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チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜  作者: 隈翔
シーズン1 チーター討伐チュートリアル
10/30

VSラウンズ

 カウントダウンは終わると同時に、シロップは飛び出した。

 対して俺は80本のファイアショットを生成して射出した。

 それぞれ弾道を組み確実に斃すための作戦はもう組み立ている。

 だから後はそれを実行するだけだ。


 今の俺のレベルは63。相手は100。実力は完全にこちらが負けている。だからこそ俺は彼女を奇襲じみた戦術で打ち勝つしかない。

 射出した炎の剣の内、40本の剣は真っ直ぐ彼女へ飛んで行く。残り四十本は空に飛ばして次の作戦に備えさせる。

 回避ルートも計算して散らして撃たれた剣の雨に対して、彼女はただ真正面に突っ切ってきた。


「ぬるいぞぉ!」


 シロップは炎の剣を受けながら、一切勢いを落とすことなくこちらに飛んできていた。


「だろうな!知ってるわ!」


 彼女の挑発を返しながら次の策を打つ。

 迫りくるカノン砲の眼前に炎の剣のカーテンを降らした。

 これでまず、彼女の視界を奪う。


「下かァ!!!」


 彼女はそのままカーテンを突き破り、カーテンの先へと斧を振り下ろす。大地は斧の一撃によりクリーターを作り、辺りに衝撃波を飛ばす。まさに規格外の攻撃力。だがしかし喰らわなければどうということはない。

 彼女はカーテンの先で攻撃してくると読んだらしい。


「上だよ!」


 対して俺は空高くジャンプして上空から炎の熱戦を放つ。


『ヒートマグナム・クアトロブレイク!!』


 赤い光線4本全弾、シロップの体を撃ち抜いた。

 これで体力は8割まで減った。あと残りは1割だ。

 地面に着地して作戦を次の段階へ移す。


(よし後は降りてくる剣でフィニッ────)


 目の前に拳があった。


(パンチかよ!!)


 俺は彼女の攻撃に対応できずに、事前に立てていた策と共に吹き飛ばされてしまった。


(体力8割持ってかれた。化け物かよ)


 赤色に変わった体力バーを横目に、今のやり取りで得た情報から新しく策を考える。

 彼女は俺が仕込んでいた、上空から降る30本の火の剣を回避してから斧を手に取り、再び深く腰を落とした。


(今対応できなかったのは予想していなかったからだ。あの素早さ逃げ回っていれば追いつかれることはない)


 それでは逃げ回ってチクチクダメージを与える戦い方を選ぶのか。それは違う。

 ロードさんは俺を試している。接近戦をどう対処するのかを試しているのだ。



 だから、迎え撃つ。



 だが、完膚なきまでに目標を達成して、彼から魔術士(ウィザード)の戦いを教えてもらおう。

 俺は待ち構えるのではなく飛び出した。残りのほぼ一割のMPも全て使おう。


(イメージしろ。速さを、再現しろ、神速を!)


 見よう見まねで構わない。

 俺は黒い剣士のあの動きをイメージして大地を踏み出した。

 飛び出すと同時に、ファイアショットとヒートマグナムをそれぞれ一回ずつ使えるMPだけを残して俺の周囲に炎の剣を展開した。


「気に入った!そのまま叩く!」


 俺の行動が好みだった彼女はその斧を大きく振りかぶる。

 巨大な斧は獲物を狩る直前の猛獣に見えた。


 今か今かと、ご馳走へ飛び掛かるのを我慢している。


 俺の脳天をかち割るタイミングを今か今かと待ちわびている。




 ここで退くな。




(ここだ……!)


 周囲に漂わせた

 剣を全て彼女に浴びせて、斧の進行を一瞬遅れさせた。


(今だ……!)


 転がり込むようにして懐に入り、ダメ押しのもう一発を

 俺は右手をかざしながらすぐに彼女の懐めがけて潜り込む。


「何を────」


 通じていないように見えるファイアショットだが、意味はある。どんな攻撃にものけぞりは存在する。ほんの一瞬だけ行動が遅くなるのだ。

 右手に一本だけ炎の剣を作り出す。

 イメージしろ、最速の一撃を。


炎剣模倣(ブレイズイマージュ)流星剣戟(ステラストライク)


 懐に炎の剣を当てて、さらに一瞬、振り下ろす速度を遅らせて彼女の腹に触れた。


「ヒートマグナム」


 これで、何とか倒せたはず。

 しかし、目の前には勝利を知らせる『victory』は表示されない。


「ナイスファイト♡計算当たったぜ」


 俺は斧を手放した彼女に抱きしめられた。


(勝利条件、達成してないのか?)


 困惑の中、何もできない俺はスープレックスを喰らい、体力がゼロになって敗北してしまった。


「すごいな。お前」


 仰向けに倒れる俺に、シロップさんは胴体を足で挟むように立って称賛してくれた。


「馬鹿め!」


 その時、ロードさんの罵声が辺りに響くと同時に、彼女の頭が炎の剣によって貫かれた。


「ビンゴぉ!」


 俺は目論見通りに攻撃を与えられた達成感により、ケラケラと笑った。

 もし、勝負が続いていれば彼女の体力は7割を切ることになる。

 作戦勝ち、とは言い難いが、とにかく、彼女の体力を3割削るという目標は達成した。

 達成したと言ったらした。したのである。

 





「まずったな恥ずかしい……ほんっとうに恥ずかしい……」


「……ははは、中々のどや顔だったぜ。とはいっても、そんなに気にすることか?勝負には勝っただろ?」


 勝負を終えたシロップさんは頭を抱えてうずくまっていた。どうやら、あんなどや顔をしておいて一泡付吹かされたのが恥ずかしいらしい。それをスピードさんがイジりながら励ましている


「そっか、魔法は勝負が決まってもリザルト画面行くまで残ってるんだったね」


 対して俺は、彼女の頭に剣が突き刺さった絡繰りを看破した葵と共に、先ほどの戦いを振り返っていた。


「そうだけど、勝ったとは言い難いからな。見通しが甘かったな」


「やっぱり、戦術を組み立てる力は高いけど、戦略は上手くないって感じだよね……戦術と戦略の使い方、これで合ってるっけ?」


「……合ってるよ」


「お前、弾道をいちいち考えてるのか?」


 すると、ロードさんが俺たちに話しかけてきた。


「はいそうですね」


「そうか。やはり、空間認識能力が高すぎるな。なら実現可能では、あるのか」


 すると彼はひとりでに納得してから、虚空からタブレットを取り出した。


「サム、君に提案をしよう」


「本当ですか!?」


 つまり、彼は俺の戦い方を認めてくれたということらしい。

 勝負に勝てなかったことは本当に悔しいけれど、これから新たな成長が出来ると考えると、胸の奥から興奮が溢れてくる。


「それは本だ。これを牽制か本命か、本を使うんだ」


 そういえば、ドクロ兜も魔法を使う際に本を使っていた。


「このゲームにおける本は魔法限定のスキル枠拡張を意味する。これを使えばスキル一つの枠で最大4つ、魔法を行使することができる。どうして使ってこなかったんだ?魔術士(ウィザード)の戦い方ではほぼ必須だろう」


 彼の問いに俺ははっきりとした答えを持っている。


「テンポが遅くなっちゃうんですよね」


「ああ、中距離で戦う以上、一歩攻撃が遅れると不利になってしまう。それを防ぐためだな。本の弱点は『本を開き、魔法を選択する』という過程を踏むことだ。だが、それでも、この手段が増えるという点は魔術士(ウィザード)の強みであり、お前の戦略に適している」


「訳を教えよう。お前の強みはその3次元感覚と戦略眼その二つだ。それを生かす以上、手段の多さは必要不可欠だ。繰り出す技の種類、強弱はより幅を持たせたほうが良い。なに、4枠全て埋めろとは言ってない。むしろ2枠でいい。迷ってしまうからな。ヒートマグナムと……もう一つだな。後は相手や気分に合わせてバフやらデバフ、妨害の魔法入れておけばいい」


「確かに、そうですね……」


 俺は彼の意見に納得しながら、一つ空いたスキルの枠の内容を考える。

 けん制、援護、妨害、決定打。

 どれも魅力的な手段だ。


「それじゃあ────」


 彼に俺の新たな手段を伝えると、目をつぶり、空を見上げてから「そうか」とだけ言った。納得しているのか、それとも不満なのか、それを推し量ることは出来なかった。


「……その手段を選んだか」


 彼は独り言を呟くと、俺にフレンド申請をした。


「え?あ、ありがとうございます」


 特に嫌がることではないが、唐突な申請だったので少しだけ驚きながら受け入れた。


「いわば、俺はお前の師匠だ。魔法について何か気になることがあるなら色々相談するといい」


「そこまでしてくださるんですか!?」


「……感謝してくれるのはありがたいが、一々感謝しなくていい」


 彼は俺の言葉に不満を持ったのか、首を傾げ、やや呆れたように、畏まるのをやめるように提案してきた。


「ゲームというのは楽しいものだ。そういう、キツイ上下関係を作るべきものではない。それに初心者を導くことは俺たちラウンズがやりたいことだ」


「そうですか。それでは、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」


「なんだ?言ってみろ」


 それから、俺とロードさんは中距離魔術士(ウィザード)の戦い方について話し合った。

 結果、新たな戦い方の一つを使えるレベルにまで仕上げることが出来た。


 

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