熾烈すぎる戦い④
「はは、とことんボス口調だな。キリュウ?」
仲間たちに忠告をするキリュウに対してクライハートが微笑みながら語り掛ける。
「…………」
その笑みには同情的な、『しょうがないよな。あいつらは』とでも言いたげな感情が滲んでいる。
「俺に何を投影しているんだ?」
それは感受性が鈍いキリュウであっても思いを感知できるほどである。そんな彼がチーターに問う。
「教えない!」
クライハートは答えを出さず、走り出す。
脳裏に浮かぶのは、倦怠。
彼にはゲームの才能がある。いくつものゲームでプロとして活躍し輝かしい実績を残してきた。獲得したのは数々の名誉と名声。しかしそれらは彼の心を満たさない。
彼を満たすのは『過程』。強力な存在を打破する過程のみが彼の器を満たす。
厄介なことはその過程には条件がある。それはあらゆる道具を使用すること。あらゆる道具を使わなければそれは全力で戦ったとは言えない。そんなバカげた信念────
「知らん。何もかも。流星剣戟」
同情は青い閃光と共に切り捨てられる。
黒衣の剣士にはそんな性癖など関係ない!!!!!
重荷を降ろし、未来の花を守るために戦う剣士にそんなものなど必要ない!!!!
「つれないなァ!流星剣戟!!!」
青い閃光同士が衝突するとクレナータはクラッシャーに向かって走り出した。狙撃手を自由に動かせるわけにはいかないため、合理的な判断である───
はずだった。
「!?!?!?!?」
キリュウは動揺する。クレナータに対して二人のチーターが立ちはだかっていたからだ。
(まずいな……!)
今の彼女にはハイ・チーター二人を同時に相手どれるほどの実力がない。
「逃がさない……!」
キリュウは鍔迫り合いを今すぐに解消してクレナータの助けに行こう試みるが、堕落したプロゲーマーがそれを許さない。
「俺なら!!!お前に!!!食いつけるぞ!!!!」
どのように体を捌いて移動したとしてもクライハートは追いついてみせる。
腐っていてもプロゲーマー。モチベーションが最高潮に至る彼ならば全ての道具を用いてやや不利の拮抗に持っていくことが出来る。
対してクレナータは走り出した勢いを1%だけ緩めながらチーターたちへ接近する。
(どうしよう。私で大丈夫?)
彼女に潜むたった一つの不安が彼女の足を鈍くさせる。
その不安の名は劣等感。
目の前には強大なチーターが二名。一人が相手ならともかく二対一なら話は別だ。
勝てないかもしれない恐怖に足がすくみかけている。
一歩、踏み込む。
(どうしよう。どうすれば勝てるのかな?)
一歩、踏み込む。
(まずクラッシャーから倒す?でもそうさせないよな。じゃぁエンドから?)
一歩、踏み込む。
(だめだ。それじゃあ狙撃する隙を与えてしまう)
もう一歩、踏み込んでしまう。
(まずい。片方を相手するともう片方に倒される!)
一つ足を踏み込むごとに一抹の不安は積もっていく。
このままでは勝てないという反り立つ絶望が彼女に迫る。
(まずい──────)
その絶望を一つの声が破壊した。
「任せた!!!!!」
その声の主をクレナータは見ずとも判別できる。これは彼女が信じる星のものだ。
この激励で積もった不安はすぐさま朽ちていく。
(そうか──あの人は私を信じてくれている……なら、それに応えなくてどうする!!)
最後の一歩、それは残りの距離を一気に縮める一歩だ。
(二人同時に相手をすればいい!!!!)
「インペリアルステップ!!!」
彼女の繰り出す最速はスピードに匹敵する。
このゲームをやり込んでいない目の前のチーター二名には、その速度に抵抗できない。
「くっ」
「はぇぇな。おい!」
竜巻がチーターたちに襲い掛かる。
瞬く間に放たれた全方位からの8連撃。
最早目視で追いきれない攻撃はエンドに隠していた手札を切らせる。
「ファイアショット!」
炎剣が18本、四方八方に舞う。
生成された炎剣の網でクレナータを捕えてその隙を叩く。
この状況での最適解を判断した彼。
しかしそれは1秒前での最適解。
天才はチーターたちの懐に入っている。網にかかることはない。
これではただ、戦いの場を狭めただけである。その程度で天才は縛られない。
みるみるうちにチーターたちの体力は減っていく。
(お、こりゃ死んだな)
エンドは勢いが止まらない嵐に体を切り刻まれながら抵抗できないことを察する。そうと決まればすることは一つだ。
残り少ない命を使って勝ちのための一手を放つしかない。
現在、彼の発動させたファイアショットは宙を漂い、主からの指示を待ちわびている。
仕様上、待機状態の魔法たちは発射をしなければ主の消滅と共に霧散する。
「頼んだぜ」
彼は嵐の中で繋ぐ一手を決意した。
クラッシャーを手で押し飛ばし、待機させていた炎剣を、戦場を縮めるように発射する。
(その程度で……!)
それはささやかな一手だった。嵐の中に火種を放り込んだところで何も変わらない。
クレナータは炎剣たちを全て王道軌跡で叩き落しながらエンドの体力をゼロにした。
ここで生まれた一瞬、この火種を払う時間をもう一人のチーターは見逃さない。
(よし!これなら勝てる!)
クラッシャーは勝ちを確信した。
あれだけの数の剣を叩き落しエンドを削り切るほどの連続攻撃をしたのならば、魔法を放つ隙くらいあるはず、という直感があるから。今はエンドに突き飛ばされ視線を敵に向けていないが、きっとそうであるに違いないと彼女は信じきっている。
(さぁ、その恐怖に染まった顔を……!)
地面に横たわりながら杖の先を狙撃銃のように向ける。
敗北を、どうしようもない壁に直面した時、人は恐怖を覚える。
クラッシャーはチートに手を染める前に、それを味わっている。
そしてソレを一人でも多くの人間に味あわせるために────
(なんで怖がらないの!!!???)
クレナータはすでに攻撃態勢に入っていた。
その眼には不安も恐怖もない。
あるのはただ憧れに突き進むための眼差し。何人たりとも曇らせられない無垢な瞳。
しかし、チーターの直感は合っていた。戦意はあれどこの状況での神話魔法を避ける手段はクレナータにはない。
それでも、その瞳のせいで攻撃が鈍る。
(ああ、なんで私はこの目ができなかったんだろう)
後悔が指を阻む。
「海王の槍!」
「王道軌跡」
そして攻撃が交差する。
消滅したのはクラッシャー。
クレナータは槍に肌をかすめながらも体力の一割を残して勝利した。
「さて、次はお前の番だ。クライハート」
戦場に残り一人となったチーターに最強は語り掛ける。彼らの戦いはそろそろ終焉を迎えようとしていいた。
「いいや、次に倒れるのはお前だ。キリュウ」
彼は口をゆがめながら後悔を口にする。
絶望的な状況であるのにも関わらず、その眼には光が宿っていた。
決着まで残り20秒。
「今度は俺がボスになる」




