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チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜  作者: 隈翔
シーズン2 熾烈渇望ランクマッチ
30/38

it`s flash!!!!!!!!! その②

「忍法・霧煙幕!!」


 すぐさま本を開いて魔法を発動する。これが神話魔法と入れ替えた新たな手だ。

 『忍法・霧煙幕』。霧状の煙幕を発生させる魔法。消費MPに応じて発生させる規模を選択でき、術者自身が霧を操作することもできる素晴らしい目くらましだ。


 俺の周りに紫色の霧が現れる。その霧は俺を中心とした5メートルに漂い俺の姿を隠した。


「来てみろよ、最速!!!!」


 煙の中でスピードさんへ声を荒げた。

 この煙幕で俺は彼に勝利する。


「今行くぞチャレンジャァー!!!!!」


 ノリがいいスピードさんは俺の挑発に乗って霧の中へ突っ込んでいった。

 尋常ならざる、目には負えないスピードで黒い閃光が霧を突き抜けていく。

 しかし一度の突撃では俺を捉えられなかった彼は、二度、三度と霧を突っ走った。それでも俺を捉えられない。


「なるほど、煙だけじゃないな」


 そして三度の突撃を終えた彼の体には十数本の炎の剣が突き刺さっていた。


「煙の中にファイアショットを仕込ませてもらいました」


 この煙幕の中にはファイアショットを浮かばせてある。つまり闇雲にこの煙幕に足を踏み入れればダメージを喰らってしまう。

 彼の攻撃手段は素手もしくは足による近接格闘。俺にダメージを与えるには近づかなくてはならない。ただこの状態ならば近づくだけでリスクを負う。


「だがそれだけ────」


 ただ、それだけで勝てるとも思っていない俺は次の策を発動させた。


「名づけるなら、合技(ごうぎ)火煙竜星群」


 俺を囲う煙から四匹の煙の竜が伸びて襲い掛かる。


「攻めてくるのか!それで!」


 その次の瞬間には別れた四匹の竜に穴が開く。

 スピードさんが瞬時に破壊したのだろう。煙の竜たちは本懐を遂げられずに形を保てなくなり散っていく。

 そして見事刹那の内に四匹の竜を倒して見せたスピードさんの全身には、炎の剣が刺さっていた。勿論その煙にもファイアショットが埋め込まれているのだ。


「中々な技だな。ロードが見込んだだけはある。作戦の玉手箱だよ」


 彼が感嘆している間に煙の範囲を広げており、既に三分の一を埋め尽くすほどになっている。


「よし、気合い入れていくぜ」


 そうして彼は大きな一歩を踏み込んだ。

 『飛び出した』のではなく『踏み込んだ』のだ。


(どういうことだ?目で追えるぞ)


 俺は彼の動きを理解できなかった。

 この霧は撒いた本人もしくは同じチームの者には視界が遮られない仕様になっているので、霧の中からでもスピードさんの様子は伺うことが出来た。

 彼は霧の中を堂々と歩いている。こちらのことは見えていないからその方向は出鱈目ではあるが辛うじて至近距離になると見える、ファイアショットを避けながら(・・・・・)進んでいる。


(そういうことか!奴がファイアショットを喰らうのは、あのスピードだと霧の中だと見切れないから。なら見切れる速度に落とせばいい)


 だが、その作戦には決定的な二つの穴がある。

 一つ目は制限時間。

 この戦いには制限時間があり、タイムアップ時にはお互いの残りHPの割合を比べて勝負を決する。今のままではスピードは敗北するからか早急に見つけなければならない。彼の体力は7割、対して俺の体力は万全。

 闇雲に探していては時間切れが来てしまう。

 そしてもう一つの穴。

 それはファイアショットが射出できるいとうこと。


 「発射」


 もし見つけられたら終わりだ。奴は体力が削り切れるほどの攻撃を喰らう前に俺を倒すことが出来る。

 だから制限時間超過による勝利よりも、この手で勝利を掴むことにした。

 四方八方から行われる無慈悲の掃射にスピードは────

 笑みを浮かべた。


 

(嬉しいよ)



 スピードは歓喜していた。

 彼は余地を愛している。


 彼の本職はボディービルダ―。パーソナルトレーナーとして二足の草鞋をこなしながら『筋肉』と『ゲーム』のことだけを考えて生きている。

 彼は筋トレが大好きだ。筋肉は努力に応えてくれる。頑張った分だけ成長する。進化した自分を目指すことが出来る。





『勉強と違って思考力という壁が厚くない』


 中学校生活後半、勉強を頑張ってみたが小さい頃から頑張っている彼らに敗北した。

 味わったのは絶望。30分かけて考えて間違えた問題を、彼らは10分で解いて正解した。

 時期が遅すぎたのだろう。

 そこには何をしても並べる余地がなかった。

 彼のライバルは頭の構造が違う。彼らは独自のショートカットを開発する技術を持っている。知識を繋ぎ合わせる検索能力と速度がずば抜けていた。

 幼い頃からの英才教育かそれとも努力の賜物か、それを備えていた。

 





『スポーツと違って敵がいない』


 彼は戦うことがそれほど好きじゃない。

 自分の成果に誇りを持ちたい。ただ運動となるとどうしても競う他者が存在する。

 チームの中でのレギュラー、対戦相手。

 あの嫉妬やら見下しやら羨望やらが好きじゃない。誇りたいものに敵意を向けてくる者だっている。

 いや違うんだ。それが変なことだって思わない。

 でも俺は一緒に並んで進んで欲しいだけなんだ。一緒に進化したいだけなんだ。






 ただ筋肉は違った。

 この世界は違った。

 相手は自分。他者は仲間。

 栄光は自身の肉体。

 タイミングに遅いも速いもない。

 その世界が恐ろしいくらいに心地が良かった。

 筋肉には限界はない。そう思っていた。


 だがある日、気付いてしまった。筋肉にも限界があることを。


 骨格という壁があったのだ。

 日本人である彼はどうしても筋肉が思うように育たない。


「何でだよ……」


 鏡で自分の体を見た時、筋肉に恨みが湧いてしまった。

 あれだけ鍛えたのに応えてくれない。

 あれだけ努力してくれたのに。あれだけ頑張ったのに。あれだけ共に時間を過ごしてくれたのに。無限に進化する自分になれない。

 俺の心に応えてくれない。

 丁度その時、恩人に出会った。

 彼は『余地は作ればいい』ということを教えてくれた。

 筋肉には様々な姿がある。ただ膨らますだけじゃない。進化の先として美しい形があるということを教えてくれた。

 

 趣味で始めたゲーム(アバター・ドリフト)もそうだ。

 もう、スピードは極めた。だがしかし、余地はある。







 発売後、5回に渡って行われたランクマッチ。

 キリュウとサムとの戦闘。

 それを経たスピードは限界を知った。

 あとは余地を探すだけだ。







「ギアシステム、ロールオンだ」


 炎の剣が降り注ぐ中、男はその殆どをすり抜けた。

 しかも速度を上げながら。


(何!?)


 この時代におけるVRゴーグルは脳波を感知する。

 プレイヤーたちは『全力で走りたい』と考えることで、ゲーム内でダッシュをしているのだ。走る速さはただ漠然とした感覚で調節している。

 通常のプレイであればそれで十分である。ただしかし、スピードにとって『歩く』と『速く走る』と『すごく速く走る』では足りない。

 そこで彼は速さの段階を六つのギアとして設定することで速さを調整する術を手に入れたのだ。

 漠然を具体に。

 それだけで世界は移ろう。


(速い。あの速さで剣を避けてる!?)


 スピードさんは全速力ではないものの、目で追えるギリギリの速度で煙の中を走っている。その速度はしらみつぶしで霧の中に隠れている俺を制限時間内に探せるものだ。

 しかし、スピードの体力はみるみると減っていく。

 スピードを切り替えて避けているとはいえ、霧の中はファイアショットで満たされていると言っても過言ではない状態だ。ある程度の速さで動く以上、どうしても攻撃は喰らわなければならない。

 それでも全力で走っている時よりはマシなダメージだ。


「クソ、どこだ!?」


 戦いの場の半分を埋め尽くした霧をくまなく探しても彼は俺のことは見つけられなかった。

 何故なら俺は────


「外か!!」


「名答!!!」


 霧の外に出て迎撃態勢を整えていたからだ。

 既にファイアショットで鎧を作り迎え撃つ準備は整えている。


(さぁ来い!!)


 霧から一筋の黒い閃光が現れた。

 スピードの体力は残り1割。

 俺の体力は満タン。

 この状況でも崩されるなんてことは十二分に在り得る。


(さぁ、このラウンド最後の読み合いにしようか!!)


 彼の姿を確認した途端、すぐに策を講じた。

 その次の瞬間には彼は俺に蹴りを浴びせている。

 蹴りの一撃によって空いた鎧の穴に対して攻撃が注がれ始める。一度殴ったら距離を取り、穴が修復される前かつ対応されないためにタイミングをずらして攻撃する、いわば超高速ヒットアンドアウェイ。それに俺は反応できない。


 彼の残り体力は1割。


 そして俺の体力は残り半分を切っている。このままでは逆転されてしまう。


(まずいな)


 非常にまずい。そろそろあの攻撃で倒される。


「ソニックエン────」


 再び現れる巨大な時計。

 刻一刻と俺を倒すための攻撃が放たれようとしていた。


(間に合ったか)


 しかし、体力がなくなったのはスピードさんの方だった。


「━━━━━━━は?」


 ソニックエンドは放たれることなく彼の体は無気力に倒れていく。


「俺の勝ちです」


 俺は背後から体を貫通させてファイアショットを放つとこで彼の意表と突いたのだ。

 視覚に頼って戦う者たちに対する必中の奥の手は見事に効果を出してくれた。

 

(だが不味いな。これは一度きり)


 なんとかラウンド2を勝利することができたが油断ならない。

 この手は一手限りの不意打ち。次は決まらないだろう。


(さて、どう勝てばいいかな?)


 戦術が売り切れた俺はこの状態のまま第3ラウンドに突入せねばならない事実に冷や汗をかいていた。




 ただ、それだけではない。




 目の前には俺の全てを賭けても一か八かでしか倒せない敵いる事実に、この上ない、怒りのない、純粋な闘争心が胸を占領していっている。


(燃えてきた……!)



 戦況は1−1。

 勝負は次の戦いで決まる。

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