渋谷でオータムさん、キリュウさんと一緒に決起会を行うことになった。


「「あっつ~~~~~」」


 夏の渋谷は熱い。とにかく熱い、1分で汗をかく。

 俺たちはむせ返るような熱気にうんざりしながらスクランブル交差点を歩いていく。


「葵、荷物持とうか?」


「大丈夫。はよいこ」


 そんな猛暑でもヘッドホンをかけている葵と、限りなく速い早足で目的地に向かった。

 決起会の場所はキリュウさんの住処。

 渋谷駅から少し歩いたところにある雑居ビル群のうちの一つ、『shiki』というビルの屋上にある部屋で行われるらしい。最初はレストランにする予定だったらしいが、キリュウさんが駄々をこねたため、変更になった。

 彼があの手この手で駄々をこねる姿は正直見ていられなかった。


「ここで合ってるよね?」


 灼熱の陽射しに照らされながらようやく目的地にたどり着いた。


「ああ、合ってるビル『shiki』って表札があるだろう?」


「今更なんだけどさ。怪しくない?」


 葵はビルの漂わせる、どことなく不気味な雰囲気に不信感を覚えていた。

 ビルの明かりはついておらず、人の気配はまるでない。扉の先にはエレベーターが俺たちの到着を待ちわびている。

 確かに、俺はまだ彼らのことを信用しきってない。

 だが、ここで止まるわけにはいかない。チーターを倒すには俺だけの力では足りない。初心者狩りのチーターは、オータムさんの協力がなければ勝てなかった。その後の戦いも葵がいなければ勝てなかった。

 今後、このゲームでチーターを倒していくためには仲間の存在が必要不可欠だ。そのため、彼らとより親睦を深める必要がある。

 それに、キリュウさんの強さは異常だ。俺は彼の強さの秘訣を知る必要もある。


「……俺は入る。葵は、本当にいいのか?」


 ドアノブに手をかけ、葵へ振り返って最後の確認をする。


「私も行く。もうここまで来ちゃってるから」


 彼女は俺の後ろに引っ付きながら、一緒に入ってくれると言ってくれた。

 ゆっくりと、扉を開けてビルの中に入ってエレベーターまで進んでいった。


 無言のまま、薄暗い廊下をゆっくりと歩いてボタンを押してエレベーターを呼び出す。

 屋上階に到着した俺たちを迎え入れたのは痛い日差しと、遠くに見える入道雲と、なびいている洗濯物だ。

 右手にはポツンと部屋がある。カーテンは閉められており、中の様子を伺うことは出来ない。部屋の上には巨大なアンテナが備え付けられていて、コードが部屋の内部に繋がっていた。

 ドアの前に立ち、イヤホンを押す。

 ピンポーンとなった直後、扉が開いて見知った顔が現れた。


「ようこそ、入ってくれ」


 ゲームと同じ、暗く濁った瞳と、変哲のない髪型、そして、ゲームとは違う黒い上下のスウェットを着たキリュウが目の前にいた。


(この人、リアルとゲーム同じ顔にしてるのかよ!?)


 これがファーストインプレッション。


「さむっ!」


 部屋の冷房の空気が入ってきて、震えたのがセカンドインプレッションだ。


「さぁさどうぞ」


 彼は嬉しそうに扉を抑えながら俺たちを招いている。

 携帯をいつでも取り出せるようにしながら、中に入ることにした。


「……お邪魔します」


 二人で震えながらゆっくりと部屋に入る。


「そこのソファ使ってくれ、色々買って来たんだ。自由につまんでくれ」


 彼の部屋は真っ黒だった。明るすぎる照明がそれを強調している。

 10畳ほどの部屋の家具は全て黒で統一されていた。真っ黒なカーテン、真っ黒なソファ、ちゃぶ台くらいの高さの真っ黒なテーブル。真っ黒なベッド、真っ黒なカーペット、真っ黒なキッチン用品。真っ黒なデスクの下には、真っ黒なコンピューター、2枚のモニター、マウス。

 そして奥には巨大で真っ黒なVRマシン。


 ロボットものに出てくるコクピットのような巨大な椅子と、夥しい数のコードが繋がれたVRゴーグルが鎮座している。

 彼は俺たちをソファに誘導してから、キッチンで飲み物を用意し始めた。

 ソファの前に置いてあるテーブルには未開封のピザが、解放の瞬間を今か今かと待ちわびていた。


「何飲む?コーラ?それとも、夏らしく麦茶か?」


「麦茶で」


「私も」


 あまり飲むつもりはないが、好みを答えると、彼は俺たちの目の前に麦茶が注がれた真っ黒なコップを差し出した。


「はい。どうぞ。それと、ピザ、若いんだし好きだろ?好きに食べてくれ」


 コックピットみたいな椅子を、テーブルを挟んだ目の前に持って来て座りながら、家主としてこの場を楽しむよう勧めてくる。


「……ありがとうございます。にしても今日、暑いですね~」


 俺は礼を言いながら軽く雑談をすることにした。

 彼のことは紹介を受けたとはいえ、その印象は漠然とし過ぎている。これから連携していくためにも、彼への解像度はより高くしておきたい。


「そうだな。最高気温38度だ。ここは冷房効かせているから、ゆっくり休んでくれ」


(ありがたいけど、寒すぎるんだよな~)


 この部屋の設定気温を気なってきた俺はテーブルの上にあるリモコンにちらり、と視線を送ると非常識な設定が見えた。


(18度!?嘘だろ!?)


 隣を見ると、葵は小刻みに震え始めている。


「……キリュウさん、すいません。冷房の気温、上げられませんか?」


 このままでは耐えきれないので冷房の温度を上げるように要求すると、彼は数秒間、「何を言っているんだ?」と言いたげな顔で困惑した後、柔和な表情になった。


「そうだな。そうだよな!俺も寒かったところだ」


 とんでもない速度でリモコンを手に取り、ボタンを連打している姿はかなりシュールに見える。もしかして、この人は緊張しているのではないだろうか。

 そこから数秒間、沈黙が流れた。

 次の話題を切り出そうとしてきたその時、彼が切れ味の高い話題を振ってきた・


「お前たち付き合っているのか?」


 単刀直入すぎる。頭がピンクなのか。


「え、あ」


 予想だにしない発言だったため、葵は困惑してしどろもどろになっている。

 かくいう俺も、俺と彼女の関係を誤解なくかつ十分に表現できる言葉を見つけていない。


「いや、言わなくていい。大事にしろよ」


 回答に困っていると、キリュウさんは止めるようなジェスチャーをして勝手に納得し始めた。


「ここでゲームをしてるんですか?」


 この話題はあまり掘り下げられたくない俺は、すぐに別の話題へと話を切り替えた。


「ああ、そうだ。この椅子と、そこのゴーグルで普段はゲームをしてる。これらは全部、……オータムから借りているものだ。この部屋もな。外から大きいアンテナ見ただろう?あそこで電波を受けてる」


 ついでに、目の前にいるキリュウという人間に興味が湧いている俺は、自然に会話をする体で彼のことについてどんどん掘り下げることにした。


「へぇ、そうなんですね。あんな規模のアンテナ、動画でしか見たことないですよ。じゃあネットはめちゃくちゃ早いですね」


「その通り、ネットで不便したことはないよ」


「つまり、オータムさんから色々、支援を受けてるんですか?」


「そうだな。彼女は……いわば俺の雇い主だ。だから色々揃えてもらってる」


「……普段は何をされているんですか?」


「恥ずかしながら、ゲームだ。生憎、それしかできない性質でね。これで生活できていることは奇跡だろう」


 彼は今オータムさんに養われている状況、ということだ。更なる質問をしようとしたその時、扉が開き、最後のメンバーが揃う。


「アレぇ、なんで鍵空いてるのかな?」


 オータムさんの声がする女性が、この場に現れた。

 後ろでまとめられた綺麗な茶髪の女性。ふちの大きい眼鏡をかけていて、身長は160cmくらい。白いブラウスにベージュのワイドパンツを着こなしている。


「ほら、彼らの安心感のためだ」


 キリュウさんの言う。彼ら、とは俺たちのことだろうか。

 確かに彼らは扉の鍵を閉めることはなかった。


「なるほどね。それじゃあ自己紹介。お姉さんはオータムこと、秋ヶ原楓だ。よろしくね。これ、フルーツ大福。みんなで食べて」


 彼女は部屋に入るや否や机の中央を開けて、お土産を置いてくれた。


「君がサムくんで、君がホリーハックちゃんだね、どうぞよろしく」


 彼女はぺこり、と頭を下げてからこちらの目を見た。


「すまないね。こんなところで集合になってしまって。フルーツ大福、いちご、ぶどう、キウイにミカンってかんじだけど、どうする?」


「それじゃあ、これを」


 フルーツ大福というものを食べたことがない俺は個別に包装されたもののうち、大きなキウイの大福を頂いた。


「これ、買って来たんだけど、いるかい?」


 さらに俺たちの目の前には紅茶、緑茶、コーラのペットボトルが置かれた。

 俺たちはふと、キリュウを見る。


 これを受け取れば先ほど渡されたコップはどうすればいいのだろうか。

 キリュウは爽やかに笑ってから、どうぞどうぞと手を差し出した。


「俺はお茶で」


「私は紅茶」 


 俺たちはそれぞれ好みのペットボトルを取る。


「ピザも食べてくれ。冷めるとまずい」


 するとキリュウは1人でピザの箱を開けた。確かに冷めたピザ程まずいものはない。

 箱に閉じ込められた香りは部屋の中に爆発して、鼻から薫芳醇なチーズの香りが食欲を昂らせる。

 ピザ好きの俺はその食欲を抑えながら、冷静を装っていた。


「切り分けようか。どれ食べる?」


 秋ヶ原さんはピザの箱の近くに置いてあったピザスライサーを我先に手にして、俺たちにどのピザを食べるか聞いてきた。


「その……なんでしたっけチーズがめちゃくちゃあるやつで」


 俺は訳の分からないすっとぼけをしながら一番好みのピーズを指定した。

 そこから何気ない会話が始まる。彼らのもてなしたいという意思を感じた俺は、「なんだか申し訳ない」という思いから、徐々に食べ物に口を付けるようになった。

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