最強出陣
「本気ならば命を賭けろよ」
彼は俺の話など聞かずに崖を飛び降り、投げた剣のもとへ歩いていく。
「命をかけなければ俺を倒せない。命をかけなければ生ぬるい」
「サム、あの人は?」
「多分、味方だ。多分」
「本当?」
葵の問いに答えながら、彼がここに現れた真意を考える。あの人は『諦めた』と言ったはずだ。だがしかしここにいる。そしてチーターに敵意を向けているということは俺たちの味方であり、チーターの敵であるということだ。……そのはずだ。
俺たちに告げたあの言葉は嘘だったのだろうか。しかし、嘘をつく理由はない。
『ちょっといいかな!?今、キリュウ、そこにいるよね!』
すると今度はオータムさんからチャットが届いていた。
もしかしたら彼女は事情を知っているかもしれない。すぐに返信することに決めた。
『います!なんでここにいるんですか!?』
『私にも分かんない!!!!』
『嘘でしょう?』
とにかく、キリュウさんが俺たちに攻撃してこない以上、敵ではない。はずだ。
「全部のチートを使えよ。その上で、お前たちを捻り潰してやるから」
彼は奴らの前に堂々と立ち、決闘を申し込んだ。
「舐めやがって……お前ら、起きろ!リンチだリンチ!」
チーターたち五人は立ち上がり、すぐに決闘を受けて戦闘態勢に入った。
「お前たちなら、これだけで十分だ」
投げた剣は納刀し、黒い剣のみを向けて挑発し始める。
「舐めた真似を……」
彼が提示したルールは以下の通りだ。
人数 5対1
勝利条件 1本先取
場外アリ
制限時間 一試合当たり5分。
時間切れの場合は残り体力が高い方が勝利となる。
カウントダウンが進む中、キリュウさんがこちらへ話しかけてきた。
「お前たちは手を出さないでくれ。遅れてきたお詫びだ。ゆっくり休むといい」
俺たちが勝てた要因として、完璧な連携という部分がある。
そして俺たちがこの勝負に首を挟んでも連携できる未来は見えない。
だからこそ、今の俺は静観することにした。
「了解です」
カウントダウンはゼロになり、勝負が始まる。
戦いの火ぶたを切ったのはチーターたちだった。
「白天極陽 灼熱日輪」
「ブラストブレイカー!!」
「アクセラレート・ロードストライク」
「暗刃:紫電」
「居合 臓物撫で斬り」
俺たちを苦しめてきた攻撃が一斉に放たれる。
その全ては恐らくチートで強化されたため、即死級。そんな絶望的な状況でも、彼は折れずに倒れ込むように一歩前へ足を踏み出し─────、全ての攻撃を避けて見せた。
(嘘だろ、動きが見えない。なんてことあるのか?)
俺はその回避方法に驚きを隠せないでいた。ただ移動して回避するのなら分かる。緩急の付け方が異常に良い。動きが滑らかすぎてどのように動いたのか脳が処理しきれないのだ。
「……あの人知り合い?」
「そうだね。まぁ、知って数時間だけど」
目の前の動きに唖然としながら、葵の質問に答える。
「多分このゲームでトップレベルに強いよ」
「……だろうね」
彼女と驚きを共有できたことに安堵した。
どうやらあのレベルはこのゲームには中々いないようだ。
『認識させない動き』
これを人間が行うためには『速さ』以外のとある要素が必要である。
それは『起こり』を見せないこと。
人間は目でモノを見て次はどう動くかを予想する。
古武術における縮地がそうであるように、動き出しの『起こり』を殆ど見せないことでその後の動きを予想させず、認識を阻害する。
特に一人称視点であるVRゲームではかなり有効な手段である。
キリュウさんとチーターが戦っている中、オータムさんからチャットが届いていた。
『サム君、君に知っておいて欲しい都市伝説がある。いいかな?』
その文章からは俺の覚悟を試しているような気配があった。
この突拍子もない提案には必ず裏がある。それはどんなことであれ、今後必要なことなのだろう。
『分かりました』
だから、そんなことはすぐに承諾した。
すると、彼女からはかなり荒唐無稽な都市伝説が送られてきた。
『5年前、VRという技術の存続が危ぶまれる程の重大な事件が起きたんだ』
『それは、『VRデスゲーム事件』。とあるVRゲームのテストプレイヤー約100名が、ゲームの中に閉じ込められた事件さ』
『そして、そのVRゲームの中では凄惨なデスゲームが行われた。勝手なログアウトは許されず、4日ごとに試練が与えられ、それを果たさなければ死んでしまう。まさにフィクションみたいなデスゲームだ』
『結果的に首謀者は当時の警察が逮捕。抵抗の果てに死んで事件は収束した』
『事件の存在は記録から抹消された。当時からVRの軍事、医療での技術が定着しつつあったからね。もし公になれば世界中で大混乱だ。よって、この事件は『VR重大な欠陥』として事故及び被害者は伏せられたまま報道されて、世界中のVR機器にアップデートが行われた』
『そして、そのデスゲームでたった一人の生き残りがいた。警察が犯人の尻尾を掴み、拘束するまでに行われた5つの試練、それを全て乗り越えた人間がいたんだ』
『たった一人の生き残りは全ての死を背負って今も生きているらしい』
『まぁ、信じるか信じないのかは、君次第だけどね』
なるほど、オータムさんはその生き残りこそ、今目の前で戦っているキリュウさんであると言いたいらしい。
ならば、あの不安定さは説明できる。デスゲームなんて尋常ではない状況に追い込まれれば、ヒトは簡単に精神を壊される。
ではどうして彼は、精神が壊れても尚、この場所に立っているのだろうか。
そんな考察などお構いなしに、キリュウさんはチーターたちに勝利していた。
勝負の内容はこんな感じだ。
まず、彼は全ての初撃を躱すと、それぞれが別々のチートを使い始めた。
忍者は姿を消し、銀騎士の剣とハンマー男の槌は膨張し始める。他2人は目立った変化はないが、これからの行動から考えてチートを使っているのは確かだった。
「流星剣戟」
キリュウが狙ったのは、銀騎士。
滑らかな斬撃は命中し、一撃で体力の四分の三を削った。
その頃には彼らの頭上には巨大な太陽10個が列を成して降りてきている。
すかさず二撃目。同じ剣筋で、一撃目の軌跡を逆になぞるように切り上げ撃破した。
次の狙いはハンマー男、相手が倒れるよりも早くハンマー男の懐に入り、背負い投げをした。
「流星剣戟」
と、呟いてから喉元に剣を突き刺し、剣を手放して前転する。
彼の首のあった場所には、武者が倍速のような速度で斬撃を放っていた。
次に背負い投げの衝撃で手放されたハンマーを手に持ち、虚空へと振り下ろす。
「どうしっ」
ハンマーの一撃は忍者に当たり、奴は困惑しながら大きくよろめく。
「音は消えない」
さらに、手放された忍者の短刀を空中で捕まえて
「流星剣戟」
スキルを発動しながらドクロ兜の右目へ正確に投げつけた。
「隙あり」
武者はいつの間にかキリュウの懐に入り込んでスキルを発動させようとしていた。
奴は倍速に動くチートを使い、常識外の速さを実現していた。
「惑星拳撃」
しかし、その発動よりも早く彼の拳が奴にめり込んだ。
忍者がよろめいている間にハンマー男に刺さっている剣を抜き、
「流星剣戟」
横一文字に斬って忍者を撃破し、そのまま流れるようにハンマー男を踏みつぶして撃破する。
「フーーーーーーーーー!フーーーーーーーーー!!!フ―――――――――!!!」
いくらチートを用いて理不尽な力を使っているとはいえ、操作しているのは人間だ。目を攻撃されるとどうしても反射で守ってしまう。故に隙が出来て、ドクロ兜は攻撃できなかった。
「嘘だ!!!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!お前もチート使ってるだろ!ラウンズでもない、何でもない無名の奴に俺がこんな、こんな屈辱を受けるはずがない!!!!!」
ドクロ兜は取り乱しながら不平不満を吐き出している。
「お前たちの敗因を教えてやる」
首元に剣を当てながら、キリュウさんは呑気に解説をし始めた。
「それは、ろくな連携を取らなかったことだ。仲を深め、綿密な作戦を決めていれば結果は変わっていただろう。見る限り、即興のチームだ。ならば、俺でも諦める間もなく倒すことが出来る」
「く、くそ~~~~~~~~!!!!」
「流星剣戟」
太陽が落下するよりも早く、5人のチーターは成敗された。
「さて、サム、だったか。よくやったな。俺はお前を歓迎する。君たちと組んでいれば、諦めずに済みそうだ」
勝負が終わった後、彼は爽やかに笑って俺たちのことを歓迎してくれた。
そこには嘘偽りはなく、ただの純粋な喜びがあった。
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