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チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜  作者: 隈翔
シーズン2 熾烈渇望ランクマッチ
31/39

It's flash!!!!!! その③

「ははははは!負けちまったぜ!!!」


 再び俺たちは少し離れた場所にワープする。

 スピードさんはアドレナリンが爆発しているのか、喜びに打ちひしがれていた。

 対して俺の感情は喜びというより警戒の色が濃い。次のラウンドでも彼に勝たなくてはならないのだ。

 彼はあの一戦で進化した。俺はその進化に対応しなければならない。


 だが対応する手段を有しているのかと言えば、残念ながら答えは『ノー』だ。


(まずいまずい。勝てないぞ)


 あの煙の中に炎を仕込む策だってもう少し長く活躍させられる自信があった。なのに彼は1ラウンド戦っただけで攻略法を見出してしまっている。

 焦って思考を回している間にも無慈悲にカウントダウンが進んでいく。


(焦るな落ち着け。手段がないなら思いつけばいい)


 3dの地図を構築して戦術を用意する。


(あれは、だめ。これは、いい。けどこの点が……こうすればカバーできるか?)


 スキルと武器の構成を再び変えながら、通用した部分をピックアップして打つべき戦略を数パターン思いついた。


「さぁ、勝っても負けてもこれが最後だな」


 全能感に浸る彼はふらふらと歩きながら俺に向かって叫んでいる。ハイにでもなっているのか焦点が合っていないように見える。


(どう勝とうか……!)


 彼は速度の切り替えという新たな武器を手に入れた。ファイアショットを漂わせた煙もあまり効果を示さないだろう。


 新たな戦術で圧倒するぐらいの意気を見せなければこちらは負けてしまう。


「そうですね」




 だがこんな状況得あっても、負ける気なんてさらさらない。




「俺が勝ちます」


 心の底からの純粋な闘争心に浸っているとカウントダウンは終わる。

 頭の中に漂っていた絶望の気配はゼロになった瞬間に霧散した。もう迷っていたってしょうがない。

 ステージのソラは雲一つなく青い。


「行くぞルーキー!!!!出鼻挫いてやる!!!!」


「来い!!!!叩き潰すぞベテラン!!!!!」


 刹那の油断も許されない最後の勝負が始まった。




 俺が一歩踏み出すよりも、炎を射出するよりも、動くよりも早く、最速は飛んでくる。




「────────!!!」


 初撃は恐らく拳による打突。

 言葉にならない驚きを感じた瞬間には、背後からの二撃目を喰らっていた。

 作戦を実行させない密度の超連撃が始まる。

 俺の体力はとどまることなく減っていく。

 彼の動きを止めない限り、俺はこのまま倒されてしまうだろう。

 ここで作戦の実行を判断した。


 魔術士(ウィザード)はアイテムを用いて魔法を用いる。


 例えば『本』。こちらを用いれば魔法の選択肢を増やすことができる。

 もう一つは『杖』。杖の特長は2つ。

 一つの枠で二つの魔法が使えること。これは本の下位互換の効果だ。

 真髄はもう一つの特長である『魔法のリミッター解除』だ。


「炎剣創造 閻浮提(えんぶだい)剣ヶ原(つるぎがはら)


 ファイアショット。

 基本使用MPは2。

 術者の想像力(イマジネーション)によってある程度融通が利く炎の弾丸。

 杖により枷は外された。

 ファイアショットをセットした際には射程、一度に発射できる量が強化される。

 それを用いて作るのは少年漫画のような『結界』。

 彼の動きを封じるために作る刀塚。

 ステージを草原ではなく炎が蔓延る炎熱地獄へと塗り替わる。


 辺り一面に極小の炎の剣を生やして、四方には巨大な剣を突き刺す。空は赤く染まり異界の様相を呈している。


「ははは!!!ボスキャラみたいだな!!!」


 辺りの環境ががらりと変わったことに驚いたスピードさんは動きを止めて俺に話しかけてきた。このフィールドでは地に映えている刃が歩く者を傷つけ続ける。無暗に移動することは出来ない。


魔術士(ウィザード)は結局そういうところに行きつくのか?」


「師匠の十八番ですよね。これは」


 彼は大規模な魔法で相手を追いつめて選択肢を迫る戦い方を好む。

 これはその戦い方にインスピレーションを得ている。


「まぁ、その戦い方で長期戦は不利。速攻で終わらせるぜ」


「俺も鼻からそのつもりです」


 黒い閃光は一直線に走り出した。

 そのように来ることを予め予見していた俺は体の周囲に剣を発生させる。

 まるで体から剣が映えているように放った魔法は一瞬の躊躇を生む。

 彼は速度を切り替えて剣の生えていないところへ攻撃する判断をした。


(かかったな!)


 彼はスピードの切り替えが出来るようになった。

 この技術にはメリットとデメリットがある。


 メリットは駆け引きを通した戦いが出来るようになるということ。

 今まで踏み倒してきていた超速戦闘の不利な点を、スピードを緩めることで克服できるようになったのだ。

 そして、デメリットは駆け引きが出来るようになってしまったということだ。

 彼の強みは理不尽なまでのスピード。速度を切り替えて戦うということはその強みを弱らせることになる。つまり────


「ようやく見えたぞ。最速」


 俺の肉眼でも捉えられる。


 最速は測定可能にまで堕ちていた。


「ブラストマグナム」


 枷が外された攻撃範囲と威力が拡張されたヒートマグナムが5本、放たれる。

 捉えられる速度になった最速はその攻撃を掠ってしまう。

 その弱点に気付く前に倒す。

 そのためには早く、鋭く、彼を倒さなくてはならない。


「炎剣模倣」


 さらにもう一押し。

 杖に炎を纏わせて彼女の動きを模倣する。

 この戦いで必要なのは攻撃の密度。強力な攻撃を放つにはタメがいる。

 それはこの戦いでは不要だ。彼には戦いのことだけを考えさせろ。

 だから近接戦を決断した。そして放つ技はただ一つ。俺の知る中で最も鋭い技。

 

「螺旋穿牙!!」



 所属クラン『チートハンターズ』 

 ランク『ヒーロー』 

 ユーザー名 サム

 

 装備・スキル構成

  ジェメトリースタッフ(杖) 

   セットスキル ファイアショット→火王炎剣

          ヒートマグナム→ブラストマグナム

       

  MPアップ×3

  魔法攻撃力アップ×2

  素早さアップ×2


「そいつは残像だ」



 所属クラン『ラウンズ』

  三位(サード)

 ランク『ヒーロー』 前シーズングランドヒーロー8位

 ユーザー名 スピード


 素早さアップ×7

 ソニックエンド


 パッシブスキル

   ギアシステム



 彼は俺の背後に回り後頭部に向かって飛び蹴りをしてきていた。

 あの発言は嘘だ。しっかり攻撃は当たっている。

 俺は杖を後頭部に当てて蹴りを防御しながら前転。彼の良そうな場所にアタリを付けてブラストマグナムを放つ。

 勿論彼はそれを回避しているだろう。だが、必ずバックステップで回避をする。その間に視界に入れ────


「おそぉい!!!!!」


 胸には既に彼の拳がある。


「ぶっ」


 吹き飛ばされると同時に対抗策を発動させていた。

 彼の足元から突如生える炎の剣。

 それを喰らいながら彼はこっちに突っ込んでくる。


「見えてるぞ……!」


 彼と俺の間に光線の枝を生成する。

 彼は俺に突っ込んでくるしかない。何故ならこの場にいる時点で彼は早期決着をするしかないからだ。この刀塚に足をつけている敵はダメージを受け続ける。

 炎の鎧でステージ全体覆っているという表現が正しい。彼は地に足をつけている以上、小さな炎の剣によるスリップダメージを受け続ける。彼は空中で動き回るスキルは持っていない。だからこそ早期決着を望んでいる。


「オラァ!!!!」


 だから、最短距離で俺との距離を潰しに来る。

 彼は光線のダメージを許容しながら俺に攻撃してきた。


「ラッシュタ~~~~イム」


 そして彼は俺が空中にいるタイミングを逃さない。

 空中こそ彼がダメージを受けずに戦える場所だ。俺がそこにいるのなら攻勢に出てくるだろう。


「タイム中断!!!!!!!!!」


 そんなことは読めている。

 俺は事前に光線を撃つ準備を行っていた。


「チっ」


 光線を喰らって地面に激突したスピードさんは最小限の動きで更なる光線の雨を防いでいる。

 そんな状況を見下ろしながら落下する俺は自身が持っている手札を整理する。

 残り体力は互いに五割。

 戦況は俺が張りぼての有利。残りMPは残り3割。

 やはり、この戦略の欠点はMPの消費が激しすぎることだ。早く決着させなければこちらが負ける。


(次で終わらせてやる)


 着地した直後、そのやり取りで大手をかけることを決意した。

 ここから見て遠い場所の炎の補修はしていないから所々地面が見えている。というか、補修している余裕はない。空も徐々に青を取り戻しつつある。この刀塚もそろそろ消えてしまうだろう。


(いや、今はそんなこと考えるな)


 着地して目と鼻の先にいるスピードさんに視線を向ける。

 これからの最終局面ではそんなことを考えている暇はない。杖による魔法発動時間のロスがある以上、ある程度先読みをして戦う必要がある。さぁ、脳みそを、ニューロンを、神経を総動員しろ。相手は全てをオーバーヒートさせて勝てるかどうかの超人だ。


「おい、終わらせよーぜ」


「同じこと考えてました」


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