vsチート販売業者
こうして俺はチート販売業者と思われる者と戦うことになった。
(さて奴はどんなチートを使ってくるかな?)
ステージはトレーニングルーム。
四方八方をコンクリートのような灰色で正方形のタイルで囲まれた直方体の部屋だ。
また十分な、眩しいくらいの証明で照らされているので視界は良好。
目線の先にはフクロウの仮面を着用している黒い燕尾服の男がいる。その背には月がモチーフの鍔が供えられた攻撃モーションに補正が入る大剣『月皇大剣』がある。
「はじめまして。貴方がチートハンターズのサムだね」
そして始まる10秒のカウントダウン。
奴の言葉に耳を傾けながら俺が取るべき作戦について思考を巡らせる。
不思議と高揚感はない。
ただ、目の前の敵を倒すため感情は排していく。
相手はいわばチートのスペシャリスト。
どんな手を使うか分からない以上、最大限の警戒をもって対峙するべきだ。
「私はこれから貴方をスナイプし続けます。チート販売の邪魔なんですよね。いわば、威力業務妨害だ。挫けるまで、いつでも何度でも叩き潰して差し上げます」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる」
本を開き魔法発動の準備をしながら右手を正面に構える。
「何度でも叩き潰してやるよ」
そしてカウントダウンはゼロになる。
こうして恐らく最大の敵との勝負が始まった。
「神話魔法 未踏極・爆雹獄」
(やっばい!!!!!)
勝負開始と同時に放たれたのは神話魔法。
無機質な光景は一瞬にして氷の地獄へと変貌した。
床、壁、天井は凍り付き、漂う冷気は体を徐々に蝕んでいく。
また、魔法を発動した本人には様々なバフ効果をもたらす
取り巻く周囲を都合のいい氷の大地に変える神話魔法。
(詠唱をチートで短縮したのか)
目の前で起きた現象の理由を0.2秒で結論付けてそれを攻略するための作戦を実行する。
「ファイアショット・千刃鎧」
取り敢えずこれでスリップダメージは防ぐことができるはずだ。と、対策を済ませたところで更なる一手が襲い掛かる。
「枯座鎚ノ残響麒麟」
碧雷で形作られた竜が襲い掛かる。
しかし臆することはない。
最初の爆雹獄の即時発動を見た時点で、こういう手段を取ってくることは想定の内に入れていた。
これからも様々なチートが俺を襲ってくるに違いない。その全てを俺の戦略で破壊する。
そのためには、この魔法が必要だ。
「神霊回路篆刻」
神霊魔法を発動させるための詠唱を行いながら残響麒麟をすんでのところで避けて、チーターに向かって走っていく。
この切り札で完膚なきまでに勝ってやる!!
所属クラン『チートハンタ―ズ』
ユーザー名 サム
装備・スキル構成
ファイアショット
炎の魔導書(スキル枠拡張本)
セットスキル ヒートマグナム
煌塵
素早さアップ×2
魔法攻撃力アップ×2
MPアップ×2
残響麒麟を回避した俺に新たな攻撃が放たれる。
奴は背負う大剣を抜いて黒い呪いを纏わせながら斬撃を飛ばしてきた。
「カース・ドライブ」
次の攻撃はティルフィングの専用スキル。
奴には武器専用という枷を外すチートもあるようだ。
「ファイアショット」
斬撃を膝で地面を滑りながらイナバウアーのような姿勢になり避けて炎の剣を掃射する。
剣たちの軌跡はそれぞれ無規則な起動を描きながらチーターめがけて飛んで行く。
しかし炎の剣たちは抜かれた大剣によって全てパリィされた。
大剣ではあるまじき素早いモーションで行われたパリィから一つの可能性を考える。
「疑似業火導火線 点火」
(奴め、全自動パリィのチートも持っていそうだな)
生半可な攻撃は全て弾かれる。
そう考えた俺は奴の懐めがけて走っていく。
奴がパリィのチートを使うのならばなおのこと接近しなくてはならない。
俺は奴にファイアショットを浴びせ続け、パリィだけに専念させることで上手く接近戦の間合いに持ち込むことが出来た。
そして魔法を交えた格闘戦を挑む。
掴むと同時に別方向から炎の剣を発射して、さらにそれをパリィされたとしても弾かれた腕で攻撃をする。密度の高い戦いでbest cheat.comを追いつめていると、奴は月の大剣のスキルを発動し始めた。
「月皇斬」
「ヒートマグナム・サーカス」
放たれたのは月皇大剣の専用スキル。大剣の中でも連射に特化した技。
俺たちの攻撃は全て互いの敵に命中した。
そうして俺は全体の5割、奴は全体の3割のHPを失うこととなる。
残響麒麟がまだ俺を追いかけていることを理解していたのですぐさま回避行動を取り同時に奴との距離を開ける。
「右前腕を砲身に指定」
(MPが多すぎるな。どんなビルドをしていても神話魔法二つの後にスキルなんて使えない。恐らくMPが無限になるチートを使用している筈だ)
そして頭上には雷の顎が迫る。
残響麒麟は上空から俺を仕留めようとしていた。
しかし、そんなことは既に想定済みである。
竜の入射角を考慮した上で
「「煌塵」」
奴と俺は同時に神話魔法を放った。
直線状の一切を破壊する魔法同士は衝突。
巨大な爆発と共に氷の神話魔法を破壊する。
しかし相も変わらず一人のプレイヤー、一人のチーターは互いに向き合って立っている。
俺の右手は神話魔法の後遺症で黒く染まってしまった。この灰は時間経過で崩れていくものであり次の神話魔法までのインターバルを示している。
さて、奴の腕は一切黒くなっていない。
「それ、ズルだろうが!!!ズル!!!!」
爆風の中、俺は奴にわざとらしく不平不満を投げつけた。
「いいや、ズルじゃない。これはれっきとした道具だ。良いも悪いもない。商売価値を下げるのは止めてもらおうか」
「話通じないなまったく!」
右手を掲げ次の作戦を実行する。
奴のパリィのチートに限界があることは見抜けている。そこを突いてしまえば体力を減らすことが出来る。神話魔法は避ければいい。
「んったくもう、理論上は可能だけどさぁ!!!!」
目の前の光景により既存の作戦が吹き飛んだのでもう一度作戦を構築する。
悔しいったらありゃしない。こういった理不尽に振り回されるのは好きじゃないのに。
三つの雷鳴と共に、三匹の竜が、奴の周囲を守るように旋回している。
全て神話魔法。俺の体力を削るにはオーバーキルにも程がある。




