蹂躙大好き!
「おおおおお!!!!」
俺はより強くなれる喜びに居ても立ってもいられず立ち上がる。
しかし、ロードさんは俺に目を合わせようとしなかった。それはまるでこれから口にすることが俺にとって気まずいものであるかのように。その態度から今すぐは無理なのだろうということを察する。
「だがすまない。今すぐは無理だ」
「ああ……そうなんですか?」
そそくさと席に座り直してその理由を聞くことにした。
「忙しいからだ。彼は動画配信者として生計を立てている。ネタ探し、動画撮影、編集とか色々やっているからな。アポはこっちから取っておく。時間が確保できたらこちらから連絡しよう」
なるほど、と納得する。
実を言うと、彼の名前と動画配信者という肩書を聞いた瞬間に俺自身が彼という存在を認知していたことを思い出した。
このゲームを始める直前、動画でこのゲームについて知ろうと考えたその時に、『初心者がすべきこと』と題されている動画を見て勉強したのだ。
「……それじゃあ、連絡待ってます」
かといってそんなことを言うべき場でもないのでその話題は流すことにした。
「ああ、待っていてくれ。と、いうことで今回の講義はここまでだ。この後はどうする?」
「もうちょっとランクマッチに潜るつもりです。ヒーローランクに揉まれてきます」
「ああ、行ってこい」
彼は別れをきっぱりと言ってゲームからログアウトした。
「さてと、行きますか」
自信を燃料に俺は更なるランクマッチの世界へと潜り込む。
少しの待機時間の後、目の前に相手のプレイヤー名が表示された。
「……なるほど、アゲサゲか……」
全ての攻撃をパリィするチーターだ。
ルーキー狩りのニヴァーチェではないので少し肩を落とすが相手はチーターだ。倒すべき相手に変わりはない。気合いを入れて圧倒しよう。
これより、時間は少し遡り場面は変わる。
一人の少女がチートを使ってアバター・ドリフトのランクマッチで理不尽を振りかざしていた。
ユーザー名はアゲサゲ。ヒーローランクに蔓延るチーターである。
私はチーター『アゲサゲ』。
最近は『アバター・ドリフト』というゲームをやっている。
私は蹂躙が大好きだ。
ほら、無双ゲームって敵を沢山ぶっ飛ばすでしょ?
あれが蹂躙。
大好き♡
しかも、チートを使った蹂躙は一味違う。相手の悲しみが理解できることが魅力だ。
ボイチャを繋げていなくても分かる。
圧倒されている様子。怯えている様子。攻めあぐねている様子。絶望している様子。
そういうモノは見てすぐわかる。
その様子を見ているとちょっと、興奮する。
突如、素晴らしき日々を送っている私に大き目のニュースが一つ。チートハンターを名乗るサムというプレイヤーがチーター狩りをしているらしい。
なんとも気に食わない。
だから、それ相応に痛めつけてやろう。そう決心している。
悠々とサムを倒す算段を立てる『アゲサゲ』。彼女は1時間後、サムに敗れアカウントをバンされる運命にあった。
そして場面と時は元に戻る。
「…………よし、倒そう」
俺達は向かい合って立つ。
相手は金髪、端正な顔立ちなアバターに右手に剣、左手には短剣を装備している。
(情報通りだな)
互いを認識した瞬間にカウントダウンが開始される。
ステージは闘技場。コロッセオのような肌色の砂に石でできた柱が点在し俺たちを囲うように壁が設置されている。
「……!!!お前、チーター狩りのサムだな!!!!!」
アゲサゲは俺のことを見た瞬間、甲高い声で大げさに喜び始めた。
「私はなぁ!お前を倒したくて倒したくてたまらなかった!!!!!!」
奴の言葉には耳など貸さずにスキルの編成を変更する。
「動画見たよ!!!!随分調子に乗ってるみたいだな!!!!!」
奴が一方的にしゃべり倒すことでカウントダウンは終了する。もう倒す準備は終わっていた。まずは奴のチートの性能についてより具体的な調査を行う。
「教えてやるよ。勝てない絶望を!!!」
俺は右手を伸ばし、掌を前方に開いてファイアショットを放った。
一本だけ放たれた炎の剣は易々と弾かれる。
「乱痴気乱舞」
奴は剣と短剣の二刀流を用いる。
短剣でスキルを発動しながら攻撃を弾き、剣で攻撃をするスタイルだ。
そして『乱痴気乱舞』とはこのゲームの中で最も乱発しやすい短剣スキル。奴のチートとは相性がいい。
(次は────)
すぐさま俺は次の策を繰り出した。
「ドーム・ファイアショット」
それは全方位攻撃。奴の周囲、四方八方に炎の剣を出現させて全ての剣を少しだけタイミングをずらして発射した。
「乱痴気乱舞!!!」
その攻撃も短剣スキルで全て弾かれた。
(なるほどな。同時の全方位攻撃も乱痴気乱舞なら対応できるのか。想定以上の性能だな)
例えキリュウさんであっても全方位攻撃をその場で受けきることなどできない。やはりチートという存在は理不尽そのものだ。
(だけどな)
ただ。ただしかし。
(負ける道理はない)
俺は左手に本を出して右手でゆっくりと見えるように手招きをする。
「へへっ」
挑発を受け取った奴はにこやかに、勝利の自信を崩さずに、俺に向かって走り出した。
そして間合いに入った瞬間。
「軌跡王道!」
ソードスキルの中でも最も早く鋭い一撃が放たれる。
全ての攻撃をチートでパリィして、最も鋭い攻撃でダメージを与える。それが奴の戦い方だ。
俺はその攻撃は喰らったものの、バックステップで距離を保ちながらチートの限界を知るための策を講じ続ける。
刃の後ろに刃を隠す二段攻撃。
短剣に弾かれた。
反対からの同時攻撃。
これも弾かれる。
「ははは!!!!はははははははははははは!!!!!!はーっはははははははははははははは!!!!!!どーんどん、策が無くなっていくなぁ!!!!!!」
アゲサゲは高らかに嘲るように笑いながらい攻めてくる。奴のチートの性能は驚異的だ。どのような攻撃であっても弾かれてしまう。このランク帯でも猛威を振るっていることに違和感はない。
「ははは、ははは、ははははははははは──────」
俺はいつの間にか壁に追い込まれていた。
もう距離を取りことは出来ない。
「忍法 毒霧」
「毒?確かに俺には有効な策かもしれないがなぁ!!!……えっ」
俺は毒の霧を目くらましに前に進んでいた。
奴が呆気に取られている隙に胸倉を掴む。
「ヒートマグナム」
そしてこのチートの攻略を執り行う。
「ぐはっ」
炎の光線がチーターの胸を貫いた。
すぐに俺は光線を束ね炎の樹にしてアゲサゲに大きなダメージを与えた。
「ど、どうして……!」
既に俺は奴の弱点を暴いている。
「お前のチートは攻撃判定に反応して自動で攻撃をパリィするものだ」
高揚、する必要もない。
「つまり、攻撃判定が発生してパリィが届く前に攻撃を当てればいい」
この程度、脅威ではない。
「お前の弱点は防御面をズルで補っていることだ。その穴を突かれたらどうしようもない」
これから圧倒してやる。
「その回る口で言い訳を考えておけよ。これから俺の不得意で負けるんだからな」




