チーターが2人いたら……
俺たちの目の前には5人のプレイヤーがいる。
「なるほど、チーターだね。アンタたち」
2人だったはずの相手は、いつの間にか5人になっていたのだ。
ドクロ兜、銀色の騎士、昆虫のような甲冑を着た武者、忍者のような恰好をした暗殺者、巨大なハンマーを持ったヘルメットを被った男。
これが敵だ。
(彼女が言うからにはバグなどではなくチートなのだろう)
俺はかざした手をぶらさずに、敵意を研ぎ澄ます。
これからチーター討伐だ。
そう考えると、体は足の先、脳みその奥から体が作り替わる感覚がした。
「それで、烏合が集まったところで勝てるとでも?」
数で負けている状況でも、彼女は軽口をたたきながら両端に刃が付いた槍を深い姿勢で構え、一切怖気づくことはない。
「烏合じゃないさ。鷹とかそういう猛禽類だよ」
ドクロ男はそれをジョークで返す。
「一々うるさいなぁ!」
戦いの口火は彼女が切った。
騎士は青い閃光となり、ドクロ兜の前へと一瞬で現れてその勢いのまま腸を槍で突き刺した。
「なっ」
(速すぎる!)
流石レベルカンスト。基礎ステータスが違う。
レベル50ではカンストまでキャラを育て上げた相手には太刀打ちできないようだ。
ドクロ兜の体力は今の一撃で体力が黄色に変色している。
攻撃力。素早さの次元が違うようだ。
槍に刺さる奴を蹴とばしている間に、葵へ剣を振りかざしたのは銀色の騎士。
彼女は慌てることなくただ冷静に、槍の両端の刃を使って前方の攻撃と後方からの斬撃も防御した。
「チッ」
忍者の隙を突いた攻撃もまんまと防御されてしまう。
「これはどうかな!」
そこに、更なる一撃が舞い降りる。上空からハンマーが降りてきていた。
さらに武者は剣を抜いて一足一刀の間合いへ駆けこんでいる。
(波状攻撃か)
ここで俺は相手の作戦を看破した。数の有意を生かした密度の高さで彼女を完封する作戦らしい。
ただ、彼女を完封でいていない時点でこの作戦は成立していない。
しかし、油断をするつもりは毛頭ない。俺は出来ることを着実に行って彼女を守る。
「ファイアショット!」
腕の辺りに4本の炎の剣が出現してそのまま標的へと射出された。
狙いはハンマー男。その攻撃により一瞬の静止が生まれた。
「ナイス、骨喰の蛇」
そして彼女はスキルを発動する。
背後にある刃が蛇のように伸びて、それを鞭のように振りまわすことで彼女の周りにいる全ての敵を吹き飛ばした。
注意すべきことは彼女の鞭で吹き飛ばされた5人。そのうち3人がクリティカルを喰らっていたことにある。
(偶々か?)
クリティカルを喰らったハンマー男、銀騎士、ドクロ兜は体力がゼロになり、その場で倒れる。
「居合」
ダメージを負い、距離を取った武者は低く呟き、スキルを発動させた。
放つのは、超強力な斬撃スキル。
「臓物撫で斬り」
このゲームにおける強力な状態異常、負傷を与える。超範囲の斬撃スキル。
距離を無視した高速斬撃が葵を襲う。
目にも留まらぬ銀色の閃光は30メートルを一瞬で埋めて彼女の腹へ致命的な一撃を与える、筈だった。
「伽藍穿牙」
一切両断の斬撃は葵のスキルによってかき消される。
彼女が器用に槍のスキルを当てることでスキル同士が衝突しかき消されたのだ。
「ならば」
武者は二度目の居合を準備し始めたその時、俺は魔法を放っていた。
「ファイアショット」
4本の炎の剣は放物線を描いて奴へ飛んで行き、居合を邪魔する。
その隙をラウンズは見逃さない。
「伽藍穿牙」
剣が抜かれる前に武者の心臓は群青の槍によって貫かれた。
青と黄色のエフェクトと共に、武者の体力はゼロとなる。
「化け物が……」
ハンマー男は、葵を見てその戦力差に驚愕し呟いていた。
そんな呟きの間に彼女は男の背後に立っている。
「アンタたちが言う権利ないと思うよ、そのセリフ」
このゲームでダメージを出すには二つの手段がある。
一つ。スキルを発動させること。
もう一つ。クリティカルを出すこと。
前者にはリスクがある。
それなりの消耗が付きまとうことだ。
中規模のスキルを連発するにしろ、大規模なスキルを使うにしろ、そこには消耗が付きまとう。
もし、後者を確実に出せればノーリスクでダメージを出せる。
しかし、このゲームのクリティカルの確率は高くはない。それは夢物語。
などではない。
彼女はある条件を満たした時だけ自身の攻撃をほぼクリティカルにする、いわば『クリティカル特化構成』。
所属クラン『ラウンズ』
シックス
ジョブ:槍騎士
ユーザー名 ホリーハック
装備・スキル構成
双刃槍(2枠)
セットスキル 骨喰の蛇
螺旋穿牙
攻撃力アップ(連撃)
攻撃速度アップ(連撃)
会心率アップ(連撃)×2
会心ダメージアップ(連撃)×2
彼女は8回以上、攻撃を当てた後、
痛恨の一撃のみを放つ、万物破壊の騎士と化す。
彼女はハンマー男の首を撥ねて、俺たちは勝利を収めた。
「やったね、ケ……サム!」
彼女は親指を突き出してどや顔をしながらこちらに喜びを共有してきた。
「ああ、流石だホリーハック、最高!」
俺もサムズアップで返していると、次の戦いへのカウントダウンが始まる。
「だが、油断は禁物。恐らく次、奴らはチートを使うぞ」
「そうだね。この戦いでは戦闘に使うチートを使ってなかったしね」
俺の方へ駆け寄る彼女に忠告をしながら次の戦い方を練り上げる。
相手は既にチーターではあるが、戦闘のチートを使っていない。俺たちは相手のチートは何なのかを知らなくてはならない。そして対策を打ち倒さなくてはならない。
チーターに先手を譲るのは危険な行動ではであるが、チートを知るためには致し方のないことだ。
(やってやる。やってやるぞ)
勇気と使命感は体を駆け巡り、眼前の敵に敵意を持って視界に収めた。
「一緒にやろう、ホリーハック」
「は~い!かましますか!」




