表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜  作者: 隈翔
シーズン2 熾烈渇望ランクマッチ
25/38

チートハント①

 俺の名前は霧切雄太(きりぎりゆうた)。高校一年生。アバタードリフトでのプレイヤー名は『キリキリ』

 只今ランクマッチで理不尽に襲われている。


「うおおおおおおおお!!!!」


 俺は剣を振り上げて、ごつくて刺々しい兜と甲冑を着た男に斬りかかった。

 しかし、男にはほとんど効果がない。体力ゲージもじわり、としか減らず何発攻撃すれば倒れるのか分からない絶望が戦意を削いでいく。

 ランクマッチが始まって2週間。このシーズンでダイアモンドランクの戦いにも慣れてきた俺は、目標である『ヒーローランクへの到達』に手がかかるところにまで来た。しかし、その理想にはあと少しのところ届かない。理由はただ一つ。目の前の敵が俺を負かしてくるからだ。


「はははは!ざまぁないぜ!!!!!断層斬!!!!」


 男は大笑いして巨大な斧をゆっくり振り上げて振り下ろした。

 このくらいの速度の攻撃は避けられるはずなんだけど、と半分諦めながらぐるりと右手側に転んで回避する。

 しっかりと斧は躱した。エフェクトにも触れていない。

 だけど俺はダメージを喰らった。



 そう、目の前の男、雨氷(うひょう)はチーターだ。



 俺のステータス構成は攻撃と素早さ、特に素早さに振っている。この環境でTir 1(強い)とされる構成、速攻片手剣型だ。そのため低い防御力が仇となり体力は残り3割を切っている。


「どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい?」


 ここに来るまでにかなりの努力を重ねてきた。

 動画で言われたテンプレを覚えてそれで実践に行ったら勝てなくて、どうして勝てないか分析して、練習して、実践して、練習して、勉強して、実践して、何度もの試行錯誤の果てにやっとここまで来た。そしてようやく、強者の証である『ヒーロー』というランクに至れそうだった。


 それなのに俺の積み上げてきたものはズル(・・)によって吹き飛ばされる。


 この気持ち、悔しいなんてものじゃない。


「今までの努力も、時間も、何もかも全て無駄だったんだよ!!!!!!」


 男は唾でも吐かんばかりに大声を出して罵ってくる。


(クソ……クソ………やっと、やっとヒーローになれそうだったのに。どうすればいいんだよ。どうすりゃあ勝てんだよ!!!!!)


「な~に蹲ってんだ?」


 俺がヤツのチートにどう対処すればいいか迷っていると、奴の蹴りに反応できなかった。


「ぐはっ!!!」


 奴の蹴りによって俺の戦意は完全に吹き飛ばされた。

 何をどうやっても、あのチーターには勝てる気がしない。


「ざまぁ!ざまぁ!ざまぁ!」


 俺は何もできずに大の字になる。もう諦めた。何をどうやっても勝てないと悟ったから。




 そして奴に斧を振り下ろされて敗北した。




(ああ、負けちゃったな)




 悔しいというより虚しい。

 肩の力がどっと抜ける。虚しさが頭から四肢に漏れて筋肉を強制的に脱力させる。

 俺はズルをする奴にひき殺された。しかもこれは3度目だ。

 虚ろなまま運営にチーターがいることを報告したら、新たな敵と戦うかどうかを迫る表示が目の前に出てきた。


「はぁ」


 思わずため息が漏れた。普通のプレイヤーに負けるならいい。同じ土俵に立って努力してきた人々に負けるのはいい。それはフェアだからだ。あとは反省して直すべきところを直し、伸ばすべきところを伸ばせばいい。



 ただ、チーターは違う。



 奴らはアンフェアな状況で一方的にいたぶるクソヤロウだ。そんな奴らと勝負をしたくない。

 結局、再戦のボタンに指が届かなかった。


(…………一旦、離れるか)


 もうこのゲームは飽きた。無理だ。面倒くさい。

 どうせ目標を達成できないのなら諦めるしかない。


(あ~あ、誰かチーター倒してくれないかな……?)


 その時、記憶の棚から一つの単語がひょっこりと顔を出してきた。


「チートハンタ―ズ、か……」


 そういえばタイムラインにそんな奴らがいるって動画が流れてきたことを思い出した。

 このゲームでチートを狩っている人たちがいるらしい。


「……」


 この虚しさを発散したい。この無念を晴らして欲しい。

 彼らなら理不尽を破壊してくれるのではないか。

 そんな一縷の望みが芽生えた。


「……やってみるか」


 俺はDMにてチーターの情報を送った。

 奴を倒して欲しいという願いを込めて。

 






 ピコン、と『チートハンターズ』のアカウントにDMが届いてきた。

 俺はすぐに内容を読んでそれがどんな連絡かを把握する。


「ヒーローランクの門番、か」


 どうやらヒーロー到達直前のプレイヤーを狩るチーターがいるらしい。


「丁度いい。俺がやろう」


 俺はすぐにそのチーターを倒すことを決意して、願いに返信した。


『了解しました』

『任せてください』


 今の俺のランクは『ダイアモンド』。そしてポイントから見てヒーローは目前だ。

 つまり俺は奴にとって格好の餌である。


(やってやる)

 



 

「よし、チート狩りだ」


 午後9時15分。準備を完了させた俺は観戦する人たちと通話を繋げて、アバター・ドリフトを立ち上げランクマッチを開始する。

 情報によると雨氷は午後9時頃にランクマッチに潜り、主にランク『ヒーロー』直前のプレイヤーを狩っているらしい。


「頑張って」


 幼馴染である葵の応援が聞こえる。

 もう一人、俺の師匠がこの通話には入っているが一切声をかけていない。

 これは彼なりの信頼の証だ。分かっているなら声はかけない、という主義らしい。

 俺の今のポイントは1593pt。あと少しで1600ptのヒーローに到達できる。

 だから、今の俺が一番目的のチーターと接触しやすい状況にある。


『マッチングしました』


 ゲームのシステムが敵と接続できたことを知らせてくる。

 そして表示されるプレイヤー名は雨氷(うひょう)


「よし来た」


 脳みそのスイッチを対チーター用に切り替えて身体を奮い立たせる。

 これから奴を打破できると思うと武者震いが止まらない。

 俺達はローマの闘技場のようなステージに移動した。闘技場中央、互いに10メートル程離れた場所に向かい合って立っている。

 俺の風貌はランクマッチが始まる頃に変更した。

 派手な色を用いない闘牛士の衣装をイメージすると分かりやすい。白いワイシャツに黒のズボン、金色の刺繍の入った黒いジャケットに左肩から左腕全体を覆えるほどの裏地が赤い黒のマントを付けている。


 これが俺の戦闘服(ドレスコード)


 奴の風貌は刺々しい白い鎧。その右手には身の丈くらいの巨大な斧がある。

 お互いの存在を認知すると、ゴングが慣らされるまでのテンカウントが始まった。


「チートハンターズのサムだな」


 奴は俺のユーザーネームを見るとすぐに反応してきた。


「なんだ。有名になったのか?俺」


 特に驚きはなかった。黒闇兄妹を倒した動画が界隈内でバズり、俺たちのこのゲームにおける知名度はかなり上がったからだ。


「そうだ。このチートを貰った時に気を付けろって言われてな」


 すると奴は黒いインターフェイスを開いて何か作業をし始めている。それがステータスや装備を調整するものではないことは一目見て分かった。


(まさか、切断するつもりなのか!?)


 切断とはその戦いそのものから抜けること。

 ランクマッチにおいてはポイント没収のペナルティがあるが、そもそも奴の狙いはポイントの獲得じゃない。逃げるという行為になんら罪悪感がないのだろう。なんと浅ましい奴らだ。勝負して勝てない奴には尻尾を巻いて逃げるらしい。

 呆れと怒りが沸々と湧いてくる。


(勝てないと悟ると逃げる……!?歪な負けず嫌いだな)


「なんだ?逃げるのか。みっともない雑魚め」


 すぐに頭の中から煽りの言葉を探して紡いだ。

 ここで奴は逃がさない。絶対、ここでハントする(狩る)


「…………」


 奴は無言で指が止まっていた。

 どうやら煽りに乗ってくるようだ。


「ぶっ飛ばすぞ?」


「やれるもんならやってみろ」


『ラウンド1 スタート』


 ここでカウントダウンは終了。

 俺とチーターの勝負が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ