反撃の狼煙をあげろ
赤い視界に敵が映る。
数は、1、10、100、もう数えない。
ただひたすらに狙いを定める。
「ははは!賭けに出たなゲスト、だが30秒?それでは遅すぎる。20秒!!この程度の試練、我々の力が合わされば20秒で踏破できるハズだ!!!」
武者震いで思わず笑みがこぼれた
「了解。行きますよ」
脳内で3Dマップを出力する。
「グラディウス ファイアショット」
精巧で武骨な剣が舞い降りる。
剣闘士が持つような、華美な装飾はなくただ人か獣か物を切るという実用性だけを突き詰めたフォルム。
この一撃は先程の一撃とは訳が違う。
通常のファイアショットでは攻撃を相殺するだけで精いっぱいだ。だがアポカリプスモード下では話が違う。強化された炎の剣はその消費MPをそのままに展開できる数を増やし、さらに攻撃を行ったプレイヤーも含めて攻撃できる。
出現する剣は100本。
その全てで道を拓く。
「1秒待ってもらおうか!!!」
剣が地に届く直前、一人の男が異を唱えた。
だが決して、その言葉は彼を諫めるためのものじゃない。
これは彼の後押しをするためのものだった。
「須佐之男命最大開放!!!!!」
彼はどうしてもサムの手伝いをしたかった。
何故なら彼はこのゲームを、ここでできる体験を愛しているから。
それがチーターに、あんな烏合の衆に負けることで損なわれるなんてたまったものではない。
オーバー、本名『鏑木裕也』。
職業、SE。
年齢32歳。社会人経験5年目。
元劇団員。
彼は演じることが大好きだ。
他の何かに入り込むということが大好きだ。
何故なら自分を忘れられるから。
特に今の自分に不満があるという訳ではないのだが…………いや、あるがそれはまた別の話。とにかく、不満はない。
それはそれとして、今の人間という種族は大変窮屈だ。
上がり切った『普通』のハードル。聖人として求められる人生。溢れる悪意。
そこらじゅうから良い人間であるべきという重圧を感じる。彼にとっての息苦しい世界対する逃避先が演劇だった。
逃避だからこそ、彼は光を見た。
この世界には魅力がある。逃げるに足る価値がある。演じるということは本当の自分ではないということ。本当の自分でないのなら何をやってもいい。あの重圧から逃げられる。
今の彼にとってこの場がそれを果たせる夢の場所。
趣味に没頭出来てそれを共有できる仲間がいる。まさに天国。
だから、何人たりとも邪魔をさせない。
これ以上、理想郷を奪わせない。
「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
猛々しくうなる火炎が前方にいるチーターたちに襲い掛かる。
身を守る術を持っていない彼らはすぐさま消し炭になった。
そして出来る縦長のクレーター。
一切を焼き滅ぼす炎刃は有無を言わさず第一の鍵までの道を作った。
(まじか。最高だ!!)
状況が変わる。
俺の脳髄からドーパミンがドバドバと出てくる。
何故なら、目の前には一縷とはいえ希望が見えたから。
道に対してその外郭を守るかのように剣が降り注ぐ。
分析予想が俺たちに有利な形で変わった。
敵という海を割って道を作るのと、元々ある道を維持するのでは難易度がまるで違う。
勿論、後者の方が難易度は低い。
このチャンスを逃すわけにはいかない俺は、軌道を変えながら剣闘士の使うような武骨な剣を投下し続けた。
傍から見れば地獄にさえ見えるだろう。
俺の降らしている炎の刃は火炎の豪雨と錯覚するほど苛烈で激しい。
「走って!!!とにかく!!!」
そして俺たちは走り出した。
この好機を逃してはならないと全員が心を一つにした。
故の大疾走。
このダンジョンのクリア。このステージのクリア。
そんなモノよりも、ただ目の前の一つ目の鍵の入手のために俺たちは前へ前へと進んでいく。
しかし敵は海と見紛うほどの群体。
じわじわと希望の道は閉ざされていく。
「彗星拳撃!!!」
「ロードファントム!!!」
「パーフェクション!!」
カーテンの間からなんとか抜け出した敵をウェポンズの面々が駆除していく。
(間に合え!間に合え!間に合え!間に合え!)
この道もいつまで持つか分からない。だから頭の中をフル稼働して剣を落とし続ける。
抜け出しそうな敵はどこか。
今飛び出されると危ないポイントはどこか。
隙が出てしまっている味方はどこか。
これを把握するには今までの視野を更に具体化する必要がある。
(なんだこりゃぁ……!)
やるべきことが見えてきたからこそそびえ立つハードルの高さに恐れが生まれる。
処理すべき変数が多すぎた。
ならばどうしようか。
答えは単純。
一つずつ。超速でこなせ。
「攻略してやるよ……!!!」
走りなら脳みそを開く。
視覚と想像力で強引に三人称視点を作り出せ。
脳みそに新たな回路を創造しろ。
現実的にできるできないの問題じゃない。
やれ。
ここを抜けるしかそれしかないぞ。
各々の奮闘は俺たちを素晴らしい成果に押し上げてくれる。
「「「「おおおおおおおおお!!!!」」」」
走る。
何よりも早く。
駆ける。
脅威を排除しながら。
駆け抜ける。
目的地をめがけて。
このままでは終われない。このままで終わらない。
こんな奴らに負けてはならない。こんな奴らに倒されてはならない。
決意を矢じりに飛んで行く俺たちは怒涛の勢いで70メートルを走り抜け、残り30メートルとなるところで大きく分厚い最後の壁が姿を現した。
カーテンから敵がなだれ落ちてきたのだ。
数が集中してきたからだろう。
スーツ姿のチーターたちが押し出されるように現れた。
「怯むなぁァァ!!!!」
しかし俺たちの戦意は揺るがない。
オーバーさんの号令と共にと共に更に歩みを速めていく。
残り20メートル。
既に眼前は敵の山。
約15m。びっちりと詰まった肉の壁は何人たりとも通過を許さない。
「リーダー!最大開放を!!ここはわれわれが道を拓きます!!」
シーロックさんは献策を短く済ませてから地面を大きく踏み込んだ。
「彗星拳撃 ダストテイル」
彗星は白い閃光を伴って壁に激突した。
しかしこれでは足りない。
彼の一撃だけでは壁にクレーターを作るだけだ。
クレーターの中央にいる彼には奴らの魔の手が襲い掛かる。
壁から伸びる魔の手により瞬く間に彼は消滅するだろう。
だからこそ仲間がいる。
彼に伸びる幾数もの拳。それら全て穿つ閃光群。
前衛を守るために仲間たちは0.1秒で動いていた。
「無影卿・幻影尖槍!!!」
「パーフェクション・ヘッドショット!!!」
ノースカロアナさん、リバナチュラさん、それぞれが壁に向かって攻撃を放つ。
「ナイス!!」
その援護に盾使いは振り向かず礼を述べて更にもう一撃を壁に加える。
「「「さぁ!!!」」」
そして次の希望は俺に託された。
「ありがとう。今のタメでこれを放てる」
彼らが壁に技を放っている間、俺は作戦の構築に専念していた。
時間にして4秒。その間に構築できる炎の刃は合計18本。
これを全て放つ。
計算され尽くした軌道で。
計算され尽くした効果をもたらす。
「ふむ。最高だ」
最後の一撃を準備していたオーバーさんが戦況に思わず笑みをこぼす。
彼はシーロックさんからの指示を受けてからすぐに立ち止まり剣を掲げていた。
炎の刃たちにより、山に綺麗な切り口が開けたのだ。
これなら上手く割れる。
既に後方のカーテンも崩壊してスーツの男たちが雪崩のように押し寄せてきている。
もう猶予がない。
だか、そんな状況であっても彼は演じることをやめなかった。
演じるということはあり得ざる自分になるということ。
夢想の彼はこの程度で怯えはしない。
「ふむふむ。これはいい舞台を整えたくれたようだ。……それでは、舞うとしようか!!」
掲げた剣が火炎を発する。
ごうごう、と瞬く間に巨大な七支刀へと形をとる。
スキルの名は『バーンズ・ボーン』。
魔力を消費してセットした武器に炎を纏わせるスキル。
須佐之男命。
アバタードリフトで『炎を使う剣士』を使いたいのなら持っておきたい剣。
火炎を司る神剣はあらゆる火種を業火へ変える。
「バーンズ・ボーン オーバーフロー!!!!」
炎剣が、振り下ろされた。
剣は前方15メートルを軽く消し飛んで行く。
彼らの道は明るく開かれ遮るものは何もない。しかし、まだ炎は消えていない。この程度では彼の怒りは収まらない。
「全員しゃがめーーーー!!!!」
そのままその場で一回転。
炎を360°撒き散らしたのだ。
この攻撃によりカーテンから抜け出した、もしくは抜け出しかけている敵は一掃されてようやく彼の剣はなりを潜める。
「よぅし敵はひとまず消えた。諸君、今すぐ鍵を取りに行くぞ!!」
「もう取ってます!!!」
しかし、彼がカギを手に入れるように指示している間に俺の手には第一の鍵があった。
「「「「お前は仕事が早い!!!!!」」」」
ウェポンズの全員がその状況に突っ込みを入れざるを得なかったようだ。
俺は目の前の道が開けていた時点で鍵に向かって走り出していた。
目的地には台座がありそこに金色の、シンプルな鍵が刺さっていたのですぐさま引っこ抜いて胸ポケットにしまいこむ。
その一連の動作を既に行っていたことに彼らは目玉をひん剥いていた。
(この人たち、リアクションいいな)
などと一瞬だけ胸をすく思いをしていると彼らは俺の辺りに集まって来ていた。
まだこの層は終わりではない。残り二つの鍵を獲得しそれを最後の扉の鍵穴に入れなければならない。
「よくやったぞトム。最高の成果だ」
オーバーさんが俺の背中をバンバン、と叩く。
「でもどうします?あと残り2個しかありませんが」
シーロックは盾を構えながら辺りの様子を伺う。
「ボクは大丈夫だけどさ。……サム君、君の残りMPとHPは?」
ノースカロアナさんは武器を持ちながら俺の心配をしてくれた。
「HP半分、MP半分です」
「それでは私の出番ですね。アイツら全員の脳天に矢を叩き込みます」
するとリバナチュラさんは弓を構えながら代役を買って出てくれている。
「大丈夫です。コツは掴んだ。次はもっと上手くやります」
そして、俺が吐き出した言葉は強がりだ。
俺たち五人は同じ方向を向きながら振り返り、大挙してくるチーターたちを眺めている。
闘志が消え失せた訳ではない。希望が潰えたわけじゃない。まだ、足は動くし脳は回る。
だから強引に勝て。やれ。言い訳は聞きたくない。
「ふむ、そうか…………」
全員の状態を伺ったオーバーさんは、今度はゆっくりと声を荒げず剣を掲げた。
「やるぞ。ウェポンズ。決死だ」
そうだ。やるしかない。
このまま戦ったら負けるとか、今まで頑張ったとか、そんなことどうでもいい。
一人でも多くチーターを屠ってやる。
「あー。強がってる」
その時だった。
新たな希望が聞こえてきた。
蒼い星が俺の目の前に現れる。
彼女は俺の胸中をすぐに言い当てて敵の先陣に斬りかかった。
青いエフェクト。これはまさにクリティカルの証。
「それ、良くて悪いクセ」
薄浅葱の騎士。茨葵が、ホリーハックがそこには立っていた。
「最高だ!!!!!ホリーハック!!!!!」
正直、彼女の登場に俺は喜びを隠しきれない。
この上なく、嬉しい。溢れんばかりの喜びが撒き散る。
「ああ、もう、大好きだ!!!!」
「どや!」
俺の、告白ともいえるドでかい感情を受け取った彼女は兜を外してこちらに向かって微笑んでくれた。ラウンズシックス。痛恨の理不尽によりチーターを破壊する。
「おいおい。俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」
さらにもう一つの黒い閃光が神速で走り出した。このゲームで最も速い彼は当たり判定の拡大などものともせずにチーターの山をえぐる。
「先陣を許したんだ。後のステージはぜ~んぶ俺の。最高の肉体を魅せてやる」
ラウンズサード。スピード。彼はその速度の理不尽によってチーターを殲滅する。
「煌塵」
そして注がれるのは神速の光線。
「どうやら間に合ったようだな」
現れたのはロードさん。右手を黒く染めたラウンズは圧倒的戦略眼でチーターたちを破壊する。
更に3名。シロップさん、リーダーであるこのゲームで最強のプレイヤープエル・バエルさん、初対面のマスターさんとアサヒさんが合流する
現れたのは合計7名。
ラウンズ構成員の全てが今ここに集っている。
「ラウンズ、集合だ。さて、チーターども。殲滅してやる」
最強は先頭に立ち黒いコートをなびかせて手招きをする。
彼は迫ってくるチーターの山など些事であるとでも言いたげな涼しい顔をしていた。




