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チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜  作者: 隈翔
シーズン1 チーター討伐チュートリアル
1/38

はじまり



 チートとは絶対悪(クソ)だ。



 一方的な暴力でゲームの楽しみを損なう。

 あんなものの何が楽しいのだろうか。

 いや、当事者からしてみれば楽しいのだろう。


 許さない。絶対に許さない。

 だってアレは俺の楽しみを破壊した。



 キャラクターたちを選択し3人のチームになり、最後の一組なるまで戦うヒーローFPS。『インベイド』。

 それを友人たちと遊んでいた時のことだ。


 


 あれは、2番目のエリアの収縮が終わった頃だった。


 俺たちがいたのは高い建物が密集している場所で戦闘に備えて物資を拾っていると、仲間が何発もの銃弾を喰らって0.5秒でダウンした。


「え?」


 仲間はすぐに遮蔽に移動してくれたのですぐに起こして態勢を立て直す。


「結構遠いな。スナイパーじゃないし……」


 友人は一発の弾丸ではなく銃弾の集中砲火でダウンした。



 それがおかしい。


 敵と俺たちの間は大体400メートルは離れている。


AR(アサルトライフル)だね。この距離でこんなに当てられるもんだっけ?」


 ボイスチャットを繋げている、先程ダウンさせられた仲間が疑問を呈す。

 確かにトッププロレベルのプレイヤーなら出来るかもしれない。あの人たちは化け物だ。

 だが、ここは上位ランクであり最上位ランクではない。こんなところに彼らがいるなんて可能性は低い。

 となると、可能性は一つに絞られる。



「チーターか」



 最近、このゲームでチーター、チートを使う奴らが増えているらしい。

 チートとはゲームのデータを不正に改ざんする行為。いわばズルだ。例えばこのゲームでは放った弾丸が全て狙った一点に当てることができる『ホーミング』が挙げられる。


「引くか」


 もう一人の仲間が撤退を進言した。


「仕方ないな。チーターだもん。もう少し調べて報告。それで終わりだよ」


 チーターと遭遇した時には基本的には切り替えるのがセオリーだ。

 普通は勝てない。そんなのを一々相手にしていたら負け続けるだけだ。

 だから、へまをしてどこかの誰かに殺されるか、それともズルで無双して一位を取らせるのを黙って見ておくしかない。


「そうだな。夏目、行くぞ」


 先ほどダウンした友人もソレに同調して、俺の苗字を呼んで、この場所から離れようとしている。

 少し遠回りにはなるが、次のエリア収縮には間に合いそうだ。


「…………」



 逃げ惑う俺に問う。



 本当にそれでいいのか?

 悪いのはチーターだぞ。

 なんでこっちが受け入れなきゃいけないんだ?


 『ズルをしている奴らを恐れて逃げている』という行為に怒りが沸々と湧き上がる。


「ごめん。ちょっと頼みがある」


 だから、どうせならそうだ。


「チーター、倒さないか?気に食わねぇよ」


 奴らをやってしまおう。


「……そうだな。ま、いいか。一回くらいな」


「やってみる価値はありますぜ」


 友人たちは同意してくれた。


「どうする?指揮(IGL)は任せるぞ」


 ダウンさせられてた友人が次の指示を求めてくる。


「もちろん。さてと……」


 すぐに地形の三次元マップを頭に叩き起こした。

 相手は大体、400メートル先のビルにいる。


 ウルト(必殺技)ゲージが溜まっているのは俺だけ。

 武装は近距離用と中距離用のもの。

 そこまでには多くの建物や障害物がある。

 上手く使えば、近距離戦に持ち込めそうだ。

 奴らと遠中距離で戦ってはならない。敵にホーミング使いがいる以上、近距離でなければ撃ち合いで負ける。一応、相手の3人全員がチーターであることを想定して極力体を出さない作戦を考えよう。


「よし、決めた。行こうか」


 ただ、このルートにも懸念材料がある。

 それは一瞬、顔を出してしまうことだ。

 ルート中腹にある建物から建物を移動する間、その時は射線が通りハチの巣になってしまう。ただ、出てくるのは数秒だけ。それでダウン、もしくは死ぬことはないだろう。


 飛び出した瞬間、俺は集中砲火でダウンした。


「は?マジかよ!」


 驚きながら『どうして狙えたのか』について考える。


「こっち来れるか?」


 仲間は建物に入り扉を開けて、こちらに来るよう催促している。


「なんとか、ギリ……行けた!」


「よしよしよしよしよしよし」


 仲間が起こしてくれている間に一つの結論を出す。


「これ、位置バレてるな」


 今の攻撃は事前に俺たちがそこにいると知らなければできないものだ。


ウォール(位置をばらす)ハック(チート)か。うっざ!」


 俺を起こしている仲間が愚痴を吐き捨てる。


「……」


「大丈夫か?今からでも諦めるか?」


 外の様子を伺う別の仲間が俺に意思を問う。


「いやいや、してないさ。もう戦う時まで頭は出ない。行こうか。涼川、赤翡翠」


 仲間たちの名前を呼んで、俺はまだ折れていないことを伝える。




 こんなところでやられてたまるか。


 舐められて終われるものか。


 あんなズルが許されてたまるか。


 チーターは排斥されるべきだ。




 回復を終えてから、決意を胸に俺たちは素早く奴らがいるビルの麓へ移動する。

 今度の移動は完璧だ。

 一切銃弾を浴びることなく辿り着いてみせた。


「スキャン!」


 そして先手を撃つ。と同時に俺のキャラのウルトを切る。


『ここが私の戦場だ!!』


 これで一時的に移動速度とリロード速度が上がる。

 涼川のキャラがスキャンを行い、戦場の情報を教えてくれた。

 建物は3階構成。2階に2人。1階に待ち伏せが1人。


(ああ、よかった。こいつらは雑魚だ)


 スキャンで位置が分かった瞬間、待ち伏せされている扉にグレネードを投げた。

 チーターは扉から離れて壊れる扉を眺めながら真正面で待ち構える。

 背後から撃たれることなど予想もせずに。

 赤翡翠がワイヤーで移動できるキャラを使用していたので突入と同時に回り込んで部屋に侵入するよう指示していたのだ。


「裏取ったぞ!!!!」


 ホーミングも完全無欠ではない。

 真後ろの敵は狙えないのだ。有効範囲である、銃口から正面に15度以内に居れば弾が曲がるというような仕様だろう。だから、360°全方位を警戒することなどできはしない。

 赤翡翠の雄たけびに呼応して俺と涼川も建物に侵入する。


 奴が驚き、背後の敵に銃口を向ける間に放つ、3方向集中砲火(クロスファイア)


 結果的に俺たちは、赤翡翠が体力を半分削られるだけで一人を倒すことが出来た。


「次来るぞ!」



 だが、敵は3人いる。



 俺たちが倒さなきゃならないのは残り2人だ。

 待ち構えるのか?それは違う。

 相手はチーターだ。圧倒的な暴力だ。

 ここで待ち構えていたらこっちがやられる。

 奇襲をし続け常に先手を打つ。

 そのためにはこちらから攻め込むのが必須。

 俺と涼川は2階へと続く階段へ走り出し、赤翡翠は外から壁を登って2階を目指す。


 そして俺たちは、敵と階段で鉢合わせることになる。

 すぐにエイムを合わせて引き金を引く。


 勝敗はすぐに決した。


 敵の数は1、味方は2。


 ならば、こちらが勝利できるのは自明の理だ。

 ただ涼川はダウンされてしまった。


 一瞬で体力を削り取られた。このダメージは明らかにチートだ。


「任せろ」


 ほとんどダメージを受けていない俺はこの勢いのまま階段を登り切り、赤翡翠と二対一で戦えば勝機は────


「75!あいつもチーターだ!!!!」


 既に彼は倒されていた。

 今すぐに周囲の情報を頭に入れる。左右45度の位置に柱がある。

 相手の武装はAR(アサルトライフル)こちらの武装は玉切れしたARとショットガン。



 条件は整った。

 この接近戦を制してみせる。



 俺は躊躇せずに右斜め前の柱まで走り出して───引き金は同時に引かれた。


 銃弾の嵐は曲がりながら俺の頭だけを撃ち抜き、体力の半分を削っていく。

 対して俺のショットガンも奴に命中。50程度のダメージを与えた。

 残りHPは大体85。


 右斜め前の柱へ滑り込み、柱を使って射線を切る。

 俺と奴の間には柱という障害物。

 右から出るか、左から出るかの読み合いだ。

 だがここで考える時間は与えない。リロードを終えた瞬間に、隠れた時と同じ方向に飛び出した。


 そう、この戦いは先手を取り続けなければならない。

 戸惑いなく、躊躇なく、行動し続けろ。

 50%の賭けに勝ったのは、





 俺だった。

 




 散弾一撃、クリーンヒット。敵体力、残り50。



 あともう一発。リロードする。

 走れ、走れ、駆けろ、駆けろ。


 奴は俺のいた場所をハチの巣にしている。まだ標準は追いついていないのだろう。


 そのまま、左に滑りながらリロードを続行。


 足を止めるな。止めたら死ぬぞ!!




「間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え間に合った!!!」




 放たれた散弾は花火のように弾けて、チーターの体力を削り取った。


 画面下に表示される撃破の文字。


 現れるデスボックス(報酬)

 鳴らない銃声。

 そして、この戦場で立っている俺。


「よし!よし!よし!!」


 勝てた。

 チーターに勝ったのだ。

 喜びは噴火して叫びに変わる。


 笑うしかない。

 だって俺は、俺たちは、チーターに、理不尽に勝ったのだ。


(ざまぁみろ。やってやったぞ!)


「今起こすぞ!」


 ダウン状態の味方を起こそうとしたその時、俺は500m先からのARの銃撃で殺された。


「は?」


 俺を狙撃したのはチーターだった。

 このゲームには『デスカメラ』といって自分を倒した敵がどのように俺を倒したかについての一部始終を見る機能がある。

 その機能を見た所、弾丸が曲がっていたのだ。


「…………」


 ため息も出ない。結局、俺たちの頑張りは一体何だったのだろうか。

 チーターは何人もいる。そのうちの一つに勝ったところで大局は変わらない。

 これはただの自己満足だ。


「……夏目、次行くぞ」


 無力感でうなだれながら、ゆっくりとマウスを動かし、無言で運営に報告をして次の対戦に移ることにした。

 そうするしかないんだ。

 俺たちはトッププロじゃない。ただの上位勢だ。

 ただ、奴らが気持ち悪く笑っている様を見ることしかできないのだ。





「んで、友達と遊んでいたゲームがついにサ終になったんだよ」


「じゃあもう遊べないじゃん?」


 授業の間の休み時間。それは何をするのにも中途半端な時間だ。なんか軽く会話をしていると早く終わって寝たふりをしていると長く感じる面倒な時間。

 そんな時間を俺は幼馴染と潰していた。


「いま、やってるゲームないの?」


 彼女は茨葵(いばら あおい)。小学生、いや保育園からの幼馴染だ。

 鋭い目、黒くて短い髪、青く澄んでるインナーカラー、首からかけてるヘッドホン。

 余人を寄せ付けぬオーラを常に放っているが話してみるとそうでもない。

 そのダウナーな声と性格も相まって、一緒にいて落ち着けるいい奴だ。

 エアコンが効かないほどの猛暑には彼女といて一緒に気を紛らわらすのが一番だ。


「いや、まだサ終まで時間はあるからさ。でも次のゲームは決めないとな。何かあるかな?」


「ならさ……」


 すると彼女は目を逸らして一呼吸置く。何かを決意してから再び俺の目を見た。


「一緒のゲームやろうよ。VRゲーム『アバター・ドリフト』っていうんだけど」


 ゲームの誘いだった。少しドキッとした俺は気を取り直して、その提案について考える。


「そうだな。小遣いもあるし、やってみたいんだが、ゴーグルがな……」


「私のあげるよ。最近、買い換えて余ってるんだ」


「いいのか?」


「うん」


 懸念はすぐさま解消されてしまった。ならばその誘いを受けるしかない。


「それじゃあ、お言葉に甘えよう。それにしても久しぶりだな」


 彼女と俺、共に趣味はゲームではあるがゲームのジャンルは被らない。一緒に同じゲームをするのはかなり珍しいのだ。


「そう、だね。だから楽しみ」


「今日、お前ん家寄っていいか?」


「いいよ。じゃ、一緒に帰ろう」


 その日、俺は彼女と一緒に帰ってVRゴーグルを譲り受けた。





「これが」


 自室でベッドに座り、ゴーグルをぺたぺたと触ってみる。

 実はVRゲームは初めてである。俺が知っているのはゴーグル等の技術が発達しリアルな世界の描写が低コストで可能になっただとか、脳波操作が可能になり快適になってきたとか、そのくらいである。

 知らない世界への挑戦は俺に対してワクワクを湧かせてくれる。


「ふんふんふーん」


 鼻歌を歌いながらベッドに寝てゴーグルをつけると、脳波との同調が始まった。

 そして始まる、VRゴーグルの初期設定。で一番面倒な作業を行ってから、オンラインショップで『アバター・ドリフト』を買った。

 このゴーグルはゲームをしながらブラウザや動画を見ることもできる。俺はその機能を使ってダウンロードの間の暇な時間を潰していた。

 そうして、いつの間にかダウンロードは終了してゲームが始まる。


 ひとまずチュートリアルまで終わらせてしまおう。そこから葵に連絡すればいい。


 ゲームを始めた途端、目の前には扉があった。

 その隣には案内役?の女性キャラがいる。

 すらりとした体で黒いロングスカートに茶色いタートルネックのセーターを着ている、一切露出がないものの女性らしさが強調されている黒髪丸眼鏡の女性は、優しい眼差しで俺を眺めている。その手には豪華な装飾が施されている分厚い本があった。

 彼女の存在感にただ驚かされていた。何しろ彼女は身長が高い、高すぎる。

 俺の177cmの身長で見上げるほどの高さだ。恐らく190cmはあるのではないのだろうか。


(すごいな。ここにいるわ)


 そして、彼女の3dモデルも中々なものだった。

 デフォルメとリアルさの両立が上手い。そこにある、という実感があった。


「はじめまして、『アバター・ドライブ』にようこそ。まず、貴方の姿を決めてください」


 彼女が持っていた厚い本を目の前で開くとキャラクターの作成が始まった。


(キャラクター作成か。どうしようか)


 自分の顔にする、というのもなんだか嫌だ。

 だから若いイギリス出身のハリウッドの俳優にすることにした。プレイヤー名はサムでいいだろう。

 意味は特にない。


「貴方にはこの世界でアバターとして生活してもらいます」


 彼女は俺の隣に立ち、肩に手を乗っけて耳元で囁いて来る。


(ASMRかよ。音質がえぐいな)


「詳しい説明は後で、それではどうぞ~」


 などと彼女の声を聞いていると、目の前の扉がひとりでに開いて俺は光に包まれた。


(おお!)


 ただただ驚いた。

 視覚と聴覚はここが広い草原の真ん中だと言っている。


 一面の緑の大地、ささやかな風の音、煌く太陽、鳥の声、青空でゆっくりと昼寝をする雲。遠くに見えるのは人々の活気が見て取れる大きな町。さらにその奥には、山ほど大きな竜の残骸とその怪物を仕留めた巨大な剣が見えていた。


 このレベルのグラフィックをラグなく実現させているのは素晴らしい技術力だと言えるだろう。


 さて、次に聞こえるのは─────





「ばーーーーーか!!!!!!!!」





 嘲る声だった。


(は?)


 赤く染まった画面に浮かぶのは『ゲームオーバー』の文字。


(どういうことだ?)


 状況を全く把握できない。どうして、なぜこうなっているのか理解できない。


(仕様か?いや、そんな訳ないか……)


 何が起きたのかを理解できずに、画面に浮かぶ『コンテニュー』を押す。

 3秒程度のロードの後、再びあの草原が広がって笑い声と共に画面は赤く染まった。





(……チーターか?)





 他にもバグという可能性がある。だが最近、似たような理不尽があったのでどうしてもそちらではないかという考えがよぎってしまう。


「おいおいおい。俺のこと好きなのかな?俺は大嫌いなんだけど」


 独り言を呟きながら、湧いている怒りへ同調する。

 楽しみを一方的に蹂躙される感覚は筆舌に尽くしがたい。


「ぶっ潰してやる」


 どうして、という疑問はどうでもいい。今は奴を倒すことだけを考えろ。

 そして3度目の光景を見た途端、思い切りしゃがんだ。

 見上げると短剣が俺の頭上を通り過ぎていた。

 なるほど、リスポーンしたタイミングで首を背後から狙っていたらしい。

 すぐに振り返って、俺を二度殺した敵へと殴りかかった。


 そして目に入るのは怨敵の姿。


 身長は俺くらい。短剣を握り冒険家のような服装のキャラが胸に俺の拳を受けていた。

 与えたダメージは1。

 すぐにバックステップで距離を取って敵を見据える。

 武器のリーチはそれほどない。上手く立ち回れば躱せるだろう。

 また、俺のリスポーン地点近くには先ほどのメガネの女性が動かないで立っている。


(ああ、良かった)


 ここで得た二つの確信は十分な程俺を滾らせてくれる。


(よし、基本的な操作は最初から出来るタイプのゲームだ。そして─────)


(こちらの能力が低くとも、1はダメージが入る)


(1000発殴ってぶっ潰す)


 すぐさまボイスチャットを繋げて、相手との通信を可能にする。


「やろうぜ。倒してやるよ」


 手招きして分かりやすく挑発した。

 どうせこういう奴はどんな安い挑発でも乗って来るタイプだ。

 その隙を突き続けてやる。出来るかできないかじゃない。やり続けろ、何としても。


「やってみろよ雑魚!我が名はカトレアゴート!!」


「これから汚される名だぞ。よく名乗れたな!」


「何言ってんだよ、負ける分際で!!!!」


 返す言葉にも挑発を重ねた結果、案の定、奴は俺に向かって剣を振るう。

 さて、薄すぎる勝ち筋だが諦めるな。

 今はこの激情を信じて突き進め。


「しっつれい!!!!」


 その時、チーターの攻撃は俺に届くよりも早く弾かれた。


 第三者の介入によって、奴の攻撃は阻まれていた。

 攻撃を受け止めたのは長い太刀。ボイスチャットに軽い態度のお姉さんの印象を受ける声が響く。

 それを握るのは和風の装いをした妖艶な女性だった。

 気崩した着物に長い茶髪。右目は髪で隠れていて、その目は穏やかさと鋭さが共存している。


「チーター、カトレアゴートだね」


 彼女は奴の攻撃を弾き飛ばし、俺たちの間に入る。


「私はチートハンター、オータムだ。元気かな?」


「誰だお前は!?」


「さて、そこの君、さっさとここから離れたまえ、このバカは私が相手をしよう」


 彼女は突然、話しかけた奴の返事を無視しながら奴を倒すと言ってきた。

 なるほど倒してくれる奴がいたのか。ならば安心だ。俺はこのゲームの続きを楽しめる。



 ──────と、思っていたのか?



 気に食わない。骨の髄まで気に食わない。

 こうやって、俺の楽しみを奪った奴を、やり返しもせずに、他人に任せて逃げろと言うのか。

 まぁ、そうだろう。こんな奴無視して報告するのがセオリーだ。




 だが、俺は気に食わない。




「いや、俺も協力する」


 彼女の隣に立ち拳を構えた。

 こんな奴は倒してしまおう。



 俺は生き残ってしまった。だから、遊びに命を投じなければならない。

 VRゴーグルを手に深呼吸をしていた。

 今でもあの惨劇は覚えている。

 4日ごとに訪れる地獄。日によって減る参加者たちを覚えている。

 それを空から見ているクソヤロウも覚えている。


「よし。行こう」


 ゴーグルを被ると脳波とのリンクが始まった。

 アバターを作る。

 顔は適当に自分っぽいやつにしよう。

 目立たぬよう、黒い服でいいだろう。

 武器は、決まっている。




 2刀流だ。




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