〇〇しなきゃ出られない
すぐに俺はファイアショットを黒い幽霊に飛ばした。
秋ヶ原さん、キリュウさんも俺と同時に気付いたようで黒い人影へと攻撃した。
「なにを……?」
葵はいまいち状況を理解しきれずに置いてきぼりになっていた。
奴の懐へ一番最初に飛び込んだのはキリュウさんだった。
黒い剣を抜き、神速の剣技で敵の首を撥ねようとしていた。
しかし、その刃は届かない。
少女はその攻撃をイナバウアーのような体勢で回避した。そのまま、すまし顔で立ち上がり、森の中へ走っていく。
「一応一般人の可能性はあるけど、私は追うよ!」
彼女を追跡するため、オータムさんが暗闇に飛び込もうとすると、キリュウさんが剣をオータムさんの前に出して制止した。
「いや待て、行くな。これは罠……かもしれない」
「根拠は?」
手短に根拠を聞こうとする秋ヶ原さんの目には、明らかに焦燥が浮かんでいた
「DMと攻略にはあの黒い幽霊の情報はなかった。つまり、アレは今までにない新しく用意されたモノ、まず、彼女が仕様外の存在であることは明らかだ」
「それは分かっているつもりだけど」
「そして、アレをチーターのものであると仮定しよう。奴らは今までとは違う手段を使っている。これは、俺たちを見て、対策を立てているということだ」
「逃げている、と言う可能性もあるでしょ」
要約すると、キリュウさんは『罠だから止まれ』と秋ヶ原さんは『罠なんてなく、チーターはただ逃げているだけかもしれない』と言っている。
確かにどちらの言い分も正しい。だが、今は急いでる。どちらにしろ結論を急がなければならない。ここで拮抗するなら俺と葵で、独断で行こうと考えたその時、キリュウさんが一つ提案をした。
「だから、俺一人、ソロで行く。それで戦力の分け方は丁度いいはずだ。どちらにしろ、救援に行ける」
彼は俺たちの同意は得ずに、瞬く間に深い森の奥へと消えていった。
「……行っちゃったね」
勝手な行動を見逃すことしかできなかったオータムさんはがっくりと肩を落としていた。
「ねぇ、ケイ、どういうことなの?」
すると、置いてきぼりになっていた葵が状況の説明を求めてきた。
「俺たちは今の黒いゴスロリの女の子がチーターかもしれない、と考えたんだ。このゲームのCPUってストーリーに関係ないことは認識できないんだ。そして、黒い少女なんてものはこのサブストーリ―には登場せず、ワトソンはあの黒い少女を認識できなかった。この2点から、あの少女はこのサブストには関係ない存在であることは確定した。そして、このサブストにはチーターが出てくる、っていう事実を考えると彼女は怪しいんだよ」
「なるほどね……」
俺たちの行動の理由を説明していると、秋ヶ原さんは俺たちのもとへ戻ってきていた。
「取り敢えず、私たちはこのサブストのボスを目指そう。元々、そこにチーターが出てくるって話だからね」
彼女の示した方針に対して異論がなかった俺たちは、再びサブスト攻略を行うこととなった。
「えっと、あの人、大丈夫?」
「彼のことは無視していいから、先に行こう」
急にどこかへ行ったキリュウさんを心配するワトソンを誘導して一歩足を進めさせると、突如辺りの景色が変わった。
「え、何!?」
辺りの木々は急成長し始め、葉は落ちて、伸びた枝は角材へと変形する。
それらは俺たちをドームのような形状で囲い、完全に閉じ込めた。
「これは『〇〇しないと出られない部屋』ですね。お題が出るんで、それをクリアしてください」
これは攻略にあった通りの情報だ。
まず、この部屋で提示される課題をクリアしなければならない。
ドームの真上からは、一本、木の枝が生えて勝手に火を点し、辺りを照らしている。
「あーーー!!えっちやつだね!!!」
突如、オータムさんが訳の分からないことを叫んだ。
先程まで発していた、シリアスな雰囲気は何だったんだろうか。
もしかして、キリュウさんが独断で行動をするからヤケになっているのではないだろうか。そして、彼女の言葉によって俺はこの部屋がネットミームをオマージュしているものであると気が付いた。
「サムくんとか好きなんじゃないかな?こういうの?」
「ノーコメントで」
オータムさんから急に振られたその問いには、しらを切ることにした。それが何なのかは知っているが、それをこの場では説明したくない。知らないったら知らない。
「あー……。このゲームのライター、サブストとかだとそういうところあるから」
「なるほどね……」
特にどうとは思わないが、そういうモノが来るんだなと受け入れた俺はこの課題をクリアするための作戦の用意をし始めた。
「……?」
勝手に盛り上がっている俺たちを見て、ワトソンは話についていけていない為か、寂しそうにしている。
「いや、いい。あなたには必要のない知識だよワトソン」
「そう、かな?いや、でも……」
彼女が何か言葉を口にしようとしたその瞬間、
そして目の前には像の顔をした、3対の腕、計六本の腕を持つ巨人が現れた。
『軍荼利王兵を1分以内に倒せ』
そして提示されたお題はこれだ。
(予想通り、まずは……)
と前もって、立てていた作戦を実行しようとしたその時、薄浅葱の閃光が俺の隣を通り過ぎた。
そして、次の瞬間には巨人は青い塵になって消え去った。
適正レベルを大きく上回っていることもあるだろう、
彼女の育成が洗練されていたこともあるだろう。
『アバター・ドリフト』のトッププレイヤ―は、刹那の間に巨人へ3回攻撃を果たして、対象を撃破した。
「待って。みんな。この部屋が壊れても動かないで」
兜を被った彼女は俺から見て右側に槍を構える。
彼女はあの巨人ではなく、別の何かを警戒しているようだった。
白い髪、男が彼は身の丈以上の、巨大なダークシルバ―の弓を構えて、歪で捻じれた鏃を彼女へ向けている。
「どうしてここにいるの?黒」
緊迫した状況で男はニヤリ、と口角を曲げて彼女に敵意を向けている。
「黒?ってことは……」
オータムさんは彼について心当たりがあるようだった。
「初めましての人は初めまして。オレは、ラウンズ、7位。抜山蓋世、一切牙嚼。黒闇の『黒』だ。ここに出てくるチーターを狩りに来た」