刻む雷鳴
黒とホリーハック、オータムの戦いは熾烈を極めていた。
「まずはっ」
すぐさま彼女は骨喰の蛇を発動して黒の背後にある木に噛ませる。
低い姿勢を取り、そこめがけて移動する、と見せかけて、木を思い切り引っ張った。
「そうか、たまには考えるじゃないか!」
黒はフェイントに驚きながら、倒木を、片足を大きく上げることで受け止めた。
そしてその姿勢のまま、敵へと標準を定める。
「だからどうしたって話だが」
狙いはオータムだ。神速の白い矢はオータムの喉元めがけ、瞬きするよりも早く飛んで行く。
「───────────くぅ!!」
奇想天外な攻撃に何とか反応した彼女はクロスボウで矢を弾く。
しかし一撃の威力はすさまじく、大きくのけぞってしまった。
「先ずはお前だ。置いてけぼり!」
「それはどうも!」
体勢を立て直していると次に3発の矢が発射されていた。
「くっ……!」
「ファングショット、命中」
まんまと、オータムは全ての攻撃を喰らってしまい、体力の2.5割を失うと共に、状態異常『赤傷』を受けてしまう。
状態異常『赤傷』を受けると、プレイヤーには赤い傷のエフェクトが浮かび、行動をする度にダメージを受けてしまう。
(置いてけぼり……ね)
攻撃を喰らいながらもなんとか体勢を立て直した彼女は、目の前で繰り広げられているラウンズ同士の戦いに置いてかれていた。
そんな状況にため息が零れる。
「隙あり」
オータムに放たれた3発の射撃、その射撃は極限にまで絞られた時間で行われた攻撃であったが、ホリーハックにとっては付け込める確かな隙だった。
目にも留まらぬ三段突き。これは命中した。
続けて薙ぎ払い一閃。
倒木を蛇で掴んで投げることで、視界を塞ぎ、倒木の上から螺旋穿牙二発。
彼女は怒涛の連撃を仕掛けていく。
ただしかし、最初の3撃以外は全て防御された。
「残念、お前の攻撃は直線的過ぎるからな!隙を晒したところで簡単に適応できる!!」
「そうだね。でも、私は止められない」
黒の持つ先読みの観察眼により見切られてしまったが、防御されたところで彼女のボルテージは上がっている。
Hitカウントは『6』。
完成まであと一歩だ。
オータムこと、秋ヶ原楓は、顔には出さず。口にも出さず。ただ、現実世界でゴーグルをしながら歯を食いしばって悔しがっていた。
(確かに、私はサム君みたいにホーリーハックちゃんとうまく連携できるわけじゃない。キリュウみたいに強くはない)
彼女はこの戦いにおいて、価値を示すことが出来ない予感があった。
チーター疑惑の少女に気づくことくらいは出来たわけだが、それ以外のことで貢献できる気がしなかった。その原因は実力不足にある。
(嫌なことを思い出す……)
現状はトリガーとなって過去の無念を溢れさせた。
秋ヶ原楓、所属は警察庁公安警察。
初めての仕事で彼女は無力感に打ちひしがれた。
その担当案件は『VRデスゲーム事件』。
5年前に起きた未曽有の大虐殺で彼女は疎外感を感じていた。
事件が起きた20時間後、彼らは事態の発生を認知。
しかし解決までには20日もかかってしまった。
その原因は2つ。
一つ目、場所が特定できないから。
このデスゲームは世界中の人間たちを誘拐し、一つの場所に移動して、クローズな環境で行われていた。だから、デスゲーム主催から挑戦状のように送られてくるゲームのログでしか、何が起きているのかを把握することしかできなかった。
そして二つ目、世界各国の人間が誘拐されたから。
この事件では世界各地の身寄りのない人間が連れ去られて、太平洋の真ん中にある人工島に集められた。故に、世界中の情報機関、警察等が足並みを揃える必要があり、それに時間がかかった。
足並みが揃ったところで、場所を見つけるまで、デスゲーム主催が送って来るゲームのログを眺めることしかできなかった。
あれほどの屈辱は受けたことがなかった。
日ごとに増えていく被害者。
見つからない敵の所在。
日ごとに重くなっていく劣等感。
辺りの人が優秀だと、自身の実力不足が浮き彫りになる。
先輩たちの方が何倍も頭の回転が速い。
判断もその先を見渡す力も、どれも私を上回っていた。
結局、見つけた頃にはゲームは最終段階の3日前となり、参加人数は10人になっていた。
サーバーのあった太平洋の人工島にあらゆる勢力が集結した。
私自身も自分の価値を証明したい、自分が役に立てるところを見せたいという思いで突入組に参加した。
その大規模な作戦の結果は、散々だった。
結局、救助は間に合わず、ゲームは終了し、生き残りは1人。
主催者は絶望と共にとあるFBIの一員に殺された。
私に力があれば、もう少し早く、サーバーの場所を見つけられたかもしれない。私に経験があれば、他の国の人たちとも上手く連携が取れていたかもしれない。私に運があれば事前にあの虐殺を察知できたかもしれない。
何かがあれば、何かさえあれば、あの未曾有の大事件を無事解決できたかもしれない。
さて、過去を振り返っている暇はない。
この5年間、彼女は後悔に対して一つの結論を付けた。
力、経験、運。
そんなものを身に着けるまで、待ってはいられない。
待っていたら取りこぼしてしまう。
その場に立つ資格など考えるな。己が持つ全てを使って、価値を示さなければ望みは開かない。
所属クラン『チートハンターズ』
ジョブ:射手
ユーザー名 オータム
装備・スキル構成
47式クロスボウ×2
セットスキル リローデット
素早さアップ×2
エクセル
アームド
スト―レ
そして、最後の一枠は──────
「神話魔法、起動!!!!!」
彼女の露出した腹に青い雷の紋章が刻まれた。
こういう時の対処法も学んできた。
役割を強引かつ適したタイミングで見出すべきなのだ。
この魔法は戦場に、彼女の存在を刻み込むこととなる。
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