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チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜  作者: 隈翔
シーズン2 熾烈渇望ランクマッチ
29/38

It's flash!!!!!!!!! その①

 切り札である神話魔法の詠唱を行っていると目の前に拳が現れた。

 焦りという感情を感じる前に俺の腹は殴られる。


(相変わらず速い……!)


 俺は彼の動きを捉えられずに体勢が崩れる。

 反応が間に合わない。どうすれば勝てるとか、どう攻撃を防ぐとか、そういった思考をする前に攻撃が塗りつぶしてくる。


「隙ありだぜ」


 そして、崩れた体躯に攻撃が注ぎ込まれる。

 始まったのは超速怒涛のパンチラッシュ。

 通常攻撃であること、そして彼が攻撃のステータスに厚い配分を行っていないことから一撃一撃はそれほど痛いものではないが確実にダメージを与えてくる。


「疑似……業火……導火線、点火」


 今は我慢だ。詠唱だけは続けて準備を整え然るタイミングに備えるのだ。

 俺はこの乱打の中で彼の攻撃の癖を分析していた。

 例えば、彼は同じ手で連続で攻撃をしない。同じ腕で何度か攻撃するのを不自然と感じているからだろうか。それに殴ってくる部位もバラバラだ。あまり同じ場所を殴るということをしていない。最後に、彼は俺の動きを潰す行動を見せてくる。例えば右手を動かそうとするとその右手を殴ってくる、といったように。



 ここまでくれば完璧だ。



 体力が半分になってしまったが関係ない。

 俺は彼の右腕を掴むことに成功した。


「右前腕を砲身に指定」


 文様はもう半分を切っている。あと少しで切り札を発動できる。


「おいおい。俺を捕まえた訳、しゃべってくれよ」


 彼は攻撃を受け止められたことに少々驚きながらも爽やかに笑いながら話しかけてきている。

 彼は読みでこの動きを成立させている。本来、あの速度は人間に反応できるレベルの物じゃない。それはスピードを使う彼自身も例外ではないはずだ。ならばどうして今俺を圧倒していたのか。


 それは俺の動きを読みながら速さを押し付けていたからに他ならない。


 事前に敵はこのように来るだろう、もしくは動かないだろうといった予測を立てて攻撃しているからこそ彼は自身のスピードに翻弄されずに戦えている。


「もう貴方の強みは解明しました」


 その間にも文様は白く染まっている。発動まであと少し。まだ半分。待っている時間はないがこのタイミングは絶好の機会だ。十二分に活用させてもらう。


 背後からファイアショットを生成して叩き込もうとしたその時、


「まぁいいか。ちょっと旅行に付き合え」


 俺の視界はぐるりと変わって地面に叩きつけられた。




 まずい。動揺している場合じゃ────




「さて、再開だ」


 思考の隙すら与えられず再びラッシュが始まった。

 減っていく体力と引き明けに、俺は現状を理解していく。

 そうか投げ飛ばされたのか。

 彼はこのゲームのトッププレイヤーだ。そのスピードを対策されたところでその対処法だって思いついている。 この戦いは強さを解明しその隙を突く程度では倒せない。その対策、そのまた対策の対策、そんな対策の堂々巡りを制さなければならない。


 ファイアショットをドーム状に、しかも3重に展開する。


 MP切れについては考えない。ここで勝てなければこのラウンドは取られてしまう。


一か八か(イチパチ)かい?」


 スピードさんが白い歯を見せて笑っている間に詠唱時間は終わる。


煌塵(こうじん)


 俺の腕は黒く変色し銃に変貌。火を吹く時を今か今かと待ちわびている。


「いいや、貴方を確実に倒す策だ」


 第一のドームから炎の雨を射出する。

 覚悟も、決意もいらない。

 ただ冷静にこの敵を攻略する。

 ここで俺は彼に二択を迫っていた。一つ目はこのまま棒立ちで炎の剣を喰らってから神話魔法で倒されること。二つ目は飛び上がる等で回避した後、第二第三の炎の剣で動きを止めたところに神話魔法を喰らってしまうこと。

 この状態なら俺は確実に切り札を当てられる。何故なら狙いが前方に限られているから。

 俺の背後には地面しかない。彼は地面に潜るスキルを持っていないはずだ。


「こうするのさ」


 スピードさんはそれでも笑みを崩さない。

 アバター・ドリフトには様々なスキルがある。

 例えば攻撃力を参照しない攻撃スキル。


「ソニックエンド」


 このスキルは素早さの値に応じて威力が上がるスキル。

 その後1分間移動が不可になることを代償に放つ、正確無比、回避不可能の神の一撃。



 彼の背後には歯車仕掛けの巨大な時計が緑の雷を撒き散らしながら現れた。



 すぐさまそれは分解して部品たちは辺りに飛び散り宙に浮く。

 尋常ではない光景から直感が走る。


(間に合わない!)


 炎の剣では遅すぎる。このままでは策が発動する前に倒される。焦った俺は右腕を向けて魔法を発動しようとした。

 だがしかし、その間に俺は貫かれた。

 彼は長針を掴んで俺の胸元に突き刺していた。

 俺の体力はゼロになり、このラウンドでは敗北してしまった。

 一秒後には俺たちは最初のお互いが離れた場所にワープして、ラウンド2のカウントが始まっている。

 一ラウンド目を取られたものの、俺は特に悔しさや怒りは感じなかった。


 何故なら負けた原因ははっきりしているから。


 原因は経験の差。俺はこのレベルの強者と戦った経験が薄い。

 戦術、戦略を行使する前に倒されてしまう。

 チートさえ対処すれば後は攻略できるチーターとは違う。彼らはいわば『しっかり』と強いのだ。


「やっぱり頭はいいよな。お前、でも突出した個には勝てていない」


 そんな俺にスピードさんが話しかけてきた。


「どうしてか、分かるか?お前はまだ配分が上手くできていないんだ。それじゃあ、行くぜ」


(頭で考えすぎ、ということか……?)


 彼の忠告が終わるころにはカウントは残り3秒になっていた。

 そこで、ふと一つの事実に気付く。

 これは今までの俺の戦い方ではない。俺の勝ち方ではない。

 俺の勝つときのパターンはもっと大胆な作戦を押し付けるものだ。

 それに気づけた俺はすぐにスキルのマイセットを呼び起こしスキル構成を変更した。


(これで、勝ってやる……!)


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