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チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜  作者: 隈翔
シーズン2 熾烈渇望ランクマッチ
32/38

It's flash!!!!!! その④

 最後の衝突が始まった。

 拳が飛ぶ。

 光線が迸る。

 光線と拳のクロスカウンターが最初の衝突。そこから、手数の嵐と速度の嵐による攻防が始まった。俺たちはノーガードで互いの体力を削ることだけを考えて攻撃をしている。

 そして互いの体力が4割を切った瞬間、事態は動き出す。

 彼は目の前から消えたのだ。


「行くぞ~~~~」


 彼は結界の剥げたところにつま先立ちで立っている。

 それを目視した瞬間に、その場所から消えている。

 彼はここで新たな戦略を手に入れた。

 この結界内ではダメージを受けない場所が幾つかある。戦闘によって剣が消えた場所と俺と彼が至近距離で戦っていた場所。彼はこれらを足場として使い、ラウンド1で行ったようなヒットアンドアウェイを行うつもりだ。


「なんだよ。つまんないなラウンズ!!!!」


 その程度、俺の想定内だ。

 彼は空中で軌道を変えるスキルは持ってない。つまり、来るコースが限られるということ。

 だから俺は彼の行動を想定内に入れられる。

 結界の剥げている場所から来るであろう攻撃に対して光線を置いておく。彼は戦う上で剥げている場に立たなければならない。

 だから全ての剥げている場所へ向けて攻撃を放つ。


「くっ」


 しらみつぶしの一撃目。すぐに俺から見て右手にいる彼に二撃目の光線が襲い掛かる。


「……仕込みか」


 全ての一撃目に対して控えていた二撃目。

 こうすれば、三撃目が間に合う。


(残り……四割!!!!)


 敵の体力を確認しながらそこを中心に光線の坩堝を描く。

 ここで残りのMPは全て使う。ここで勝負を決める。


「このまま押し切るぞ」


 脳に判断させない。

 反射神経だけで魔法を放つ感覚。一切の迷いなく彼を中心に光線の蜘蛛の巣を生成する。


「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ!!!!!!!!!!!」


 蜘蛛の巣、だけでは足りない。光線で三次元の樹木のような軌道を作る。空から獲物を逃さないように降り注がれる。

 捕えた敵を万に一つも逃さない策謀が詰め込まれた最高傑作はスピードさんを仕留められる。






 はずだった。





 視線の端。俺から見て左手。

 黒い閃光がいた。


 残り体力1割。

 最速が焼け野原の上に立っている。



(あ、まず────)



 完全に、出し抜かれた。

 彼は弱点を克服した。駆け引き一辺倒ではない。理不尽でひき潰す戦い方を思い出してしまった。ダメージ覚悟で光線を突き破ることであの状況から抜け出したのだ。

 そして既に彼は俺に突撃する準備を完了させている。


「セット!」


 観測できない一撃によって俺は吹き飛ばされた。

 彼が視界に入った途端、防御と回避は捨てて地面に踏ん張ることだけを意識したから空中に吹き飛ばされずに済んだ。

 0.3秒で俺の体力が残り3割であることを確認し、さらにもう0.3秒で彼の体力は残り0.5割であることを確認する。

 そしてすぐさま直感する。次飛んでくるのはあの一撃だ。


「ソニックエンド」


 最後の一撃が始まる。

 巻き散る緑の雷、分解されて飛び散る時計。瞬きをする間よりも速い一撃が来る。


 もうMPはない。

 もう新たに魔法を放てない。

 彼を倒すまであと一手なのに、その一手は踏み出せない。







 なんてことはない。







 彼がソニックエンドを発動するよりも前に、杖を放して右手を天へと掲げていた。

 それは合図。

 控えていた、備えさせていた剣を放つための合図だ。

 場所は地面。この結界もどきは全て炎剣を漂わせることで実現させている。


 つまり、これはすべて魔法。壁も大きな剣も今踏みしめる剣たちも、全て操ることもできる。

 ラウンド1の時は距離が遠すぎて間に合わなかった。だが今は違う。

 地面から胴体なら事前に発動させれば届くだろう。


(間に合え!!!!!!!)


 地で揺らめく剣が弾け、スピードは最高速で長針の針を持って飛んできた。

 最後の瞬間は言葉、感情、思考。全てが入り込む余地がないほどに短い。



 『victory』の文字が目の前に浮かぶ。

 勝ったのは俺だった。

 スピードさんは攻撃判定を失った長針を俺の胸に刺しながら、耳元で囁いてきた。


「俺は一旦抜ける。反省会だ。それじゃあ、またやろうぜ」


 ヒーローランク初戦。

 俺はラウンズ3位に勝利した。







「素晴らしい。素晴らしいぞサム」


 取り敢えずランクマッチモードから元居た酒場に戻ると、ディストートから俺の戦いを見ていたロードさんが拍手をしながら迎え入れてくれた。


「お前の強みを存分に生かした戦いだった。あらゆる作戦を総動員し、理不尽に成長し続ける化け物に対峙し続けるその姿に興奮さえ覚えた」


「最後のアレは最初から想定していたのか?」


 特に彼の関心を引いたのは最後の一撃、それにまつわる作戦のことだった。

 冷静を装う彼の目からは隠しきれない興味が滲み出ている。

 俺は彼の期待に応えるためにも噓なく答えることにした。


「はい。想定していました。あなたの結界を知ってから地面からの攻撃は手段として使えると確信していました」


「はは、ははははは!!!!」


 それを聞いた彼は大爆笑。大いにウケていた。


「いやはや、最高だ。お前ほどの策士は見たことがない」


 顔を抑えながら天井を仰いでいる。


「お前はこのアバタードリフトの環境を変え得る。はっきり言おう。その戦略眼はこのゲームの中でもほぼトップだ。ゲームにおける対戦は作戦では決まらない。どうしてもフィジカル、反応速度の強さ、勘の良さ、押し通す覚悟が絡んでくる。だがお前は違う。戦闘を100%作戦で成立させられる天才だ」


 そして彼はニヤニヤしながら腕を組んで俺のことを褒め続けるので照れの感情が湧いてくる。


「お前が強くなれるよう、俺は手段を授けよう。だが、それでは足りない。必要なのは効率だ。さて、どうして今の環境は高速片手剣のビルドが席巻していると思う?」


 急にいつもの俺に戦術を教えてくれる時の冷徹さに戻るので、やや驚きながら問いに答えた。


「やりやすいから?」


「そう、効率がいいから。効率よく強いからそのビルドが使われる。素早く相手を翻弄して圧倒する戦い方はこちらの強みを押し付けながら択を迫れるから効率がいい。そう、効率は勝つために重要なものだ」


 彼は少し間を開けてからこれからの教育方針を高らかに宣言する。


「お前の作戦に効率という概念を掛け合わせる。あらゆる手段と効率は混じり弾けてあらゆる戦況を変える爆弾となる。そして、効率を教えるのは俺じゃない」


 スッ、とピースサインをして新たな師匠と呼べるような存在を口にした。


「ラウンズ 二位(セカンド)アサヒだ。アイツのプレイスタイルは極限までの効率を求めるもの。お前に新たな気づきを与えられるだろう」

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