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チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜  作者: 隈翔
シーズン1 チーター討伐チュートリアル
20/38

最強の舞踏

「妹よ!!最初から全力だ!二人なら勝てる!!」


「もちろんだよお兄。力を合わせた兄妹が最強。古事記にもそう書いてある」


 走り出す黒い影に、白いマシンガンが降り注ぐ。

 対してキリュウは弧を描きながら彼らとの距離を詰めていく。

彼の全ての足跡には矢が突き刺さっており、動きを止めてしまえばすぐさまハチの巣にされることは容易に想像できる。


「カース・インパクト」


 そして彼の進行方向には呪いの斬撃が迫っていた。

 チートによる挟み撃ち。並大抵のプレイヤーならば負け確定の凶悪行動。



 しかし、それに対抗する術をこの男は持っている。



 チート同士は衝突し、爆炎と轟音を辺りに撒き散らす。


「どうだ。この挟み撃ち!このまま死ね!!!!」


 黒は作戦成功を口では喜びながらも、表情は笑っていなかった。

 弓を構えながら、煙の中にいた男の状況を見逃さぬよう睨みつけていた。


流星剣戟(ステラ・ストライク) 征天潮流ヴェーレ


 青い斬撃が呪いと煙を切り裂く。

 これより最後(・・)の連撃が行われる。




 残りのチートハンターズ2名は彼の攻撃を最後まで見守るという判断を下した。

 それは兄妹と会話している際に彼自身から送られたチャットを根拠にした行動だった。


『俺が片方を倒して見せる。手出しは一切しないで欲しい。残りMPから考えて、これが最後の攻撃になる。一切邪魔のない環境で戦わせてくれ』


 このチャット、そして2人が下手に動けば倒れてしまう状況により、彼女らはキリュウの雄姿を見守ることにした。





 キリュウは木の影まで走って入り黒の視界から消えた瞬間、一歩、大きく踏み込んでギアを上げた。木々を飛び移りながら兄妹の下へと迫っている。


「速度を上げたところで!」


 黒はすぐに速度に順応して矢を発射する。

 マシンガンのような間隔で、風を切る音が森に響く。

 発射された全ての矢を、男は弾くか回避していた。

 その動きは驚くほど滑らかで、まるでどこに攻撃が来るのか理解しているようだった。


「嘘だろ、チートかよ!!!」


「お兄、加勢する」


 更に闇は大剣を地面に突き刺して呪いの触手を放った。

 最初の3本の腕は断ち切られ、背後からの4本は全て掻い潜り、周囲を囲む10本は正確無比の斬撃で叩き斬る。


「チートか。お前が、今使っているもののことだろう?」


 全ての攻撃に対処し、言葉を紡ぐ余裕さえある。

 黒い影はどのような攻撃でも止まらない。


 矢の雨も、

 呪いの波も、

 呪いの腕も、

 牙の猛攻も、

 全て対処して兄妹を肉薄にした。


 瞬く間に青い斬撃が黒の目の前に現れた。

 位置は黒の足元、獲物を狩る肉食獣のような低い姿勢から目を光らせて首だけを狙っている。


「くっそ……」


 弓で青い一撃を防いだ途端、二撃目が首を襲った。


(おいおい、まともに防御もさせてくれないのか?)


 黒は攻撃を喰らいながらキリュウの攻撃判断の速さに驚愕していた。

 二刀流の有意性。それは手数が多いことである。

 もし片方の攻撃が防がれれば、もう片方で攻撃すればいい。


(だとしても、普通、もうワンテンポ遅いだろ)


「危ない。お兄」


 追いつめられた兄に、すぐさま、妹がフォローに入る。


「えいや。カース・ドライブ」


 大剣を振り下ろし、黒い影は黒い呪いに呑み込まれた。

 キリュウはすんでのところで、その一撃を飛び退いてかすり傷程度で済ませている。

 両者距離が開き、勝負は振出しに戻る。


「お兄、『追い込み』でやろう」


「よし、分かった」


 黒い影が宙を舞っている間に兄妹は作戦会議を終わらせて、キリュウは地に足が付いた瞬間に飛び出していた。

 今度は兄妹の懐に飛び込もうとはせず、木々の間を複雑な軌道で飛び交って様子を伺い始めた。

 対して二人は新たな戦略を提示する。


 それは全方位攻撃。


 四方八方に撒き散らされる呪いの波。無作為に放たれたそれは自然とキリュウの進行ルートを阻害する。

 そこに、影を追うように白い矢の雨が放たれた。

 回避ルートを制限して、矢で追い込むまさに追い込み漁。


「ははは!流石のお前でも、これには被弾するしかないだろう!!!」


(確かに、このままでは喰らうな)


 彼らの作戦は実に効果的であった。そのため、男は相手の作戦を理解した瞬間に真正面に飛び出す決断をする。


(なんて、思い切りだよ!!)


 黒い影が木を蹴って兄妹に飛び掛かる。

 黒は判断の速さに再び驚愕しながら弓で狙いを定めた。

 いわばこの行為は大きな賭けである。

 一直線で来る、ということは軌道が絞れるということである。


 この戦いに置いて黒闇の一撃の価値は非常に高い。


 黒の持つ『ウルフ・ギャングスター』は固有拡張のスキル『獣の禍傷』により全ての攻撃に赤傷を付与できる。つまり、一撃与えれば永続的にダメージを与えることができる。

 この勝負はどちらが先に攻撃を与えるかによって情勢が大きく変わるのだ。

 キリュウはこの追い込み戦法を察知して、このまま飛び回っていることと一直線で突っ込むこと。どちらが負ける可能性が高いのか、その天秤を見極めたのである。


(まぁ、いいさ。奴がここに来るまでに放てる6発で仕留めてやる)


 闇が波状攻撃を終えるのにはラグがある。

 彼がここに到着するまでに新たな攻撃をすることは出来ない。


 だから、黒だけでこの場面を切り抜けなければならなかった。


(相手は空中、回避は出来ないだろ!喰らえ!そして傷つけ!)


 黒は想いを乗せて指を離し、矢は常軌を逸した速度で放たれた。


 一撃目、弾かれた。

 二撃目、弾かれた。

 三撃目、弾かれた。

 四撃目、命中。チートを切った一撃のため、テンポを崩すことができた。

 五撃目、チートを再び入れた一撃は弾かれた。

 しかし、体勢は大きく崩れる。


(ざまぁみろ!)


 放たれた最後の六撃目、これは回避された。


(空中で体を捩じった!?)


 ただ、黒は頬を歪ませる。最低限の目標は達成したのだから。


(赤傷、発動!!!)


 これでキリュウの全て行動にはダメージが伴う。彼のスタイルが手数を重んじるものである以上、致命的だ。


(あとはもう決まりだ。あの猛攻をいなし続ければ俺の勝ちだ。だが、なんだ、この感覚は?)


 勝利に大きな一歩を刻んだ黒。

 しかし、彼の心に安堵は訪れない。

 何故なら目の前にいる黒い影の放つ殺気が、どうしようもない敗北を予感させるから。


(落ち着け、まずは防御だ)


 振り下ろされる剣を防ぐために、妹の前に立ち弓を構えて様子を見る。


(もしもう一撃喰らっても、闇がフォローしてくれる!!さぁ、来い来い来い来い来い来い来い来い────────────あれ?)





 しかし、いつまでたっても、剣が振り下ろされない。





 既にキリュウは視界から消えているのに。


(クソ、そういうことか!!!!)


 キリュウは剣をギリギリのところで手放したのだ。

 黒は剣を観察しすぎた。

 剣は宙に舞い、標的を見失う。

 その一瞬で、キリュウは闇を足払いして横転させていた。


「妹に何を!!!!!」


 黒は見失った敵を視界に入れて再び弓を引き絞る。

 しかしその瞬間に、拳が彼の顔面に命中した。


彗星拳戟(メテオ・ストライク)


 反応する間もなく、チーターは殴り飛ばされた。

 すぐにキリュウは倒れている闇の足を掴んで黒の方へと投げつけた。


「卑怯者ォォオオオオオオオオ!!!!!」



 その真意に、黒はすぐに気づいた。



 闇を盾にしたのだ。



「これで最後だ。流星剣戟(ステラ・ストライク) 征天潮流(ヴェーレ)


「クそぉおぉぉぉぉ!!!!!!」


 このゲームにおいて味方へ攻撃してもダメージにはならない。だから、この場合の最適解は妹に向かって攻撃してキリュウにダメージを与えること。しかし、妹への愛がそれを許さない。例えダメージが通らなかったとしても、彼女に攻撃を向けることを戦略が許しても心が許さない。



 だから黒は、妹が傷つく姿を見ることしかできなかった。



 青い剣戟はキリュウの体力を犠牲にして、闇の体力をみるみると減らしていく。

 両者の体力が減る速度を比べると、どうやら、闇の方が早く力尽きるようだった。




 勝負において最も油断をする瞬間は、勝ちを確信した瞬間である。




 キリュウの胸が、一本の矢に穿たれた。


「なるほど、覚悟が出来たのか」


「それでいい。お兄」


 キリュウも闇も驚嘆を漏らす。


「ああ、そうだ。奴を抑えてくれてありがとう。闇」


 黒は苦虫を嚙み潰したような顔で消えかけるキリュウを睨みつけている。

 不本意な方法であっても彼の恨みは果たされた。


「ざまぁみやがれってんだ」


 彼はキリュウが消えるのを見届ける。

 妹が消える姿は目に入れず、怨敵が消える様子を目に焼き付けた。

 あとは残るチートハンターズを一人ずつ確実に射止めればいい。

 つまりは勝ち確定。

 怨嗟からの解放により張りつめていた緊張が緩んでいた。




 その隙に、一匹の蛇が戦場を横断する。




伽藍穿牙(がらんせんが)


「ホリーィィィィィィィィィ!!!!!!!」




 彼女は待っていた。介入する絶好の瞬間を。

 許された行動はあと一撃。その一撃を最も有効に使えるタイミングを探っていた。

 クリティカルのエフェクトと共に、闇の体力はゼロになり、消滅する。



「よくも……よくも……よくも‥‥‥‥」


 黒は着地もできずに地面にうずくまる。

 悔しさをただ吐き出すしかできていない。

 そして葵も、攻撃を放った後に消滅した。


「うーん負けちゃった」


 ボイスチャットに消えた彼女の言葉が響く。

 しかし、その音色に後悔はない。


「じゃあ任せたよ」


 何故なら、託せる存在が残っていたから。

 オータムは完全に隙を晒している黒に対して攻撃しなかった。彼は最初、彼女たちを騙していた。つまり、騙すという手法を使える人間だ。故に今蹲っている状態も嘘かもしれないと考えていたからだ。

 そして根拠はもう一つ。ここに到着する新たな戦力と共に行動する方が勝てる確率を高められる。



 炎の光線が一本。



 黒を倒すために放たれた。

 それを察知した黒は転がって、回避して光線の方向へ矢を射る。異次元の速度で放たれた矢は虚空へ飛んで行った。

 やはり彼は攻撃を誘っていたらしい。


「片割れはどうした?チーター」


 そして、光線が放たれた別の場所から、一人の男が戦場に帰還する。

 右手は黒い重火器に変貌し、左手に持つ本は開かれている。

 彼は既に神話魔法の詠唱を終えていた。

 目は真っ直ぐ敵の方を見て、チーターへの敵意を露にしながら、少年はこの戦いを終わらせるための戦略を練ってここに立っている。


「お前たちが、殺した。妹を!!!!大切な妹を!!!!!」


「オータムさん、行けますか?」


 サムは彼の言葉を無視してオータムに声をかけている。


「供物を私に。霊獣顕現規定完遂。さぁ、行くよサム君」


 彼女は詠唱を終わらせて、戦意を露にする。

 腹にあった紋章は全身に広がり背中に円盤状の電気の塊が発生した。

 両者、黒を挟むように立って神話魔法の発動準備を完了させる。


「……なぁ、なぁ俺は無視か?」


「そうだな。妹と同じところに送ってやるよ」


 残る敵はただ一人。

 体力は3割。

 神話魔法一発で、確実に斃せる体力である。



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